人麻呂04

2019年7月

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07/01/月
月曜日。今週は木曜、金曜と用があるが、週の前半は自宅で作業ができる。雨の止み間に秋葉原を散歩。『遠き春の日々』はいよいよエンディング。ここで盛り上げないといけない。この作業をなるべく早く終了させて、『人麻呂しのびうた』を再開したい。歴史時代作家協会賞の候補作が大量に送られてきた。最初に送られてきたぶんを読み始めてはいるのだが、10冊以上あるのでたいへんだ。

07/02/火
『遠き春の日々』という作品は、自分の高校時代を書いたもので、そこで妻と出会うという話だ。ぼくは一年間、高校を休学して、最初の作品『Mの世界』を書き、それが「文藝」に掲載されたことで、担当編集者と出会った。のちに編集長となり、さらにのちにはトレヴィルという出版社を起こしたK氏で、この担当編集者の十年以上にも及ぶ励ましで、ぼくはプロの作家になることができた。これも大事な出会いなのだが、休学を終えて高校に復学した時に、ある偶然があって妻と再会した。たぶんこちらの方が運命的な出来事だといっていいだろう。これはぜひとも書き残しておきたいことだ。で、その大事な場面を今日、書き留めたのだが、これでいいのかどうか、プリントして読み返さないとわからない。そのあと作品の終わりが必要で、エンディングをどうするかも問題だ。あとしばらく試行錯誤が必要だろう。

07/03/水
妻は大阪。3泊4日だということなのでしばらく帰ってこない。ありがたい。いま書いている作品の登場人物がそばにいると何となくやりにくい。この3泊4日の間に草稿を完成させたい。さて、日曜だったか、書庫として借りている部屋の隣室で水漏れがあると連絡があって、あわてて自分の部屋に行ってみたのだが、わが部屋は無事だった。その後、業者から、確認したいと言ってきたので、本日の午前中に部屋に行って、業者を中に入れた。日曜にぼくが点検したのと同じことも業者はやって、問題ないことを確認した。こちらの言うことを信用しろよ、と思ったのだが、業者としては報告の必要があったのだろう。問題がないようすを写真に撮っていた。こちらが原因ではないとわかったのだが、隣室の水漏れの原因はまだわからない。それでもぼくの部屋は建物の端で、水回りはその端の方に設定されている。隣室は左右対称の間取りなので、隣の水回りも反対側で、直接につながっているわけではない。まあ、業者が何とかするだろう。せっかく外出したので、神保町あたりまで散歩してから帰宅。妻がいないのでひたすら仕事。まだエンディングは完了せず。明日は日大文芸賞の選考の日だ。すでに作品は読んでいるのだが、今夜はもう一度読み返して、話すべきコメントを用意したい。

07/04/木
『遠き春の日々』。まだエンディングは決まらないが、とりあえずプリントして最初から読み返すことにした。その流れでエンディングに結びつけたい。少し時間を置きたいので週末の作業とする。歴史時代作家協会賞の候補作を読み始めている。とにかく読まないといけない。本日は日大文芸賞。この選考も担当してから何年にもなるので慣れている。それはいいのだが、会場は京料理の店。生きた鮎を見せてそれを塩焼にするというのが、ぼくとしては苦手なのだが、本日は鮎か牛肉かを選べるのというのでもちろん牛肉を選んだ。それでも生きた鮎は出てきたが、ぼくは目を逸らしていた。生き物を食べるというのは残酷なことで、ぼくは顔のある魚は食べない。牛や豚は顔がないので問題はない。しかし昔、スペインに行くと、豚の半身みたいなものを業者がレストランに納入しているのを見て、ショックを受けた。とにかく京は顔のある魚と対面せずにすんだ。

