「マルクスの謎」創作ノート5

2008年8月

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08/01
孫が4人いる。スペイン娘3人と日本男児1人。日本男児は寡黙で良識がある。スペイン娘は野性そのものである。スペイン人は子供にしつけをしない。しかもわが長男は、日本人にしては勝手気ままの人間であるので、その遺伝子がスペイン人の遺伝子と合体しているので、わが孫娘3人も、日本人にとってはエーリアンのごとき存在である。しかし本日は全員で渋谷の子供の城に行ってくれた。スペイン娘の上の2人はビジターとして幼稚園に参加している。下の子と日本男児も子供の城で遊んだようだ。その後、全員で渋谷の街を散歩して、妻が迎えに行ったのは日が暮れてから。その間、わたしはちゃんと仕事ができた。

08/02
仕事場に移動。うちの車には6人しか乗れないので妻の運転でスペインの家族。次男の嫁さんの運転で、日本男児とわたしがリアシートに乗る。嫁はけっこう運転がうまいので安心。仕事場についても喧騒が続く。四日市の労働者、次男も参加して夕食。この仕事場では、子供たちもまじえて夏をすごした。夫婦の息子2人。それが嫁さん2人に孫4人が加わった。人間の数が増殖した。すごいことだ。この仕事場も定員いっぱいである。車が3台ある。

08/03
妻と買い物に出かける。スペインの一家はプールに出かけた。何十年か前、息子2人をつれて毎日行ったプールだ。次男一家だけだと家の中がものすごく静かだ。その後、妻とスペイン一家が買い物に出かけ、次男一家は昼寝。こちには1人きりになったのでひたすら仕事。「マルクスの謎」、ものすごい勢いで書いている。このペースで行けば月内には仕上がるだろう。夜は花火。三ヶ日の手筒花火は豪壮なものだが、これは土曜日。土地の若者が手筒花火をかかえて火の粉を浴び、最後にドカンと手筒の下の方が爆発する仕掛けは見ているだけで楽しいが、火の粉が飛ぶし爆風もあって、赤ん坊つれには推奨できない。翌日の日曜日の打ち上げ花火を楽しむことにする。仕事場からでも打ち上げ花火は見えるのだが、猪鼻湖の水上花火というのが見せ場で、これは湖岸に出ないと見えない。老夫婦だけだと仕事場から見るだけですましていたのだが、今回は全員で湖岸まで出てみた。水上花火、なかなかのものであった。夜中、子供たちが寝てしまったから、1人でウイスキーを飲みながら、しばし心を落ち着ける。著作権の仕事などをしていても、自分の仕事のペースが乱れることはないのだが、孫4人といると、さすがに激しく動揺している自分を感じる。これではいけない。明日からはしばし静寂が戻るはずだが、とりあえずいまの自分を見つめて、次の仕事につなげたいと思う。
いま書いている『マルクスの謎』は勢いが出ているので、ゴールまで一気に行ける。その次の『アトムへの旅』も大丈夫だ。『60歳からの哲学』は思いつきで提案しただけでまだ本気にはなっていない。やめてもいい。早くドストエフスキー論に取り組みたいという気持がある。これは4冊書く必要があると自分では思っている。しかし1冊目を書いた手応えと売れ行きを見て次に進む。売れないものを書くほどの情熱はないし、版元も同感だろうと思う。儲ける必要はない。版元に迷惑をかけない程度に売れたら次に進めるということだ。児童文学も同様だが、こちらは文庫に収録されていればロングセラーも期待できるので、版元のゴーサインが出れば次に進めるだろう。この二つの企画は、自分がやりたいことであるが、自分のやりたいことはあまり売れないということが長く続いてきたので、こちらも懐疑的になっている。しかしここ数年に限っていえば、書き下ろしの作品は必ず増刷されているので、少なくとも版元の期待以上には売れているはずだ。小説家というのは単なるフリーターではない。本来は自費出版でもすべき自分だけの快楽を、何とか出版社に肩代わりさせようという、一種の詐欺師であると自認している。しかしそれなりの経験は積んできたし、若い編集者に迷惑はかけたくないので、自分でも売れるための戦略は立てている。で、来年以降の仕事についても、戦略を立てないといけない。シリーズの企画を2つ立てて、それだけで仕事は埋まってしまいそうなのだが、それでは発展性がない。もう一本、必ず売れるという企画を立てたい。

