d 人麻呂08

人麻呂08

2019年11月

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11/01/金
また新しい月になった。「人麻呂」と題するノートの8冊目になった。3月までは「定年退職」のプライベートな記録ノートだったが、実は去年の夏ごろから「人麻呂」は書き始めていた。学部長としていくつもある入試待機の時にも「人麻呂」の出だしの部分のプリントをチェックしたり、メモをとったりしていた。だから出だしの部分は何度もチェックを重ねてきた。河出書房新社に企画書を出して、枚数が長いと本にできないと言われたので、当初の構想の600枚を、450枚くらいにできないかと考えた。やってみないとわからないので、作品が完成してから企画書を出すことにした。当初は「壬申の乱」を描くつもりだったが、主人公の人麻呂に焦点をあてることにした。その結果、戦闘シーンを大幅に削って壬申の乱を2章で完了させた。1章は90枚。5章で450枚という目標を設定した。人麻呂は呪詛の霊能をもつ忍び武者として登場し、額田女王から和歌の手ほどきを受ける。兄の猿丸は忍者で、大海人皇子の参謀を務め大夫と呼ばれる。漢学者で鎖鎌の名手の藤原不比等が敵役として登場する。それから三人の皇女がいて、物語の展開に花を添える。だいだいそういう話だ。和歌、とくに長歌の引用が多く、それでページをとられてしまうが、この作品の本当のテーマは「言霊」と「諱」なので、古代の言葉の韻律を読者に伝えなければならない。「諱」は家族間だけの呼び名だが、これは名を呼ばれれば人は命を落とすという迷信のなごりだ。「諱」と別に真の名があって、その名を知られれば呪詛を受ける。そういう設定になっている。人麻呂はその真の名を探り当てる霊能を有している。そこから自在に言霊を操って誄歌(しのびうた)の名手となる。タイトルは『人麻呂しのびうた』だが、これは死者の霊を慰めあの世への旅立ちを言祝ぐ誄歌という意味と、忍びの武者としての呪詛の霊能を暗示している。で、作品はいま草稿が完成した段階で、プリントをチェックして赤字を入れている。赤字はかなり入る。語句の統一などのチェックと、ちょっとした言葉づきいの修正が中心で大きな直しはない。いま2章までのチェックを終えた。ここまでは大幅に書き直した部分で、これ以上直しようがないくらいに完成度は高い。3章から先は未知の領域だ。プリントして推敲するということがなかったので、何が書いてあるかも記憶がぼやけている。兄の猿丸と闘うシーン、最後に不比等の鎖鎌と対決するシーンが物語の山場になっているが、愛らしい少女として登場した阿閇皇女(元明女帝)が怪物のような存在になってくプロセスも見どころとなっている。その阿閇皇女の登場の段階での言葉づかいに違和感があって修正を試みたのだが、それではストーリーの先が読めてしまうので、真っ赤になったプリント2ページ分を廃棄して、修正しないことにした。そういう試行錯誤があってもいいだろう。本日は休み。と思っていたら、昨日、武蔵野文学賞高校生部門の選考の締切を告げられて(昨日が締切)あわてて朝から読み始めた。年によって出来不出来があるのだが、今年は平均より少しレベルが高い気がする。もっと高い年もあって、その受賞者が大学に入ってくれたので、その後もつきあうことになった。そういうことを期待してこの章を創設したのだが、応募者の高校のレベルが高くなってきて、この高校からは来てくれないだろうなと思ってしまう場合がある。いちおう優秀者はAO入試の受験資格があるということになっているのだが、賞そのものは受験とは関係のない独立したコンペティションなので、公平に審査することになる。選評をつけて担当者に送ったが、半日くらいの作業となった。それから3章のチェックに入ったのだが集中力がなくあまり進まず。壬申の乱で一つの山場が終わり、王都が明日香に遷されてからの説明が少しくどいか。このあたりもう一度読み返して削れるところは削っていきたい。Footballは全勝の49ナーズが新人QBのカージナルスに苦戦。何とか3点差で逃げ切った。マレーという新人QBはよくがんばっている。ラグビーは3位決定戦。ニュージーランドの圧勝。これを見ると、決勝戦はニュージーランドに勝ったイングランドに分があるのではと思われる。