07/05/金
国立国会図書館の協議会。年に2回くらいの会合。著作権関係者が多い。午前中に文化庁で著作権分科会があったらしく、半分くらいのメンバーは、さっか会ったばかりという感じだった。ぼくも昔は著作権分科会に出ていたが、いまは外れている。同じ顔ぶれで別の会議というのも変なもので、一回で全部できないものかという気がする。この国会図書館の会議はコーヒーを出してくれる。本物のコーヒーだ。ぼくは自宅ではインスタントしか飲まない。さて、『遠き春の日々』のプリントをもっていったので、一時間ほどの会議中、ずっと読んでいた。赤字はけっこう入るのだが、大幅な直しはない。去年の8月くらいから出だしのところを書こうして、ずっと苦労していたのが嘘みたいなすらすら読める。まあ、うまくいっているのだろうと思う。歴時協会賞の候補作も読んでいる。今回は新人賞のレベルが高い。レベルの高い作品を読むと、自分の作品のことを考える。自分ももっとがんばらねばという気になる。『人麻呂しのびうた』を半分書いたところで放り出している。プリントのチェックを早く終えて『人麻呂』の続きを書きたい。

07/06/土
プリントを読むのと、歴時協会賞の候補作。巨人が連勝しているようだが、真剣には注目していない。9月になればFootballが始まる。今シーズンはブラウンズを応援したい。次がチーフスとセインツかな。スティーラーズとジャイアンツが勝ち越せるかも見守りたい。3泊4日で実家に帰っていた妻が戻ってきた。疲れているみたいだ。逆らわないようにしたい。

07/07/日
雨。散歩に出たいが傘をさしたくないので千代田線で大手町まで行く。そこから地下道を日比谷、有楽町、フォーラム、行幸通りを通って二重橋前から戻ってきた。6300歩。久し振りに名刺をプリント。裏も刷ってみた。めんどうだが裏に何かあるとカッコイイ。ついでに『人麻呂しのびうた』の86ページまでをプリント。1ページは3枚とカウントするので、250枚くらいか。500枚以内に収めたいのでここから先はよりコンパクトに書いていきたい。

07/08/月
妻の運転で深川のスーパー。昼食。買い物。あとはいつもの仕事。『遠き春の日々』のプリントチェックはもうすぐ終わるがまだエンディングの着地が決まっていない。歴時賞の新人賞はいい作品が3つあるので選考は難しそうだ。

07/09/火
文藝家協会評議員会と常務理事会。けっこう時間がかかった。本日はあまり仕事は進まず。歴時協賞の候補作を改めて読み返している。

07/10/水
散歩を兼ねて室町コレドの映画館で『アラジン』を見る。先月見た『ゴジラ』よりよかった。王女さまの女優さんが往年のソフィー・マルソーみたいだった。往復歩いたので歩数もかせげた。

07/11/木
複製権センターでSARTRASの分配委員会。場所は青山通りのオリンピックの上で、地下鉄の表参道と外苑前の間にある。外苑前の方が少し近いのでいつも帰りは外苑前に向かうのだが、雨が降り始めたので帰りも表参道に向かった。千代田線で帰ると傘を使わずにすむ。会議はとくに紛糾したわけではないが、話すべきこと、質問すべきことがたくさんあって、本日は割と発言した。質問すべきことをちゃんと質問したので、疑問が明瞭になった。まだ現状では雲をつかむような議論なのだが、少しずつ霧が晴れていくような感じだ。

07/12/金
朝から雨。外出せず。『遠き春の日々』まだエンディングが決まらない。かなり赤字が入ったので入力してもう一度プリントして読み返したい。来週は浜松の仕事場に行くつもりだが、そこにはプリンターがないので、週末にはプリントをしないといけない。宇都宮のアート&スポーツ専門学校(母体は宇都宮ビジネス電子専門学校)から新幹線のチケットが届いた。再来週の土曜日に講演する。もう十年以上、毎年この時期に講演をしている。アート&スポーツ専門学校の中に文芸の教室があるため、年に一回、講義をしている。まあ、ライトノベルの志望者が多いのだろうが、高校生や高校の先生も来ることがあるので、文学の話をしている。今回は文章教室みたいなテーマなので、テキストを5ページぶん送付する。昨年出した『小説を深く読む』と今年書いた『夏目漱石の青春小説』の中に引用した漱石や他の文豪の文章をコピペで貼り付ける。単純な作業ですぐにできたので、チケットが届いたというメールに添付して送る。

