「400円ミステリー」創作ノート1

2002年7月〜

7月

8月 9月


07/01
本日からこのノートを書き始める。昨日、つまり6月30日、ワールドカップの決勝戦の直前に、「新アスカ伝説B/ヤマトタケル」が完成した。テレビで決勝戦を見たあと、手直し。「新アスカ伝説A」のゲラ直しのあと、最初から読み返して、8章まではチェックが済んでいた。担当編集者が「新アスカ伝説@」を届けに来たので、8章までのプリントを渡した。それから続きを書き始めて、ようやく完成した。わたした8章までの中で、必要に応じて書き直したところもあるが、行数を増やさないように配慮したので、直したページだけをプリントして、9、10章のプリントとともに郵送した。
ワールドカップが終わったのと、作品の完成とが同時だったので、ものすごい虚脱感だ。ワールドカップは一カ月だが、「新アスカ伝説」は昨年の9月から作業に取り組んでいたから、10カ月、古代世界にひたっていたことになる。その間、頭の中にあるプランをどう具体化するか、必要な要素をジグソーパズルのように完璧に埋め込めるかということで、頭の中がパンクしそうだった。プリントした直後にも、一つ、書き忘れがあることに気づいた。ヤマトタケルが率いたエゾの勇者たちのその後を書くのを忘れていた。「エゾの勇者たちはハリマ国やイヨ国に領地を与えられた。ヤマトの民にとってはエゾの言葉は理解しがたく、ただの騒ぎとしか感じられなかった。そこでサワギ族とかサエギ族と呼ばれた。佐伯という氏姓はそこから生じた。」という文章を、ゲラ校正と時に加えれば問題ない。プリントとフロッピーは封筒に入れて玄関に置いてあるのだが、封筒を破って訂正するのもめんどうだ。
で、今日は、著作権白書委員会というものに出席しないといけない。実は妻が、わが姉(女優)の韓国公演を見に行ったので、犬の世話をしないといけない。明け方散歩をして、仮眠して、起きたら犬のメシを作る。それから、外出。二時間の会議のあと、自宅に帰ってくると、犬は出かけた時と同じ姿勢で眠っていた。老犬なので、時々、自力で起きあがれないことがあるのだが、そういう感じでもない。単に熟睡していたのだろう。夜中には妻も帰ってきた。
著作権白書委員会に出かける時に、封筒をポストに投函した。これですべての作業が終わった。ものすごい虚脱感。委員会の席でも、ぼうっとしていた。明日から、何をすればいいのか。7月は、会議が目白押しで、忙しい感じではあるのだが、自分の仕事の計画を立てないといけない。スペインの孫が来るかという話もある。孫はわれわれがスペインに行って見たから、もういいのだが、わたしの母、妻の両親、およびわが次男、その他、親戚一同に、孫を見せる必要があるだろう。息子夫婦は、われわれに赤ん坊を預けて、渋谷あたりで遊びたいと思っているに違いない。われわれは子守を押しつけられることになる。ふるさとと孫は、遠きにありて思うものだ。7月は、疲れそうだ。
今月の創作ノートには、タイトルがない。ミステリーを書く、というプランはあるのだが、どういうものを書くのか、何も考えていない。そこでとりあえば、「ミステリー第1弾」というタイトルでスタートすることになる。ミステリーを書くのは、初めてである。何にでも、始まりというものはある。いま仕事の中心となっている歴史小説だって、初めて書いた時は、おそるおそるワープロのキーを叩いていた。しかし歴史小説は、ずっと以前から書きたいと思っていた。長期的な戦略みたいなものもあった。しかしミステリーは、書くつもりもなかったし、戦略は何もない。
ではなぜミステリーを書くことになったのかという経緯をここに書いておく。以前に、「大鼎談」という座談会の本を出したことがあった。これは友人の岳真也が主宰する同人誌に連載していた座談会を本にしたものだ。同じく同人の笹倉明をまじえて、三人でお座なりな話をした。まあ、この三人は、飲み友だちといったものだ。
