「見果てぬ夢」創作ノート5

2012年12月

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12/01/土
足がまだ痛いのでマッサージに行く。少し楽になる。『宇宙論』ルネ・デカルトのところまで書いて疲れたので、担当編集者に見せることにした。担当者が読んで、編集部全体でゴーサインが出ないと次に進めない。昔は原稿ができてから編集者に渡すだけでよかったが、いまは企画会議をクリアーしないと先に進めなくなった。簡単なレジメだけでパスすることもあるが、序文と第一章くらいができていないと企画会議の資料にならないこともある。わたしの本は語り口が勝負なので、その語り口をある程度、見せないといけない。ということで、少し時間があいた。編集者に渡してある企画は他にもあるので、次に何を進めるかはこれから考える。『カラマーゾフ』の準備もしないといけない。まだ文庫本を読んでいる段階。今回は「続篇」を書くということなので、続篇に登場しそうな人物をチェックすることが第1。続篇とはいえ、本篇を読んでいない読者も対象とするので、本篇のダイジェストを挿入しなければならないのだが、それをどんなスタイルで挿入するかも考えていかなければならない。これが第2だとすると、第3に本篇のテーマについてじっくりと考えなければならない。宗教と政治が関わってくることはまちがいないが、そこから何が引き出せるかということが問題となるだろう。すでにいくつかのアイデアがわたしの頭の中にあるが、それはここには書かない。このノートを先に読まれるとタネ明かしになって、作品を読む楽しみがうすれるからだ。まだすぐには書き始めるというわけにはいかないので、ノートのタイトルに迷っているのだが、とりあえずは『見果てぬ夢』のゲラが出てくるので、ノートのタイトルはそのままにしておく。

12/02/日
日曜日。本日はのんびりしたい。

12/03/月
大学。寒いので妻が送ってくれた。1限はカフカの話。そのあとは研究費で買った本が届いたり、武蔵野文学賞の授賞式があったり、何人か学生が来たりした。フットボールの結果を見ていたこともあって、自分の仕事はできず。学科会が早めに終わったので、早く自宅に帰れたのだが、仕事は進まず。とくに急ぎの仕事もないので、『カラマーゾフ』の準備をしながら『菅原道真見果てぬ夢』のゲラの到着を待つ。いま気になっているのは、猫の話。宇多天皇が猫を飼っていたことは事実だが、登場のさせ方に意味がなかった。もう少しわかるように書かないといけない。校正の赤字が入る前のゲラが先に届くはずなので、その時点で猫については修正しておきたい。

12/04/火
大学。学生の卒論を読む。まだ提出前だが完成しているものもある。今年度から、卒業制作として小説を提出してもらうことにした。この大学としては初めての試みだが、初めてにしてはいい作品がいくつもある。W大学時代の教え子が来る。ネット配信の会社につとめていて、前にも来たことがあるのだが、少し打ち合わせ。ネット関係でプラントして温めているものがあるので、いずれ実現させたい。打ち合わせをしながら、ニューヨーク・ジャインアンツの試合をチェック。ありゃ、1点差で負けてしまった。まだ地区1位であることは変わりないのだが、相手が同地区のレッドスキンズなので、ここで勝っておけばほぼ優勝決定だったのに。今週は49ナーズも負けてしまった。まあ、ブロンコスが勝って地区優勝を決めたし、ロスリスバーガーの負傷のあと控えQBも負傷して3番目のQBを出したスティーラーズが奇蹟の勝利でプレーオフ圏に踏みとどまっているので、まだまだ楽しみはある。夜中、『カラマーゾフ』を書き始めた。実は8月くらいに出だしの文章は試しに書いていたのだが、それを少し延ばした。といってもまだプロットは考えていないしどんな登場人物を揃えるかも考えていない。ただ文体の試作品としてオープニングの文章を書いてみた。いい感じなのでこれが土台になるかもしれない。まだ手探りの段階だが、書いているとわくわくする。

12/05/水
本日は休み。近所の主治医に行って薬をもらう。妻と三軒茶屋へ。銀行などを回る。それだけの一日。『カラマーゾフ』のことなどを考える。宇多天皇の猫のことも考える。カラマーゾフは長丁場になるので、その前に何か仕事をしておきたい気もする。

