9・11事件を次の授業でどう 語ったか

 2001年9月11日。この日の映像を見て、衝撃を受けなかった人はいないだろう。それまであまり聞かれなかった「タリバン」「アルカイダ」「ビン・ラ ディン」などの言葉が飛び交うようになり、「イスラムは怖い」と言う声も聞いた。高三の「倫理」の授業では、宗教思想とその意味について重視してきたの で、何を語るべきか、と自問自答した。そして、文献を探し、情報を求め、考えながら、次の授業を待った。
 以下は、何を語ったかを、とあるメーリングリストで書いた文である。あれから8年近くになる。タリバン政権が空爆の中で北部同盟が攻勢をかけると、あっ さり崩壊したように見えたことはやや意外だった。しかし、最近の状況を見ていると、そんなに間違ったことは言っていなかったように思う。

こんにちは。この話題、書き出しては時間切れ…という感じで数日が経過してしまいました。

私の場合は、中学3年と高校3年で授業をしていますが、中3の方では試験範囲に追われて授業の中ではとりあげて話しておりません。事件の頃に学園祭をやっ ていましたが、その準備の合間に中3の生徒たちが、「あれ、戦争になっちゃうのかね」と話しかけてきたのではありますが。

で、高校3年の「倫理」の方では、事件後最初の授業の時に、次のような話を20分ほどとってしました。まあ、長いので、時間のある方は読んでやってくださ い。余談という扱いなんですが、今回はよく聞いてました…。

1)イスラム教、原理主義者、タリバン、テロリスト この四つを厳密に区別して考える必要がある。イスラムについては授業でもコーランの中巻を扱ったが、 もともと他宗教との共存を重んじ、キリスト教とユダヤ教は、アラーの神がつかわしたものなので、敵対するものとは考えていない、などを改めて確認したい。 また、地域によっては酒を飲むイスラムの国もある。

 原理主義者というのは、コーランの教えに帰れという考え方だが、彼らは貧しき人々のために身を投げ出して尽くし、医療や教育などの充実に尽くしてきた人 たちで、平等を重んじる、同胞愛の実践において人々の共感を集めてきた。
 一方、タリバンの教義は、イスラムである以上にパシュトゥン人の戒律・土着のしきたりを強く特徴として持つものといわれている。あまりに貧しかった彼ら は、イスラムのなんたるかを学ぶ余裕も無く、独特の彼らの教義を強く信じるようになった。彼らは「神学生」として、内戦続くアフガンに平和と秩序をもたら すのではと期待されて、勢力を伸ばした。

 テロリストという連中は、そういうイスラム原理主義やタリバンのごく一部に過ぎない。テロをやるという事は、コーランの教えに反するという
べきだろう。

2)次に考えるべきは、「どうしてあんなテロリストが力を持ったのか」という事だ。驚くべきことに、ラディン氏などをゲリラとして訓練したの
はアメリカCIAである。ソ連の侵略に対抗するためとして、各地からの義勇兵をアフガン各地の訓練施設を作って育成した。莫大な軍備と予算を与えて。目的 のためには手段を選ばないテロ支援国家は許しがたいものだが、アメリカ自身がそういうことをしてきた歴史を清算する姿勢があるのだろうか、という視点も もっておきたい。そのゲリラが、ソ連撤退の後に湾岸戦争をきっかけに反アメリカ化したのであって、「自分で作った化け物がしばらくしたら、成長して自分を 襲ってきた」という面がある。

3)では戦争になるのか、という事だが、「すぐに戦争になる」というのは、テレビの報道に躍らされた間違いだ。一回の爆撃くらいのことはすぐにできるが、 本格的な戦争にはかなりの準備と条件が必要だ。しかも場所がアフガンである。旧ソ連KGBの幹部に言わせると「アフガンを思えばベトナムを攻めるのはピク ニック」とだとされる。地上戦を大規模に行うならば壮大な犠牲を覚悟しないといけないだろう。だから、今やっているのは脅しであって、戦争にはまだまだ準 備がいる。また、戦争となった時にどれだけの犠牲を甘受するのかという事は、冷静に考えるべきだ。

4)日本はどうかかわるのか、という議論がされているが、元々日本は中立ではない。今年イラクを空爆したのは三沢基地から出た航空機だった。イラクには逆 に攻撃する能力がないから日本は攻撃されないが、もしあれば攻撃基地に対して反撃することは、自衛のために許されることではないか。言いかえれば、日本が 支援して戦争をするという事は、日本自身が攻撃されることもやむをえないと考えることでないとつじつまがあわない。そこまで考えて議論しないといけないだ ろう。

5)アメリカにとっては確かに重大な事件だ。何と言っても南北戦争以来、この国でおきた最大の被害だと思われる。ただ、よく考えてみれば、米国もたくさん の国に爆弾を落としてきた。その被害はどうだったのだろうか。テロというにはあまりに巨大過ぎるこの事件は。確かに史上最悪のテロだろう。数千人もの人が 亡くなった。しかし、一方で考えれば、世界で餓えによって死んでいる人数は一日で一万人をくだらないという。もしテレビがビルに突入する飛行機と同じ位、 餓えで死んでいく人たちの姿を世界に流していたら、私たちは何を考えていだろうか。冷静に事実を見つめて、考えていかないと、大切なことを見失うように思 う。

・・・それから二週間ほど経過しましたが、そんなにおかしな事はいわずに済んだかなと思っています。もう少し調べてまとめられたらアフガンという国につい て、授業でまとめて扱ってみたいと思います。中学生には、もうちょっと工夫しないと「教材化」できそうもないですが。