岳真也と最初に会ったののは、二十五年前、わたしが芥川賞をもらってプロの作家になった直後だった。高橋三千綱と対談の仕事があって、その後、どこかに飲みにでもいくかという話になった時、三千綱が「岳の家に行こう」と提案したのだった。当時は、皆、三十歳前後で、同年代の作家は少なかったから、三千綱と岳とはすでに友人であったらしい。ともかくそれで岳と知り合いになった。岳は異様に同人誌が好きな人物で、すでにプロの作家になっているのに、同人誌にこだわり、いまも同人誌を出し続けている。で、わたしも頼まれて、岳の同人誌に原稿を書いたり、合評会に出席したりするようになった。
笹倉明は、大学の一年の時の同級生だ。ちなみに隣のクラスには村上春樹と、「青春デンデケデケ」の直木賞作家、芦原すなおがいた。わたしが芥川賞を貰った時、同級生がわたしの祝いを兼ねたクラス会を開いてくれた。その時、まだ大手広告代理店の社員だった笹倉が、「おれも会社を辞めて作家になる」と言っていた。酔った勢いの冗談かと思っていたら、笹倉は本当に会社を辞め、やがて「すばる」新人賞で作家としてデビューした。しかし新人賞をとったくらいでは、プロとして持続的に仕事をするのは難しい。笹倉は現代社会では珍しい「貧乏なモノカキ」という、昔の早稲田文学の私小説作家みたいな生活をしていて、同じような境遇にある岳と飲み友だちになったようだ。
その後、笹倉はサントリーミステリー大賞と直木賞を受賞し、急に金持ちになったが、いまはまた貧乏作家に逆戻りしている。で、岳と笹倉が飲んでいる時に、たまたま某出版社の編集者といっしょになり、「大鼎談」の三人で、ミステリーの競作をする、という話がまとまったらしい。わたしには何の相談もなかったが、まあ、飲み友だちというものは、その程度のことは許せる仲なのである。というか、ちょうどわたしも「新アスカ伝説」の第一期の3冊が終わりそうで、その3冊の売れ行きを見ないと、第4巻に取りかかっていいかどうかわからないので、夏はヒマだったのだ。というわけで、この夏は、ミステリーを書く、ということになってしまった。
実際には、7月はけっこう忙しい。「ヤマトタケル」のゲラが出るし、実は「頼朝」のゲラが、今頃になって出ることになった。書き上げたのが去年の今頃だった気がするのだが、いわゆる「お蔵入り」になっていたのだ。これも「清盛」が売れなかったせいだ。ようやく、タイトルを変更するということで、ゲラが出るところまでこぎつけた。ゲラ2本に、会議が週に2〜3回のペースであり、おまけにスペインから孫が来る、ということになれば、ミステリーなど書いている時間はない。実際に書くのは8月になってからかもしれない。それでも、構想は練らないといけない。
とにかく、ミステリーを書かないといけない。ここでいま、ハタと気づいたが、ミステリーの創作ノートなどといったものを、インターネットで公開するのはまずいのではないか。犯人がわかってしまったら、読者は読む気がしなくなるだろう。犯人がわからないように、創作ノートを書くということになると、こちらの方がミステリーになってしまう。犯人は誰か、いまのところ、わたしにもわからない。プロットそのものがまだ何もできていないから、誰が犯人かわからないのは当たり前だ。
とりあえず考えたこと。これから書くのは、祥伝社の400円文庫という、うすっぺらい本で、原稿用紙にして200枚以内という、中編小説なのだ。だから、手の込んだトリックは使えない。怪しい登場人物を何人も出すと、話が長くなる。そこで、怪しい人物を3人に限定する、ということにした。3人だけでも、最も怪しい人物、という重心が、コックリさんみたいに右往左往すれば、それなりに、先が見えない謎めいた雰囲気を出すことができるだろう。この3人には、過去に何らかの因縁がある。過去に事件を設定するのもいいだろう。
何のためにミステリーを書くのかといえば、付き合いとしかいいようがないが、作家としての技量が試される場でもあるので、他流試合をやるような気持ちで、本気で書かないといけない。ということで、本日は第1日目であるが、プランはまだ何もできていない。場所は、軽井沢とか、そういう高級避暑地にしたいと思っている。貧しい人々をリアルに書くというのではなく、作り物のミステリーを読者に楽しんでもらうというコンセプトで行きたいと思う。