11/02/土
決勝戦は南アフリカの圧勝だった。ということは南アに負けた日本はもしかしたら2番手だったかもしれないね。それにしても日本のグループは勝ち上がってもニュージーランドが南アにあたるというクジ運がまずかった。フランスとかオーストラリアなら勝っていたかもしれない。本日は旺文社のコンクールを候補作を読んだ。一次選考の人が選んで詳細な選評も書いてくださっているので、こちらがやるべきことはほとんどない。あとは最終選考の会場に出向いて、絵とか写真とかを見ながらコメントを述べればいいだけだ。『人麻呂』はじっくり読み返している。並行してプレゼンテーションの資料を作っている。アラスジとかコンセプトみたいなものも必要だろう。まだ編集部のOKが出ていないので、こちらの資料の方が大事だ。

11/03/日
いつも行く喫茶店は休日は休みなので、淡路町のルノアールを行こうと思ったらビルそのものが閉まっていた。仕方がないので神田の方に行き、カフェを2軒回った。コーヒー210円だから、2軒でコーヒーを飲んでもルノアールよりは安い。3章の出だしが少しゆるい感じだが、説明を少し削ったので何とか先に行けるだろう。3章半ばくらいになると急にテンポが早まって、次々に事件が起こり緊迫感が増していく。いい感じに仕上がっていると思う。この作品は企画を出した段階ではGOサインが出なかったので、もう一度、プレゼンテーションをやらないといけない。総枚数が確定されたので、それで企画書が書ける。これがいちばん大事だ。

11/04/月
本日は祝日。ウイルスソフトの新規契約の表示が夏頃から出ていたのだが、今年中に更新する必要があるらしい。自分のと妻のパソコンを操作しないといけないのだが、妻のパソコンが重すぎてほぼ動かなくなっている。それで朝からFootballを見ながらチェック。何をどうしたらいいかわからなかったが、重そうなソフトをアンインストールし、ディスクを修復し、クリーンアップをしたら、何とか3ギガほどのアキができた。古いパソコンなのでもともと容量が少ないのだ。妻はネットはiPadで見ているので、パソコンは家計簿にしか使っていない。青色申告のために必要なので、とにかく動いてもらわないと困る。並行してまず自分のパソコンのウイルスソフトを更新する。ずいぶん時間がかかったし何度も再起動させられた。それでもとにかくゴールにたどりついた。妻のパソコンも何とか仕えるようになったが、半日の仕事となったし、えらく疲れてしまった。それでもプレゼンの資料は出来上がった。明日、担当者に送ることにする。

11/05/火
DOZNでカウボーイズ対ジャイアンツを見ながら『人麻呂』の入力作業。第一章終わる。日本のジャイアンツもダメだったが、ニューヨーク・ジャイアンツも新人QBが中途半端で不振が続いている。午後、祥伝社の担当者が出来上がった『ユダの謎キリストの謎』の見本を届けてくれる。10年前の新書が文庫本として復活した。ありがたいことだ。『夏目漱石の青春小説』はタイトルを変えられてゲラにはなったものの、版元の経営不振で出版の見通しが立たなくなった。書いてから半年近く経っているので気持は離れているのだが、出ると決まっていた本が出ないのは残念だ。しかしこういうことは初めてではない。『人麻呂』のプリントチェックは第五章だけが残っている。いつもの喫茶店に2時過ぎにいくと、ランチの客がまだ少し残っていた。3時を過ぎると客が自分だけ、といった状態になってわが書斎のように使えるのだが、何となくざわついた雰囲気。窓際の6人テーブルに座ってコーヒーを注文。ここは地下の店なのに窓があって陽射しが差し込んでいる。1時間半ほど集中して赤字を入れた。ここはネットが使えるので便利。少し疲れたので店を出て自宅に向かった。妻が今日から実家に帰ったので自宅でも仕事ができるのだが、少し散歩をしようと思って山の上ホテルの方から公園の方に下りていくといい喫茶店があった。客は誰もいない。ベートーヴェンのピアノソナタががんがんかかっている。少し暗いのだがいい店だ。ここでまたプリントを読む。人丸が兄の猿丸と対決する。涙なしには読めない場面だ。その後、猿丸の妻や子どもたちと過ごしているのだが、やがて妻から問い質される。江の川の畔で猿丸になったつもりで辞世の歌を詠む。妻が応える。名場面だ。自宅に戻って第二章の入力にとりかかる。