08/04
まず次男一家が出発。次男はサラリーマンなので本日も出勤である。ただ研究職で実験用の機械の予約を午後3時に入れているとのことで、3時までに出勤してスタンバイしていればいい。長男一家も本日から次男のところに行くのだが、3人娘が朝起きて車に乗りこむまでに時間がかかることが予想されたので、次男だけ先に帰るようにわたしが命じた。日本のサラリーマンは仕事優先で行動しないといけない。次男一家が出発してから、長男のところの3人娘に軽い食事を与え、それから出発。長男は国際免許をもっているが、道案内に妻も同行する。ということで、こちらは1人で仕事場に残った。これで仕事がはかどる。夕方、電車で四日市に戻ってきた妻を、鷲津の駅まで迎えに行く。うちの車は四日市に移動したので、次男の車が三ヶ日に残されている。いまは次男の車だが、もとはわたしの車だ。以前にはこの車を運転したことがあるし、今回、次男の嫁さんの運転で三ヶ日に来たのもこの車だ。しかし自分でハンドルを握るのは久しぶりで、そもそも運転するのが久しぶりだから、少し緊張した。運転って、どうするんだったか、と考えたりした。わたしはブレーキを左足で踏む。昔、作家になる前は、自動車メーカーの販売店向け機関誌の編集長をしていた。そのころは、ブレーキを左足で踏むべきだという主張が広まっていた。オートマチックを普及させるための一つの戦略だったのかもしれない。これがもっと広まっていれば、踏み間違いでブレーキのかわりにアクセルを踏んでしまうという事故は防げるはずなのだが。しかし久しぶりの運転だと、左足の微妙な感覚がすぐには甦らない。5分ほど運転してようやく感覚が戻ってきた。鷲津駅前で妻を待った。妻は車のそばに近寄ると、運転席側に来て、運転を代われと命令する。拒否する理由はない。運転はとても疲れる。仕事場に戻っても2人きり。静かだ。

08/05
妻の運転で三宿に戻る。途中で妻の慰労のつめに御殿場のアウトレットに寄る。妻と別れて1人で散歩していると、豪雨。このアウトレットは、雨を想定していない。店の前のアーケードでは、次のゾーンに進めないのだ。ギャップとかコーチのあるゾーンで豪雨に閉じこめられ、思わずギャップで買い物をしてしまった。さすがにコーチでは物を買う気分にはならなかったが。ハーブショップでも余計なものを買ってしまった。雨のせいだ。三宿に戻って、夜中も仕事。だが集中力が出ない。とにかく明け方まで起きていて、いつものパターンに戻す。

08/06
青山のNHK文化センターで講演。これはラジオでも放送するというので、まじめなことを話したつもりだが、わたしの講演はすぐに脱線する。それでも、聴衆はおもしろいと言ってくれたし、本をたくさん買っていただいたのでありがたかった。本日から3連戦。明日は宇都宮で公演だ。

08/07
宇都宮で講演。毎年この時期に講演をしている専門学校での講演。小説を書きたいという意欲をもった人々が若者の中にもたくさんいるということが確認できた。3連戦の真ん中だが、講演2つが終わった。明日は会議だからただ出るだけでもいい。ただ朝が早い。起きて車に乗りこむで文化庁にたどりつけばそれで3連戦は終わる。

08/08
文化庁小委員会。いつもは10時か10時半からなのだが、今回は9時から。ということは8時半に起きないといけない。朝の6時に就寝するわたしとしてはつらいタイムスケジュールだが、機能も午前中に起きて宇都宮に行ったので、早めに寝たから、睡眠はたりている。3連戦の最後でやや疲れ気味だが、会議に出席すればいいだけなので、定刻に会議室に到着するだけで義務は果たせる。とはいえ、本日は著作権延長に反対する委員が呼んだ経済学者3人のヒアリングなので、必要な反論はしないといけない。権利者代表は他にもいるので、発言のタイミングを見計らいながら、やや遅めに発言を求めた。何度も発言するのはめんどうなので、やや長目の演説をして、それで本日は仕事はおしまい。必要なことは指摘できたと思う。
午前中の会議はいつも妻が車で送ってくれる。帰りは地下鉄。虎ノ門から銀座線、表参道で半蔵門線に乗り換える。急行が来たので三軒茶屋で下りる。お菓子の太子堂でビールを買う。お菓子やだがビールも売っているのだ。自宅にはストックがあるのだが、糖質0の発泡酒で、長男がまずいと言ったので、本物のビールを買った。息子へのサービス。明日は息子たちが(孫たちも)東京に来る。四日市の次男宅に逗留している長男一家は、スペイン村に行ったり、大阪から来た義父母に会ったり、スーパーで買い物をしたりしたようだが、きっちりとスケジュールを果たして、明日にはこちらに来ることになっている。

