綾波日記 捕足予備役訓練についての考察
日根野谷 ちょ〜じん






     1


223口径実包を アーモケースから取り出す。
最新の高精度軍用実包であるM−331実包だ。
通常のM−168実包よりも狙撃専用に高い精度でロードされた実包ね。
10発ごとにクリップで止められ軽くかしめられている。
弾頭部を保護するスポンジキャップを外してマガジンのフロアーにクリップを合わせて差し込む。上から実包を押し込むと、かしめが外れて一瞬で10発が マガジンに押し込められる。
ジャラッ。ジャラッ、ジャラッ!
数秒で 30連マガジンが装填出来る。
空き缶にクリップを捨てる。
ポンポン。
マガジンを軽く叩いて、カートリッジの底を揃える。
同じ要領で30発の223口径実包が装填されたマガジンを5本用意する。
立て掛けてある 自分の銃に マガジンを入れてコッキングピースを引く。
シャキンッと音をたてて ボルトが閉鎖される。
射撃訓練が始まって以来、使い続けているライフル。
私の愛用品。
私の使用しているのはMー16アサルトライフル。
ただし、カスタムなの。
装備課の専属ガンスミスであるデイブさんが作ってくれた 私専用のライフル。

「レイは 身体も小さいし細いから軽く仕上げておくよ。」

そう言って作ってくれた.
云う程には そんなに軽くない、と最初は思った。
でも、実際に使ってみると軽く感じる。
優秀なガンスミスであるデイブさんは 使い勝手の軽い銃を作ってくれたんだなって その時に気がついた。
そのライフルは 本当に良く当たる。
私でも 軽々と扱えて 反動も小さく感じる。
同じ実包を使っていてもアスカさんのH&Kなんかより遥かに反動が小さい。

「Mー16は 元から反動が小さく感じる設計になっているんだよ。
直銃床とピストルグリップを採用しているだけじゃあなくって、ストック内にリコイルスプリングを仕込んであるし銃身からボルト、制退機構を抜けて 反動が一直線でストレートに肩にかかる設計になっているんだ。
もっとも、それ以上に反動を軽く感じさせる秘密の改造をしてあるんだけどね。」

そう言ってデイブさんは 笑う。
ワンオフで作ってくれたラバー製のパッドのせいかしら?
種明かしは、ストックの中に納められたリコイルスプリングにあるの。
ノーマルのそれと交換する形に納められているのは 角形断面等長ピッチの2重リコイルスプリング。
そして、リコイルスプリングガイドには オイルダンパーが仕込まれている。
このタミヤ製ラジコンカー用350番シリコンオイルを封入して 反動を吸収するワンオフのショックアブソーバーは、M16を穏やかな反動特性にしてしまう魔法の部品ね。
ノーマルで650発/分の発射速度を持つM16を 450発/分までデチューンしてしまうの。

「フルオートの制圧能力は落ちるけども、レイの体格じゃあどんなに頑張っても223口径のフルオートは使い切れないんだ。
それだったら、セミオートの性能を最大限に活かす方向にチューンを振った方が良い物が出来るだろ。」



セフティをかけた状態で、リスにバイポッドを装着する。
このM16はデイブさんが言った様に セミオート射撃に最適の改造が数多く行なわれている。
そのひとつがリンズ社製37インチヘビーバレルの採用。
ステンレス製だけれど パーカーライジング処理で、レシーバーと同じ緑がかったグレーに染められている。
ノーマルが20インチのミディアムバレルだから、重量が一気に2キロ近くも重くなってしまうの。
でも、お陰で 必中距離が一気に伸びた。
精度を高める為にレシーバーとフレームも全てオーバーサイズの物と交換している。
オーバーサイズとは、ノーマル部品よりも僅かに大きなサイズで噛み合わせ部分を鋳造してある物の事を言うの。
勿論、そのままじゃあ部品を組み込む事が出来ないのよ。
全ての部品を擦り合わせてフィッティングするの。
ボール盤や旋盤を使って、手作業で 内部の溝ひとつまで精密なサイズに削り直して組み立てるのよ。
ノーマルは量産可能な様に、大きめのクリアランスをとって製造しているから 各部の精度が一定以上は上がらないの。
デイブさんは 言ったものだ。

「それにしても M−16は ノーマルのままでの精度が悪過ぎるよ。
これだけスムーズな反動制御出来る機関部を持っているのに もったいない。」

でも、この32インチヘビーバレルと手作業で組み上げられた機関部の組み合わせで 100ヤードでのグルービングが1インチ以内の高い命中精度を実現しているのよ。
私は、好みで そこにリスと ニコン製マルチモードスコープを装着している。



イアープロテクターとイエローのシューティンググラス。
これも定番ね。
発射音は馴れる事は出来るけれど、轟音による鼓膜へのダメージは馴れが無い。
射撃音に馴れたつもりで撃っていて難聴になってしまうのは 初心者には良く有るお話だそうね。
火薬ガスの噴き戻しにも対処し、射撃視界明度を上げるイエローのシューティンググラスをかけると、私は伏射姿勢をとった。
ちらりとレストの旗を見る。
右からの風。
気流を読んで 照準を調整するの。
スコープに映る300m先の光景。
拳銃を構えた暴漢の姿を模したターゲット。
呼吸を整えリズムをとる。
吸って・・・吐いて・・・吸って・・・止めて・・・・トリガーを絞る。
バン!
吸って・・・吐いて・・・吸って・・・止めて・・・・トリガーを絞る。
バン!
1マガジン30発。
集中を解いて、ホールドオープンした銃を置く。
柱に付いた射撃終了ボタンを押してから 傍らの三脚に据えた着弾確認用50倍率スコープを覗く。
30発撃った。
かなりバラけている部分と 中心に集まっている部分に別れている。
射撃も車と同じ。冷えた銃身を程良い状態に持って行き 初めて本来の命中精度を発揮する。
だから、射撃においては有効射程と云う言い方以外に 必中射程と云う呼び方がある。
とにかく どんな状態でも撃てば当てられる距離だ。
私の場合は60mがせいぜいね。
それでも、チルドレンの中では一番ライフル射撃に長けている。
一般警察の狙撃手クラスだそうね。
6発連射すれば300m以上の距離でも当てるけれど、初弾で致命傷を与えうる腕は無い。
1流ともなると 100mを軽くオーバーする距離で、冷えた銃身のままで、風を読み湿度を感じて弾着を予想して初弾で必中させてしまう。
私達の周りで射撃している人達のほとんどが そうした腕前を持っている。
保安3課の人達。
レストに着いている全員の射撃終了確認が出来たのか。
ブザーが鳴って射撃終了の合図が出る。
私は、空のマガジンを抜き エジェクションポートに赤いリボン付きの安全ブロックを咬ませて、未装填が確認出来る状態にして ターゲットの交換に立つ。