11/06/水
昨日『人麻呂しのびうた』のプレゼンテーション用の資料を担当者に送った。これまではプレゼンテーションをしてOKが出てから書き始めていたのだが、たぶんこの前の『白村江の戦い』があまり売れなかったからだと思われるのだが、OKが出なかった。その時に、作品の長さが問題となった。定価が高くなるとますます売れないということで、ぼくの書き下ろしはいつも600枚くらいを目標としていたのだが、今回は450枚を目途につねに無駄を省きながら書き進んだ。目標どおり450枚くらいになって草稿が完成したので、もう一度、プレゼンテーションをやってもらうことにした。今日、担当者から連絡があって、おもしろそうだと言ってもらえたのだが、和歌の引用が多いということでやや危惧するような反応もあった。長歌の引用が多いのだが、そこは読み飛ばしてもらってもいいと自分では思っている。意訳をつけると余計に煩雑になる。ここは現物を読んでもらうしかないので、一週間以内にほぼ完成という原稿を送ると約束した。いまはプリントに赤字を入れる作業と、その赤字を入力する作業を進めている。全5章のうち4章までは入力が終わり、チェックも5章の半ばまでは進んでいる。数日で作業は完了するはずだ。ということで、少し元気が出てきた。本日はペンクラブで岳真也さん主催の勉強会。高校で文学を学ぶ機会がなくなるという問題。元兇はセンター試験に代わる新しい共通テストで、英語を業者の検定試験で代用することは延期になったが、国語でも同じ問題が生じることになる。その点を野党議員に働きかけて、共通テストそのものを再検討するところまで話を進めないといけない。という話をしたのだが、引き続き教育問題の勉強会を続けることになった。岳さんの目的は新しい飲み会を設定することにあったようで、二次会の席を予約されていた。まあ、楽しい飲み会だった。

11/07/木
目の検診。問題なし。本日の仕事はこれだけ。赤字のチェック完了。エンディングは見事に決まっている。赤字の入力は4章まで終わっているので、本日中にすべての入力が終わる。明日には担当者に送付できると思う。

11/08/金
担当者から引用する和歌に訳があった方がいいと言われたので、短歌と反歌に訳をつけた。長歌はそのまま。長歌は意味不明のラップのようなものだから、リズムを楽しんでいただければと思う。最後に大伴家持の台詞を加えて草稿完了。プリントした原稿が第一草稿だから、第二草稿が完了したことになる。担当編集者に送付。ここまでが昨日の深夜の作業。今日は朝からチャージャーズ対レイダースというどうでもいい試合を見る。チャージャーズのQBリバースはベテランなのになぜか実績がない。どちらかというとレイダースのカーを応援する。最後にレイダース2点リードであと2分というところでチャージャーズの攻撃。きっちり時間を使ってフィールドゴールで逆転という絵に描いたような試合だったのに、まったく前進できずに最後はインターセプト。他のチームは新人QBへの切り替えが進んでいる。チャージャーズは来年のドラフトではQBを採ることを考えた方がいいだろう。その点セインツはブリーズが休んでいる間にブリッジウォーターで5連勝している。すでに準備ができているのだ。

11/09/土
八王子市の京王線山田駅の近くのロゴス教会でコーラスの発表会。女声コーラス、ゲストのクラリネット四重奏のあと、5分ほど挨拶をと言われていたので、漫談をしたあと、男声コーラス。高い声を出しすぎると声が嗄れてしまうので、3曲目は裏声だけにする。それから混声合唱。最後の曲は『群青』という東日本大震災の直後に作られた大曲で、これのために声を温存。最後までいい声が出た。二次会まで少し時間があったので、団友のご自宅でコーヒーをいただく。古い付き合いの方で家族ぐるみの交遊がある。お嬢さんとご主人、孫2人もいてにぎやか。団長の先生が車で迎えに来てくれて近くのイタメシの店へ。先生持ち込みのワインを飲む。いつもの親しい人々に囲まれて酒を飲むのは楽しい。いつものめじろ台なのだが店が高尾に近いので高尾まで歩く。この時間の高尾始発は特快ばかり。大学に通っていたころいつも乗っていた武蔵境をスッとばすのは気持がいい。1時間もかからずに御茶ノ水に到着。少し飲み足りなかったので寝酒を飲む。明日には妻が実家から帰ってくるのでゴミを出し部屋の片付けなど。『人麻呂しのびうた』はほぼ完成原稿を編集者に送ってしまったし、当面することはない。懸案のコーラスの発表は体調を調えるのが課題だったが、ベストの状態で本番に臨むことができた。大きなイベントはこれで終わった。今年はもう講演などもないので、のんびりできる。