12/06/木
大学。4年生は卒論提出までの最終回。できなければこれまで書いた短篇を集めて短篇集として提出してもいいと言ってあるので、まあ、大丈夫だろう。大学院の授業では梶井基次郎の『檸檬』を朗読。わたしの一番好きな作品だが、若い人に伝わるかな。

12/07/金
文藝家協会常務理事会。著作権情報センター宴会。協会副理事長としてのつとめを果たす。次男一家が来る予定だったが、本人が風邪気味とのことでキャンセル。妻と二人きりの生活になってから、ダイニングのテーブルで仕事をするようになったので、大あわてでテーブルの上を片づけたのだが、パソコンを元の位置に戻す。『菅原道真の見果てぬ夢』のゲラが届く。まだ校正者の赤字が入っていないのだが、これで読み返してチェックをする。あとで校正者の赤字と付き合わせる手間がかかるが、赤の入っていないゲラの方が中身に集中できる。オープニングを読んでみる。序章は主人公が登場せず、『伊勢物語』の語り口で在原業平だけが出てくる。そこが長すぎるのではと懸念していたのだが、ゲラにしてみると文字が小さくなっているので、長いとは感じられない。ちょうどいい頃に少年の菅原道真が登場する。その直後の、十歳の妻とのやりとりが微笑ましい。ここから物語の展開が始まる。いい感じで始まっている。

12/08/土
浜松町の文化放送へ。漫画家弘兼憲史さんの番組に出演。5月にも1度出演したことがあるので、勝手はわかっている。2時間の番組につきあって役目を果たす。いい天気だ。スタジオには窓があって、外の青空が見えた。ラジオは楽しいが、生放送はそれなりに緊張する。終わるとほっとする。お昼の番組なので、午後と夜は自分の仕事ができる。『菅原道真の見果てぬ夢』のゲラが出ているので、当面はこの作業に集中する。道真と妻のやりとりがいい。さて、応天門の変。ここからドラマに緊張感が出てくる。在原業平にまつわるエピソードも効果的に出てくる。ここまでいい感じて進んでいる。

12/09/日
土曜に仕事があったので本日は貴重な休日。散歩にも行かずにゲラに取り組んでいたが、よーく考えてみると来週はとてもハードな日程なので、期日前投票に行くことにした。世田谷区は都議会議員の補欠選挙もあるので裁判官も入れて5票も投票がある。しかし入れる党派がない。どこもダメ。でもせっかく投票に来たのだから、とりあえずは入れた。月曜の朝は早いので早めに寝る。

12/10/月
今年一番の寒さ。妻に車で送ってもらう。車から降りて研究室に入るまでが寒かった。1限だけなのであとは研究室ですごす。今年の春に引っ越した研究室は暖房がよく効くのでありがたい。冷房はほとんど効かないのだが。学生が入れ替わりできたのでにぎやかであったが、自分の仕事は進まず。ゲラをもってきたのだが学生の作品を見たりしていたのでまったく手がつかなかった。フットボールの結果を見ていたせいもある。フレーオフ進出チームが見えてきた。Aカンファレンスはペイトリオッツ、レイブンス、テキサンズ、ブロンコス、コルツがほぼ決まり。あと1枠が難しい。スティーラーズかベンガルズだろうが、全勝すればジェッツにもわずかだがチャンスがある。Nカンファレンスは大混戦。確実なのはファルコンズだけ。パッカーズと49ナーズも大丈夫だろうが、あとは五里霧中。1歩だけ前にいるのがジャイアンツ、ベアーズ、シーホークス。これできっちり6チームだが、1ゲーム差でレッドスキンズ、カウボーイズ、バイキングが迫っている。これからの1ヵ月は、気分が徐々に高まっていく。

12/11/火
大学。あまりの寒さにふるえながら歩いていると、その姿を見かけた図書館長がホットコーヒーを差し入れしてくださった。それほど惨めに寒そうに見えたのかな。火曜は1限だけなので、学生の宿題を見てから自宅に。夕方、編集者と飲む約束をしていたので、時間までゲラを見る。2章、終わる。ここまでパーフェクト。いい作品だ。本日は古いつきあいの中村くんと飲む。中村くんはW大の講義録を出版した時の担当者で、20年来のつきあいだ。その20年、三宿で飲んできた飲み仲間でもあるのだが、来年は引っ越すことを考えているので、三宿で中村くんと飲むのもこれが最後かもしれない。

