クラブの活性化につ いて 
〜ワンゲル顧問の立場から

                                                              1992.2/29

                                 熊野谿

1.ワンゲルでのこれまでと現在

 

・84年度よりワンゲルの顧問となった。当時は「中学時代 に公立中学で山岳部などにいた生徒が中心となり、外部生中心に活動する部活」であった。生徒のリーダーの水準は比較的高く、基本的にはそれに依拠してい た。顧問になったものの、まとまった経験や知識はあまりなく、生徒のもってくるプランに質問し、暴走しないようにする位で活動していた。山行は「小屋泊 り」であったので、そんなに頻繁でもなく、なんとかなっていた。しかし、今考えると、無事であったから良かったが、指導責任はあいまいであった言わざるを 得ない。また、部員の個人山行もかなりあり、中には背伸びをして、単独で「冬の赤岳」に行った者もいたと後で知らされた。命があったから良かったが、事故 になっていれば、クラブとは関係なくても大変な問題であった。逆に言うと、それだけ生徒の要求には応えられていなかったし、顧問としての権威も持ちえてい なかった、という事になるのだろう。

 

・しかし、外部からの高校生が減ると共に、部員が減少し た。86年度には高校3年だけになり、実質的には空白の一年があった。この時期から「何も知らない部員に顧問が指導する部活」に姿を変え始めた。87年度 の高校1年を中心に部活を再建し、顧問と何人かのボーイスカウト経験者が中心に活動を始めた。この時期に、顧問が社会人山岳会に入会し、県連盟の基礎教育 を受講したこともあって、なんとか活動の内容を指導できる様になった。特に、顧問が冬山を含めてテントでの山行と生活技術を一通り身につけたことによっ て、テントでの山行ができるようになった。テント山行は、この時期からの基本になり、これが定着すると共に「部員としての連帯感」も深まって、活動がほぼ 軌道に活動も乗り始めた。それでも、シーズンオフにあたる「冬」の活動はなかなか軌道にのらなかったが、昨年春に北八ケ岳で「スノーハイキング」を実施し て、通年の活動ができる様になった。

 

・本年度は、1)昨年「スノーハイク」を実施して通年の活動ができた事、2)ゴールデンウィークが9連休となり、初めて「新人歓迎山 行」をテント泊で取り組める余裕が生まれた事(新人は特に慣れないので、帰ってから休みがないとテント

泊はきつい) などの結果、生徒のクラブへのとらえ方が大 きく変わった一年であった。夏山についても、いままでならば「あまり長いのは嫌だ」と生徒が言い出していたのが、「できるだけ長くて充実感のある方が良 い」と言い出す様になり南アルプス6日間の縦走となった。このための訓練として、初めてボッカにも取り組む事になった。また、正月にも「山行したい」とい う事になり、年間山行日数も20日近くになるようになった。内容としても、単に登るだけでなく、写真撮影をめざしたり、正月の各家の雑煮を持ち寄ったりす るなど、工夫を楽しむ余裕が生まれてきている。何よりも生徒諸君が「山が好きだし、行きたい」と考えて集まって来るようになった事は評価して良いだろう。 こうした事から、山行面では現在の高校ワンゲルとしては一応の水準になったのではないか、と考えている。

 

・現在の所、トレーニングは夏山や大きな山行の前に行なわ れている。メニューについては、最初の時期は指示したり一緒に行なう事もあるが、「山でバテないで楽をするために、自分の力に応じて、自己管理しながらト レーニングする」事を基本に考えている。これ以外に、夏山の前を中心に講習を実施したり、天気図を書いたりもしているが、この点ではまだ、時間がなかなか とれないこともあって、困難である。また、救急法についても、一応、保健室の講習に生徒も参加したが、実際に応用する事はまだ難しい様である。特に山行中 の事故では、搬出が最大の問題である。搬出訓練まで行なう必要があるかどうか、やや考える所である。特に救援体制との兼ね合いでは、OBの組織化が必要な のかも知れない。