11/10/日
緊急の仕事もないのでのんびりしている。『遠き春の日々』の最終回を書かなければならないのだが、『文芸思潮』は季刊で、10月末に原稿を出したばかりだから、来月くらいから書き始めればいいだろう。それでも必要なメモは少しずつ書いておきたい。第二次草稿を担当者に送った『人麻呂しのびうた』だが、気になるのでとりあえずプリントはしておいた。155ページある。どういうわけか黄色のインクの残量が少なくなった。原稿はブラックでプリントしているのだが、1ページ目に人麻呂の画像をつけたので、そこで残量が少なくなったのか。夜、妻が帰ってきた。両親が二人揃って退院したとのこと。老人施設に入ってはいるのだがいろいろと手間がかかる。ぼくの両親はすでに他界している。ありがたいことだとしみじみと思う。自分もぽっくり死にたいと思っているのだが、どうなるかはわからない。

11/11/月
起きてすぐにFootballの結果。どういうわけか強いチームが負けているケースが多い。中だるみみたいなものか。Footballはメンタルなスポーツで気が緩むと強いチームでも死に馬に蹴られることがある。昨日は外出しなかったので外に出て、神田のあたりの喫茶店でプリントを読む。昨日の夜から読み始めた。しっかりとプリントのチェックはしたはずだが、改めて読み返すと赤字の入るところはある。大きな直しではない。だが入稿前により完全な原稿を渡した方がいいだろう。ただそれはかなり先のことだと思われる。昨今の出版事情では簡単には本は出せない。いろいろと会議を経て先に進むことになる。帰りに秋葉原のヨドバシに寄ってプリンターのインクを買う。何か純正部品でないものも並んでいる。ヨドバシで売っているのだから粗悪品ではないはずだが、プリンターに入れた感じが、純正部品とは違っている感じがして少し心配。2回目のプリントチェックは2章までが終わった。ここまではほぼ完璧に仕上がっている。テンポより話が進み少しの緩みもない。いきなり話が始まりどんどん展開していく。これまでに書いてきた作品がどれも緩く感じられるくらいの密度の濃さだ。やはり出版事情が悪化していることで、こちらも緊張状態になっているのだろうと思う。少し話を急ぎすぎているかとも思われるのだが、これくらいのテンポでないと読者はついてこないだろう。

11/12/火
文藝家協会理事会。それだけの1日。

11/13/水
深川のスーパーまでドライブ。昼食。あとは妻が買い物をしている間、店の端っこにある椅子でメモをとる。『文芸思潮』の連載はこれで最終回になる。きっちり100枚に収めないといけない。今回は大学時代と、就職してから作家になるまでの話なので、出だしのところを少し書いてから、就職してからの話を先に書いて、枚数を調節しながら大学時代のことを書こうと思う。大学時代をちゃんと書けばそれだけでも本一冊ぶんになってしまうが、今回は高校で休学したことから自分の人生が始まったというところに焦点を合わせているので、大学時代の話はできる限りコンパクトに書くことになりそうだ。で、本日は卒論を書いたことを試しに書いてみたら、けっこうな量が書けた。必要かどうかはあとで検討するとして、とりあえずは入力しておこうと思う。

11/14/木
近くの喫茶店でプリントを読む。人丸と猿丸の対決シーン。いい感じに仕上がっている。ここまでは問題はない。一気に読めるようになっている。エンディングもうまくいっているはずだが、時間をかけてしっかり読んでいきたい。

11/15/金
世田谷文学館で世田谷アウォードの文学部門の選考。館長の菅野昭生さんと、青野聰さんというメンバーで選考。三人の意見がほぼ一致して、すんなり受賞作が決定。『人麻呂』の二次プリントのチェックが終わったので入力開始。『文芸思潮』の締切はずっと先だと判明。まあ、しばらくはのんびりしていようと思う。