08/09
孫たちが四日市から三宿に来る。車には乗り切らないので、次男の嫁さんと孫は新幹線。まず東京駅に迎えに行く。ホームまで行って、ベビーカーと荷物をホームまで運び、ベビーカーに孫を乗せる。ホームのエレベーターで新幹線の改札口へ。ここから迷路のごとき経路をたどって南口地下改札口に出る。まさに東京駅は迷路だ。エレベーターの位置がわるく、改札口の前後に数段の段差がある。スロープも造ってあるのだが、とんでもない遠くまで行かないといけない。これでは車椅子の人は実際には使えないだろう。とにかく丸ビル前のエレベーターで地上に出て、妻の待つ車に。自宅に戻り孫と遊ぶ。といっても生後4カ月。抱いてあやすだけだ。よく笑う赤ん坊で、けっこう楽しく遊べる。やがて長男と次男が交替で運転してきた車が到着。スペイン3人娘が喧騒とともに現れる。食事をするだけでもたいへんな騒ぎだが、3人娘の長女が風呂に入っている時、他の2人がごく静かに遊んでいることに気づく。元凶は長女だったのだ。つねに躁状態で騒ぎ、人を仕切る。これが長男そっくり。遺伝子は恐ろしい。

08/10
日曜日。長男は家族をつれて、学生時代の友人と会いに行った。次男は自由が丘で買い物。ということで、のんびり1人で散歩。いつもの北沢川緑道から世田谷代田へ。跨線橋の向こうに隠れ家のようなカフェがある。前から気になっていたのだが、店の名前は知らなかった。今日はじっくりと看板を見たので店の名がわかった。ヴァン・デュ・シュッド。南の風。この程度のフランス語はわかる。涼しくなったら妻と散歩したい。
夜、夕食のあとで、妻の運転で、次男を東京駅まで送っていく。日本のサラリーマンは休暇が少ない。長男は一年の大半が休みみたいなものだ。まあ、長男は芸術家だから、腕一本で勝負しているわけだが。しかしスペイン娘3人の喧騒の中にいると、そこから逃れていく次男がうらやましい。こちらも書斎に閉じこもって仕事をしているのだが、時々、スペイン長女が乗りこんでくる。とにかく、仕事はしている。

08/11
月曜日。聖教新聞のインタビュー。いまの社会について。子育てのことなど。長男一家は品川の水族館へ行き、イルカにさわるなど楽しんだようだ。次男のところの孫はずっと自宅にいる。意図的に寝返りが打てるようになった。わたしを見ると笑う。自分の顔に似ていると自覚しているのではないか。

08/12
東京新聞のインタビュー。出たばかりの『西行』について。写真入りで紹介してもらえるようで、こういう取材はありがたい。作家としてのわたしは、つねにいま書いているものしか頭にないので、西行は遠い昔に書いた作品という感じがするのだが、自分にとって大切な作品なので、心をこめて語ったつもりだ。が、来年書くつもりのドストエフスキーの話をしていた時の方が、話に力が入った感じがする。ところで寝返りを打てるようになった孫だが、寝かすとすぐ寝返りを打ち、腹ばいになっているうちに疲れて泣き声をあげる。そこで散歩に出たついでに、卓上メリーを買ってきた。衝動買いである。4000円。これでしばらく仰向けのままでいるだろう。

08/13
女優の姉が三軒茶屋でご馳走してくれる。ありがたい。スペイン3人娘のにぎやかなこと。3人とも顔立ちが違うが、それぞれに個性的な美人になりそう。日本の孫は嫁さん方の親戚のところに行って不在。寂しい。

