「カラマーゾフ」創作ノート21

2014年9月

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09/01/月
9月はこのタイトルのままでノートを続ける。いま控えゲラの3章を読んでいるところ。フォマ・キリーロヴィッチという人物が長く語っている。この作品にはキリストの十二使徒になぞらえた十二人の人物たちが登場するのだが、フォマはギリシャ語聖書の「トマス」にあたる。わたしはすでに『地に火を放つ者 トマスによる第五福音書』という作品を20年以上前に出しているのだが、その時は主人公になっていたトマスだ。今回はいちばん目立たない12人のうちの1人という脇役にすぎないのだが、出番はしっかりと与えられている。登場人物が多い。それがこの作品のポイントだろう。しかし1人ずつ登場して、ちゃんと出番は与えられているので、混乱は生じない。ゲラを3章の途中まで読んだ段階で、そのことを確認した。ここまで一気に読める。もう全体の20%くらいのところまで来ているので、ここまで一気に読めれば作品は成功したといっていいだろう。4章くらいのところに少しかったるいところがあるのだが、そこは目をつぶろう。原典との橋渡しの部分なので、少しつながりが滞っている気もするのだが、続篇という条件下では、原典とつなげるというのは必須の段取りで、自分ではうまくいったと書いている時には感じた。ゲラはまだそこまで読んでいないので、文字校正をしながらもう1度確認したい。さて、本日は軽井沢から帰ってきた。何だか疲れていて、高速道路でナビを間違えてしまった。中央環状の方に入ってしまったので、新宿から下の道を通って帰ったので少し時間が余分にかかった。運転している妻には申し訳ないことをした。とにかく無事に帰り着いた。東京は一日中雨だったようだ。軽井沢は小雨で、それでも人通りのある旧軽銀座で散歩をした。久しぶりなので、新しい店ができているのがおもしろかった。

09/02/火
4章を読み終える。懸念していたつながりの部分は、今回読み返した印象ではうまくいっている。前篇とのつながりや次の5章に長男ドミトリーが登場する前置きとして、グリューシェニカ、カテリーナといった女性たちのキャラクターをここで示しておかないといけない。全体として必要な部分だし、つながりもうまくいっているので、何の問題もない。唯一の懸念がクリアされたので、この作品はもう大丈夫だという気がした。

09/03/水
旧知の編集者とマンション1階のバーで飲む。2軒めに、すぐ近くのスペインふうのバルに行った。淡路町から地下鉄に乗る時にいつも前を通る店。初めて入ったのだが、いい店だった。

09/04/木
5章。ここには長男ドミトリーが登場する。このキャラクターが素晴らしい。ユーモアもあるし、過剰な人格なのでストーリーを引っぱっていってくれる。続いて6章に入る。これが終われば半分というところまで来た。本日も夜は編集者と打ち合わせ。ネットで学生たちの作品を紹介してくれているイーブックジャパンの担当者で、いまはサイトの読者からの応募を受け付けている。学生たちの励みにもなっているのでこの企画は持続させたいと思う。

09/05/金
大学。朝から会議が続く。武蔵野文学賞高校生部門の応募作も届いた。さて、明日は講演なので、体調を調えて臨まないといけない。

09/06/土
東大で講演。残間里江子さんクラブウィルビーの講座。なかなかレベルの高い聴衆で反応がよかった。在原業平と、高子、淑子の姉妹の話をした。美人で高慢な妹と、聡明で野心家の姉という、物語の宝庫のような実在の姉妹の物語は、語っていても楽しい。ついでに菅原道真の話をした。東大はわたしの散歩圏なので、帰りは徒歩。ちょっと暑かったがいい散歩になった。さてカラマーゾフのゲラは8章に入っている。ここで捜査官ザミョートフの出番が終わって、全体の3分の2が終わる。9章になると次男イワンと悪魔のような医者ユーリイ・オブロモヴィッチが登場する。しばらくはこの謎めいた医者でひっぱっていって、10章になると大審問官の話になる。ここが作品の山場だ。全体12章のうち、10章に山場を置くというのは、およその段取りで考えてはいたのだが、設計図もなく、とりあえず話を進めているうちに、すべてがうまくいった。ドストエフスキーの霊の導くままという感じがする。何の苦労もなく次から次へと話ができていった。調子がいい時はこういうものだ。さて、今週もこれで終わった。昨日の大学の会議と、本日の講演が山場だったが、無事に終わった。来週は文藝家協会関係の細かい会議が連日続くことになる。水曜日は大学の学部長会議とペンクラブの会議がつながっているので、武蔵野キャンパスならペンクラブには行けないのだが、学部長会議はテレビ会議なので、有明キャンパスに出てから京葉線で八丁堀に行けば何とかなるかとも考えている。明日と月曜日は休みなので、ゲラの校正を一気に進めたい。