11/16/土
週末は休み。二次プリントの入力完了。これでほぼ完璧な原稿ができた。締切がある仕事ではないのでもう一度プリントして読み返したいと思っているが、これが最終チェックになるので集中力が必要だ。昔はとりあえず入稿してゲラで直す、というようなこともやっていたのだが、いまは時間があるのでもう一度じっくり検討したい。第二次草稿の原稿を担当者に渡してあるので、どんな話かはそれで充分に伝わる。大きな直しはなかったが細かい文字の間違いなどはけっこうあった。この作品は去年の8月から書き始めた。実に長い作業だった。この作業が終わると、他の仕事は何もないので、ほっとすると同時に、少し寂しい気分になる。次の作品ということを考えないといけない。順番から言うと次は大伴家持かとも思うのだが、史実としての家持はつねに陰謀に失敗している冴えないイメージがある。反体制といえばそうかもしれないが、最後まで反体制で負けてしまう。紫式部を書きたいという思いは以前からあって、何度かプレゼンテーションの資料を出してはいるのだが、いい反応がなかった。また発表の予定もなく書き始めるということになるのか。まあ、それでもいいと思っている。

11/17/日
一人で散歩。室町テラスというところに行ってみた。確かにいいテラスがある。無料の椅子がたくさんあるので、こういうところでぼんやりと作品の構想を練るのはいいかもしれない。パンを買って帰る。『人麻呂しのびうた』を書き始めたのは去年の8月だと思い込んでいたが、日記で確認すると8月の段階では『壬申の乱』という企画を立てているだけだった。柿本人麻呂を主人公にすると決めたのは11月の半ばくらいで、だから丸一年の作業だったわけだ。一年でこの程度の作品が書けるのはまずまずのペースだと思う。もはや直すところはないというくらいに仕上がっている。

11/18/月
月曜も休み。明日からはいろいろと行事がある。『人麻呂』のほぼ完成原稿をプリントして、神田の喫茶店へ。最初から読み返す。けっこう赤字が入る。ミスプリントも見つかった。なかなか完璧とはいかない。1時間ほどで第1章を読み終えた。三人の皇女のいきいきと動いている。冒頭の人丸、猿丸、不比等の登場の仕方もよくできている。キャラクターが鮮明に見えている。この三人の武者と、皇女三人、それに大海人と讃良のカップル。これくらいのキャラが揃っていれば物語は動いていく。中大兄の亡霊が出てくるところもあるので、出だしで中大兄のイメージ確立できればと思っている。最初に殺されるシーンがあるだけだが、第2章の冒頭に回想シーンで登場する。前作『白村江』を読んだ読者は続きで読めるようになっているのだが、この作品だけを読む読者は多いはずだ。前作は売れなかったので、この作品で多くの読者に出会いたいと思っている。

11/19/火
昨夜の夜中、本を出して以来読み返していなかった『偉大なる罪人の生涯/続カラマーゾフの兄弟』の出だしを読んでみた。『人麻呂しのびうた』の出だしと比べてみたかった。作家はつねに最新作が最高傑作と思って書いている。だから気になって比べてみたのだ。率直に言うと、『偉大なる』の方が密度が高い。まあ、仕方がない。ロシアの話だ。登場人物は全員ロシア人だ。ロシア人は話が長い。人丸は寡黙だ。そういう意味ではドラマとしての厚みはロシアに負けてしまう。しかし『人麻呂』には日本を舞台にしたなじみやすさもあるし、削ぎ落とした魅力がある。そう思って自信をもってこの作品を世に出したいと思う。

11/20/水
いつもの喫茶店で『人麻呂』のプリントを読む。本日は第2章。出だしが少しかったるいかと思っていたがうまくいっている。それでも赤字は入っていく。しかしこれでもう大丈夫だという感触がある。章のエンディングが見事に決まっている。いい感じだ。

11/21/木
外苑前の複製権センターでSARTRASの理事会。必要な発言はできた。このところ何となく気分が落ち込んでいたのだが、いまが底だと理由もなく感じるようになった。次の作品について、少し書いてみたら、書けそうな感じがしたせいかもしれない。一つの作品が完成すると、こういう気分の落ち込みにとりつかれることがある。こういう時は次の作品に取り組むしかない。