07/13/土
入力完了。その勢いでエンディングもそれなりにまとめた。これでいちおう形はできた。すぐにプリントする。これは来週、じっくりと読み返すつもりだが、もう大きな直しはしない。誤字脱字の修正のみにとどめる。これは『文芸潮流』への連載の依頼に応じて書いたもので、予定どおりぴったり100枚になっている。締切は月末なのでまだ時間はある。

07/14/日
武蔵野大学で文学部の同窓会。同大学は女子大だった。共学になってからの比較的若い人たちに限定した同窓会。共学になる前はそもそも文学部しかなかったので、同窓会も女子ばかりなのだが、共学になってからは次々に新学部ができて、いまは11学部に発展した。文学部は伝統を守って文学一筋の学部学科になっている。定年退職したあと、名誉教授の称号の授与式というのがあったのだが、これは本部のある有明キャンパスだったので、文学部のある武蔵野キャンパスに行くのは退職後初めてのこと。免許更新の実技指導で武蔵境にある自動車学校に行ったことはある。自分の教え子の顔も見え、楽しい飲み会となった。ウヰスキーのサーバーがあったのでやや飲み過ぎた。

07/15/月
祝日。浜松の仕事場に向かう。10時半出発で着いたのは3時半くらい。通路に雑草が伸びているのでまず草刈り。途中、御殿場、藤枝、浜松で休んだ。御殿場は涼しかったが、藤枝で車から出ると、むあんと暑かった。やませが吹く関東圏から外れるともう夏の暑さになっているのか。仕事場もかなり暑い。その中で草刈りをするのは重労働だ。この前は5月の連休に来たのだが、その時はお湯が出なくなっていた。プロパンを配達してくれる米屋に連絡したら、電源を切れという指示で、初期化すればいいのかと思い至った。コンセントの位置が家の床下にあって苦労したのだが、それでお湯は出るようになった。今回はまったく問題なし。風呂に入っていると雨が降り出した。少し涼しくなったか。まあ、エアコンを入れるような暑さではない。いつもは窓がはめごろしになっている高層住宅に住んでいるので、周囲に緑があり、自然の風が吹いてくるこの仕事場は貴重なオアシスだ。今回は短い滞在だが、のんびりしたい。

07/16/火
仕事場で『遠き春』のプリントを読み返す。すでに一度プリントにしてチェックしたはずなのに、不備なところがどんどん見つかる。誤字についてもしっかり見ているので、これで大丈夫だとは思うのだが、チェックというものはキリがない。単行本になってから誤字が見つかることもあるが、最近は第二版が出ることもないのでそのままになってしまう。まだ3分の1のところだが、ここまでは大きな直しはない。妻と都田テクノのカインズに行って芝刈り機を買う。いままでは管理人の大工さんに頼んでいたのだが、われわれより年長なのであまり頼れなくなった。自分でやるしかないかなと思っている。

07/17/水
芝刈り機を買ったのだが、昨夜、管理を頼んでいる大工さんから電話がかかってきて、植木屋さんを手配したとのことだった。その植木屋さんが早朝から来て、庭の雑草を刈ってくれた。ありがたいことだ。もちろんお金を払わなければならないのだが、慣れない草刈りで消耗するよりは、自分の仕事に集中できた方がいい。野良仕事みたいなことを趣味でやっている高齢者もいるが、ぼくは都会生まれなので、戸外で作業をするのは苦手だ。一昨日は通路の草刈りをしたのだが、まだ両手が痛んでいる。『遠き春の日々』の2回目のチェックが終わった。結局、また真っ赤になってしまった。入力の前にもう1度、最初からざっと見直して、それで入力して完了ということにしたい。