09/07/日
昨夜の夜中はひさしぶりにフットボールを見た。開幕戦だ。またこの季節がやってきた。フットボールは通常は日曜日の昼に行われ、日本時間だと日曜日の午前中に結果がわかるのだが、開幕戦は1試合だけ金曜日にやったようだ。スーパーボウル勝者のシーホークスと、強豪のパッカーズ。シーホークスの圧勝だった。強いなあ、二連覇もあるなと思う。これに対抗できるのは、ブロンコスと49ナーズくらいだろう。とにかく来春のトーナメントに到るまで、各チームの戦力が少しずつわかってくるだろう。ドストエフスキーの仕事が終わっていてよかった。本日は日曜日。日曜は休みだ。休みでない日曜日もあるので、日曜が休めることを喜びたい。休みといってもわたしの場合は休みではない。自分の仕事が集中してできるということだ。朝、妻が実家に帰った。数日は留守なので仕事に集中できるが、夜中に酒を飲んでしまいそうだ。控えゲラを見る作業は9章に入った。全体が12章なので、前半、中盤、後半と分けた場合の最後の部分に突入した。ここは章のタイトルを閉めせば、「言葉を失った兄の登場」「セビーリャの大審問官」「長老は驢馬に乗って旅立つ」「果てのないエピローグ」ということになる。読者は目次を見るだろうから、だいたいの手順がわかるとともに、細かいことはわからないように章のタイトルを設定している。「殉教」とか「集団自決」とか「皇帝暗殺」とか、そんなフレーズが入らないように注意した。「大審問官」の章が最大の山場になる。原典でも「大審問官」の章が山場なのだが、この章を読み飛ばしてしまう読者もいる。わかる人とわからない人。何かを感じる人とまったく何も感じない人がいて、そこで作品の評価も分かれてくるのだが、わたしにとっては、「大審問官」のいない「カラマーゾフ」はありえない。ソ連が作った映画では、大審問官はまったく無視されていた。グリューシェニカが可愛かったので、まあ、許せるのだが、わたしの作品では、大審問官の章が山場になる。わたしの作家としてのピークがここにあるといってもいい。セビーリャの大審問官だ。高校生のころ、「カラマーゾフの兄弟」を最初に読んだ時、すでに小林秀雄や埴谷雄高などの評論を読んでいたから、大審問官が作品の山場だということは知っていた。だから身構えるようにして読んだので、素直な印象というものはない。ただその当時は、それがセビーリャどいうことは、充分に把握していなかった。外国に行ったことがなかったから、大聖堂とか、街の広場とか、そういうもののイメージがなかった。それから50年ほどが経過した。高校生のころには想像もつかなかったことだが、長男がスペイン人と結婚してスペインで暮らすようになり、わたしも孫の顔を見るためにスペインに足を運ぶようになった。セビーリャは何年か前に行ったことがある。街路樹がオレンジで実がなっているのに誰もとらない(まずいらしい)。迷路のような路地が広がっている。大聖堂ももちろん見た。世界で何番目かのサイズのすごいものだ。だが自分が大審問官について書くだろうということは、その数年前には考えていなかった。大審問官がセビーリャの人だということが、よく認識されていなかったのかもしれない。セビーリャといえば、「理髪師」であり「フィガロ」だろうと思っていた。「カラマーゾフ」の続篇を書くということは、大審問官に言及するということであり、原典のその部分が秘めている哲学よりも、より深い考察を提出しなければならないということは、最初から覚悟していた。ここには新約聖書に登場する荒れ野における悪魔の三つの問いが出てくる。悪魔が主人公だといってもいいくらいだ。これをどう書くかがこの作品の意義を決定づける。そこを明日くらいに読むのだろう。うまくいっているか不安だが、最終入力の前にプリントで確認した限りはうまくいっていた。うまくいっていないところもあったが赤字で修正し、それを入力してから入稿したので、このゲラには完全なものが収録されているはずだ。すでにゲラになっているので大幅な直しはできないのだが、たぶん一字一句の修正も必要ないくらいのものに仕上がっているはずだ。ただしタイプミスはあるので注意しないといけない。ところで、セビーリャと書くか、セビージャと書くか、それともセビリアと書くか、最初にある程度は考えた。スペイン語のLLは「リィ」と発音する人と、「ジ」と発音する人がいる。たとえばサッカーの代表チームの不動の正ゴールキーパーのカシージャスは、朝日新聞だけがカシーリャスと表記する。文豪のバルガス=リョサも、バルガス=ジョサという表記もある。これは三田を「ミタ」と読むか「サンダ」と読むかの違いみたいなものか。水上勉さんは「ミナカミツトム」と呼ばれることが多いのだが、「ミズカミベン」と呼ぶ人もいる。「茨城」は「イバラキ」か「イバラギ」か、「秋葉原」は「アキハバラ」か「アキバハラ」か、はたまた「アキバッパラ」か。で、結論として、今回は「セビーリャ」にした。「セビリア」は日本語的だし、「セビージャ」は現地の感じがするのだが日本人にはなじみがない。「セビーリャ」なら「セビリア」のことだとわかるし、少し現地ふうという感じで、まあ、いいだろうかなと思っている。あ、テニスで錦織くんが準決勝で勝ったのだね。これはたいへんなことだろうが、日本女子野球が優勝したのもすごいと思う。