12/12/水
大学。卒論提出日。卒論ゼミ15人、めでたく全員提出。そのうち残っていた3人と忘年会。

12/13/木
大学。昨日卒論を提出した4年生のゼミって、何をするんだろう。よくわからないが教室に出てみると、5人ほど学生が来ていた。雑談をした。卒論を出してもまだ何か書きたいという学生がいた。よい学生だ。『菅原道真の見果てぬ夢』のゲラ、3章終わる。讃岐国守になるところまで。次は最終章。ここから展開が早くなる。一介の儒者が内覧という最高権威に昇るまでの怒濤のような人生が、一気に爆発する。読むのが楽しみだ。作品社から挟み込みの読書カードを送ってきた。あの5000円の本を買って読んでくれた読者がいるのだ。感謝感激。ありがたいことだ。

12/14/金
著団連の臨時総会。著作者団体が集まった、団体の団体である。わたしは文藝家協会で著作権全般を担当しているのだが、著団連については理事長にお任せをしていて、この会合には出席していなかったのだが、今回はわたしが会長をつとめている「Myブック変換協議会」の活動が議題になっていたので、説明のために参加した。必要な説明ができたので、役目は果たせた。午前中の会議なので一日が長い。ひたすらゲラを見ていた。4章の半分は終わった。明日には完了するのではないか。河出から校正者の赤字が入ったゲラの正本が届いた。校正者や編集者の疑問に答えなければならないが、あとは著者の赤字を本ゲラに書き写すだけでいい。今週は休みのないハードなスケジュールで、週末もなくそのまま来週につながってしまう。ゲラは年内に戻さなければならないので、集中して作業を進めないといけないが、正月は少しのんびりできるかなと思う。今年の正月は『悪霊』の仕上げの段階だった。夢の中にいるような正月だった。それからずっと夢の中にいるような気もしているのだが、とにかく年内に一つの仕事が片付くので、少しは休んでいいだろう。

12/15/土
私的な用件で大手町に行く。あとはひたすらゲラを読む。正ゲラは昨日届いたが、まだこちらのチェックが終わっていない。最終章に入っている。スピード感がある。主人公がしだいに追い詰められていく感じがうまく出ている。

12/16/日
日曜日だが大学へ行く。武蔵野文学賞高校生部門の表彰式。この高校生部門は今年から始めたもの。この大学で創作を教えていることを宣伝するために設けたもので、高校に送る大学紹介の資料の中にも応募要項を入れてもらった。本当の成果がわかるのは来年度の新入生の意欲のようなものを感じてからだが、とりあえず数十篇の応募作があった。応募がないのではという懸念はこれで一掃された。中身についても心配で、ショートショートとかケータイ小説みたいなものばかりだと困ると思っていたのだが、幸いにして一篇の最優秀作と、三篇の優秀作を選ぶことができた。どれもがしっかりした文章で的確に作品世界を描いたもので、わたしの教え子の優秀なレベルと比べても遜色がない。優秀作三篇は落ち着いた文章で、書いている人の人柄や見識を肯定的な受け止めることができた。最優秀作はやや過激な作品で、作品の優秀さは認めるものの、とんがったやつだったらいやだなと思っていたが、実際に会ってみると好青年であった。ということは、本人は冷静に文章を書いていて、自分の意図と技倆で作品を尖鋭化させているのだ。これはなかなかの才能である。優秀作の三人も期待通りのおだやかで聡明な人物であった。遠い地方からわざわざ来ていただいたので、本当に感謝感激である。授賞式のあと、研究室でゲラの仕上げ。自分のチェックは完了した。主人公の無念を思って、思わず涙する。自分の文章がいいと感激したわけではない。菅原道真という人物の悲劇的な人生を思うと、胸が痛む。夕刻、めじろ台男声合唱団の練習へ。三鷹から北野(京王線)へどうやっていくか。試しに乗り換えサイトで調べると、《安》《早》《楽》の3種類の経路が出た。他にももう1経路。《安》は立川から南武線で分倍河原に出るもの。2回乗り換えの手間はあるが、歩く距離は少ない。《早》は八王子まで行って京王八王子まで歩けというもの。これは老人にはきつい。《楽》は高尾で乗り換え。天気がいいのでピクニック客で混んでいるのではないか。もう1つの経路は吉祥寺から明大前乗り換え。これは却下。井の頭線に乗るとそのまま自宅に帰ってしまいそうだ。とりあえず三鷹のホームに出てみると、高尾行きが停車していたので、それで《安》に決定。青梅行きや日野行きだったら立川乗り換えになっただろう。コーラスの練習にはメンバー全員が出てきた。総勢10人で忘年会。