「どうも、あたしはライフル射撃って性に合わないのよねぇ。」

アスカさんが云った。

「わしもや。
あの、M60とか云うマシンガン。
あれを乱射するっちゅうのが一番ええわ。」

鈴原君が応える。

「僕は拳銃かな。
それも オートの奴。」

碇君が云う。
今日の訓練メニューはライフル射撃。
保安一課訓練中隊の 郊外の長距離射撃場。

「凄い! 凄い! 凄い! 凄い!」

見学者席で相田君がなにか云っている。



全ての適格者は予備役准尉としてネルフに所属している。
これは、通常の保安保護活動に加えて、政治的な圧力から彼等を護る為でもある。
世界で、ネルフ本部以外でエヴァをハンガーアウト出来る設備は6ヵ所。
全て基幹支部として押えてあるから 極秘裏にエヴァを建造する様な真似は出来ない。
仮に どこかの国が新しい建造施設を作りえたとしても、最も安価な後期量産型エヴァでも、ニミッツ級大型原子力空母4セット(8隻)分を新造するだけの費用がかかる。
情報部なんか必要無いわ。
会計監査で簡単に発覚してしまう。
直接でも間接でも圧力をかけて簡単に潰してしまえる。
だから、エヴァが配備されて 彼等が再びエントリープラグに囚われる事は無い。
でも、念には念を入れて。
彼等に何等かの圧力がかかっても、ネルフの力で跳ねのける事が出来るようにする為に、予備役に入ってもらったの。
昔日のゼーレの暴挙の如き真似を 国家が行なわない様にする為の措置ね。
これまでは 名前だけを登録していたけれど、去年の年末のゼーレ工作員侵入事件の経験から 彼等にも最低限の訓練を施す事になった。
今日は その前準備の見学会。
見学者席には 興味と不安の入り交じった顔。
そして喜色満面の顔が一人だけ。
ずらりと並ぶ中学時代の同級生達。



てくてくと300mを歩いて ターゲットを回収。新しいターゲットを標的柱に着ける。
着弾の確認。
6発が失中している。
10発が ぎりぎりで、そこから採点圏内に入って来ている。
ちょっと調子が悪いみたい。
照準調整に16発以上も使うなんて。


レンジに戻って、再装填。
確認ボタンを押して 射撃体勢に着いた事をレンジマスターに知らせる。
待つ事暫し。
射撃開始のブザーが鳴る。
ターゲットサイトの中の標的に意識を集中する。
吸って・・・吐いて・・・・トリガーを絞る。
バン!
5発撃つ度に着弾確認スコープを覗く。
次の30発は調子が良かった。
1発の失中も無しで 全弾得点圏内へ。
この日150発を撃って、まずまずの成績をあげた。



M16は 銃を二つ折りにすると簡単にボルトを抜き取れる。
発射ガスを直接ロータリーボルトに当てて作動させるM16は ボルトの掃除が大事なの。真鍮ブラシで 慎重にレシーバー内壁とボルトのカーボンを落す。
6分割のクリーニングロッドを組み立てる。
クリーニングロッドガイドを レシーバー側からチャンバーへ挿入してから、クリーニングロッドを通す。
真鍮ブラシのロッドを直接銃身に通すとライフルリングを痛めるので、ガイドを通してブラッシングする角度を固定するの。
高精度バレルは高い精度をもたらしてくれる反面、こうしたメンテに神経を使わなくてはならないの。

「凄いよなぁ、綾波は。
ライフルが あんなに上手いとは思ってもみなかったよ。」

相田君が興奮気味で言った。

「ケンスケは 明日からの訓練。どのコースを選ぶか申請したの?」

「ああ、射撃コースを採ったよ。」

「相田が銃を持つなんて危険極まりないわぁ。
オモチャと同じ調子で銃口、こっち向けないでね!」

「あ〜、ヒカリは どのコース選んだんや?」

「あは。あたしは射撃なんか出来そうもないからね。
護身のC2コースを選んだわ。」

今年から 予備役と云う事で、定期的に訓練に参加する事が義務付けられている。
これも、彼等の護身の為ね。
でも、実施されるのは 今回が初めて。
でも、完全にレジャーと考えて喜んでいる人も1名居る。





     2

「ふっふっふっふっふ・・・・」

俺は感激だぁ。
こうして本物の銃を撃てるなんてぇ。
モデルガンやエアガンじゃあない。本物の、火薬で発射する、耳がキーンとなる、硝煙の匂いのする鉄砲だ。
予備役給与があるだけじゃあなくって こうして射撃訓練まで受けられる。
もぉ、本物の軍人になるつもりは無いけれど、純然とした趣味でこうして射撃を楽しめるんだから予備役も悪くない。
本部内に室内射撃場があるそうだけれど、ライフルを含むコンバットシューティングは絶対に野外の方が良いとの意見で こうして箱根射撃訓練場が新設されている。お陰で小火器の射撃訓練は ピクニック気分で行なえる。
そうだよな。
シューティングでは 風や湿度の影響を感じ取って それを活かす射撃方法を身に着けないといけないからな。
実戦的ぃ〜。
流石にコンバットシューティングは どこに弾が飛ぶか判らないので 全周囲防弾設備の整った室内射撃場を使うしかないんだけどね。
ネルフが用意してくれたのは ホーワの22口径ライフルと スタームルガー22口径オートマチックピストル。それとS&WのM610って言う やっぱり22口径のリボルバーだ。

「一応用意しただけだからね。
予備役の君達が 拳銃を所持出来る筈も無いんだから。」

装備課の東三曹はそう云ってプリンキング用に使われる22口径980発お得用アーモパックを用意してくれた。

「お〜い。みんな22口径かよぉ。」

「相田ぁ! ナマ言うんじゃないのよ!
銃器の恐ろしさを教える為の射撃よ。これで上等じゃないの。」

惣流が言った。
確かに悪くは無い。
まるでオモチャの様な 本物の凶器。
モデルガンなんかの方が よっぽど仕上げが良い。
初心者用プリンキングガンばっかりなんだから当然とも言えるけど、それでも遥かに仕上げの良いエアガンなんかとは 全く違う迫力が有る。
多分、これは 本物の人殺しの道具だからこそ感じ取れる迫力なんだろうな。

