前夜祭から間夜祭へ


1996年10月8日
熊野谿 寛

1.発端  学園祭終日準備期間三日目・学園祭前日に行ってきた前夜祭は、教員からは評判の悪い ものだった。なにしろ準備の総仕上げにかかる時に、「前夜祭だ」と出ていってしまうの で困る、という事が第一。そして、バカ騒ぎをするだけだ、トイレットペーパーを投げた りするのもどうか、というのが第二。実は実行委員会や総務委員会、クラス企画の中心に なっているメンバーは、たいてい参加したことがない(参加できない)という状態だった。  そこで、昨年は生徒総会で「終日準備二日目に行う」という案が出された。しかし、 「最終日でないと気分がでない」という意見も出て、クラス委員会に持ち帰ったが、クラ ス委員会では結局、原案のまま認められた。しかし、やってみて「どうももりあがらな い」という意見が前夜祭で盛り上がりたい派の中では強かった。  今年の実行委員会で前夜祭・後夜祭の責任者になった健太郎は、その前夜祭やりたい派 の意見を代表する形で、「もっと盛り上がるものにしたい。前日がよい」と実行委員会で 主張した。実行委員会の中で、私と彼とが中心で議論し、他のメンバーの意見で決めたい と言っても、他のメンバーはほとんどが前夜祭を知らない(出たことがない)のでわから ない。そして、夏前か夏休み明けに生徒総会をやりたかったのだが、試験と休みと行事の 連続で生徒総会は開けそうになかった。議論の中では「学園祭準備期間に入る前にやった らどうか」という案も出たが、決定打はない。少なくとも昨年通りにはいかないという事 は一致していた。また、「学園祭前日では準備にがんばる奴は参加できない。実行委員会 幹部や総務も出たことがない。それでよいのだろうか」と言う問題提起は、受け止めつつ 「どうしたものか」と悩んで結論をなかなか出せない。  しかし、ともかく、決定しなくては募集もできない。そこで、「クラス委員会で健太郎 と私が公開で意見を言って討論をして、クラス委員に話し合って決めてもらおう」という 提起をしたのが9月のはじめだった。「前日でも、終日準備の前日でも、問題点をクラス 委員がきちんと認識してくれれば、どちらでもよい。まぁ、教員から出る文句には、プロ セスを説明して答えるから」と彼らに話した。 2.クラス委員会 その@  9月9日 月曜日の放課後、中高合同クラス委員会が開催された。クラス委員会に向け ては生徒会報で議題について伝えてあった。「後夜祭のやり方」と「前夜祭問題」が二つ の議題である。  土曜日に、私が当日配布する資料を健太郎に渡してある。「どちらが先に話すか」と言 うと、「先生、先に話してよ」と言うので、その様な発言順になった。会場はコの字型に なっており、前に総務委員長と学園祭実行委員長や提案者がいる。  最初に総務委員長の光哉が「今日は前夜祭問題について話し合いたい」と切り出してか ら、私が資料を配って「前夜祭は、終日準備前日に行うべきである」とブチあげる。続い て、山田が・・というだんどりになった。ただ、山田の方では意見を述べあうというより も、お互いにからんで話し合うという形を考えていた様で少しちぐはぐな感じにはなった。  さて、討論である。光哉が「参考のために、今までに前夜祭に出た事がある人!!」と 聞くと、約1/3程度である。クラスで企画の中心などだと出られるはずもないのだろう。  H2Dのクラス委員・絵美が手を挙げた。「学園祭前日とか、終日準備前日でなくて、 学園祭一日目の後にはできないんですか。間夜祭にして・・」  これは伏兵である。提案者側は、たじろいだ。「学園祭に向けて気分を盛り上げるとい う意味で考えているので、前日か準備期間突入の時を考えたい」と実行委員長の剛司が言 うのがやっとだが、発言者側は「みんなが参加できて、準備との関係でも無理がないだろ う」と言う。