国有林野事業の使命と現状


藤 川 昇

1 国有林野事業の使命

 国有林は日本の国土の2割、標高の高い脊梁山脈地帯に多く、
  ■国土の保全、水資源の涵養、自然環境の維持および形成、国民の保健
     および休養の場の提供、
  ■木材の計画的・持続的な供給、
  ■農山村地域振興のための機能等  が使命とされてきた。
 国有林内の保安林面積は397万ヘクタール、国有林面積が760万ヘ
クタールであるから、その52%が保安林なのである。これは、全国の保
安林面積の48%にあたる。また、国有林内には、自然公園(国立公園・
国定公園・都道府県立自然公園)が面積にして217万ヘクタールほどあ
り、これは、国有林面積の29%、自然公園面積の41%になる。
 また、国有林は木材の需要増大に合わせて供給できる体制を敷き、木材
価額の安定に対応してきた。国有林材の伐採量は、今日その比重を低下さ
せているが、1960年代、70年代は、国産材伐採量の3割前後を占め、国民
の木材需要に積極的に応えていた。
 さらに、国有林が所在する地域で、営林署が安定した雇用機会を保障す
るとともに、巨大森林企業体として木材を生産し、木材関連産業に原料を
供給するなど、地域経済の活性化にも大きく貢献してきた。
 このように、国有林野事業の使命の大部分は国民生活にとって欠くこと
のできない公共的な性格を持っているのである。

2 国有林野事業の現況  国有林野事業は、戦後復興期の木材ブームによる木材価額の高騰により 黒字経営が続いた。しかし、木材価額の激しい値上がりが国民の生活を圧 迫するという理由で、政府は、1961年度から本格的な外材の輸入を開始し た。  外材の割合は、1950年代の終わり頃までは、10%程度であったが、19 60年代には50%を越えてしまった。その後も輸入量は増加し、現在の外 材割合は80%近くに達している。  一方、国内の森林の伐採は、伐採地点がだんだん奥地化し、林道等の諸 施設の経費、搬出経費等の生産費が増加し、国有林の林産物販売収入が減 少するとともに、採算は悪化の一途をたどる。木材ブームが去り、安い外 材によって木材市場が支配されることになると、国有林はたちまち赤字に 転落してしまった。  国有林野事業は、1971年度に200億円の赤字を計上し、その後オイル ショックによる木材価額の上昇で3年間は収支の均衡を保ったが、1975年 度には再度赤字に転落し、1976年度には財政投融資資金から400億円の 借り入れを行い、現在の累積債務は3兆3000億円に達し、金利の返済 と元本の返還に追い回されているサラ金地獄に陥っている。

3 国有林野を破壊と荒廃に導いた「改善計画」  政府は、この赤字財政を建て直すために1978年3月に「国有林野事業改 善特別措置法」を定め、同年9月に「国有林野事業の改善に関する計画」 を策定し、以降、国有林野事業は、この改善計画によって運営されること になった。改善計画は、その後3回改定されたが、その目的は財政「赤字」 の建て直しにあることから、徹底した組織機構の縮小、労働者の削減、伐 採・造林等の事業規模の縮小と事業の請負化、収入確保策が追求された。  営林署は、1978年には351署あったものが、1996年には264署に減 らされ、労働者は6万5000人から1万7000人に減少した。  収入確保策として国有林野そのものの売却、国有林を切り崩して行う土 石の販売、高地価地域の営林局・営林署敷地・職員宿舎敷地・苗畑等の売 却が進み、貸付料拡大のために、国有林野内にスキー場・ゴルフ場が建設 された。林野の売却は、毎年平均2000ヘクタールに達し、高地価地域 の局・署の敷地・苗畑等についてはバブル経済の中で売却はすでに完了し たといわれている。  この結果、国有林野の売払、土石の販売、スキー場・ゴルフ場の建設等 による国有林野の直接的な破壊、手抜き造林、請負事業の増加による国有 林野の荒廃が進行している。  それにもかかわらず、特別措置法の目的である国有林野事業の収支の均 衡は実現できず「赤字」はますます拡大している。

4 「解体・民営化」で自然環境はますます破壊される  現在、国有林野事業はこの「赤字」を理由に、行政改革の絶好のターゲ ットにされ、国有林野事業の「解体・民営化」案が浮上している。  解体・民営化は、結果的には改善計画の延長にあるとも考えられるが、 しかし、この解体・民営化によって、わが国の自然が今まで以上に破壊さ れることは目に見えている。 ふじかわ のぼる 元林野庁 東京林業研究会幹事 −この文は、神奈川連絡会第3回研究会の報告に加筆して頂いたものです