私の好きなアウトドア…「山に泊まる」

顧問 熊野谿

 

「さて、何を書こう」と思って、ふと「山に泊まる」事だろうなと思いついた。

今年の五月も、ワンゲルの卒業生と山スキーをかついで東北に出かけた。八幡平から大深山、そして曲崎山をへて乳頭山に至るコースをめざした。二日目、目標とする八瀬森避難小屋が綺麗に見えていたのだが、尾根を回り込んだ拍子に見失い、さんざん迷った挙句に、大深山荘に日没ぎりぎりで戻る羽目になってしまった。それでも、東北の無人小屋はすばらしく綺麗で、一夜で疲れを癒してくれた。翌日は、三石岳へと裏岩手縦走路を快適にスキーですべった。新築の三石小屋は木の香りがして、地元のおんちゃんたちの炊く薪ストーブで夜は暑い位だった。このあたりの小屋は、「避難小屋」と言う名前だが、清掃も整備も行き届き、地元の山を守る人たちの温かさが詰まっているようだ。

もちろん、避難小屋という事では、雲取山頂の避難小屋とか、奥多摩・西丹沢の避難小屋もずいぶん利用した。場所としてはすばらしく、水場のある所もあるのだが、残念なのは綺麗になってもすぐに荒れてしまうことが多い事である。雲取などは、山荘の人が整備してくれているのか、比較的綺麗さが保てているが、使い方が理由で荒れていった小屋をいくつか見てきた。都会人には、「自分がタダで使えれば後はどうでもよい」という程度に、山や小屋は遠くにあるものだからかも知れない。

最近、私は大山とか陣馬山など、近くの山(丘?)に続けてツェルトで泊まった。土曜日の午後に家を出て、真っ暗な山頂に上がってツェルトを張る。それから2-3時間、本来の目的であるアマチュア無線をやり、新しく作ったアンテナや機材のテストをした。。さて、眠くなったらツェルトに潜り込むのだが、カサカサ、キーキーと風の音・鹿の鳴声などが聞こえてくる。これはテントでも同じようなものだが、風がスカスカと抜けるツェルトには、より開放感と自然との一体感がある。もちろん、翌朝は、日の出と共に起きて、ツェルトを跡形も無く片付ける。こうした場所には、トイレもあるから問題は無い。大山からは駆け下って、そのまま学園のPTAスポーツ大会に向かった。陣馬山からは高尾山まで早足でお散歩をして、昼前には自宅に帰った。人がいない静かな一夜は、この山の自然はこんな顔を持っているのか、と改めて知ることが多い。「日帰りできる近郊でお泊り」という体験は、なかなか捨てがたい味がある。これが、近くのやさしい「沢」だったら、その体験はもっと違うものになるだろう。

一方、冬山のテントで、雪に埋まったり、寒さに震えながら一夜を送るのも、変な話だが、体験としてはすばしい。布切れ1枚のツェルトやテントが、厳しい寒さの中でもある程度までは別世界を作ってくれる。それでも、テントの中でシュラフにはさんだポリタンの水が凍るようになると、寒さもかなり厳しい。不思議な事に、こんな時は「一杯ひっかけて温まる」なんて事は、あまり意味が無い。すぐに冷めて逆に寒くなってしまうのだ。こんな時は、暖かいスープでも作って、ザックに足を突っ込んで、凍えながら一夜を過ごすしかないだろう。

いろいろな場所、いろいろな形で山に泊まって来たが、一つ「あると最高」という物を紹介しておこう。それはずばり、ロウソクである。ガスが残り少なくなって、冬山の凍るテントで震えていた時、一本のロウソクの明かりと暖かさはすばらしいものだった。ツェルトの中でロウソクをつけると、なんだか全体が暖かく感じるから不思議なものだ。そして、むちろん避難小屋でもロウソクは暖かい明かりをもたらしてくれる。買うのだったら少し太いものがよい。何度も使えるし、ザックの雨蓋の裏側にしのばせておけば、不意に雨具でビバークすることになっても、役に立ってくれるだろう。