「なぁ、シンジ。もっと強力な奴は撃てないのかぁ?」

「ずっと持つ訳じゃないしね。
銃の怖さを知る為には これで充分だよ。」

「そぅかぁ? トウジもアスカも357マグナムだろ?」

「なに云ってんのぉ。あたし達が使ってるのはシルバーチップの38スペシャル・プラス・パワーって実包よ。
マグナムなんて 連射で不利になるだけじゃない。」

「え? ダムダム弾じゃないか? 良いのか? そんなの使って?」

「ネルフは厳密な意味で軍隊じゃないからね。これで通ってるのよ。」

「いいなぁ。そっちを撃たしてくれよぉ。」

「い・や! 可愛い愛銃よ。」

「トウジぃ。」

「とりあえずは 22口径で稽古せんとのぉ。」

「しかし、8人で980発かぁ。
もっと撃てないもんかなぁ。」

「実包を買えば撃てるよ。そこのPXで。
僕等も練習用に支給される分以上に 実包を使うからね。」

「本当か! よぉし。目一杯撃ってやるぜ!!」



「最初は、射撃に慣れる事を心掛けるんだ。
発射の瞬間に目を瞑らなくなるまで慣れろ。
当てるのは それからだ。」

射撃教官のバグ曹長の言葉に 俺は聞き入った。
実戦の猛者。保安3課のアーマードトルーパーのお言葉だ。
やっぱり実戦の猛者は言う事が違う。
射撃姿勢がどうとか言うんじゃあなくって まず馴れる事から始めさせる。
缶入り特売のノルマ22口径ロングライフル実包パックを開けて、渡されている銃に装填してゆく。
まずはリボルバーだ。
M10・ミリタリー&ポリスをステンレス化して プリンキング用に22口径化したのがS&WのM610だ。
耳栓オーケィ。ちっぽけな22ロングライフル実包をシリンダーに装填する。
実弾の重みだぁ。
銃を振ってスイングアウトされているシリンダーをセットしたら惣流に怒られた。

「こらぁ! なに、やってんのぉ! そんな事したら狂いが出るじゃないのぉ!」

「え? そうなのか?」

「あちらの映画なんかでも リボルバーをそんな使い方してる場面は無いでしょ!
日本のテレビだけよ。そんなぞんざいな扱い方をするのは! 指でスムーズにシリンダーをセットするのよ!
公共の備品なんだから大事になさい!」

「はい〜。」

気を取り直して射撃の準備。
10mの位置でセットされたターゲット。
射撃ブザーが鳴る。
心を鎮めながら構える。
良くあるみたいに 片目を瞑ったりしないぜ。俺は。エアガンの射撃で 照準が狂う事を肌で知ってるんだ。ちゃんと両目で照準する。
サイトは マンターゲットに入る。
逸る手指を押えて 慎重にハンマーを起して・・・・トリガーを絞る・・・・
パン! パン! パン!
思っていたよりも遥かにあっけなく実弾は発射された。
反動だってきつくない。手首が クンってあがるだけだ。
でも・・・でも・・・気持ち良いぃ!!!
あああああああああああ・・・・・・・恍惚と不安我にあり!
僅かな逡巡で熱く焼けた鉛弾を放つ凶器が我が手の中に!!!
これが・・・・これが・・・・これが・・・・・本物の射撃なんだなぁ!!!!
本当は大声で 見ているシンジ達にこの感動を伝えたかったけれど、オモチャのつもりで莫迦な真似をしたら 即時射撃訓練は中止する!と言い渡されていたんで ぐっと堪える。
替りに 目一杯力を入れてガッツポーズをした。
惣流が呆れた様な顔で見ていた。


しかし、リボルバーも良いけども やっぱし俺はオートマチックが良いなぁ。
スタームルガーの22口径オートマチック。
水道管を組み合わせた様な簡単な形のプリンキング用拳銃だ。
でも、これが えらい信頼耐久性と高い精度を持っていて、開発販売されて半世紀。未だにプリンキング用の分野で最高の1丁として知られている。
なんてったって、1丁1万円以下のピストルで ここまで高性能の奴は無い。
5倍は値が張る奴よりも高性能で、スタームルガー社は これで1丁で大会社になった様なもんだ。
俺は リボルバーのシリンダーを振り出したままでレストに置いて スタームルガーのマガジンに実包を9発装填する。
3本用意したマガジンから1本を銃のグリップに納めてスライドを引く。
ジャキン。

「う!」

うううううぅぅぅぅぅぅ。思わずおめきそうになって 堪えるのに苦労した。
モデルガンのプラスチックの安っぽい作動の感触じゃないんだ!
金属のメカニズムが作動する感触!
感動だぁ!!
よ〜し! 撃つぞ!撃つぞ!撃つぞ!
パン! パン! パン!
おおおおおぉぉぉぉぉ!
撃つ度に反動が来て 空薬夾が飛んでゆくぅぅぅ!
オートマチック拳銃の快感! ここにありぃ!!!


射撃中止ブザーが鳴って、俺は教えられた通りに スライドをオープンして赤いリボンの付いた安全ブロックをエジェクションポートにかまして マンターゲットの交換に出る。

「おかしい! あんなけ撃ったのに、なんで当たってないんだ!」

「あんた、ターゲットを見てないで 手元の拳銃ばっかり見てたみたいね。」

惣流は 大笑いしていた。

「アスカ、最初はあれで良いんだよ。」

ううううう。バグ曹長まで笑いを堪えてるぅ!
他の奴のは結構当たっていたのに 俺の奴は外れの位置に数発当たっているだけだ。
銃器についてシロウトの奴等が 得点圏内に入れているのに、自他供にマニアと認める俺が こんな様では 恥だ!
くっそぉぉぉぉ!!!