 

2.顧問の役割はどの様なものか

 

 以上にふれた様に、顧問は山行面ではパーティのリーダー として考え、行動している。今後も公立中学での山岳部の経験がある生徒が入部する可能性はまずないので、顧問が全面的に技術面・精神面を含めた指導をしな ければならないと考える。従って、山行の計画書の作成や買物リストの作成などはできるだけ生徒に行なわせるが、それにまかせきることは基本的にできない。 山行中は、ルートの選択、場所によりトップを歩く、危険箇所の回避措置、休憩の指示等を行なっている。テントの設営を行なってからは、食事づくり等を当番 と行い、ミーティングをして寝るまですべて同一の行動が原則である。

 現状の顧問は、いわば「ガイドとインストラクターに、 ポーターとキッチンボーイを兼ねた様なもの」と言うことになる。このうち「ポーターとキッチンボーイ」の部分は、活動を重ねる中で、生徒もかなりできる様 になり、だんだん解消されつつあるが、前の2つは基本的に顧問の役割と言うことになるだろう。(別紙の「顧問の役割」参照)従って、顧問としての体力の維 持と技術の向上も自らの意志に於て継続されねばならないし、そうした役割が果たせなくなった時には、顧問を交代するかコーチが確保できない限り、廃部にす る必要があると考えている。少なくともワンゲルや山岳部の様な危険をともなう活動は、「生徒の自主的な活動」だけに委ねられるべきものではない。場合に よっては「業務上過失」などの刑事責任をともなうだけに、それだけの意義付けをもって責任を引き受けられる場合にのみ、クラブがおかれ顧問がおかれるべき ものである。顧問が自分の意志で指導できてこそクラブは発展できる(必要条件)ではないか。

 こうした事から考えると、「自分の意志でなければ、ワン ゲルの顧問などできない」「山が好きで自分で登らない人には顧問の資格はない」「自分で登山技術などについて学ばない人には、顧問の資格はない」という事 が少なくともワンゲルの場合は言えると思われる。

 今後も、こうした原則の上に活動をすすめ、良い意味での 「現役主義」を土台にして指導にあたりたいと考えている。

 

3.クラブの活性化のために望むこと

 

・活動できる休日の確保

 ワンゲルの活動はその性格から言って、休日が中心にな る。従って、模試などをバラバラの予定で行なわれると全くその活動ができなくなる。定期試験前は当然活動できないとして、それ以外の模試についてはできる だけ、日程をあわせて実施してほしい。また、夏休みや秋休み、冬休みなどの期間にも、あまりバラバラにいろいろな事を入れられると、活動できないという事 になる。現状、顧問としては、基本的に自分の予定よりもクラブの予定を優先しているが、夏などは実質的に日程に余裕がなく(お盆と講習の間の期間が少な い)、生徒にとってもきつい一面がある。これ以外にも、現役主義を標榜する者としては、自分がトレーニングする時間や訓練に参加する時間もなかなか確保で きずにいる事が不安ではあるが・・・。

 

・中学から一貫して活動できる部活にできないか

 高校からしか入部できないクラブは、中学でほとんどの生 徒がクラブに積極的に参加する様になった場合は存続できないのではないか。現在の様な高校だけの実質2年間の活動では、なんとか少し自分で計画が作れる様 になったらおしまいである。また、部員の確保に生徒が後輩を駆け回り、「掛持ちでも良いよ」とかき集めているのが実状である。なんとか中学からの入部と活 動ができないか、と考える。

 確かに、体力や精神力において、中学生と高校生には大き な違いはある。しかし、例えば山岳界ではかなり名を知られる市川学園山岳部の場合は、中高同一の部活である。ここでは荷物の重さに違いをつけて、同一の パーティとして行動できている。この場合には、OB会(海外遠征や国内でのルート開拓の記録もある)の援助などもあると考えられるが、学園では中学生にも 入部を認められないのだろうか。どの様に指導するかについては、また手探りの何年かが必要であろうが、・・・。