08/14
「マルクスの謎」は若い読者のために、簡単な解説や歴史についても触れている。これはけっこうめんどうな作業だが、ようやくわが青春時代の歴史にまで到達した。その後は、個人的な体験もまじえて語れるので勢いが出る。妻が疲れ気味だが、本日はご近所の奥さんが、食事の差し入れ。すごいご馳走で、ありがたかった。日本の孫も戻ってきた。可愛い。

08/15
スペイン3人娘はサンリオ・ピュロランドへ行って、本日は大人だけで静かに夕食。といっても日本の孫はいる。ようやく自在に寝返りを打てるようになったが、腹ばいになると動きがとれなくなって人を呼ぶ。メリーはつかのまの効果しかない。わたしは早食いなので、じいさんが一番に食べ終えて孫を抱いてやる。抱くと喜ぶ。わたしの顔を見ると喜ぶような気がする。全然話は変わるが、オリンピックをやっている。この創作ノートでは、創作の話と孫の話しか出てこないが、ちゃんとテレビは見ている。ここまでで最大の感動は女子サッカーのオランダ戦と本日の中国戦だ。急に強くなった。

08/16
土曜日。サラリーマンの次男は徹夜作業のあと、朝一番の新幹線で東京に来た。日本のサラリーマンは過酷だ。それでも次週は完全に休暇がとれたという。一週間休みがとれるというのは、まだ恵まれた職場だといえるだろう。次男は自宅に着くなり仮眠。長男一家は三軒茶屋で買い物をしたあと、九段の科学博物館へ行き、それから下北沢の阿波踊りを見にいった。次男も下北沢に合流。それでも夜には全員が集合。わが夫婦と、長男夫婦、次男夫婦、スペイン3人娘、日本の孫。10人も人間がいる。わたしと妻の2人で出発した家族だ。

08/17
日曜日。長男、次男は別々にどこかへ出かけていった。こちらは仕事に集中。本日は外食の予定だったが、雨が降ってきたので急に自宅で夕食ということになって、妻の料理を手伝う。3人娘の末の子は離乳食だし、日本男児はまだオッパイだけだから問題ないが、上の2人の娘たちは、かなり好き嫌いが激しく、次男夫婦は食欲旺盛で、彼らに食事を与えるのは大事業である。

08/18
月曜日。だが今週は公用も雑文もないので、曜日というものは関係ない。長男も次男も、休暇をとって東京にいる。長男がケータイをなくす(わたしのケータイだ)という事態が生じたが、待ち合わせの次男でそのケータイにかけると、お店の人が出てきて、落とし物は確保していると返事があった。というようなハプニングもあったが、今日も一日が終わった。息子たちとビールを飲むのは楽しいようでもあるが、長男はピアニストで、次男は科学技術者だから、とくに話が合うというわけではない。そのようにわたしが仕向けたのかもしれない。自分の子どもが作家になって喜んでいる作家がいるけれども、わたしはそういうのは好きではない。家族と文学の話などしたくはない。まあ、女優の姉と芝居の話はするし、長男の音楽の話をすることもある。次男の仕事についても質問することはある。しかしそれは素人としての問いや感想や意見であって、まじめな議論ではない。わたしは文学は、議論するものではないと考えている。黙々と書く。何かを感じてくれる人が必ずいる。それだけのことだ。わたしは大学で小説の書き方を教えてきたが、それは理屈を授けたわけではない。単なる初歩的なノウハウを伝えただけだ。それ以上の議論はしない。幸い、大学のレベルでは、内容の優劣で点数をつける必要はない。とにかく何が書いてあるからわかるという基準で、読めるものはA、読みにくいものはB、読めないものはCと評価すればいい。何度か出席した形跡はあるが作品が提出されていないものはDということになる。それでも単位は与える。跳び箱がとべない子どもがいるように、小説が書けない大人はいる。正直な人には、小説は書けない。だから不合格にはしない。小説が書けないからというって、人生を生きていけないわけではない。むしろ小説を書くと、人生につまずくことが多い。小説とは無縁の人々こそ、健全で正当な人々ということができるだろう。女子サッカー、惜しかった。アメリカの得点はすべて偶発的なものだ。日本の2点は意図的なもので、実力が劣ったわけではない。だが、個人技のすごいプレーヤーが何人かいた。日本にも沢や荒川のような個性的なプレーヤーはいるのだが、若手に個性が必要だ。書いたままになっていた『堺屋太一伝』、ようやく堺屋先生が読んでくれたようだ。編集部がご意見を聞いて、修正の作業に入る。全然ダメということではないようなので、出版に向けて前向きに進み始めたようだ。