07/06
今月の1日から、ミステリーについて考えている。部屋の掃除をしたのと、会議一件、講演一件があったので、一日中考えて続けていたわけではないが、とりあえず「構想を練る」という状態だった。この一年は、「新アスカ伝説」の@ABを連続して書き続けていたので、@が終わるとその続きとしてそのままAに突入できた。つまり、「構想を練る」ということをしなかった。「新アスカ伝説」そのものは、ずっと前から構想を固めていたので、@を書き始める前にも、じっくり考えるということはなかった。その前の「頼朝」は、「清盛」の続編であるから、これも構想を練ることはなかった。
というふうに考えてみると、もう長い間、「構想を練る」という時間をもたなかった。そのため、「構想を練る」ということがどういうことが、感触がつかめなくなっている。雑誌の仕事をしなくなったので、注文が来て、さて何を書くか、といった事態がほとんどなかったこともある。考えてみると、数年前、読売新聞に連載したのが、最後の「構想を練る」作業だったのではないか。女帝三部作なども、いきなり書き始めてしまった感じがする。
「構想を練る」感触がつかめないというのは、まるで、「唄を忘れたカナリヤ」みたいなものだ。柳のムチでぶたれそうだ。まあ、一週間ほど、感触を思い出すことに費やしていたので、そろそろ動き始めないといけない。
その間、作業に使っているノートパソコンの「掃除」もした。ウィンドウズの入っている前半の領域が満杯に近くなったので、パソコンを買った時にプレインストールされていたソフトを片っ端から削除したのだが、すると何か重要なものを削除してしまったようで、例えばいまこの文章を書いている「メモ帳」の右上にある押しボタンの「−」「□」「×」の文字とか、クスロールバーの下の「▼」などがすべて文字バケしてしまっている。べつに作業が出来ないわけではないが、困ったことになった。
さて、この一週間に考えたこと。場所は旧軽井沢の別荘地。地下の音楽スタジオ。そこに四人の登場人物が入ったところで、どういうわけか出入口が封鎖される。スタジオ全体が密室になったわけだ。で、そのうちの一人が死ぬ。残りの三人のうちの誰かが犯人だということになる。もう一人死ぬ。二人しか残らない。すると、犯人でない方は、相手が犯人だとわかることになる。といったサスペンスを描きたい。一人称ではないが、主人公を設定して、主観的に描写していく。そこで、二人死んで、二人残った段階で、主人公ではない人物が犯人だとわかることになるのか。しかし、主人公が犯人だというのも、アリである。小説は主人公の心理の一部しか描かない。とくに過去の関しては、少しずつ明らかにしていく。
この四人の登場人物には過去がある。およそ二十年前に、一つの事件がある。その事件の内容についてここに書くわけにはいかない。この過去の事件については、後半になって初めて明らかにされる。ミステリーのカギとか種明かしになる部分だから、創作ノートに書くわけにはいけない。ホームページに出す創作ノートには制約がある。何もかもを書くというわけにはいかないのだ。

07/10
愛犬リュウノスケの15歳の誕生日。しかし数日前、いよいよオムツをつけることになった。足腰が弱り、ベランダに出ることもできなくなった。ボケたわけでもないだろうが、ベランダまで用足しに行く気力もなくなったようで、これではオムツをつけるしかない。妻がオムツカバーを作り、そこに人間用の紙オムツをセットする。何とも哀れな姿の犬が室内をよろよろ歩いているのを見ると、胸が痛む。
さて、スタートしてから10日たつが、文体が確立しない。テンポがよくない。「新アスカ伝説」では軽快な文体で次々に神秘的な出来事が起こるという感じで、エンターテインメントのコツがわかったという気がしたのだが、ミステリーは難しい。肝心のポイントを隠して話を進めないといけないので、実にかったるい。オープニングの部分を書いてみたのだが、気に入った文体にならない。なぜか。要するに、面白さが不足しているのだ。
肝心なことが書けないというのは、一種のハンディキャップだが、それでも魅力的な文体で語らなければならない。肝心な部分とは別の要素で読者を惹きつけないといけない。その別の魅力で語っているうちに、もっと深い謎に読者が気づく、というふうでないといけない。そこまでいけば、ぞくっとする魅力を読者は感じるだろう。そのための仕掛けを設定しないといけない。
押しボタンの文字バケはいまだ回復せず。いま使っている「メモ帳」も何とも哀れな姿だ。どうすればいいのかわかない。そういえばこのソニーのバソコンは、小学館の百科事典の押しボタンが、最初から文字バケしていた。何か重大な欠陥があるのではないか。