俺は、とにかく撃った。
60発を越えた頃から 発射の瞬間に眼を瞑る事も無くなった。
手元の拳銃だけに意識を集中する事も無くなった。
意識を手中するのは ターゲットの方になんだ!
拳銃は道具なんだ! その道具を活かす使い方をしないと駄目なんだ!
エアガンなんかの射撃と同じだ。
22口径は その点でも 発射音も小さいし反動もマイルドだ。
本当に楽に撃てるから 撃ち込みをやって射撃感覚を簡単に養える。
最初は大外れだったけれど、落ち着いて狙い出すと、俺は得点圏内の10点ラインを連発だ。
馴れてきて気付いた。
今の弾薬は硝煙の匂いなんてしないんだ。甘ったるいコルダイト火薬の臭いだ。

「相田が こう言うのが好きなのが解ってきたぜ!」

みんなもそう言って バンバン撃ってゆく。
あっと言う間に 缶入りアーモパックは空になっちまった。
そりゃあそうだ。
射撃コースを選んだ8人で バンバン撃ちまくってたら そりゃあすぐに無くなるさ。

「どうだ! 射撃って面白いだろう!」

「はい!」

「大分、当たる様になってきたみたいだな。
どうする? 
実包をPXで買って来て 射撃を楽しんでゆくか?」

バグ曹長のお言葉に俺達は答えた。

「勿論です!」





     3

ミリタリーボールと呼ばれる射撃練習用実包の50発ケースを4つずつ持って 私と碇君もレストに就く。
マンターゲットをセットする。
いつも携帯している私達の拳銃。
碇君も私もイタリア製のベレッタを使用している。
碇君は ベレッタのM84を。私はM85を使用している。
同じ、380ショート実包を使う兄弟機種とも言える護身用自動拳銃ね。
ストレートブローバックとダブルアクション。そしてアンビセフティを備えたメカニズムを持つM84は 小型拳銃ながらもダブルカラアムマガジンを使用して 13発の装弾数を誇る。
でも、そのせいでグリップは分厚くなってしまい 私の様な体格では常時携帯は難しくなってしまった。
M85は そんなM84のメカニズムをそのままにして マガジンをシングルカラアムの8連装にしてあるの。
だから グリップは二回りも薄くなっていて 私の体格でも無理無く隠せるの。
マガジンを抜いてスライドを引いて、入れてあるシルバーチップ実包を排夾する。
マガジンのシルバーチップ実包も抜いて、替りにミリタリーボールを装填する。
シルバーチップ実包は高価なの。ミリタリーボールの4倍以上の値段。射撃練習で使うのにはもったいなさすぎる。
射撃ブザーが鳴った。
黄色のシューティンググラスとイアープロテクターを着けて、私も自分の拳銃のスライドを引いた。
右手は前に押し出す様に。トリガーガードのフィンガーレストに指をかけた左手は引く様に。力が釣り合い銃の保持が安定する。
トリガーを絞り込む!
バン!! バン!! バン!!
速射で一気に撃ち尽くす。ポーチに納めた予備マガジンとクィックチェンジ。連射を続ける。
ネルフの射撃術は警察用のそれに近い。
撃ち尽くしたマガジンは リリースして捨ててしまわずに 受け止めて入れ替える。
これはインドア戦闘を考慮しているからで、空のマガジンを床に落とす音で 敵に隙を知らせない為。
押えたスピードで 3マガジン24発を30秒程度で撃ち尽くす。
ブザーが鳴って、射撃終了。
マンターゲットを回収する。
まずまずね。
10点圏には4発しか入らなかったけれど、全弾得点圏内に納まっている。
次は もっとスピードをあげるわ。

「ライフルも凄いと思ったけども 綾波は拳銃も上手いんだなぁ。」

相田君は なにやら興奮しながら私の拳銃を見詰めている。
速射したので 銃身を醒ます。
加熱したまま連射を続けると 銃弾の材質で銃身内のメッキ化現象が起こり 命中精度が著しく低下するから。
替りに鈴原君とバグ曹長がレストに就いて、ファーストドロウから速射までを披露する。
鈴原君の銀色のカスタムリボルバー。バグ曹長のULTLAが フルパワー実包の迫力で放たれる。

「凄い! 凄い!! 凄いぃぃぃ!!!!」

相田君達は譫言の様に バグ曹長の射撃に見とれている。
10ミリ口径のオートマチック拳銃を まるでマシンガンの様に連射するバグ曹長。1秒程度でマガジンを使いきり、クイックチェンジ。10秒程度でマガジン3本を撃ち放つ!
そして、マンターゲットの得点圏内に全て入れている。

「いつもは20mでやってるから楽なもんだぁ。」

そう言って バグ曹長は笑った。



「どっこいしょ!」

なにやら荷物を持ったアスカさんがやって来て レストに就く。
装備課の銃器輸送用のジュラルミンケースだわ。

「おお! えらい粋なもん、持っとるやないけ。」

「そ〜よ。1967年製のコルトパイソン6インチモデルよ。
なし崩しに品質劣化が起こる前の、一流メーカーだった頃のコルトの名作よ。」

開いたケースには 珍しい拳銃が何丁か納められている。
実包ケースも一緒だから重かったでしょうね。

「こ・こ・こ・こっちは ソーコム・ピストルじゃないかぁ!! HkのMk23だぁぁぁ!!! しかもサイレンサー付き!!
おおお! ルガーP08じゃないかぁ!」

「オートも試してみたかったのよぉ。」

「ショーケースに並んでいた奴だね。
またゴネて 引っ張り出してきたのかい。」

「借りただけよ。いっぺん、こいつを撃ってみたかったのよぉ。」

「なんちゅ〜てええか、ごっつう威嚇的な面構えのリボルバーやのぉ。」

鈴原君の云う通り、ベンチレーテッドリブを載せたヘビーバレルは 酷く迫力がある。でも、Mk23の方は どうもピンとこない。
なによりも グリップが大きすぎて握り込めないの。
これは私向きじゃあないわ。

「凄い! 凄い! 凄過ぎるぅ〜!!!」

騒いでいる相田君をよそにレストに就いたアスカさんは、バレルとシリンダー内の妨錆保護剤を確認した上で洗浄剤を湿したブラシを通す。
いつも使っている6連スピードローダーに 38スペシャル・ワッドカッター実包を装填する。
Mk23は 簡単分解した上で バレルにブラシを通す。
5本用意されているマガジンに45ACPミリタリーボールを装填する。
ルガーP08は フロントのロッキングラグを回して連結を解いて、バレルとトグルジョイントを外して簡単分解。バレルにブラシを通す。
そして、どこかで見た覚えの有る自動拳銃も同じ様にブラシを通す。