07/18/木
昼食は外出して浜松餃子を食べる。『遠き日』は昨日の夜に入力してしまった。東京に帰って、もう1度、パソコンの画面で確認して送付することにする。明日は東京に帰る。天気が心配。『人麻呂』のプリントを読み始めた。出だしはうまくいっている。半分までできているのだが、まだストーリーの材料がたくさんあるので、できているところの3分の1くらいは削れないかと思っている。壬申の乱がテーマだが、人麻呂を主人公にしたので戦闘シーンなどは不要だ。どんどん削りたい。追加するのは猿丸が弓を射るシーン。どうして弓なのかもう忘れてしまった。日光二荒山の伝説に弓の名人の猿丸というのが出てくるのだったか。百人一首は宇都宮蓮生の小倉山荘の壁紙が発端なので、宇都宮さんが定家に、猿丸大夫を入れるように頼んだのかもしれない。ということくらいしか根拠はないのだが、弓を射るシーンがあるのはわるくない。

07/19/金
明け方豪雨。雨の音で目が覚めた。部屋の片付けは昨日済ませたので、パソコンと無線ルーターを片づけて出発。5時間くらいで東京に戻った。渋滞はなかったがトラックが多く、運転した妻は疲れたと思うが、こちらは疲れることはないので、パソコンをセットしてすぐに仕事。宇都宮のケーブルテレビのコンクールの候補作が送られてきた。まずこれを見ておくことにする。来週は週末にかけて仕事が入っているが過密なスケジュールではないので自分の仕事はできるだろう。

07/20/土
コンクール「星の砂」賞の候補作、読み始めているが今年はレベルが高い。いい作品がいくつもあるのではないかと期待が高まる。本日はコーラスの練習。「群青」という混声四部合唱の練習をしているのだが、高校時代の友人だった男女の二年後という設定で、別れた人を懐かしむ歌。ありがちな青春のひとこまだと思っていたのだが、これが東北の震災のあとで作られた作品だと教えられ、別れた人とはもう再会できないのだと思うと、これは涙なしには歌えない歌だと思った。本日はほぼフルメンバーで8人の宴会。こういう飲み会は楽しい。

07/21/日
姉の女優、三田和代さんが地唄舞の公演に出演するというので半蔵門の国立小劇場へ。早めに行って他の出演者の踊りもじっくり見た。地唄舞というのは静かな踊りだ。しばらく見ていると何となく仕組みがわかってくる。まあ、たまには踊りを見るのもいいものだ。わが姉が舞台に立つ姿は小学校の学芸会で、こちらが幼稚園児の時、初めて見た。何だか怖くてずっとうつむいていたが、今回もそんな感じがした。夜中、星の砂賞の候補作を読み終える。今回はレベルが高く読むのが楽しかった。

07/22/月
昨日読み終えた星の砂賞の選評を書く。ただちに送付。これで手が離れた。午後は文藝家協会でオーファン委員会。今年で4年目の文化庁の実証事業。ふつうこの種の事業は3年で結論を出すところだが、今回は4年目に入った。来年度からは文化庁の支援なしに事業を続けるか、システムを変えて継続するか、もしくは断念するかということを、今年度中に判断しないといけない。断念という選択肢はないので、最適のシステムを新たに構築しないといけない。

07/23/火
本日はマッサージだけ。新宿三丁目で下りて、少し散歩したあと、マッサージ。肩と首がコチコチになっていた。『遠き春の日々』。2回プリントしてチェックして赤字を入力したのだが、画面で最初から見るとまだ間違いがある。どこまで続くぬかるみぞ……という感じだが、そろそろ終了としたい。

07/24/水
本日は公用はない。『遠き春の日々』。完了ということにして「文芸思潮」の五十嵐さんに送付。まあ、それなりにまとまったと思う。100枚ずつ3回の連載なので、すぐに次を書かないといけないが、とりあえずは『人麻呂』のプリントを読み返している。無駄な描写を極力カットして圧縮をはかっている。そう思って読み返すと無駄がずいぶん多い。描写のカットでテンポがよくなった。