07/12
この「ミステリー」は、400円文庫ということになっている。コンビニなどで売っているそうだが、わたしはコンビニで本を買ったことがないので、どんなふうに売られているのかもしらない。が、とにかく仕事の注文が来たので、これを書くことにした。注文は「旅情ミステリー」ということだったので、とりあえず場所は軽井沢ということにして、主人公が駅から町に出るシーンを冒頭に置いた。そして状況設定を読者に伝えようとしたのだが、これでは動きがない。
状況設定を書くのは難しい。ただの説明では、読者の頭の中にインプットしない。動きやイメージとともにメッセージを伝える必要があるし、並行して登場人物の顔や人柄、キャラクターを印象づけないといけない。主人公がただ駅からの道を歩いているというシーンでは、すべてが絵のない説明になってしまう。そこで突如として、オープニングを変更。登場人物の一人から、主人公に電話がかかってくるというところをスタートとする。
登場人物は、高校時代のバンドのメンバー4人と、女の子一人。4人が地下のスタジオという密室に入ったところで1人死ぬ。そこから3人の葛藤が始まる。主人公を除くと、怪しいやつは2人だけになってしまう。これでは犯人の可能性が限定されてしまうのだが、何しろ400円文庫だから、怪しいやつを何人も設定すると、話が終わらなくなってしまう。振り子のように、2人の怪しいやつの「怪しさ」の度合いが、右に傾いたり左に傾いたりする。その揺らぎをミステリーの面白さとして展開したい。で、その怪しい2人のイメージを、最初にしっかり描いておかないといけない。
ということで、まだ東京にいる間に、この2人と別々にあって、そのつど、登場人物のファーストショットで、キャラクターを読者に伝えておくことにする。それから、軽井沢に向かう。旅情ミステリーということになっているが、旅情があるのはこの移動の部分だけ。そのあとは密室殺人事件になるので両情はない。タイトルの候補として「旧軽井沢密室殺人事件」というのを考えているが、少し長すぎるか。別のタイトルをつけて、これは副題としてもいい。