「やっぱし、ドイツ製のP08は良いわね。
なんか、しっかりした感じがするわ。」

「惣流。これ、戦後に作られたモーゼル製じゃないか?」

「うっふっふぅ。
違うのよねぇ。
大戦前、1921年製のオリジナルよぉ。」

「うぇ〜。そんな古いの 大丈夫なのかぁ?」

「ちゃんと現役の奴だそうよ。」

「これ・・・・なんて言うの?」

覚えはあるけれど それが何なのか判らない自動拳銃。

「H&KのP436よ。 ほら、護衛官のユリエが使ってる奴よ。」

「あの5・7ミリ口径の奴かい?」

碇君が訊ねる。
言われて思い出した。菱沼三曹の使っている拳銃ね。

「そ〜よぉ。
こいつも 撃ってみたかったの。」

いそいそと準備にかかるアスカさん。
5・7ミリ実包は 細くて長い。
20連マガジンなのに グリップも握り易いそうね。
標的を付けて射撃位置まで下がらせる。
私達もレストに就て準備する。
ブザーが鳴って射撃開始。ここで喚いたら追い出されるので 流石の相田君も口を閉じている。
ドロゥして 一気に6発をダブルアクションで連射する。
強力な破壊力を轟然と吐き出すコルトパイソン。
私も負けてはいられないわ。
装填したベレッタM85をクイックドロゥ。フィンガーレストに左手の指をかけての速射。体重を前にかけて 反動を受け止める。一発を残してマガジンリリース。マガジンを入れ替えるや再度の連射。
3本のマガジンを20秒程で撃ち尽くす。
隣のレストの碇君の速射はもっと凄い。
身体が大きな分、反動を堪える事が出来るせいかしら。ベレッタM84をマシンガンの様に撃ちとばす。
鈴原君も同様。
ドロゥは遅いけれど トリガーを引き始めると安定した射撃を見せる。
やはり反動を堪える事が出来るからかしら。
S&WのLフレームカスタム8連発リボルバーを速射する。



アスカさんは 首を捻りながらコルトパイソンをゆっくりと撃っている。
そして諦めた様にソーコムピストルに切り替えた。
でも、こちらも釈然としていないみたいね。
やがて ルガーP08に持ち替えて、やっと満足の表情で9ミリパラベラム弾をバラ蒔く。
マガジン3本を使いきって、今度はH&K・P436へ。
こちらも満足の表情で 撃ちまくっている。
マガジン20発のキャパシティは半端じゃあないわ。まるでマシンガンの様に撃っている。
ブザーが鳴って射撃終了。

「Mk23は グリップが大き過ぎてあたしの掌には合わないわ。撃つ度に勝手に暴れだすんだもんね。」

「一遍、わしも撃ってみよか。弾ぎょうさん残ってるやないか。」

「後でなんか奢るって云うんだったら 弾あげるわよ。」

「よっしゃ。晩飯奢ったる。」

「良いわ。ラウンジのステーキセットとパフェよ。」

「げ!」

容赦無く 一番高いメニューを云うアスカさん。
こうして借り出した拳銃に使う実包は個人持ちなの。
アスカさんは Mk23を1マガジンしか撃っていない。2ケースを用意した45ACPは 残ってしまっている。

「サイレンサーの試し撃ちは後でやってみるわ。」

「だけど パイソンの方は どうして撃つのを止めたの?」

碇君が訊いた。

「ん〜、なんて云えば良いのかしら? 
まるでモデルガンみたいに トリガーを引く程プルがきつくなるのよねぇ。」

「パイソンは トリガーのフィーリングが悪いって話だぜ。」

知識だけは豊富な相田君が口を挟む。

「パイソンって ひとつのリーフスプリングで ハンマーの打撃からトリガーのリリースまでする構造になってるんだってさ。
だから、シングルアクションでは良いけども ダブルアクションなんかじゃあ 最後の方で引っ掛かるみたいな感触になるって本に書いてたぞ。
だから、これ以降のコルト製リボルバーは S&Wみたいにスプリングを2本使う別構造になったそうだよ。」

「へぇ〜、そうなの。」

「でも、S&WのKフレーム系リボルバーに比べて2段は上の構造強度とシリンダーの回転精度を持ってるんで、フルロードの357マグナムなんかを使いこなすのには ちょうど良いんで 狩猟用のサイドアームに多用されたって話だぜ。
なぁ、惣流。俺にそいつを撃たしてくれよぉ。」

「ええ〜。ちょっと無理じゃないのぉ。」

「頼む! この通り!」

「今日の夕飯は確保したから 明日のお昼を奢るんだったら考えても良いわよ。」

「奢る! いえ、奢らせてください。」

「よぉし。でも、その前に22LRを300発は撃って 拳銃そのものに馴れなさい。それと、使う弾は自分で買うのよ。」

「やったぁ!! コルトパイソンが撃てるぅ!!!」

「相田は 若鴨のクリーム煮をセットで デザートも付けて奢るのよ。」

「了解です。少尉殿!」

「あんた、それ皮肉ぅ! あたしは まだ准尉なのよ!!」

「あ・いや、隊長殿ぉ。」

またしても容赦無く高価なメニューを並べる。
天井都市のラウンジの高額メニューを制覇する気かしら。



2ケースずつしか用意していなかった9ミリパラベラムと5・7ミリは すぐに底をついた。

「この2丁は良いわねぇ。
護身用に常時携帯するとなると やっぱし使い慣れたコンバットマグナムになっちゃうけれど、射撃を楽しむとなったら これは良いわよ。」

ルガーP08とH&K・P436。
確かに握ってみると 2丁とも掌にしっくりとくる。
特にルガーP08は グリップの角度が掌に馴染むと言う表現にぴったりね。

「このP08は 完全にマニア向けね。
装備課の話じゃあコレクターズアイテムを参考購入したそうだけど 2000ドルはしたって話よ。」

普通の自動拳銃と違って、ルガーP08はトグルジョイシステムと言う制退機構を備えている。
バネ仕掛けの尺取虫の様なジョイントでボルトを支えていて、発射反動でボルトが後退すると 尺取虫の様にメカニズムが動くの。