しかし、物理的にはどうか。実行委員会ではよくわからないので、「点呼後 に準備をしていると間に合わない可能性があるが、プログラムなどの関係を見ないとわか らない。ただ、他の企画との関係では準備は難しいだろう」と助け船を出す。  その後、各学年の委員を光哉が指名して、発言を求める。だが、再びH2Dから「間夜 祭も含めて検討してほしい」との意見がある。・・・実現可能性を検討して、実行委員会 としての意見をまとめる時間が必要だ。光哉と相談して、間夜祭についても検討せよ、と いう意見が多ければ持ち帰りとして、翌々日に続会クラス委員会を行う事にしたら・・と 言うことにした。光哉が「間夜祭案についても検討すべきだという人」の挙手を求めると、 約半数程度が挙手をしたので、「持ち帰って検討する」「水曜日に結論を出す」と言う事 にした。  続いて、後夜祭のフォークダンスを「学年ごとに行うのか、縦割りで行うのか」につい て、実行委員会の健太郎がそれぞれの方法を説明する。学年で実施する場合はクラス委員 に学年ごとに責任者をもうけて練習の段階から中心になって企画・運営を進めてほしい、 という事も忘れずに話す。  では、水曜日・・・と言うと時刻は4時半を回っていた。 3.沈滞の幹部会  終了後、学園祭実行委員会幹部と総務委員長などで話し合う。  「間夜祭では意味が通らない」「7月のクラス委員会の時には何も言わなかった」など、 剛史はふんまんやるせない感じである。「プログラムとも違うし、ステージ企画で一日目 に前夜祭出場者の出演がある」と言う。剛史としては、つきあっている絵美が言ったとい う事も頭にくる原因の様だ。  「まず、物理的にできるのかどうか、検討する事だろう」と話して、タイムスケジュー ルを検討すると、外のステージが終わるのが3時、体育館も3時には終わる。点呼の前に 幕の後ろで準備すれば、機材のセッティングは可能だ。  その上で、彼らとしての意見を話させる。「学園祭に向けて盛り上げるという趣旨で考 えて、間夜祭では意味がなくなってしまう」という点につきる。まあ、意地の張りすぎと いう嫌いもないではない。「間夜祭になったらなったなりに違った意味はあるんじゃな い」と話してはおいたが。ともあれ、今までの三つの案について、整理した資料を作って 水曜日に配布する事になった。 4.クラス委員会 そのA  9月11日 水曜日の放課後、中高合同の続会クラス委員会が開かれた。  最初に実行委員長の剛史が資料を配り、「間夜祭案についての実行委員会の見解」を説 明する。さて、討論だ・・・あれれ、あまり意見が出ない。H2Dの絵美も黙っている。 どうも雰囲気が変だ。どうも個人的に剛史が「あんな事言うな」と怒ったらしい。剛史に 「おまえなぁ、そりゃあ問題が違うだろう。何を厚生省の役人みたいな事をしているん だ」とぶつける。  光哉が学年ごとに指名したりして、言わせるとだんだんに話が出てきた。絵美も少し斜 めに構えているが発言を始めた。中学一年生から「終日準備前日という、先生の意見に賛 成だ。準備のさまたげにならない方がよい」と言う者も出る。高校一年のクラスも話し合 い、この案を支持している。だが、大半は「間夜祭案」か「前日派」である。  前日派は、「前日が一番気分が盛り上がる」と言う。間夜祭派は「学園祭当日が楽しい 方がよいではないか」「だいたい自分たちのクラスの現状では、とても前日に準備が終わ るとは思えない」等・・・  意見も出尽くしたので、三案についてそれぞれ支持意見を簡潔に話して採決に入ろうと 言う。準備期間前日が私、前日が健太郎、間夜祭については・・・しばらく誰も言わなか ったが高一の元総務委員・華子が発言した。  挙手による採決の結果 準備期間前日  5人             学園祭前日  16人             間夜祭    32人  一度で間夜祭案が過半数をしめて決定された。  