07/17
13日に「頼朝」のゲラが届いた。ただしタイトルは「鬼武者」に変更された。編集者の提案だが、まあ、これでいいだろう。ゲームの原作と間違えて買う人はいないと思うが、ふつうの頼朝像とは違って、鬼武者と呼ばれた少年時代にかなりのページを割いているし、脇役の文覚は、大人になっても頼朝のことを「鬼武者」と呼んでいる。ミステリーの冒頭部分の書き換えで、少し調子が出できた時期だったので、このまましばらくミステリーを続けるつもりでいたが、どうもパソコンの調子がよくない。
「ヤマトタケル」を書き上げた後、ハードディスクの残り容量が少なくなったので、いくつかのソフトを削除したのだが、その時に、フォントが大量に削除されてしまったらしい。最初は、画面の押しボタンが文字バケしているだけだと思ったのだが、ワープロでも書体の変更ができないなど、困った状態になっていることがわかった。このパソコンは作業用に使うもので、インターネットには使わないから、当分、買い換えるつもりはない。思いきって、初期化することにした。
初期化するとどういう不都合が起こるかを、少し時間をかけて検討したい。このパソコンは領域を二つに分けてある。初期化されるのはウィンドウズが入っている領域だけなので、ワープロで作った文書や、デジカメの写真などは、初期化しない領域に移しておけばいい。この領域には、小学館の百科事典が入っていた。これもそのままにしておいていいかとも思ったが、インストールの時に、ウィンドウズのファイルを書き換えているおそれがあるので、いったんアンインストールして、ウィンドウズの初期化をしてから、もう一度、入れ直すことにした。買った時にプレインストールしてあったソフトは、添付のCDですべてもとの状態に戻るはずだが、こちらが追加した一太郎や歴史事典はもう一度、入れ直す必要がある。あとキーボードの配置も変更しているので、これはたぶんユーザースタイルというファイルをコピーしておけばいいだろう。
というようなことをいろいろ考えていると、ワープロで仕事を続ける気力がなくなってきたので、ミステリーは中断して、「鬼武者」のゲラに取り組むとこにした。本日、完了するはずだ。というのも、今日、「ヤマトタケル」のゲラが届いた。こちらの方が緊急の仕事なので、本日中に「鬼武者」を終えて、明日からは「ヤマトタケル」に取り組む。ミステリーは来週の半ばに再会する。
先週末くらいから、老犬の足腰がいよいよ悪化した。オムツをつける。犬用のオムツを試しに買ってみたが、高価だ。人間の赤ん坊のオムツは、デフレ状態でものすごく安い。そこで犬用のオムツを参考にして、シッポの穴をハサミで開けることにした。すると中から、吸湿材が漏れ出てくるので、テープでとめる。むろんこれらの作業は妻が担当しているのだが、どうすればいいかということで、わたしもいろいろと考えた。で、結論として、上記の対策でいこうということになった。
オムツをつけた犬が部屋の中をよろよろと歩き回っているのを見ると、胸が痛む。パソコンも死のうとしている。パソコンは初期化すれば生き返るわけだが、何だか、別のパソコンになってしまうような気がする。というわけで、気分が落ち込みそうになっているのだが、読んでいる「鬼武者」が面白いので、かろうじて気力を持続させている。

07/18
昨日、明け方、「鬼武者」の校正を完了。締切にはまだ間があるので、しばらくは持っている。何か思いついたら、追加したい。だが、引っかかっているところは何もない。オープニングからエンディングまで、盛り上がりもあるし、スピード感もある。主人公のキャラクターが輝いている。文覚、西行といった脇役がうまく機能している。影の主役、四の宮後白河法皇もいい。ということで、ほぼ完璧の作品だと考えている。
本日から、「ヤマトタケル」の校正に取り組む。夕方だけで第1章完了。このオープニングは不思議な感触だ。主人公が登場しない。第@巻も第A巻も、冒頭に主人公が登場した。主人公の視点で物語を展開した。ゲラを終えたばかりの「鬼武者」は、最初に出てくるのは文覚で、しばらくは文覚の視点で話が進む。しかし主人公はすぐに登場する。冒頭に主人公が登場しない作品というのは、珍しいのではないだろうか。まあ「推古天皇」も「持統天皇」も、かなり長いプロローグはあった。ヒロインの生まれる前の物語が必要だったからだ。今回は、主人公はすでに生まれているはずだが、あえて2章の半ばまで登場させなかった。主人公のキャラクターがやや特異なので、ファーストショットが大切だからだ。そこがうまく行っているかは、これから確認する。

07/21
「ヤマトタケル」の校正、半ばまで進んでいる。明後日の夕方に担当編集者がとりにくる。そこが締切だが、明日の深夜には完成させておきたい。まだ今日は夕方で、これから深夜から明け方にかけて作業に取り組めるから、7章の半ばまで進めるだろう。さらにあと丸一日あれば、充分に達成可能だ。この作業が終われば、仕事は「ミステリー」だけになる。一昨日だったか、ミステリーの決め手となる歌の歌詞を考えた。わりといいかげんな歌詞だが、作品のどこかに挿入したい。
ここまで校正した感じでは、やはり2章の始めのあたりが少々かったるい。主人公が登場したあとも、大きな動きが伴わず、理屈が先行している。しかし主人公が旅に出てからは、物語が動いていくので、まあ、面白く読んでいける。@、A巻にもひけをとらない出来に仕上がっているし、後半の盛り上がりは、3つの巻の中では最高だろうと思う。そのことをこれから確認したい。

