巻頭言 散々な夏

顧問 熊野谿 寛

 

 ともかく、散々な夏休みだった。8月の初めから台風が居座り、ノロノロと動いた。遂に動き出したと思ったら、なんと夏合宿の期間がぴったりと台風とぶつかった。台風の進路から離れていれば大丈夫・・・というのは、陸上の平地での話である。海は遮るものがないので、台風と共に大荒れが続き、高波が防波堤にも押し寄せる。合宿地とした八丈島は、東京から300km以上も離れているので暴風雨圏ではない。しかし、台風が通過する時だけで無く、通過した後も一日か二日の間は高波が続く。何より、どうやら合宿からの帰りの日前後は、八丈島への船が欠航となる見通しだった。夜の便で八丈島に向かう予定の日に、船会社に電話して相談すると、「旅行の中止をおすすめします。今ならばキャンセル料金はかかりません。」と言われた。これは無理だ。やむなく夏合宿は中止とした。

 部活以外でも、この夏は最悪の天候が続いた。岩登りのトレーニングに行った八ヶ岳・大同心では、取り付きで大粒の雨が降り出した。盆明けに北アルプス・奥又白からの前穂高岳四峰正面壁にでかけたが、朝日に染まる山々を見た1時間後には雨となった。翌日もガスと霧で取り付きが確認できずに撤退。この夏は、結局どこも登攀できなかった。9月も半ばになってようやく晴天が続き、リベンジした夜行日帰りの大同心登攀では、「やっぱり山は晴れがいいなぁ」とつぶやいて、相棒に笑われた。

気象庁は、6月頃には「今年はエルニーニョ現象」と警告し、冷夏と長雨が予想された。それが7月半ばに「エルニーニョではなくなった」と発表。でも結局、太平洋高気圧は8月に入ると弱くなり、毎日の高層天気図を見ていると寒気が上空に流れ見込んだ。不安定な雷雨や竜巻などの原因はこれである。

どうも、この冬からジェット気流の蛇行が続いているようだ。その原因は「地球の温暖化」だとも言う。北極で渦を巻いていた寒気が、温暖化にともない渦が崩れて流れ出し、ジェット気流が蛇行しだした、と読んだ。これからは、「今まで天気の常識」は通用しないかもしれない。

今年もまた、野外活動部にはたくさんの中1部員がなぜか入部した。合宿ができなかったので、今後の活動は大変だと思う。しかし、そんな心配はさておき、自然の中で活動する楽しさを求める諸君には、自然やそれをとりまく社会の現実と変化に関心を持ち、科学の目で自然と野外活動を探る力を身につけてほしいと願う。このままでは、諸君が生きている間にも、楽しむべき自然そのものが大きく姿を変えてしまう。「国破れて山河あり」は昔の話だ。今や「山河崩れて国揺らぐ」時代がやってこようとしている。「持続可能なアウトドア」のために何をなすべきか、を考えてこそ、末永く自然とその中での活動を楽しむことができるのだと思う。