「普通の拳銃みたいに ストレートに後方に動くスライドを使っていないから メカニズム的に理に適っている訳じゃあないそうよ。
だから オーバーパワーで排夾トラブルがすぐに出るそうだしね。
でも、なんかえらく肌に合うのよね。
流石、ドイツ製ね。」

H&K・P436も プラスチック成形のフレームは握り易い。

「こいつは えらく反動が小さく感じるのよね。
やっぱし、プラフレームの撓みと グリップが上になっているせいかしら?」

菱沼3曹の持っている物の様に 鮮やかな色のカスタムグリップや削りだしトリガーは着けていないけれど、それでも 私の掌サイズで良く掌に馴染む。
お昼からは私達も 5・7ミリと9ミリパラベラムをPXで購入してきて撃ってみる事にした。





     4

俺は興奮している。
なんてったって、名銃を撃てるんだぜ!
冴場遼も愛用したコルト・パイソン357マグナム。
そして、特殊部隊用に開発されたって云うソーコム・ピストルだ!
次元大助も愛用するS&W・M19コンバットマグナムの2・5インチモデルも撃ってみたいが 惣流は貸してくれないだろうなぁ。
一応は あいつの愛銃だしさ。
しかも希少品だしなぁ。
まぁ、良いかぁ。それでも パイソンとMkー23を撃てるんだから。

「ケンスケ、感激ぃ!!!」

想わず頬が緩むのを堪えて 22ロングライフルを撃ちまくる。
早く銃に馴れよう。
そう思うと消化弾数も気にならない。
なんてったって45口径と357マグナムを撃つんだ。
気合いを入れておかないと どんな失敗をするか判ったもんじゃない。
パン! パン! パン! 
馴れてくると 22口径の発射音は まるで爆竹みたいなんだって気付いてくる。
そのリコイルも、馴れてみると反動付きのエアガンを ちょっときつくした程度じゃないか。
だけど、シンジ達の持っている拳銃は違う。
マジで バガン!って迫力ある音がするし、握る手首が反動で震えているのが判る。
綾波は あの細い身体で、でも全体重をかけるみたいな撃ち方で かなりのスピードで速射をする。
やっぱし、馴れなんだろうなぁ。
惣流も ルガーP08とH&K・P436を ご機嫌で撃ちまくっている。
轟音をあげて連射されるP08。
惣流の細腕がしなる。
チャンバーに1発残してマガジンチェンジ。
空薬夾が 仕切りの金網にペコペコ当たっている。
まだ、反動のきつい9ミリパラベラムは 気を付けて撃ってるって感じだけれど、反動の軽い5・7ミリの方は 完全に遊んでるな。
20発も入るマガジンをフルロード。
まるでマシンガンみたいに えらいスピードで速射してる。
体重をかけて反動を受け止めての連射。
さっきのバグ曹長の射撃みたいだ。
凄いなぁ。
綾波のライフル射撃も凄いって思ったけども、惣流の拳銃射撃は迫力だなぁ。
マンターゲット交換の休憩の時に訊いてみた。

「う〜ん。
スライドが 反動で後退してるのが判るのよね。
それで、スライドが後退してる時にトリガーを絞る様にしてたら 自然と出来る様になったのよ。」

さらりと言ってくれるぜ。
しかし、惣流の運動神経の良さを 見せ付けてくれるお言葉だな。
俺は あんまり運動神経は良くないから あそこまでは無理だろうな。

「これだけのスピードで連射するから 照準はバラバラね。
ほら、半分が処 ターゲットを外しているわ。」

「それでも凄えよ。」

「なに云ってんのぉ。

アーマードトルパー達なんて もっと凄いわよ。
45口径とかで 得点圏内に纏めるのよ。これ以上のスピードで撃ってね。」

う〜む。
上には上がいるって事だなぁ。



シンジとトウジが ソーコムピストルとパイソンを撃ちだした。
豪快な発射音。
惣流は 合わないって云ってたけども シンジもトウジ楽しそうに撃っている。

「確かに重いし 振り回すのには向いてないけど、これ使い易いよ。」

「おお。反動が軽ぅ感じるわ。
よう出来たもんやで。」

「やっぱし、掌のサイズの関係かしら。」

「そやのぉ。
惣流が握ると 指がグリップに回ってへんっちゅう感じやったで。」



バグ曹長が説明してくれる。

「Mkー23は 旧世紀末に45口径で米国の特殊部隊用に 目一杯のタフさを発揮出来る様に開発したピストルなんだ。
9ミリじゃあストッピングパワーが足りないとしてね。
ネルフと違って 普通の軍隊ではシルバーチップなんかを使ったら国際条約違反だから 口径の影響は大きい。
ただ、デカくなり過ぎた。
本来は 昔の名銃コルト・ガバメントの性能を再現するつもりで発注したらしいぜ。
天才・ジョン・ブローニングが開発した45オートは 細かい部分まで考え尽くされて設計されてる。
今は 技術者が必要な機能と性能を想定して設計している。
天才の閃き無しで理詰めで作られたから、同じ機能と性能を再現したら 500グラムが処も重くなっちまったんだ。
グリッピングも悪過ぎるから 発注先の米国特殊部隊以外からは軍用としては完全に締め出されているけれど 民生用で売れまくって商業的には成功したモデルだろうな。」

やっぱし 銃器の分野でも天才技術者が居るって事だなぁ。

「まぁ、その替りって云っちゃあ何だけど、新しい分で サイレンサーを標準装備出来るとかもあるんだけどな。」

ちょっと説明しておこう。
自動拳銃は スプリング仕掛けのスライドを備えている。
発射すると スライドは反動でフレームに刻まれたレールの上を後退しつつ空薬夾を放り出す。そして、スプリングの力で元に戻る時に グリップ内の弾倉から新しい実包を噛み込んで薬室に装填する。
ちょっと考えれば解るだろ。
銃身から銃弾が発射される。反動でスライドが下がる。
いくら重くてスプリングで押えられたスライドでも 銃口から弾丸が出て行く前に下ったら、爆発中の薬室を開いてしまうって事だ。
低出力の実包なら大丈夫だけれど、高性能実包となると 大体が弾丸が出て行く前にスライドが開いて 手元で大爆発ってな事になっちまう。
それを防ぐ為に ハイパワーの自動拳銃は 銃身とスライドは噛み合わさっていて一緒に数ミリ後退して、その分で弾丸が発射された後で結合が解けて前記のサイクルで再装填が行なわれる。
解るだろ。銃身に余計な物を付けていたら一緒にきっちりと後退出来ずに 自動拳銃はジャム(作動不良)を起こすんだ。
だから 昔の映画の様に無造作に自動拳銃にサイレンサーを付けるって言うのは 実際には絶対に行なわれなかった。連射不能の銃なんて誰が使うもんか。
だけど、ソーコムピストルは違う。
サイレンサーを使用しても作動不良を起こさない構造を最初から持っているんだ。