07/25/木
本日も公用なし。妻とともに大手町へ。古いドル紙幣を円に戻すために外貨ショップへ。そういえば去年西安に行った時の中国のお金が手元に残っていたので、これも円に戻す。そのあと丸ビルで昼食。猛暑だ。自宅に戻って『人麻呂』を読む。第2章まで読み終えた。第3章は途中までのはずだが、ここから先は何を書いたか記憶がない。いよいよ未知の領域に進むことになるのか。

07/26/金
歴史時代作家協会賞の選考委員会。この賞は評論家の秋山駿さんを委員長として始まった賞で、表彰状を出すだけで賞金のない賞。秋山さんがお亡くなりになったので三田があとを引き継いで続けている。昨年までは歴史時代作家クラブ賞という名称だったが、事情があって会の名称が変更になった。新生の第一回の選考となるが、秋山委員長のころからの通算では8回目ということになる。新人賞と本賞を選考するのだが、今年は作品のレベルが高く、選考は紛糾した。賞金のない賞なので例年2作を選ぶ慣例があったが、新人賞は今回は1作だけとなった。この1作は全員が推したのだが、もう1つ選ぶとなると委員の意見が分かれたので、1作のみの受賞となった。それだけ候補作のレベルが高かった。本賞の方も全員一致の作品がなく、なかなか決まらなかったが、どうにか2作に落ち着いた。選考は難儀だったが、あとの飲み会は楽しかった。

07/27/土
年に1度、この季節に宇都宮の専門学校で講演をする。担当者に聞くと今年で14回目だそうだ。今回はテキストのプリントを用意したので、それに従って話をするだけなので、何となく時間が過ぎてしまった。90分は短い。用意したプリントの最後まで話せなかったが、必要なことは話せたと思う。宇都宮は近い。午後3時には自宅に帰り着いていた。『人麻呂』のプリントを読む。いま3章に入ったところで、この先でプリントは終わる。そこから先は新たな領域だ。ここまでずいぶん無駄な描写を削ってきたのでスリムになった。全体を150ページ450枚に収めたい。ここから先も可能な限りコンパクトに書かないと長くなってしまう。どこから時間を飛ばしてもいい。しかし3人の姫ぎみのセリフはきっちりと書いていきたい。セリフをしゃべらせないと個性が出ない。とはいえあまり現代風にしゃべらせるとリアリティーがなくなってしまう。古代の人がどんなしゃべり方をするかはわからないし、時代劇とか歌舞伎のようなしゃべり方もおかしいので、結局、現代語でしゃべるしかない。まあ、何とか先に進んでいきたい。台風が近づいているのか、夜になると風が強くなった。隅田川の花火は無事に実施された。テレビで見た。自宅のある階のエレベータホールまで行くと一部は見えるはずだが、めんどうだ。テレビの方がよく見える。音だけは窓からも伝わってくる。

07/28/日
一昨日の歴時賞選考会と昨日の宇都宮の講演は、欠席するわけにはいかないイベントだったので、無事に務められてほっとしている。久し振りに床屋に行く。1700円。けっこう混んでいた。帰りに書庫に寄って「続日本紀」を探したのだが見当たらなかった。自宅のどこかに埋もれているのかもしれない。『人麻呂』はそろそろ「日本書紀」の領域の先に行くことになる。ただ資料を見ると書きたくなので、あまり資料に頼らない方がいい。年表のコピーが手元にあるのでこれだけで進めてもいい。あとは『人麻呂』のチェック。どんどん削除して短くしている。歴時賞の選考に携わっていると自分の文章が気にかかる。自分は理屈っぽいところがあるので、油断していると話が難しくなる。時代小説の作家のテンポのよさを見習いたい。