12/17/月
大学。1限のあと、夕刻の教授会までの間、ゲラのチェック。校正者の指摘は主にルビに関するもの。章の初出にルビを振るというのが鉄則だが、それだけでは読みづらいこともある。わたしがとくにこう読んでほしいという漢字(たとえば皇子を「みこ」と読む)は少し間を置いたらまたルビを振りたい。こちらの間違いもある。枇杷殿をずっと琵琶殿と書いていたらしい。

12/18/火
このところ寒いので1限のある日は妻が車で送ってくれる。今年は本日が最後(木曜は午後からだから電車で行く)。2年生のゼミだが、3年になる時に人数を半分にする。そのせいか、学生たちは熱心に小説を書きまくっている。4つ目、5つ目を出す学生もいる。たくさん書けばいいというものではない。総合的な判断で当落を決める。それでも学生たちが意欲をもって創作に取り組んでいるさまを見るのは楽しい。仕事をしようと思ってゲラをもってきたのだが、この最終回にも学生がドッと作品を出したので、ゲラを見るひまがなかった。午後からはセンター試験の試験監督の説明会。それからネット関係者が来て打ち合わせ。この担当者は実は早稲田の時の教え子である。文学やネットの話をする。文学とネットは、相性がいいのかどうか。わたしの教室をオープンなものにしたいと思っている。
どうでもいいことであるが、個人的に興味があるのでフットボールのことを書く。本日のマンデーゲームでジェッツが負けた。Aカンファレンスはプレイオフ出場6チームのうち4チームがすでに決まっている。9勝のコルツは次週がすでに脱落しているチーフス戦でほぼ当確。残りの1枠が激戦だったのだが、本日ジェッツが負けて脱落。残りは8勝のベンガルズと7勝のスティーラーズ。次週の直接対決でスティーラーズが勝つと、最終戦にまでもつれこむ。ベンガルズとしては勝っておきたいところだろう。わたしは両チームを応援しているので、どちらが勝ってもいい。もうひとつのNカンファレンスの方は、プレーオフ出場が決まっているのは3チームだけ。残りの3枠に6チームがひしめいている。これはまったく予測がつかない。6チームの中でわたしが応援しているのはジャイアンツだけ。ジャイアンツが勝ち残るだけでなく、できれば49ナーズと違う山(トーナメントのゾーン)に入ってほしい。これはもう運を天に任せるしかない。さて、わたしが応援していたチームは、Aではブロンコスとコルツが進出決定。これにベンガルズとスティーラーズのどちらかが加わる。しかしここは今シーズン絶好調のテキサンズと、伝統の底力のペイトリオッツがいる。この2強のいっかくを崩すのは難しいかもしれない。Nの方は49ナーズに、ぜひともジャイアンツに加わってほしい。ここはファルコンズが絶好調だが、いまの49ナーズなら勝てるのではと期待している。マニング兄弟の対決は、ジャイアンツが不調なので今年は見られないだろう。

12/19/水
文藝家協会で打ち合わせ。Myブック変換協議会というものの会長になっている。毎月、この会議をやっている。進展しているのかどうかよくわからないのだが、いちおう目標をもってやっている会議なので、どこかにたどりつくのではないかと思う。『菅原道真・見果てぬ夢』(いつのまにか「の」がなくなった)のゲラ、自分のチェックをとりあえず全部、正ゲラに移し替えた。あとは校正者のチェックに対応するだけ。ルビの振り方がほとんど。けっこう手間がかかる。第2章が終わっているのだが、時間がなくて先に進めない。学生の宿題も少し残っている。