「コルト社が品質を維持出来ずにガバメントの性能は地に落ちちまったけれど H&Kは高品質な銃を量産するので定評のある会社だからな。
ついでにサイレンサーでも新機軸を取り入れて 見事な物を作ってくれたよ。」

そう言ってバグ曹長は 一緒に付いてきているサイレンサーの銃口を指で塞いで 手持ちのペットボトルから水を注ぐ。
普通、消音機であるサイレンサーは 車のマフラーと同じ構造で 音のエネルギーを熱に変換して排出する。
でも、それをやるには ある程度のサイズが必要だし、銃弾が音速を越えると全く効果を発揮しなくなる。
そこで銃声の響く部分、高周波音響をカットして 音は出るけれど遠くまで響かなくする。銃声を制御するサプレッサーが主流となった。
最もローパワーでも 簡単に銃弾が音速に倍するライフル用は 全てサプレッサー方式だ。

「水を入れるんでっか?」

「ああ・・・・ほら、これを付けて撃ってみな。」

軽くサイレンサーを振って 中身に入った水を出してからソーコムピストルに装着する。
射撃ブザーが成るのを待って トウジはサイレンサー付きのソーコムピストルを撃ちだした。
ポン!!
音量もそこそこだけれど 響く部分がカットされているので余計に発射音が小さく聞こえる。

「おおおお! ホンマに消音してるでぇ。」

1マガジン撃って トウジはびっくり。俺もびっくり。
凄い!スゴイ!!すごい!!!

「消音材を新素材にして、内部構造を流体工学の粋を集めて設計した上で、水を染み込ませて熱問題をカバーする。
これで、ソーコムピストルの発射音は60ホーンを割るそうだぞ。
音質も響かない音だから 部屋の中で撃っても 外まで響かないくらいだ。
しかも、銃本体の構造も変えていて、銃身に余分な物を付けてもジャムは起きないんだ。」

「これで、あたしの指でも握り込めたら言う事無しなんだけどねぇ。」

「・・・前に撃った・・・CIA御用達の22口径消音拳銃みたいね・・・」

惣流や綾波も評価している。
ああ!! 予備役になって良かった。
拳銃を日本に居ながらにして撃てるなんて!!
ガンマニアの本懐を遂げたって処だなぁ。





          


碇君と鈴原君は 面白がって余分に45ACPを買って来て撃っている。

「わしらの手ぇでも ちょっときついでぇ。こいつは。」

「うん。でも、反動もマイルドだし 良く当たるよ。」

「拳銃にしたら重過ぎるし グリップもデカ過ぎるわ。こら、確かに惣流の掌には余るわ。」

試しに私も撃たせてもらった。反動でグリップが踊り、親指の付け根が痛くなってしまった。
相田君は羨ましそうに こちらを見ながら22LRを撃ち続ける。
全くの初心者の相田君達はドロウは禁止されている。
新しく買い込んだ実包をひたすら消費する撃ち方ね。
ターゲットを戻して交換するのを見てみるけれど、どれもまもとに当っていない。

「モデルガンじゃあないんだ。
銃を見るんじゃなしに サイトを通して標的を見るんだ。
それと 映画の真似かも知れんが 銃を横に寝かせて構えるのは止めた方が良いぞ。」

射撃教官のバグさんが細かい指示を与える。
基本的には 予備役訓練として規定量の実包消費数をあげる為の射撃教室なのだけれど、教える限りはきっちり教えるのは バグさんの生真面目な処ね。

「射撃テクニックは多彩だ。
中にはとんでもない撃ち方まで在る。
ヨーロッパ式の基礎から入るスタイルから 昔の満州の馬賊の様なスタイルまで。
まぁ、現在のコンバットシューティングテクニックは 馬賊型の射撃だな。
格好よりも確実に撃って確実に仕留めるって奴だ。
だけど、そうした撃ち方で相手に当てるには まず基本が出来ていないとどうしようもないんだ。」

確かにそうね。
拳銃は上手い者が使えば100m先のターゲットにも命中させるけれど、下手糞が使うと2mの距離で5発も撃っても当らなかった記録がある。
まずは基本ね。



少しずつだけれど、相田君達の射撃が様になり始めた。
2缶目の実包ケースを使いきる頃には、ライフルも拳銃も そこそこ当る様になってきた。
暫しの休憩を挟んで いよいよコルト・パイソンとソーコムピストルが渡された。

「げ! 357マグナム弾じゃない。危ないわよ。」

「50発だけだよ。使い切れないとなったら 残りはやるから使ってくれよ。」

フルロードのマグナム実包を1ケース50発も買い込んでいる。
しかも、シルバーチップ。
357マグナムは 割合ポピュラーな実包で値段は安い。
それでも1発当たり缶コーラ1本と同じ程度の値段になる。
それがシルバーチップとなると 一気にその5倍以上の値段に・・・・・
・・・・・あまりにももったいないわ・・・・・

「お前・・・・・宝の持ち腐れやでぇ。」

「本当よ! 何考えてるのよぉ!!!」

アスカさんと鈴原君は横から口を出す。

「まぁ良いわ。手首をいわして使えなくなったら その実包はあたし達が貰ってやるから。」

「そやの。わしらは たまにやけど357も使うよってにの。」

「・・・・・そんなにきついのか?」

「まぁ、やってみなさいよ。」

「よ・・・ようし!!!」

射撃ブザーが鳴って 相田君はパイソンに357マグナム実包を装填する。
高価なシルバーチップ。
・・・・・もったいない・・・・
相田君は3発撃って手首を挫き 彼の今回の射撃訓練の幕を引いた。
僅か3発の為に ラウンジで高価な食事を奢るハメに陥った相田君は 滝の様な涙を流した。
初めて拳銃を撃ったその日に357マグナムのフルロードは やっぱり荷が重すぎたのね。

「よっしゃ! 残った実包はわしらで使うたるでぇ。」

「・・・・私も・・・・リボルバーを試してみようかしら・・・・」

「やってみなさい。
リボルバーの面白さが解るわよ。」

とりあえずは 相田君のフルロードの357マグナム実包を試してみる。
まずはシングルアクション。
ハンマーを起して ゆっくりとサイティングする。
シングルアクションではパイソンのトリガープルはすこぶるスムーズね。

ガーン!!!!