08/19
箱根へ行く。家族旅行だが、大人6人、子ども4人の大旅行だ。わたしは次男の車に乗せてもらう。風呂は次男と孫といっしょ。孫と裸のつきあいをしたのは初めて。日本男児の孫はよいものだ。夕食はバイキングだが、スペイン3人娘がいっしょだとたいへんに疲れる。そのせいか少し飲み過ぎた。

08/20
箱根の朝。朝食の時、咳が止まらなくなった。ストレスではないかと思う。妻の勧めで先に帰ることにしてホテルを一歩出たら咳がぴたりと止まった。ホテルでバスの時間は聞いていたのだが、一刻も早く一人きりになりたいと思ってホテルを出たのが正解だった。バスの案内所で切符を求めると、30分前のバスがいまなら間に合うという。一つ先のバス停に行かないといけないので、ホテルの人は案内してくれなかったのだ。それで少し走ったのだが、それでも咳は出ないので、やはりストレスが原因だろう。バスは時刻表より遅れ気味で来たので走る必要はなかったのだが。すいたバスに乗りこむと、安楽が訪れた。前に教員研修で講演した時に、このバスに乗ったことがある。池尻大橋で停車するので、そのまま自宅に帰れる。自宅で仕事をして、ソフトボールの3位決定戦を見ているうちに子どもたちが到着。また咳が出るようになった。

08/21
いつものようにお昼ごろ起きる。長男のスペイン娘は幼稚園に行っている。妻の姿もなく、自分一人。と思ったら次男が孫を抱いて二階から下りてきた。この日本男児の孫はわたしの顔を見ると必ず笑う。自分の顔を見て必ず笑ってくれる人間が一人でもいるというのは幸せなことだ。などと星の王子さまのようなことを言っているが、とにかく起きた瞬間に心が和むというのはありがたい。実は起きた時のベッドの中で、「マルクス」の次の展開のことを考えてアイデアがひらめいた直後だった。次男たちは大学時代の友人のところへ。こちらは仕事。夜はまた姉が三軒茶屋でご馳走してくれる。前回の時は次男たちがいなかったので、もう一度、同じ店で食事ということにした。前回とは違うメニューが用意されていて、こちらの方がよかった。三軒茶屋だけの特別メニューだそうだ。帰ってテレビをつけると、ソフトボールの表彰式をやっていた。よく見るとメダルが金色に光っていた。まさかと思ったが本当にアメリカに勝って優勝していた。これはすごい。女子サッカーは銅メダルをのがしたが、この4位もすごい。女子はよくがんばっている。

08/22
昨日の夕方の激しい雨のあとから気温が急に下がった。これはもう秋か。本日も朝から肌寒いほどだ。あの亜熱帯のような夏はどころ行ったのか。これで秋になるとしたらありがたいが、それほど甘いものでもないだろう。4年ほど前、次男の結婚式に長男一家が参加した時も暑い夏だった。結婚式は軽井沢だったから涼しかったが、東京は暑かった。ところが長男一家を成田に送っていき、駐車場に向かうと、気温が急に下がっているのがわかった。そしてその後はすごしやすい日々が続いた。孫が去って秋が来る。そういうめぐりあわせなのか。長男一家は明日、帰国する。事故が起こったばかりのマドリッドへ向かう。「マルクスの謎」は順調に3章に入った。もはや後半である。3章のあと、短い終章をつけておしまいという段取りを考えている。が、堺屋さんに頼まれた短い仕事があるので、どこかで中断しないといけない。まあ、来月の上旬には草稿が仕上がるだろう。

08/23
土曜日。朝の6時すぎに2台の車で出発。成田へ向かう。今日は長男一家が帰る日。荷物が山のようにある。スペイン3人娘は帰っていった。まだ次男夫婦と孫一名が今夜は泊まっている。この生まれたばかりの孫はわたしの顔を見ると笑う。これがいなくなると寂しくなる。