11/22/金
本日は文藝家協会でオーファン委員会。4回目の実証事業がすでに動き始めている。この事業は今年で終わるので、来年からどうするかを考えないといけない。すぐ来年からというわけにはいかないが、法律の改正まで視野に入れて、現実的なプランを構築して、この4年間の実証事業の結論としたい。

11/23/土
冷たい雨が朝から降っている。それでも外出。近くの喫茶店で少し仕事をしたあと、神保町のあたりまで散歩。プリントのチェックは4章の終わり近くまで。今夜は自宅でも少しチェックを続けたい。

11/24/日
妻が同窓会で一泊の旅に出たので、本日は一人。ということで喫茶店で仕事をする必要もないし、雨も降っているので、傘をささずに行ける敷地内のコンビニに行った以外は自宅で作業。雨のせいか日曜の10時に必ず鳴るニコライ堂の鐘が鳴らなかった。そのかわりに集合住宅の前の広場で太鼓の演奏があって、まさに太鼓ドンドンだ。まあ、仕事の邪魔になるほどではない。プリントのチェックをしながら、女子駅伝と女子ゴルフを放送するテレビをつけっぱなしにしていた。まあ、音が何もないと寂しいから。いまは最終章の第5章を見ているのだが、赤字がけっこう入る。4章の終わりは、猿丸との対決が迫っていることを示したあと、遣唐使の話が入って章の終わりになっている。ここがうまく決まっていない。しかし遣唐使の話は必要だし、時間の順序としてはここに置くしかないので、説明を排除して可能な限り短くした。他にも神剣にまつわるエピソードを排除したので、1ページぶんくらい短くなったと思われる。

11/25/月
昨夜、プリントのチェックを終えた。本日は朝6時に起きてFootballを見ながら赤字を入力。10時までに完了。のんびりともう一試合を見る。49ナーズの強さが際立っている。SUPERBOWLはレイブンズ対49ナーズになるのではないか。室町テラスまで散歩。2階の誠品生活というのは本屋と雑貨を組み合わせた新しい試みだが、坪あたりの売り上げはそれほど高くないだろう。ぼくは雑貨に興味がないのでおもしろいとは感じなかった。まあ、6000歩稼げたのでよしとする。

11/26/火
いつもどおり10時に起きてFootballを見る。レイブンズ対ラムズ。接戦が予想されたのだがレイブンズの圧勝。昨シーズンはSUPERBOWLに出たラムズだ。ペイトリオッツを第3クオーターまで完璧に封じていたディフェンスに対して、ランニングバックのイングラムとQBのラマ―・ジャクソンが走りまくる。ランの防御をするとラマ―・ジャクソンがパスを投げる。ラムズのディフェンスは崩壊してしまった。どのチームがこのレイブンスを止めるのか。このままSUPERBOWLまで行ってしまうのか。自分の仕事は、『人麻呂』の完成原稿を担当者に渡してしまったので、もはやすることはない。次の仕事に取り組むしかない。昨年、集英社新書で『源氏物語を反体制文学として読んでみる』という本を出したが、これは自分の創作ノートのようなもので、これで小説を書きたいという思いがあった。ただ歴史の素材をそのまま編んだだけでは、小説にはならない。いま世の中はリーダブルということに集中している。読み易くなければ本にならない。そのためには動きが必要だ。『人麻呂』では人丸と兄の猿丸を忍び武者とし、藤原不比等は前作からの踏襲で鎖鎌の達人とした。ただ平安時代になると忍者が活躍するわけにはいかないが、言霊による呪詛ということでは、いわゆる陰陽師にバトンタッチされている。そこから作品の魅力を考えていかないと、と思いつつ、ここ数日、作品のオープニングを模索していたのだが、今日、試しに書いてみたオープニングがなかなかいいので、これで行こうという感じになってきた。まだまだ試行錯誤は続いていくので、もっといいオープニングがあるかもしれないが、しばらくはこのままで先に進みたいと思う。本日はマッサージだけ。一週間前の予約を親の介護で疲れた妻に譲って、本日はキャンセルがあってここに入れてもらうことができた。全身が硬直していることは自分でも感じていた。少し元気になったか。

