巻頭言 “アウトドア”という言葉

顧問 熊野谿

 

「野外活動部」というネーミングは、人によって異なったものを連想させるようだ。確かに“インドア”“アウトドア”という区別だけから考えれば、「屋外でやればなんでもアウトドアだ」と言えなくもない。実際、今年の三月に卒業した諸君は、サバゲー(これは要は弾の撃ちあい、戦争ごっこです)もやっていたし、顧問の私はそれを尻目に海岸で無線機に電鍵つないでモールスを打っていた、なんて一幕もあった。だから、「野活=アウトドア、うーん、素敵な高原のキャンプ場で、おいしいパンでも焼いてコーヒーを飲んだらいいなぁ」なんて思う人もいないとは限らない。そうした事からか、女子生徒が「先生、野活に入ってみたいのですが」と相談に来た事も何度かはあった。

しかし、実際の所、この部活に入る女子生徒はまずいないのが現実だ。山やスノーキャンプに行けば、三日やそこらはフロに入らないのは普通だぜ、と聞くとたいていの人は「こりゃ臭そうだ、たまらん」となるのだろう。もっとも、過去、ワンゲルをやっていた時代には、ちゃんと女子部員もいた。南アルプス5日間テント山行とかも、普通に男女一緒にやっていた。こんな事から、山岳部とか、ワンゲルというネーミングだったら、また違った「人種」の人たちが集まってくるのであって、「野外活動部」という名前がいかにも中途半端なのかも知れない、と最近は考えることもある。

ただ、「創部の精神」という奴を、まだ私としてはポイと捨てるわけにもいかないかな、とも考えている。「釣り仙人」と呼ばれていた初代部長があまりに面白い奴だったので、「山や、釣りや、キャンプや、なんでもそれぞれが極め、それを持ち寄り、教えあう部にしよう」と、野外活動部と名づけたのだ。釣りでも、山でも、自分が凝っていることは自分で追求したらよい。ただ、部活ではそれらを寄せ集め、重ねたような活動をして、自然に対していろいろな視点と方法でかかわれるようになるようでありたいものだ、と思っている。

さて、今年の夏合宿は、本当に久しぶりに、マトモに山に行った。それも自然度のとてつもなく高い「和賀山塊」だ。…と書いても、多分、「和賀山塊ってどこ」という方が、山好きでも多いだろう。ここは実は白神よりもブナの名所なのだが、昨今の観光化した「世界遺産」白神の話を聞くと、世の中に知られない方が、私としては幸せである。

参加者が中一ばかりだったので、ちょっと心配だったが、三日間でずいぶん彼らは山に順応でき、巨大イワナが悠々と泳ぐ清流で遊ぶ水の冷たさも楽しんだ。ブユの大群に追われたり熊の糞を見たりもしたが、全く違った「田舎」の世界も垣間見てもらえたかなと思う。たいした展示はできないが、その一端でものぞいていただけたら、幸いである。

多分、私達には重たい荷物を背負って、ヒーヒーいいながら歩いて、初めて見えてくる自然の顔がある。巨大イワナに棹を出して、餌だけつつかれ、目の前で見せ付けるように跳ねられても、「うーん、まだ役不足か」とそれを楽しめるのも、そうした中だからだ。日常の生活の回路から、自然の中での回路に切り替えるには、それなりのミソギが必要なのかも知れない。

ところで、冒頭にあげた「パンを焼いて、コーヒーを飲む」なんてキャンプ生活だが、私もやってみたいと何度かは考えた。「ダッチオーブンを買って、誰かをビシビシ鍛えて、担がせたらできそうだなぁ」と考えて、部費が残ると口に出すのだが、いつも「そんな重たいもの、持っていけないすよ」と退けられてしまうのだ。「うーん、確かにあれは担ぐと重たいからなぁ」と思いつつ、どこかでそんな夢を捨てきれないでいる。さて、この夢は、いつか果たされるのだろうか??