09/08/月
本日は休み。しかし大学は動いている。メールで頻繁にやりとり。ややこしい報告書の件、新しいプロジェクトの仮払いを求める件、事務的な手続きなのだが、こういうものがすべてメールでできるのはありがたい。パソコンを叩いているだけで仕事をしたような気分になる。大審問官の章、大審問官についての対話は終わった。期待どおり一箇所に文言を加えただけでほぼ完璧の内容になっていた。だがこの章はまだ終わらない。リーザの足が治る場面、それから言葉を失っていたイワンが最初の一語をしゃべる場面。すごい山場が続いていく。ここで作品は頂点を迎える。次の2章はクールダウンのようなものだが、11章には女たちが語り合う場面がある。すでに山場は終わっているのだが、ここがだれていると作品が盛り上がらない。たぶんうまくいっていると思うのだが、集中力を高めて読んでいきたい。本日も夜中はフットボール。デンバーブロンコスのマニングは快調だ。しかし後半、ディフェンスにもろさが目立った。これではシーホークスに勝てないぞ。49ナーズはダイジェストの画像を見たが、キャパニックというQBは、まだ何かが不足している。だから応援しているといってもいいのだが。

09/09/火
文藝家協会理事会。終わってから数人で軽く飲む。それから自宅に帰る。昨年の4月に都心に引っ越したので、こういう時に、負担なく自宅に帰ることができる。10章、リーザの足が治って、そのあと、主人公のコーリャと、コーリャが慕い続けていたソーニャとの最後の場面。最初の草稿では話をして別れるだけだったのだが、プリントを修正する段階で、もう少し踏み込みたいと思った。ただし描写はしない。もう少し踏み込んだということを暗示させるような表現にとどめる。ここは全体のストーリーからすればほとんど意味のないところで、全体がエピローグのモードに入っている。描写は必要なく、結果だけを書いていけばいい。

09/10/水
大学。学部長会議。今日はこれだけなので有明キャンパスに行く。自宅からはこちらの方が近い。テレビ会議なのでどちらに出てもいい。武蔵野キャンパスだと学長の隣に席が固定されているのだが、有明だと臨時の末席なので、こちらの方が落ち着く。その後、ペンクラブの言論表現委員会。京葉線で八丁堀で下りて歩く。いつもは茅場町から行くのだが、こちらでも歩く距離はほとんど変わらない感じがした。会議が終わって外に出ると豪雨。いつもは日比谷線で秋葉原まで行って歩くのだが、本日は総武線に乗る。御茶ノ水の駅まで行けば畳んだ傘を出さなくてもいい。本日まで妻がいないのでコンビニで弁当を買って帰る。秋葉原で下りなくてよかった。ニュースを見ると秋葉原の周囲は水没していた。