続いて、後夜祭・フォークダンスの方法について議論に入った。光哉が指名して何人か 意見を求めたが、討論という雰囲気ではない。採決すると縦割りが2人、残りは学年ごと の実施となった。健太郎がすかさず、「学年ごとの責任者をあさってまでに決めてほし い」と話す。  終了後、絵美の所に行って声をかける。「ダメだよ、言わなくちゃ。剛史に言われた位 で黙ってしまうんでは、女性の自立の問題だね」実際には間夜祭は彼女の意見ではなく、 他の二名のクラス委員が「今年は間夜祭でないととても出られない」という事から言い出 したものなのではあるのだが。  そのクラス委員の一人が終わった後、玄関で声をかけてきた。「いやぁ、間夜祭になっ てしまいましたね。よかったのかなぁ」「うん、まあいいじゃない。みんなで決めたんだ から」「まあ、やってみて総括すればよいですねぇ」・・・。  しかし、前夜祭のつもりで盛り上げたいと思っていた健太郎の嘆きも大変なものだった。 「まあ、そう嘆くなよ。俺の提案も賛成ゼロでなくてよかったけど、ともかくみんなで決 めたのだから。それに帰りの点呼の後だから本当にたくさんの参加が得られるかもしれな いよ」「でも、みんなが楽しめる様にするには内容も考えなくてはねぇ」  前期期末試験を控えて、翌日から放課後の準備はできなくなった。学園祭まであと実質 的には10日である。それでも、試験までに出し物をしたいチームを募集する事になった。 5.間夜祭の実施  学園祭一日目、帰りの点呼が終わった。間夜祭まで時間がない。しかしいったん生徒を 外に出したので、なかなか始められない。結局、4:30開始予定は5時にずれこんだ。 参加者は思ったよりは少ない。100名そこそこだろうか。ともかく始めないと下校時間 を越えてしまう。そうするとまたまた「間夜祭つぶせ」という動きが出てくるだろう。私 は照明の所に行く。「教員がやらないとダメだ」という体育科からのお達しである。時間 が心配だ。司会からは「トイレットペーパーなどを投げ込んだりした場合は、中止になる のでしないで下さい」と言うと、「ハーイ」と前のあたりには話が事前に通っている様だ。 これならばこのあたりは大丈夫だろう。しかし時間はどうだろうか。  そんな心配をよそに、ダンス、演奏、掛け合い漫才と出し物が進んでいく。演奏のセッ ティングに手間取り、掛け合い漫才の二人はともかく面白いのだが長いので閉口した。会 場は爆笑の渦、拍手の渦につつまれた。そしてなんとか5時50分には終了した。ふと、 会場を見るとびっくり。体育館の前半分しかいなかった観客がいつの間にか後ろまでびっ しりとなっていた。拍手もでかいはずだ。もちろん隙間もあるから約300か400人と 言う所だろうか。片づけも6時少し過ぎには終わった。  「間夜祭にしてよかったのかな」と健太郎が言う。「どうかねぇ、俺は時間の事ばかり 気にしていたからわからんなぁ。また、皆に聞いてみて総括すればよいさ」  さて、総括ではどんな意見がでるんだろうか。間夜祭は果たして定着するのか、なかな か面白い問題である。 付記  後期に入って行った全校アンケートでは「学園祭でよかった実行委員会関係での企画」 として @アーチ 482人 A間夜祭 278人 B後夜祭 214人 と第二位に入 った。  また、参加した生徒の評価としては、(一部、見ていない生徒の評価もまざる・・)  5(大変によかった) 187人 4(よかった) 109人  3(まあまあ普通)   74人 2(いまいち)  26人  1(悪い)       28人  と、「5」「4」が圧倒的であった。クラス委員会の議論では、「終日準備前が良い」 「前夜祭がよい」とする者もあったが、大多数は「間夜祭でよかった」としている。