今年のお題「私の行ってみたいフィールド」

 

ピッツ・ベルニナ そしてマウント・クック

顧問 熊野谿 寛

 

この国際化時代なのに、恥ずかしながら外国に行ったことが無い。行くならばどこかの山に、ヒマラヤならば一ヶ月位は・・・と思うのだが、ベストシーズンがポスト・モンスーンの10月なので、とてもじゃないが休暇は取れない。それに、毎年みたいに賃金削減のお話がやってくるのでは、海外登山なんて事は考えにくいのが現実だ。

それでも「今の力量で行けそうだ」と憧れる山が、ベルニナ山群にあるピッツ・ベルニナ(ビアンコ・グラート)だ。NHK・BSの「グレートサミット」で見て、心を惹き付けられた。ヘルマン・ブールをして「アルプスのあらゆる氷の山稜のうちでもっとも豪壮な稜線」と言わせた、長く美しい雪稜と岩のクライミングルートだ。長大だが、条件さえ見誤らなければ、今の自分の力量でも行けそうだ。なんと言っても、雪稜ルートは素晴らしい。それがアルプスの真ん中と聞いたら、すぐにでも行きたいと思ってしまう。だが、一人ではそれもかなわない。できたらガイドに頼らないクライミングでやってみたいのだが、果たしてそんな夢を果たすことができるのだろうか。

そしてもう一つ、技術・体力共にまだ届かないが憧れ続けている目標が、ニュージーランドの最高峰マウント・クックだ。標高こそ4000m以下だが、緯度が高くて天候が厳しい山だ。そのため、登頂のチャンスが少なく、1月半ば過ぎの一週間程度が最も良いらしい。こうした結果、この山の年間登頂者数は、世界最高峰チョモランマよりも少ない。そして、アイスクライミングで登攀・下降をするのだが、最終ベースから標準で往復に18〜24時間程度を要する、と言う。聞くほどに、技術・体力共にまだまだ距離があり、課題が残る。この数年来の目標である「アイスクライミングで黄蓮谷から甲斐駒に立つ」のは、このルートをめざす人がトレーニングとして取り組む課題に過ぎないのだ。

昨年の冬、黄蓮谷・右俣のアイスクライミングでの甲斐駒をめざして、11月から毎週のように八ヶ岳に通った。裏同心ルンゼに広河原沢と取り組む中で、「これならば行ける」と相棒と「来週は黄蓮谷」と決めた。しかし、その週の半ばに大雪が降り、雪崩の危険から計画は中止。八ヶ岳でトレーニングしての帰りに、黄蓮谷左俣で雪崩事故が発生した事を知った。

今年こそ、雪の降る前にうまく凍結して、甲斐駒の山頂まで行き着けることを願っている。その先はまだまだ長そうだが、人生の残り時間がどうも足らない様な気がしてならない毎日である。