07/22
「ヤマトタケル」の校正、完了。エンディングは最高に盛り上がっている。ものすごいスピード感だ。少し展開が早すぎるかもしれないが、この次に第C巻があるわけだから、これくらいの感じで締めた方がいい。C巻を書くのは少し先になるだろう。明日、担当編集者と打ち合わせをするが、当面は、まだほとんど進んでいない「ミステリー」を仕上げないといけない。明日は担当者と飲むので、24日からスタートする。
それよりも、パソコンの初期化だ。初期化に必要なリカバリー・ディスクなどは準備した。一太郎と百科事典、デジカメのソフトも見つかったが、歴史事典がどうしても見あたらない。あまり使っていなかったので、なくても不便ではないが、どこに消えたのか気になる。ものがなくなることはよくあることで、どうでもいい時に突然出てくる。歴史事典は紙の本はもっているので、大きな問題ではない。
大昔に最初に使い始めたウィンドウズ3.1のパソコンは、二度、初期化した。二度目の時は、ウィンドウズ95にヴァージョンアップしていたので、手間がかかった。今回は、買った時の状態でそのまま使っている。途中で一太郎が使えなくなったりもしたのだが、初期化するとまた使えるようになるのかどうか。ワードに慣れてしまったので、もはや使うことはないかもしれない。何か不測の事態が生じるような気がして少し怖い。
午後8時からスタートして、11時半にほぼ完了。まだ細かいレイアウトや設定は、完全には復旧していないが、とりあえず必要なキーボードのカスタマイズと、漢字変換のユーザー辞書は使えるようになった。これでオーケー。結局、歴史事典のCDは発見できず。紙の事典はあるから、まあ、不便はない。ふだんは小学館の事典しか使わないし、歴史事典は反応が遅くてイライラするので、あまり使っていなかった。あとデジカメのソフトの調整が必要だが、当面はカメラから入力することはないので問題ない。やれやれ。これでミステリーに取り組める。

07/24
昨日、学研の担当者に「ヤマトタケル」のゲラ渡す。これですべての作業が終わった。昨年の9月に書き始めた「新アスカ伝説」シリーズが、これでひとまず終わったことになる。むろん、4巻、5巻と書き継いでいきたいと考えてはいるが、出版社に迷惑はかけられないので、1〜3巻の売れ行きを見て、次を書くかどうかを決める。これは書き始めた時点で設定していたスケジュールだ。
本屋で見かけた限りでは、いい場所に平積みで置いてもらっている。爆発的に売れているというわけではないが、2巻、3巻と並んでいけば、読者に目を止めてもらえる可能性はある。3巻の「ヤマトタケル」の反響が、判断の決めてになる。これが売れずに、平積みの台から撤去されると、新書群の中に埋もれてしまう。とくに学研のノベルズは、戦記シュミレーションが多いので、古代ロマンがその中に混じっていても、目を止める読者は少ないだろう。ということで、9月の末くらいで、それほど売れていないということになると、撤退を考えるしかないということになる。まあ、商売なのだから、現実に対処しないといけない。
ということで、今年の年末までスケジュールは未定である。とりあえず、いま書いている「400円ミステリー」を8月末までに仕上げれば、9月から先は、空白ということになる。プロの作家だから、遊んでいるわけにもいかない。プランとしては、いくつか、やらねばならないテーマがある。
 @維摩経を口語で語る「語り下ろし維摩経」  A埴谷雄高についての評伝「評伝埴谷雄高」  B時間論「時間をめぐる不思議な旅」  C青春論「22歳でオトナになる」  というようなプランがあるのだが、どれも出版社と正式に約束したものではないので、昨今の出版事情では、本が出せるかどうかを確認してからでないと書き始めるわけにはいかない。しかし、正式に約束してしまうと、負担になるので、少し放っておこう。それぞれ、プランどおりの本が書けるか、資料を眺めたり、文体のサンプルを書いたりして、書けそうかどうか、試してみるのもいい。すぐできるのは時間論だが、「宇宙の始まりの小さな卵」の売れ行きがどうなっているか。もう少し売れそうな企画が出てこないか、自分でも少し考えてみた方がいいだろう。
昨日は学研の担当者と飲むつもりでいた。いつも本の見本が届いた時は、本の完成を祝って担当者の三宿で飲むことにしている。昨日も「新アスカ伝説A/活目王/イクメノオオキミ」の見本が届いた。しかし「ヤマトタケル」の校正を渡す日でもあったので、担当者が、これから会社に帰ってゲラ返しの作業をする、ということで、飲まずに帰っていった。まあ、お盆休みの入る8月の作業はオシ気味なのだ。で、昨日は飲まなかったので、早速、「400円ミステリー」の作業を始めた。
これまで書いたところを整理しただけだが、手応えは感じている。単なる謎解きのミステリーではなく、人間を描く純文学の要素も入れないと、岳氏や笹倉氏と競作する意味がない。

