●「まりのきみの声が」
●太刀掛秀子
●りぼんマスコットコミックス
●全2巻
●集英社
●【後編】「ミーアの瞳」「学園通りのふらいんぐ・はうす」

(C)Hdeko Tatikake

人形劇サークルを舞台に繰り広げられる青春グラフティといえそうな物語。主人公のよしみ君は、親との賭けに負けて芸大進学をあきらめた大学一年生。彼は「よしみ」という女の子のような名前のため、間違えられて女子用の部屋へ(学生たちが集まっている下宿のようです。当時は結構あったんですよね)入れられてしまいます。部屋には古いラジカセと中に残されたカセットテープがひとつ。そのテープには、先住者のまりのから新しい住人へのメッセージが入っていました。「この部屋でくらすあなたに 一年間この部屋でくらしたまりのからメッセージを残しておきます」

作品のタイトルからもわかるように、まりのの声はこの作品の中でキーワードとして使われていきます。想像するに、とても素敵な声をしているのでしょう。よしみ君は、まりのを声で見つけます(その前に会っているのですが)。彼女は同じ大学の先輩で、人形劇のサークルで子供たちに人形劇を見せたりしていました。手先の器用さを買われて、まりのに勧誘を受けたよしみ君は、部長のモリちゃんやサークルの仲間たちと、夢に向かって懸命なまりのに惹かれ、人形劇サークルの手伝いを始めます。一緒に活動するうちにまりのに想いを寄せはじめるよしみ君ですが、まりのの好きな人は部長のモリちゃん。まりのは両親を事故で亡くし、深い悲しみの中、引き取られた家の男の子に人形を通して心を開くことを、そして人を信じることを教えられます。手を取り合って夢を見たその男の子こそモリちゃんでした。淡い恋心を封じ込め、一度は諦めかけた夢を再び追いかけ始めるよしみ君。そんなとき、まりのがテレビの連続人形劇のレギュラーに抜擢されます。人形劇サークルからまりのがいなくなってしまう……。しかし、サークルの仲間たちはまりののメジャーデビューを喜び、彼女を快く送り出します。TVで人気者になっていくまりの。モリちゃんは、彼女の才能を手元に置くことを惜しみ、まりのと距離を取ってしまいます。想いがすれ違うまりのとモリちゃん。よしみくんは、崩れそうになるまりのを必死で支えようとしますが……。
最後はハッピーエンドなんですが、太刀掛先生らしい心が絞めつけられる展開が続きます。連載5話目にあたる話に「きつねの窓」というお話が出てきます。これはまりのにとって特別なお話です。「白狐を追いかけていた猟師は、桔梗の原に迷い込み、狐の化けた染物屋に桔梗の花の汁で指を青く染めてもらいます。その指で窓を作ると、もう2度と会えない人や懐かしい風景が見えるのです」まりのが指の窓を通して見ていたのは、亡くなった両親なのか、それとも……。あ、太刀掛先生を読む前には、涙を拭く用意をしておきましょう。

太刀掛秀子(たちかけ・ひでこ)

デビュー作/「雪の朝」(1973.10)
主な掲載誌/「りぼん」
主な作品等/「花ぶらんこゆれて…」「まりのきみの声が」「青いオカリナ」
現在の活動/活動は休止してらっしゃるようですが、今なら昔の作品が文庫で読めます。


戻る