12/20/木
大学。今年最後の出講。ああ、さすがにドッと疲れが出た。夜中、ゲラ。これが終わらないと年が越せない。とにかく担当編集者に、25日に渡すとメールで約束した。この日から3連続の宴会がある。それまでに楽になっていたい。今年は年賀状ギブアップ……かな。皆さん、ごめんなさい。

12/21/金
もう大学はない。著作権関係の仕事もない。ずっとオフのはずだが、まだゲラが終わっていない。とりあえずマッサージに行く。7月に膝を痛めた。8月からこのマッサージ療院に通い始めた。歩くのに支障はなくなっているのだが、足を踏んばって仕事をしていると、膝が硬くこわばっている感じで痛くなる。マッサージでほぐしてもらうと楽になる。肩こりも治してくれるので、月に1度か2度、通っている。妻が担当者に電話で、家庭でもできる灸のツボに印をつけておくようにとオファーしたようで、ポイントに墨で印をつけられた。灸は好きではない。夜中、少しのんびりする。ゲラは4章が終わった。終章という短いエピローグが残っているが、これは明日のお楽しみ。火曜に渡せばいいので余裕がある。本日は軽く寝酒を飲んで寝たい(最近自宅では飲まないようにしている)。年末だからそれくらいの楽しみがあっていいだろう。

12/22/土
週末だ。月曜も休みなので3連休。その後も大学は休みだが宴会のスケジュールが入っているので、この3日間で心身を休めたい。と思っていたら妻が家具を見に行くというので、電車でお台場に行く。お台場はいつも妻の運転で行くのだが、大学の新校舎がお台場にできて時々電車で出かけるので、電車で行くことに慣れた。ただし仕事で行く時は妻に恵比寿まで送ってもらう。田園都市線で渋谷で乗り換えると、渋谷駅の埼京線のホームが遠くにあるので大変だ。とにかくお台場で家具を見て、ついでに映画館に行って『レミゼラブル』を観た。スーザン・ボイルがレコーディングした『私は夢を夢見た』はわたしの愛唱歌だ。これは映画館の大スピーカーで聴きたいと思っていた。アン・ハサウェイの歌はドラマの中のリアルな歌なので、朗々と歌うわけではないが、ささやくような歌い方の要所で声が響く。いい歌だ。夜中に歌いたくなったが、さすがに自重した。映画の余韻を大切にしたい。『菅原道真・見果てぬ夢』ゲラ完了。いい気分だ。これで今年も終わりだ。いや、まだフットボールが残っていた。日本時間では月曜日の朝に16週のゲームがある。スティーラーズ対ベンガルズの対戦は、勝った方が生き残るトーナメントのような試合。今年はベンガルズを応援したい気がするが、スティーラーズの奇蹟の勝利を期待したい気もする。あとはジァイアンツが2連勝できるか。2連勝しても他のチームが負けないとプレーオフ進出は難しいのだが、去年も奇蹟のフレーオフ進出でスーパーボウルの頂点にまで駆け上った。ここでも奇蹟を期待したい。来年はドストエフスキー論の最後の山、「カラマーゾフ」に挑むことになるのだろうな。まだエンジンはかかっていないが、やるしかない。それと、引っ越しの予定があるのだが、執筆できる環境をうまく維持できるかどうか。この前の引っ越しは27年前なので、引っ越しという感覚がよくわからない。ただ27年前は、ひたすら書いているだけの作家だった。もう専用ワープロは使っていたが、ネットとかはなかったので、どこでも仕事ができるという感じがあった。