09/11/木
文藝家協会で知的所有権委員会。終わって軽く飲む。本日はイーブックジャパンの原稿などを書いていたのでカラマーゾフの作業は進まず。

09/12/金
文藝家協会で出版社との協議。これまで対立も多かったのだが、ここに来ていい感じで進んでいる。明日から3連休で旅行に出る予定をしているので細かい仕事を片づける。カラマーゾフのゲラは旅行にもっていくことになるか。あと1章だけなので、電車の中でも読めるだろう。

09/13/土
妻と旅行。新幹線で新潟へ。それから特急いなほで鶴岡へ。ほぼ1年間、単身赴任していた次男が来週、本拠の四日市に帰るというので、息子が1年間をすごした鶴岡というのがどんなところか見に行った。まず次男のアパートへ行く。1DKだがDKが広い。本日はここに泊まる。藤沢周平記念館などを見てから、羽黒山へ。滝、五重塔などを見る。羽黒山という山の名は知っていたが、自分が行くとは思っていなかった。いいところだ。夜は有名なイタリア料理店へ行く。予約のとれない店ということだが、次男がだいぶ前に予約をとっておいてくれた。実際に行ってみると、それだけの価値のある店だ。山形県の特産品をイタリア料理に採り入れた独特のもので、初めて食べるようなものばかりであった。いい気分で酔ってすぐに寝る。

09/14/日
鶴岡の次男の部屋で目覚める。まず酒田で朝ご飯。わざわざ行く価値のある朝ご飯だった。それから山形の芋煮会を見にいく。大群衆におののいて、その群衆を見ただけで引き返す。湯殿山に行く。これは一見の価値のあるところであった。それから湯浜温泉へ行く。日本海の日没を見ながら風呂につかる。食べきれない旅館の料理を何とか食べる。サービスでついていた月山ワインをほとんど1人で1本飲む。

09/15/月
祝日。旅館で目を覚ます。本日は鶴岡の名産品の販売所を回る。昼食の蕎麦屋に寄る時に、次男が一年間通勤していた工場を見る。つぶれた会社を別の会社が買って、看板が変わっていた。次男の勤めている企業がそのつぶれた会社から研究用の機械を一台購入していたのだが、すぐに運べないので、1年間、研究者が派遣されて作業をしていたのだ。その機械もすでに搬送されていて、次男は研究の成果をまとめている段階だとのことで、来週には四日市に戻る。1年生と幼稚園の子どもがいるのに単身赴任していた1年は寂しかっただろうが、夏休みは子どもたちが鶴岡に来ていた。その写真を見せてもらった。とにかく単身赴任が終わってよかった。夕方、来た時と逆向きに東京に帰る。3連休なのでとくにメールなども来ていない。仕事は往路の新幹線で控えゲラのチェックを終えた。そろそろ本ゲラが届くだろうが、校正者のチェックとこちらのチェックをつきあわせるだけで作業は終わるだろう。

09/16/火
大学。鶴岡ではリラックスして、次男にすべてを任せて観光をしたり、酒を飲んだりした。まだその余韻があって、大学に行って会議をするということに体がなじまない。それから今度はペンクラブの理事会。これも発言を求められることがあって、気持がそちらに向いていないのでやや疲れた。まあ、必要なことは話した。自宅に帰ると本ゲラが届けられていた。いよいよ来たかという感じだ。これがフィニッシュとなる作業だ。控えゲラを読んでいるので、こちらの校正は用意してある。あとは校正者のチェックと突き合わせ、エンピツで疑問とされているところを判断すればいいのだが、この疑問というやつが怖い。集中力が必要だ。まだ集中力の焦点が合っていないので明日から作業を始めようと思う。ただ最初のページを見ると、タイトルについての疑問が出ていた。タイトルか。これは重要だ。明日一日、そのことばかり考えていたい。

09/17/水
大学。本日は有明キャンパス。卒業式と入学式。それから河出書房の元社長を偲ぶ会へ回る。青山斎場。この元社長とは長いつきあいで、いろいろな想い出がある。大手の出版社だと社長と知り合いになることはない。文藝家協会の副理事長になって、会議の席で各社の社長と言葉を交わすことはあるが、社長と親しくなったのは河出の社長だけだという気がする。本ゲラ、1章ぶんを見る。控えゲラと付き合わせるだけの作業なのだが、集中力が持続しない。タイトルは「偉大な罪人の生涯 続カラマーゾフの兄弟」とする。「新釈カラマーゾフ」という当初の副題は、「新釈シリーズ」の4作目ということだったのだが、今回は明らかに続篇なので「続」と謳った方がわかりやすいだろう。これまでの新釈3篇は、今回の作品を書くまで準備段階として、3作だけのシリーズと考えたい。