08/24
日曜日。次男夫婦と日本男児の孫が四日市に帰っていった。長男とスペイン3人娘がいたのは3週間だが、その前から次男の嫁さんと日本の孫がいたので、誰もいなくなったのはほぼ一ヶ月ぶりだ。静かな日常が戻った。孫がいた間も、書斎に避難して仕事は続けていたが、さらに集中できる状態になった。雨の中を散歩。ウイスキーがなくなったので三軒茶屋に回ると、そぼふる雨の中で、しょぼいサンバの行列が行進していた。

08/25
ウィークデーが始まったが今週は文化庁の小委員会が一件だけ。まだ自分の仕事に集中できる。が、月末締切の小さな仕事があるので、「マルクス」とは並行して作業することになる。第3章の半分くらいのところまで来ている。3章の次は短い終章をつけておしまいなので、ゴールがそろそろ見えてきたというところだ。小説と違って、具体的なイメージに変換する作業は必要ないし、エンディングに向かうにつれてトーンを上げていく必要もない。用意した論旨と淡々と書くだけだ。ただ終章には何らかの結論を用意しなければならないが、それはそこまで書いてから考えればいいことだ。

08/26
いまちょうど「マルクスの謎」の山場にさしかかっている。こういう新書に山場というものはないのだが、わたしが書く本は専門家が知識を切り売りするようなものではなく、素人が山勘でものを言うスリルで成立している。マルクスの説明ではなく、個性的な独り合点がドラマになるようなものを考えている。そういう意味でのスリルがある部分を書いているが、前から堺屋太一さんに頼まれていた「東京タワー」の本の締切が迫っているので、とりあえず並行して作業を進めることになる。

08/27
文化庁小委員会。本日の参考人は味方のようなので、こちらは何も発言しなかった。風邪が長びいていて、発言すると咳き込みそうな予感もあったのだが、ずっと黙っているとストレスがたまって疲れる。自宅に帰って仕事をしようと思ったが集中力が不足している。少し蒸し暑い感じがする。

08/28
雨のあいまをついて散歩。ものすごい湿気で、体調がベストではない。夏の疲れが出てきたか。「東京タワー」の小説を書いている。

08/29
昨夜は雷が鳴り通しだった。雨もすごかったが、八王子では土砂崩れで京王高尾線が普通になった。わたしはかつて、高尾の手前のめじろ台というところに8年ほど住んでいた。その時に縁で、いまでもめじろ台男声合唱団というものに加わっていて、月に一度は八王子に行く。練習場は少し手前の北野だが、それからめじろ台まで行って飲むこともある。だから高尾線の土砂崩れは他人事とは思えない。今夜も、雷が鳴りっぱなしだ。これはまるで、SFに出てくる酸性雨のスコールのような感じだ。確かに温暖化の影響が突然に出てきた感じで、この二日間の豪雨は、歴史的なエポックになるのではという気さえする。小説は半分くらいのところまで来た。いい感じだ。

08/30
土曜日。姉の女優、三田和代さんを自宅に招いて食事をともにする。スペイン3人娘がいた間、姉は二階、三軒茶屋でご馳走してくれた。わが妻の負担を軽減するための思いやりで、これはありがたかった。そのスペイン3人娘が去って一週間、とにかく嵐が無事に去ったことを喜ぶ意味合いで、姉と、友人のキミちゃん(『ウェスカの結婚式』にも登場)を招いて、食事。大人だけの会食は楽しい。

08/31
日曜日。堺屋太一から頼まれた東京タワーに関するアンソロジーのための小説、8月末が締切ということで、がんばって書いている。ゴール直前まで来た。何人かの作家が競作するのだが、純文学の作家はわたしだけなので、純文学ふうに書くことにした。つまり、あまり面白くない。こういうところでふざけるのもよくないので、淡々とした文章で、最後に少し盛り上がる、という感じにしたい。
今月もこれでおしまい。インデックスページにも表示したが、メンデルスゾーン協会のサロン例会というのを9月にやるので、興味のある方は参加していただきたい。もう一度、インデックスページに戻って、メンデルスゾーン協会へのリンクに進んでいただきたい。


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