27年前に引っ越したのは、2人の息子の教育環境を考えてのことだが、自分が引っ越したことで、W大学で先生をやるようになり、文藝家協会の仕事を引き受けたりして、出かけていくことが多くなった。そういうことが可能になったのは、現在の三宿という地に引っ越したからで、渋谷、下北沢、三軒茶屋などに近い便利なところにいるから、気軽に外出するようになった。場所というものは大切だ。で、自分の晩年ということを考えた時、より便利なところに引っ越していた方が、長く社会と関われるかな、と思った。いまのところも便利ではあるのだが、池尻大橋に行くにしても池ノ上に行くにしても、徒歩15分くらいかかるので、老後はつらいと感じるようになった。7月に足を傷めてそのことを痛感したのだが、引っ越す場所はその前に決めていた。自分が老いるということに、まだ想像力は働いていないのだが、人は老いるものだという知識はある。わたしもいずれ老いるのだろう。山の中に閉じこもるのもいいが、気軽に地方に出かけることを考えると、東京駅の近くがいいなどと大胆なことを考えるようになった。ということで、来年の最大のイベントは引っ越しで、少し落ち着いてから、年の後半に「カラマーゾフ」に挑戦することになるだろう。『読書人』の鼎談で、亀山さんにも清水さんにも、カラマーゾフの続篇を書き終えたら、バッタリ死ぬというくらいの意気込みで書いてほしいと注文された。軽い気持でやってほしくないということなのだろうが、体力のあるうちでないとできない作業なので、来年の後半というのはいい時期だろうと思う。大学の仕事はネットからの発信という新たな取り組みについても現在、プランを練っているので、来年度はもっと多忙になるだろう。著作権の仕事も、Myブック変換協議会などというものを始めてしまったので、より多忙になるだろう。スペインに行きたいがスペインは遠い。今年は7月に孫5人と1ヵ月くらい、いっしょに生活した。思えば夢のような日々であったが、その時のストレスで足を痛めたのではないかという気もする。昨日、マッサージの先生に、灸のツボを教わった時、腰のツボはカイロを貼るのもいいと聞いて、昨日の夜からカイロを貼っているのだが、これがプラシーボ効果なのか、効いている感じがする。これで少し楽になれるかなとも思う。ゲラが終わったので、今年も終わったような気分になっているが、明日から「カラマーゾフ」の文庫を読んだり、2つ出している新書の企画について、考えなければならないと思っている。この企画というやつが、GOサインが出るのかどうかわからないので、まだ仕事にはとりかかれない。しかし自分で書きたいと思って企画したことなので、何とか実現させたいと思っている。しかしすぐにとりかかれないのであれば、「カラマーゾフ」を優先させたい。小説家だから小説を書くことを大切にしたい。ドストエフスキー論を小説で書くというアイデアも、小説を書きたいという思いが強かったから生まれたものだ。『菅原道真』のゲラを見ながらしみじみと感じたのだが、菅原道真は自分を描いた作品だ。義のために生きた人間。義に尽くしすぎて孤立した人間。その孤独感を、センチメンタルにならないように、何とか踏んばって作品に仕上げた。自分にとって大切な作品になった。