07/29/月
『いちご同盟』の60刷が届いた。60というのはすごい数字だ。毎年増刷してもらえている。いまの若者にも読んでいただけているということだろう。第一世代の読者が中学高校の先生になっているので、教え子に推奨してもらっているのかもしれない。ありがたいことだ。本日は六本木の日脚連で著団協の総会。文藝家協会理事長の出久根さんが会長なのだが三田が代理を務めて挨拶および議長を担当する。オーファン委員会やSARTRASで会うメンバーとほとんど同じだが、この会議だけに参加する方もいるので、状況の報告をした。すごい猛暑。幸いなことに日脚連は駅から1分のところにある。これで5分も歩くと熱中症になるのではないか。何とか無事に自宅に帰れた。

07/30/火
さすがに8月の入ると会議も少なくなる。今週の金曜日、および来週の火曜日にスケジュールが入っているだけで、こちらも夏休みに入れそうだ。夕方、秋葉原を散歩。若いお嬢さんが1メートル置きに並んで何かの勧誘をしている。こちらが声をかけられることはない。やはりいかにも老人という外見になっているのだろう。少し寂しい。『人麻呂』は大海人の長いモノローグに差しかかった。削るという考えもひらめいたが、ここは残すことにする。こういうところまで削ると文学的な香りが失せてしまう。自分なりのこだわりはこういうところにある。歴史時代作家協会賞の選評を書いて送る。今年はどの作品が受賞してもおかしくないほどレベルが高かった。歴時小説はいまや黄金期を迎えているのではと思われるほどだ。とくに江戸時代が充実している。逆に言えば現代という時代にはドラマが生じにくいのかもしれない。志とか人情といったものが江戸時代の方が描きやすいという感じもする。いまは何でも自由だが結果としてはなすべきことがないという、ぬるま湯のような状態だ。自分が人麻呂を書くのも、昔の方がドラマを設定しやすいかんだと思われる。

07/31/水
連日猛暑が続いている。長く梅雨寒が続いていたのでこの急激な天候の変化は老体には応える。昨日も今日も自宅に引きこもっている。夕方には散歩に出るのだが体力を消耗する。『人麻呂』のプリントチェックはあと数ページというところまで来たが、ここまでのチェックでコンセプトが少し変わってきたのでここから先は大幅に書き直すことになる。ということで、いままでの赤字を入力してから新たな領域に進むことにする。その入力作業を始めているのだが冒頭部分は直すところはない。人物がいろいろ出てくるところで、不必要なところは削っている。歴史的な説明も大幅にカットする。日本書紀の記述に沿っているかどうかは、読者にとっては関係がないので、説明しすぎはよくない。そう思うと気が楽になって、めんどうな説明はすべて削除することにした。これで読みやすくなったし枚数も減らすことができる。エンディングについても何も考えていなかったのだが、今回のチェックでようやく先が見えてきた。小説を書く上で重要なことは、エンディングから逆算して小説を書くと、その手つきが読者に見破られて、先が見えてしまうことだ。それでは読み物としての面白さがなくなってしまう。いまの作品でいえば、人丸、猿丸、不比等という三人の重要人物が登場する。猿丸は人丸の兄なので味方、不比等は怪しい人物、というニュアンスでここまで書いてきたが、不比等を最後まで悪役にする必要はないと思うようになった。まだ作品の半ばなのでしばらくこのままで進むのだが、エンディングが近づいてきた段階で、不比等のキャラクターを少し肯定的に見えるようにしたい。これを最初から遡って修正する必要はない。見るからに悪役と思わせておいて、最後にひっくり返す。エンターテインメントの鉄則だが、意外性でストーリーを決着させる。そうなると兄の猿丸と対立するというプロットになる。そういうニュアンスもこのあたりからにじませていきたい。7月が終わった。今月は「文芸思潮」の締切があったので、とりあえず締切前に百枚の原稿を完成させた。3回の連載でいちおう連作ということにして、独立した百枚の作品としても読めるように配慮した。文藝家協会、SARTRAS、オーファン委員会など、会議のスケジュールも無事に果たした。来月は少し休みがとれそうだ。



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