私の野外でしたいこと〜山に遊ぶ日々

 

顧問 熊野谿

 

「年末年始は冬山」を始めてもう十五年程になる。冬山に行かないと年が終らないのだが、元旦は山にいて晴れたためしがないので、大晦日には帰宅することにしている。元旦の吹雪のテントでごろ寝をして寝正月と言うのも聞こえは良いのだが、何年か前みたいにテントごと吹雪で埋没したのでは、やはりあまり嬉しいものではない。考えたら、初日の出を山で見ると言う日本人的な習慣は、ほとんど味わったことがない。クリスマス、年末と決まったように寒波がくるので、たいてい吹雪となるから面白いものだ。

主な行き先は、東京方面から入山しやすく雪がたっぷりとある後立山連峰が多い。社会人には、夜行で行ってその日のうちに稜線に近いテント場まで入れるのがありがたい。雪もたっぷりあって、冬山を満喫させてくれる。元学園ワンゲルの卒業生などと「初めての冬山」に行く時は、たいていは爺カ岳東尾根に出かける。ここは下の集落から直接に自分の足で登るのだが、特に危険な場所も無く、山頂直下は地吹雪の中をラッセルで登る醍醐味を味わえる。相棒がいなくて一人で出かける時も、このコースのことが多い。所属してる山岳会が活発な時期には、槍ヶ岳に2パーティ入ったこともあったが、最近は休眠に近いので、一人で行くことが多くなった。

しかし、この年末年始は、学園ワンゲルの卒業生と上高地から霞沢岳に入った。「ラッセルで立つ隠れた秀峰」という紹介に惹かれたのだ。かつては沢渡から一日かけて上高地にはいったようだが、今では中の湯売店まで車で入ることができる。さらにかつては薄暗く凍結していた釜トンネルも、半分までは新しく明るくて広いトンネルが出来上がっていた。上高地までは工事車両や警察・遭対協の人たちが入るために道路の圧雪が行われていた。大正池では鏡映しとなった穂高の写真を撮ろうと、たくさんの人が集まっていた。ホテルも年末年始は営業しているので、後立山とは比べものにならないほど人が多い。

それにしても雪が少ない。かろうじて30cmくらいの雪があるが、残雪期と間違える程度だ。明神池をすぎてもこれはかわらない。峠への道を進むとやや雪は増えたが、やはり少ないことには違いがない。徳本峠まで一日で着いてしまったが、どうも雪が少なくてテントを張る場所を整地すると草が出る有様だった。さて、翌日はラッセルも少ないから楽に山頂に行けるかなと思ったのだが、逆に雪が少ないので、歩きにくい。さらに相棒が不調で、結局P1手前でホワイトアウトしたので戻ってきた。これは敗退であるが、どうもこの調子で山頂に立っても「ラッセルで立つ秀峰」とはいかない感じだからなぁ、と言い訳をした。また、来年もできたらここに登って見よう。何年かけて山頂までいった方がじっくりと楽しむことができるかも知れない。

私の山行は、どうもそんな感じのことが多い。特に冬山は、同じ場所・同じ時期でも、日々刻々と違う顔を見せてくれる。    だから、その変化を感じ取り、全身で味わうのが、また楽しいのだ。山を遊ぶというよりは、遊ばれているようなものだが、それはそれでちゃんと生きて帰ってさえくれば良いものだ。

とは言え、できれば行ってみたい場所やコースももちろんある。冬の白神や東北での山スキー、冬の富士山、残雪期の剣岳、そうそう北海道の沢というのもあったなぁ。…しかし、これらは山の相棒がいないと難しそうなコースばかりだ。一人ならば、まあ、また無線機でもかついで「のんびり・酒飲み山行」にでかけるとするか。山に遊ぶ日々は、私の身体の一部分なのだから。