09/18/木
本日は休み。ここぞとゲラをチェック。編集者に来週の水曜日に渡すと約束した。直接会って手渡したいが、そこしか会う時間がとれなかった。この週末は大学の行事があるので、フルで作業できる日がないのだが、本日は一気に6章までのチェックを終えた。一日フルに使える日があればすぐに終わるのだが、そうもいかないので夜中にこつこつやるしかない。鶴岡にいた次男が一泊するということで夕食はいっしょにする。数日前に鶴岡で会ったばかりだ。すでに機械は四日市に運んで残務整理だけということだったが、本日、その整理と、自分のアパートの整理をして、列車で東京に来た。明日は四日市に帰る。ほぼ1年の単身赴任がやって終わる。それでわれわれも鶴岡がどんなところか見に行ったのだが、いいところだった。山の眺めがよく海も近い。農作物が豊富だし、それでいて田舎というわけではなく、活気のある街がある。家族と離れた暮らしは大変だったろうが、過ぎてしまえばいい想い出になったのではないか。

09/19/金
大学。処分の学生に通達。それから新規採用教員の書類選考。あとはゲラを見る。

09/20/土
大学。彼岸会。この1年に家族を亡くされた教職員、学生、同窓会会員などが出席し、講堂でセレモニーのあと精進料理の会席。あとはゲラ。水曜日に渡すと言ってあるのでリミットが迫っている。あとへ行くほど問題が多い気もする。幸いなことに明日の大学院の試験は行かなくていいことになった。日曜をフルに使えるので何とかなるだろう。

09/21/日
本来は大学院の入試があるのだが、文学研究科への応募がなかった。休みになって嬉しいが応募者がないのも心配。もっとも大学院の入試は何回もある。とくに内部進学の学生はぎりぎりにならないと動かない。ゲラ、完了。昨年の9月から書き始めた作品なので、丸一年以上かかったことになる。しかし1年でこんな作品が書けるというのは、すごいことだ。しかも文学部長の仕事と文藝家協会副理事長の仕事をこなしながら1年で書いたというのは、よくがんばったというべきだろう。往復の電車でも書いていたのだから、何かに取り憑かれたいたというしかない。いまはその憑きものは、離れているので、ゲラを見ていても、書き加えるというわけにもいかない。わかりにくいところ、言葉がこなれていないところの微調整を控えゲラに書き込んだのは、本ゲラに書き写し、校正者、編集者がエンピツで修正したのを赤字でなどるだけの作業だ。とにかく終わった。と思ったら、明日から大学の授業が始まる。ちょっとくらい休みたかったが、まあ、3連休に鶴岡に行ったのが、休みみたいなものだろう。往路の新幹線ではまだ控えゲラの最後のところを見ていたのだが。

09/22/月
大学の後期の授業が始まる。すでに連日会議があって大学には通っているのだが、授業が始まると逆にほってする。本日は1限だけ。前期は2限に寄付講座があって大変だったが、後期は1コマだけなので楽だ。5限の教授会までアキ時間なのだが、新聞記者が突然来てインタビュー。突然というか、朝、メールは入っていたのだが、スケジュールの調整が難しいのでまだ返事を出さずにいたら、直接現れて、とりあえずご挨拶を、というので、ただちにインタビューを始めてもらった。明日からけっこう忙しくなるのでいいタイミングだ。団塊の世代についてということなのだが、前期にも別の新聞のインタビューを受けた。いよいよこの世代がほぼ全員、定年退職したので、これからが大変ということだろう。それなのにわたしはまだ通勤している。まあ、体を動かしていた方が健康にはいいだろうと思っている。

09/23/火
本日は祝日だが大学は開講している。火曜日は1限だけの日。明日、ゲラを担当者に渡すのだが、その前にもう1度見たいと思い、すぐに自宅に帰りたかったのだが、何やかやと雑用があり、研究室を出たのは午後1時。2時すぎに自宅に戻り、ただちにゲラを見る。読むわけではない。編集者のエンピツのチェックが入っているところに、わたしが赤字で、何らかの対応をしているか、エンピツ書きでこのままにする理由を書き込むか。とにかくすべてのエンピツ書きに何らかの対応をしているはずなのだが、こういう突き合わせの時は、問題がありそうなところに目がいくので、どうでもいい細かいチェックを見落としているおそれがある。3時間ほど集中したので、全部を見ることができた。やっぱり3箇所ほど見落としがあった。まだあるかもしれないが、とにかく全力を尽くした。近くの中華料理屋で妻と祝杯をあげる。

