巻頭言 15年目の野外活動部

顧問 熊野谿 寛

 この春、湯檜曽川の河原で二年ぶりのスノーキャンプを行った。去年は東日本大震災で合宿停止になったのだが、今年も別の意味で合宿の実施が危ぶまれた。秋に文部科学省が発表した汚染マップでは、群馬県北部の谷川岳や尾瀬の山々は福島第一原発の事故で放出された放射性物質による汚染濃度が高い地域とされた。実際、秋の幽ノ沢を登攀した時に測定すると、土合駅前や一の倉沢出合はまだらに線量が高い場所があった。雪が積もれば空間の放射線量は大幅に低下するが、何よりも口にする「水」の汚染が心配だった。

 そこで2月に谷川岳・東尾根の偵察として西黒尾根に行った帰りに、湯檜曽川の水を採取し、検査会社で測定してもらうことにした。ちょうど前橋の食環境衛生研究所の方が、ブログで谷川岳周辺の放射線量を測定されていたので、この会社にお願いした。下山後に相棒に断ってベースステーション裏の崖をかけ下り、湯檜曽川の水を2リットル程ペットボトルに汲んできた。宅急便で送って二日ほどすると、FAXで結果がとどいた。「N/D」…最も高い精度で検出限界以下との意味だ。やった、安全性が確認できた、と嬉しかった。

 後になって放射線防護学の野口先生に伺うと、「川の底に放射性物質は沈み、流水や湧水は阿武隈川でもN/Dとなるので、心配はない」との事だった。それでも「心配ならば測定する」のがやはり基本だ。

 私は以前から「原発は絶対安全です」との主張に、「絶対の安全なんてありえない」「その発想が一番危ない」と言ってきた。実際、これは山や野外活動でも同じことだ。大切なことは、何が危険かを常に見つめ、その危険性を認識して、どうしたらその危険性を少なくできるかを常に考えて対処し、行動することができるようにする。心配な事があったら調べ、一つ一つを確認して、どうすべきかを調べて学んで訓練する…これが何よりも主体的な活動をささえ、そして安全をもたらしてくれる。ただ、行くだけの「お客さん」で危険を見つめなくなった時に事故で破滅的な事態を迎えるのだ。

 今年、野外活動部には何故かたくさんの中1君が入部した。大人数での合宿は考えただけでも気が遠くなる。しかし、「今年、私は飯を作らないぞ」と宣言した。事前にコンロの使い方、飯の炊き方、魚のおろし方などを教え実習もして、全てを高校生中心に部員たちに委ねることにした。ちゃんと事前に失敗のパターンや危険性を教え、彼らが緊張感を持って取り組む事ができたら、きっと合宿はうまく行くだろう。何よりも一人ひとりが主体的な活動の担い手となった時に、安全は保たれるし、活動も充実する。実際に小豆島での数日間は、それを実証できた。合宿の最後に高校生が「なんだか飯ばかり作っていた気がする」と言うのを聞いて、私はニンマリとした。

15年目にしてなぜか女子部員も入部して手探りの事も多いのだが、「自分たちの活動・部活」に一歩近づいた夏だったろう。リスクを正面から見つめ、「安く・楽しく・安全に」野外での活動を自分自身で楽しめるようになっていってほしい。きっとそれが、時代の課題にも通じるはずだ。