12/23/日
日曜。昨日、ゲラが完了したので、もう何もすることがない。年賀状はギブアップしたので、もう何もない(引っ越しの準備ができたら転居通知を出すことにする)。とりあえず床屋へ行く。この床屋には27年間通ってきたが、あと2回くらいで縁が切れる。床屋の前に新しい道路が斜めに横断する。ぎりぎりと予定地に引っかかっていないので、店の前に大通りができるのだが、それは床屋にとってはとくに影響はないだろう。親父はわたしより高齢なのでそのうち店を畳むかもしれない。あと2回、がんばってほしい。

12/24/月
クリスマスイブは祝日ではなかったはず。天皇誕生日の振り替えかな。大学の暦では、月曜が振り替え休日になっても休まないことが多い。月曜ばかり休みになっても困るからだ。わたしは月曜の1限を担当しているので、世の中が休みの時に早朝出勤するということが何度もあった。幸い、本日は冬期休暇に入っているため休みだ。寒いので外出しなかった。仕事はもう何もない。『カラマーゾフの兄弟』の文庫本を読んでいる。思えば2年前には『悪霊』の文庫本を読んでいた。震災の直後の余震の時期に入院した時もひたすら文庫本を読んでいた。読んでいるうちにドストエフスキーの霊が降りてきて、気がついたら2200枚の小説が完成していた。それが今年の正月のこと。来年の正月には作品が完成しているのだろうか。今回はそれほどうまくはいかないだろう。『悪霊』の前篇を書くなどということは誰も考えないが、『カラマーゾフ』の続篇を書くというのは、ドストエフスキーのファンなら誰もが考えることではないだろうか。それだけにプレッシャーがある。たとえば亀山さんには『「カラマーゾフの兄弟」の続編を夢想する』という著書がある。これまでに何度も読み返して要所に赤線が引いてある。これは困った本で、ここに先に書かれていることは、そっくり真似するわけにはいかない。幸いわたしは亀山さんのように原典を詠み込んでいるわけではないので、もっと大胆に好きなように書くつもりだ。しかしそれにしても、全国のファンのお叱りを受けそうで、まだ何も始めないうちから四面楚歌のような気分になっている。とにかくこの年末年始は、文庫本を読みながら、自由に妄想を広げていきたい。そのうちドストエフスキーの霊が降りてくるはずだ。
月曜日はフットボールの結果がわかる日だ。いつもは大学のパソコンで1限の授業を終えてからチェックする。同級生が皆リタイアしている年齢になっているわたしが朝1の授業を担当するという、働く老人にとっては、この時間はご褒美みたいなものだ。本日は授業がないので11時くらいまで寝ていて、のんびりとパソコンを開けた。実は少し怖かった。最終週の一つ手前だが、ここで大勢は決定する。Aカンファレンスは、本日のベンガルズとスティーラーズの勝者がプレイオフに進出するといっていい。スティーラーズの場合はここで勝っても次の試合に負けるとダメなのだが、最終週は強敵ではないので、ここで勝てばプレイオフ進出がほぼ決まりといっていい。つまり、この試合はトーナメントの初戦のようなものだ。勝った方が生き残る。で、ネットで確認する。ベンガルズの勝利。まあ、妥当な結果だ。今シーズンのスティーラーズはチームの過渡期に入ったのか、黄金期の輝きは失われている。ベンガルズは強烈のディフェンスと、QBダルトンのセンスで、上昇中のチームだ。わたしはフットボールに興味をもった最初の時期にベンガルズのファンだった。シンシナティの動物園には白いベンガル虎がいた(いまもいるのかもしれないが)。このベンガル虎がシンシナティ市民の自慢であった。Aカンファレンスではペイトン・マニングが復活したプロンコスが快進撃を続けている。そのマニングを放出したコルツも新人QBの活躍でプレイオフ進出を決めたのだが、このゾーンではブロンコスとベンガルズを応援したい。Nカンファレンスでは、昨シーズンのチャンピオン、ニューヨーク・ジャイアンツをひたすら応援していたのだが、本日の敗戦で、プレイオフ進出の望みは断たれた。このゾーンでは49ナーズも応援しているし、ジャイアンツを押しのけたレッドスキンズも面白いチームだ。ジャイアンツが出られないので寂しいが、ここは49ナーズにがんばってもらいたい。

12/25/火
忘年会モードに入っている。本日は秋山駿さんの会。昨年と同じ新宿の中華料理屋。わたしの最初の作品『Mの世界』(執筆時17歳)が世に出た時、秋山さんには好意的な批評をしていただいた。それ以来、ひそかに恩師だと考えている。『早稲田文学』で最初に対談をさせていただいたのも秋山さんだった。文芸家協会でもしばしばお目にかかった。はからずも秋山さんが教鞭をとっておられた大学の後任になって、ますます縁ができたと感じている。本日、お元気そうなお顔を見ることができた。一次会で帰るつもりだったのだが、西部さんに誘われたので、二次会の会場に一番乗りして飲み始めた。西部さんとは共著を出したことがある。多くの人と語り合うことができた。3日連続の飲み会の第一陣が終わった。