09/24/水
作品社の担当者にゲラを渡す。2009年に「新釈罪と罰」を担当者を出したので、5年で4冊、このシリーズを出すことになる。すべてが1000枚を超える大作なので、よく書いたと誉めて貰えたが、すぐに次の課題を与えられた。実はこのドストエフスキーのシリーズは、「空海」「日蓮」と続いた仏教三部作の、次の「親鸞」がなかなか難しかったので、つなぎにと思ってこちらから提案したものだった。担当者はそのことを忘れていなかった。で、やっぱり「親鸞」を書かないといけない。以前から準備はしているのだが、まだ充分ではない。もう少し時間がほしいと思う。

09/25/木
大学。木曜は3コマ。後期最初の木曜なので時間が長く感じられる。ほとんど雑談ばかりの授業なのだがかえって疲れる。テキストを使って授業をするようになれば、少しは楽になる。

09/26/金
本日は休み。新宿にマッサージに行っただけ。資料を読んでいる。「続カラマーゾフの兄弟」の原稿を書き終えた直後から資料は読んでいる。いつ書くとも定めずに勉強のために読んでいるものがある。親鸞と紫式部、それに聖徳太子。まだ仕込みの段階だが、聖徳太子の出だしの部分は考えている。

09/27/土
大学で新規採用の先生の面接。学部長としての役目を果たす。あとは資料を読む。紫式部は将来の課題として、とりあえず聖徳太子の法然、親鸞など、仏教について再考する作業を続けたい。ということで、来月からのノートのタイトルは「仏教を深める」といったものにしたい。

09/28/日
本日は休み。来週は週末がすべてつぶれるので、しばらくは休日がない。で、妻と散歩。まず京浜東北線で王子へ。意外に近い。快速なので日暮里なんかにも停まらない。あっという間に王子に着く。飛鳥山公園の無料の乗り物に乗る。これは斜行エレベーターの一種なのだろうが、公園にあるので、近未来的な乗り物に見える。桜の名所らしいが、他には見るべきものもない公園であった。電車の音がうるさいし、エレキのバンドが騒音を発散していた。都電に乗ってみる。都電は学生時代に早稲田、面影橋のあたりで乗って以来か。妻は初めてだと言っていた。庚申塚で下りて、とげぬき地蔵の方に歩いていく。大学を卒業した直後、玩具業界誌の記者をしていたころに取材に来たことがあるので、地蔵通りの先に都電庚申塚の停留所があることを記憶していた。巣鴨まで歩き、三田線に乗って帰る。いい散歩だった。

09/29/月
大学。1限のあと、5限の教授会までずっとアキ時間。親鸞の資料を読む。親鸞の長男の母は誰か気になっていた。九条兼実の娘ということでいいのか。玉日姫という、いかにも嘘くさい名前が伝説として語られているのだが、ほんまかいなと思う。どんなキャラクターなんだろう。越後に同行した形跡はない。なぜいっしょに行かなかったのだろう。とにかく親鸞はまだイメージができていないので、すぐには取りかかれない。

09/30/火
大学1限の授業のあと、能楽資料センターで会議。そこからすぐ帰るつもりだったのだが、武蔵野文学賞の応募作が届いていたので、研究室で粗選り。候補作を選ぶ。すると次々に研究室を訪れる人がいた。すぐに帰らなくてよかった。事務的な連絡がそれでついた。それから東京の街を縦断して蒲田から下丸子へ。まほろば賞の選考。全国の同人誌の作品から一番の作品を選ぶ。いい作品が選べてよかった。選考委員たちと軽く飲んで帰る。長い1日だった。帰ると再校が届いていた。
これで9月が終わった。20ヵ月以上続けたこのタイトルのノートもこれで終わる。「続カラマーゾフの兄弟」は再校が届いているが、もはや大きな直しはできないので、校正者・編集者の指示に対応するだけの作業になるだろう。次の作品に取りかからなければならない。ノートのタイトルは「仏教を深める」ということにしておく。まだ何を書くか決めていないのだが、これからの1年は、仏教がテーマになるだろうと考えている。


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