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●「イティハーサ」 ●水樹和佳 ●ぶ〜け豪華本 ●全15巻 ●集英社 |
この作品は、私の中で20歳代後半から現在に至るまで、常に「一番好きな連載中の作品」として位置づけられてきた作品です。月刊誌「ぶ〜け」(集英社)に不定期(失礼、短期集中連載のシリーズですね)に連載されていました。 内容は古代の日本を舞台としたSFファンタジー。「樹魔・伝説」「月虹−セレス還元−」など、近未来を舞台とした作品群でその類まれなSFセンスを披露した水樹和佳が、古代日本を舞台に何かをやろうとしている。そんな漠とした期待感を、この「イティハーサ」の連載当初に私は感じました。そして十数年もの間、その期待感を裏切る事なく「イティハーサ」は我々読者の心を惹きつけ続けているのです。その魅力についてふれる前に、まずは簡単にストーリーを紹介することにしましょう。
目に見えぬ神々を信奉し、自然との調和を大事にしながら生活している古代人たち。神々の声を聞く巫女を中心に質素で平和な邑(むら)が営まれている。この物語の主人公である<とおこ>と鷹野(たかや)、そして二人の保護者(?)となる青比古(あおひこ)も、そんな目に見えぬ神々を信奉する部族である。草木と交流できる不思議な少女<とおこ>(漢字が第2水準にもないので、かなで表記しています)は、乳飲み子の時に邑の少年鷹野に拾われて妹のように慈しみ育てられる。少女の才能を認めた呪術士(とは呼ばれてないが)の青比古は、<とおこ>に真言告(まことのり:呪文みたいなものです)を教え、巫女として教育していく。
そんな中、この島国にある平和な邑にも、大陸からの戦乱が徐々に押し寄せていた。亜神・威神の二手に分かれて争う「目にみえる神々」。その威神の一柱、銀角神・鬼幽率いる戎士(じゅうし)たちによって、<とおこ>たちの邑は壊滅する。陽石(あかいし)を探しに邑を離れていたため難をのがれた<とおこ>、鷹野、青比古の三人は、亜神である正法神・律尊の一派に迎えられ、亜神・威神の戦いへと巻き込まれていく。
「イティハーサ」は、<とおこ>、鷹野、青比古をはじめとする多くの古代人たち、鬼幽、律尊を主柱とする目に見える神々、古代文明無有(ムウ)の生んだキメラである真魔那(ままな)、そして目に見える神々をチリと成す<やちおう>など、様々なキャラクターの想いと行動によって、そのストーリーが綴られていきます。そこに現われるキャラクターたちの存在感は、水樹和佳の精緻な描画によって用意された切ないほどの表情と、無駄を排除し見事なまでに嵌まったセリフによって、私たち読者の心の奥深くへと浸透していきます。そして、彼らと共に喜び、悲しみ、悩むことに感動するのです。これは水樹和佳の術中に嵌まった読者の喜ぶべき末路といえるでしょう。 |
この桂のセリフは、なんと巻末の6ページにわたります。このシーンでは、二人の他にも<とおこ>や那智(なち:桂に想いを寄せる威神の戎士)、火夷(かい)など、物語では重要な役割を果たすキャラクターたちの様々な想いも交錯しています。しかし、これは青比古と桂の再会がその中心であることに疑問の余地はありません。戦いの最中、青比古を見つけた桂の表情の変化、心の昂まり、押し寄せる津波すらその演出であるに違いありません。
この感動は、やはり私の文章だけでは伝わりそうもありません。ここに紹介している豪華本だけでなく、新書判のコミックス(ぶーけコミックス)も出ています。読んでいただけたら必ず感動していただけると信じて、オススメします。諸事情により、全巻揃った時点で絶版になりそうなので、今が最後のチャンスかもしれません。 |
水樹和佳(みずき・わか)
デビュー作/「かもめたちへ」1975年
掲載誌であった「ぶ〜け」(集英社)を離れ、描き下ろしとして続巻が執筆された「イティハーサ」。その経緯をここで取り上げるつもりはありません。そのかわりといっては何ですが、水樹先生のホームページを紹介しておきます。現在の先生の活動がすべてわかる水樹ファン必見のページです。 |