07/25
初期化したパソコンは、ようやく、ほとんど負担のないものになった。文書などは保存できたし、ワープロ辞書やキーボードの配列なども、うまく移行できたのだが、パソコンを使い始めた当初に、自分の使いやすいように設定を随時変更した部分は、そんな変更をしたことも忘れているから、初期化すると、すべてばデフォルトの状態に戻ってしまう。例えば、タッチパッドの左上の角に触ると、画面がスクロールするはずが、画面がいきなり最大化したり、触れ方によっては、いきなりソフトが終了してしまう。何かおかしい、と感じても、どうしていいかわからない。ヘルプをいちいち参照して、ようやく何を設定し直せばいいかがわかる。そういうことの繰り返しだ。
ミステリーは順調に進んでいる。だが、明日は文芸家協会の仕事があり、明後日は佐賀で講演だ。日帰りで佐賀へ行く。台風がいま九州を通過している。その次ぎにもう一つ、台風が迫っている。行き帰りの飛行機がちゃんと飛ぶか、心配だ。同じ日に、狂言の和泉元弥さんが、仕事のダブルブッキングで、ヘリコプターをチャーターして移動するらしいが、台風が来ると予定が狂うだろう。わたしはダブルブッキングしたわけではないが、日帰りの講演だから、飛行機が飛んでくれないと困る。同じ日に、孫がスペインから帰ってくる。これも、飛行機がちゃんと飛んでほしい。
孫が来ると、生活のペースが狂うだろう。どうなることやら。孫が帰るまでは何もできないかもしれない。次男が就職して会社の独身寮に入ってから、丸二年になる。妻と二人きりで、かなり広い家を自由に使えるという生活に慣れてしまっている。たまに次男が帰ってきて、わたしの背後でデスクトップのパソコンを触ったりしていると、ペースが狂ってしまう。寡黙な次男だけでも、調子が狂うくらいだから、饒舌な長男と、スペイン人の嫁さんと、まだ言葉を話さない赤ん坊が来ると、どういうことになるのか。おまけに犬はオムツをつけていて、自力では立ち上がれない。妻は準備の段階で、ストレスのために急性難聴と胃潰瘍でダウンしてしまった。孫と再会するのが嬉しくないわけではないが、ほとんど災難のような感じがする。

07/27
日帰りで佐賀での講演。この日、スペインの孫が到着する。疲れ切って羽田から家に帰り着くと、息子夫婦に孫、それに次男も帰ってきているので、大変な賑わいだ。ふだん老夫婦だけの生活をしているわれわれにとっては、少しショックがある。これでは当分、仕事などという雰囲気ではない。すでに「ヤマトタケル」のゲラは編集者に渡してあるし、「鬼武者」も直しは終わっている。「400ミステリー」もまだ時間の余裕はあるから、しばらくは成り行きに身を任せるしかないだろう。

孫の到着で、「三宿の孫」を書こうと思ったが、そんなヒマもない。この続きは8月のノートに書こう。


8月のノート

ホームページに戻る