12/26/水
企画を3つ出していたのだが、そのうちの2つが決まった。正月はのんびりと『カラマーゾフ』を読むつもりでいたのだが、そうもいっていられなくなった。来年の前半はカラマーゾフの構想を練りながら、この2つの企画を実現することになる。タイトルは未定であるが、一つは前から書き進めている「宇宙論」、もう一つは「早稲田の思い出」といったもので、どちらもプランは固まっているので、すぐに取りかかることができる。「宇宙論」はすでに序章と1章を 編集部に見せてある。「早稲田」の方も文体を見たいと言ってきたので、今日と明日で、プロローグをまとめたいと思う。このところ出版状況が厳しくなっている。以前は口頭で企画を出せばゴーサインが出たのだが、レジュメが必要となり、そのうち出だしの文章をとりあえず書いてから企画会議に提出するというようなことになってきた。ということで、ゴーサインが出た段階ですでに出だしの文章が出来上がっているというのは、楽といえば楽だ。「早稲田」も書きかけの文章があるので、これを仕上げて序章ということで編集者に届けたい。それが当面の仕事になった。そのままの勢いで「早稲田」の方を先に仕上げた方が、「宇宙論」に集中できるのではないかと思う。さて、本日はこれから、大学時代の同窓会。「早稲田」のことを書くので、ちょうどよいタイミングだ。

12/27/木
とりあえず『早稲田の想い出』を書く。きりのいいところで編集者に送らないといけない。夜は姉の女優三田和代さんを招いて宴会。

12/28/金
仕事場に移動。木造の家屋なので寒いかと思ったが意外に暖かい。移動しただけでこちらのスタンスは変わらない。引き続き『早稲田の想い出』を書く。

12/29/土
食料と灯油を調達。それからなじみの洋食屋へ。のんびりとする仕事場での一日。正月には次男が来ることになっているが、何だか年末まで仕事が忙しいらしい。スペインの長男ははるか以前からオフになっていて、フランスのディズニーランドに遊びにいったりしているのに。日本のサラリーマンは気の毒だ。わたしが勤務している大学もそうとうハードワークを強いるところだが、大学の先生には冬休みとか、休暇がある。何だか申し訳ない気がするが、わたしだって今日も仕事をした。たぶん正月も仕事をするだろう。それが作家の宿命なのだ。

12/30/日
一日中雨。仕事場に来ると散歩するのが楽しみだが本日は雨で動きがとれず。こちらに来て主に『早稲田1968(仮題)』に取り組んでいるが、「カラマーゾフの兄弟」の文庫本も読み進んでいる。3分冊の上巻の終わりのあたり、イワンとアリョーシャの議論。ここは最初の山場といえるのだが、議論が空転している。高校の頃、こういう部分を読んで胸がわくわくしたのだが、いまはこちらが老人になっているせいか、心が躍らない。これを書いているドストエフスキーはいまのわたしよりは若かったとはいえ、かなりの高齢だったはずで、それにしては議論が若々しい感じがする。それが19世紀なのか。わたしたち(わたしと読者ということだが)は20世紀の高揚と衰退を見てきた。社会主義の幻想と挫折も見てきた。宗教の形骸化というものは、最初からわかってきたのだが、長男の住んでいるスペインに何度か行って、まだ宗教が生きているということも知ってはいるが、世界的に見れば19世紀後半のロシアと比べて、宗教は衰退している。それにわたしは、連合赤軍浅間山荘事件や中核革マル戦争やオウム真理教の事件も見てきた。ドストエフスキーのように無邪気な哲学議論に耽るわけにはいかない。わたしはドストエフスキーを崇拝しているが、21世紀を生きている人間として、批判的にも見ている。わたしたちはこれからの人類の行く末を見つめなければならない。
ところで、『菅原道真/見果てぬ夢』のゲラも終わったので、作業はほぼ完了した。この日記帳のタイトルも新年からは新しくしなければならない。いまは『早稲田1968』を書き始めたところで、『宇宙論』についても並行して考えていくのだが、『カラマーゾフ』の文庫本も読み始めているので、日記のタイトルもカラマーゾフで行きたいと思う。来年の1年間で完成するとは思えないが、とにかく完成するまではカラマーゾフというタイトルの日記が、何十巻も続くことになる。人生の中で最も重い年になるかもしれない。

12/31/月
大晦日。本日は晴天。ようやく散歩に出られた。この仕事場はリゾート地にあるので車はほとんど走っていない。のんびり散歩できる。湖岸に自転車道があり、ここが最適の散歩コースなのだが、風が強く地獄のような寒さ。今年の夏は足を痛めていたため散歩できなかった。ここを散歩するのは久しぶりだ。帰って早めに風呂に入っていると次男一家到着。4歳と2歳の孫がいる。今年も賑やかな年末年始になる。


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