11/27/水
神田の喫茶店で少し読書。紫式部の話を書こうと思っている。阿倍晴明が同時代人なので登場させないわけにはいかない。紫式部のような天才的な人物には何らかの超能力があるのではないか。人麻呂のような呪詛ができるというのではイメージが悪くなる。ぼくが設定した人丸はピュアな人物なので呪詛をしてもイメージは悪くならないのだが、紫式部は人間を深く洞察し、人生の機微をわきまえた人物なので、過剰な霊能を与えるわけにはいかない。人物を見抜く能力、という程度にしておくのが適当だと思う。登場人物をざっと書いてみたのだがものすごく多い。人麻呂が出てくる明日香から奈良時代にかけてと違って、朝廷のスケールが多くなっている。しかも登場人物のほとんどが藤原さんなので、区別が難しい。人物が一人出てくる度に、ちゃんとスケッチしておかないと、何が何やらわからなくなる。難しいことに挑み始めたものだと思うが、収拾がつかなくなったらやめればいいので、気軽に少しずつ先に進んでいきたい。

11/28/木
神田の喫茶店まで散歩。3000歩。それだけ。

11/29/金
午前10時に御茶ノ水を出発。妻の運転で浜松三ヶ日に向かう。5時間ほどかけて仕事場に到着。夏に来て以来。台風とか大雨が通過していったので心配していたが、とくに変わったことはない。草が延びているだけだが、夏のような繁茂ではない。それでも掃除をして、ネット環境を調えて、住める状態にするまでに時間がかかる。いない間にプロパンガスの危惧の更新があったようで、すぐにガスが出なかった。いろいろやっているうちに無事に出るようになった。今回は超短い滞在なので、とくにここで仕事をするという感じではないのだが、御茶ノ水とは違った環境にいるので、少しは気分が変わるだろう。とりあえずはすごく寒い。築40年の木造家屋だ。御茶ノ水では整備された集合住宅にいるので、寒いという感覚を忘れている。セーターを着るということも御茶ノ水ではないのだが、ここに来ると重装備になる。石油ストーブというのもここの定番。毎日灯油を補充し、時々灯油を買いに行くという手間が必要だ。まあ、それも気分転換になる。とりあえずネット環境は整備されているので、東京にいるのと同じ感じでメールを見たり仕事をすることができる。

11/30/土
朝9時に起きて庭の手入れ。枯れて倒れていたブンタンの木を、以前に起こしてつっかい棒をかましてあったのだが、見事に復活して実をつけている。そのそばに植えたブンタンも実をつけている。斜面に植えたミカンも大量に実っている。そのせいか一つ一つの実が小さい。地元の農家の人は早めに摘果をして、三ヶ日ミカンというブランドを確立したのだが、われわれはまあ、たくさん実って喜んでいる。仕事場は崖の上にあって見晴らしがいい。実ったミカンの向こうに浜名湖が見える。家の反対側は斜面の下に駐車場があって、そこから斜面を昇って建物に近づいていくのだが、そのあたりが雑草で狭くなっているので草を抜く作業にとりかかる。その後、実った柚子とキーウィを収穫する。大量の収穫があったが、とても疲れた。それから鷲津までドライブ。ギョーザでビールを飲む。ワークマンプラスでズボンとベストを買う。週末なので人が多いし車も多い。仕事場に戻って少し仕事。まだタイトルの決まっていない紫式部の話。冒頭には安倍晴明が登場する。『人麻呂しのびうた』では忍者が活躍した。今回は陰陽師が出てくる。こういう異能の人物を出さないと小説にならない。単なる解説書みたいなものは去年、集英社新書で出したので、今回は大胆な設定で話をおもしろくしていく。
さて、今月も終わった。『人麻呂しのびうた』は完成したのだが、まだ出版の見通しが立っていない。だからいまだ過渡の段階にあると考えなければならない。どうなるかわからないので、ノートの名前はこのままで来月も続ける。すでに次の作品にとりかかってはいるのだが、作品のタイトルが決まっていない。『人麻呂しのびうた』も書き始めた時には、確か「壬申の乱/持統女帝の怨念」といったものだった。人麻呂を主人公にしてよかった。次回は紫式部の話なので、タイトルには入れたい。『紫式部の恋』というのを企画の段階では考えていたのだが、ずっと以前に却下されたのでこのタイトルでは書けない。『陰陽源氏』というのも考えているのだが、これだとわけがわからない。『光と陰の紫式部』というのをいま思いついた。「紫式部」というのが入っているので、当面はこれでノートを進めたいと思う。


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