使い慣れた380ACPに倍する反動。
きついわ。
親指の付け根が痛い。
でも、パイソンは手首の返しでクルリと回って射撃位置に素早く戻る。
とっても銃本体のバランスが良いのね。
でも、マグナム弾は私の体力では使い切れないのは その1発で解った。
シングルアクションオンリーで ゆっくりと6発を撃ってみる。

「・・・・・ちょっときついわ・・・・」

「こっちの実包を使ってみなさいよ。」

そう言って出してくれた38プラスパワー実包。
警察用に開発された実包で 38スペシャル実包をベースに 軽量弾頭を使用して高速弾発射用のセッティングを施した弾薬。
マグナム弾は体力と体格で万人向きとは言い難いが 38スペシャルではここ一番のパワーが足りない。
それをカバーすべく 357マグナム拳銃で撃てる反動の軽い強装弾として販売され プラスパワー・プラスと共に各国の警察で多用されている。
因みにプラスパワー・プラスは 重量弾頭使用の当りの重い実包よ。
アスカさんも鈴原君も プラスパワーを多用している。
こちらを撃ってみてびっくり。
反動が軽やかなの。

「これ・・・・とっても撃ち易いわ・・・・」

「そ〜でしょ〜とも。
なんたって、このあたしの愛用の弾薬なんだから。」

「わしも使ぉとるでぇ。」

「こいつは除外ね。」

気に入ったので ダブルアクションで連射してみる。

ズガン! ズガン!! ズガン!!!

シングルアクションのトリガータッチは良かったので ダブルアクションの粘りが余計に気にかかる。
ターゲットを確認すると 全体的にブレてれてしまっている。
訓練用に使うS&Wとは全然違うトリガーフィーリング。
変な処で堅くなり、ハンマーの落ちる瞬間が掴めない。
だから指に余計な力がかかって銃がブレるのね。

「こればかりは 構造上の欠点だから直し様が無いみたいだぜ。」

羨ましそうにパイソンを見ながら相田君が言った。

「どう? リボルバーも良い感じでしょ。
なんたって オートみたいなジャムのトラブルが皆無なのは良いわ。」

実際には私はジャムを起こした経験は皆無だけれど、これはファインチューンを施した銃だから。
一流メーカーの物以外では 自動拳銃の市販品は結構頻繁にジャムを起こすそうだ。

「ええ・・・この銃は とってもバランスが良いのね・・・・ダブルアクションの悪さが無ければ言う事の無い拳銃なのに・・・・」

「そ〜ねぇ〜」

「この欠点のせいで パイソンは狩猟用が主体になッちまったんだからなぁ。」





          


手首がおかしくなって 俺の今回の射撃訓練は終わっちまった。
失敗だぁ〜!!!
しょっぱなから357マグナムはやっぱりきつかったのかぁ。
38スペシャル弾で止めておけば良かった。

「あう〜。
明日は惣流に奢らないといけないなぁ。」

記念に実弾の一発も持って行きたい処だけど、流石にそれはマズいんだよなぁ。
銃刀法違反になっちまうから。
そんな事になったら、半年に1回でも拳銃を撃てなくなるんだ。
俺達は半分遊びだけど、シンジ達は真剣に身を護る為に射撃の練習をしてるんだもんな。
そこへ混ぜてもらっただけでも良しとしておくさ。


昼飯は 広場のテーブルで持参の弁当を拡げる。
持って来ていない者は 売店でパンを買うんだ。
昼からは 動目標に対してのラピットシューティングだ。
電動のターンテーブルに標的を付けて、それを狙って撃ちまくる。
標的は ちょこちょことレール上を何秒間か走りまくって パタンと隠れちまう。
その短い間に 命中弾を何発出すかって競技なんだ。
元々、ラピットシューティングって云うのは 自動拳銃向けの射撃競技なんだ。
短時間、ちょこっと現われるターゲットに弾を叩き込むには じっくりと狙って撃つ訳にはいかない。
弾幕を張って 数撃ちゃあ当たる式で仕留めるんだ。
それをトウジも惣流もリボルバーでやるんだぜ。
ああ、俺もやりたかったぁ!!!


射撃ブザーが鳴る。
バタン!
ターゲットが出現する。
惣流が背中のホルスターからM19コンバットマグナム2・5インチモデルを抜き放つ。

グバババババァン!!!!

ダブルアクションでの速射だ!
惣流はリボルバーで凄い連射をするんだ。
その横の綾波はオートマチックのせいか? 惣流よりも発射速度が早くて マシンガンを撃っているみたいな音をたてる。

ダダダダダダダダダ!!!!

ベレッタM85Sは 軽やかな発射音と空薬夾を振り撒く。
惣流や綾波の射撃フォームは ほぼ決まっている。
反動に負けない様に体重を前にかけ気味にして連射するんだ。
フィンガーレストに左手の人差し指をかけて安定させる両手撃ちのフォームだ。
細い腕がしなって 握る愛銃が轟音を吐き出す。

「う〜ん、やっぱし熟練者のフォームは違うなぁ。」

トウジもリボルバーだけど、8連発のカスタムだ。
身体がデカい事もあって 自動拳銃みたいな連射をする。

ドガガガガガガガ!!!

「やっぱし、愛銃が一番撃ち易いわぁ。」

あ〜、羨ましい。
俺の右の手首はプックリ腫れちまって 拳銃を撃つどころじゃあないや。
くっそぉ〜。
1キロを越える大型拳銃だけあって 実に軽やかな射撃をする。
トウジは 銃を胸より上に持って来ない。
スピード重視の米国ハイウェイパトロールの射撃フォームを基本としている。
いちいち目線の位置まで持ってあげると ロスタイムが出るだろ。
だからホルスターを抜いた位置から 即射撃開始するってスタイルなんだよな。
カスタムされたリボルバーは そんな射撃スタイルに良く合ってるんだ。
S&Wには4種類のフレームがあって、全てのリボルバーは4種類のフレームのアレンジで作られている。
J・K・N・Lの4つのフレーム。
Jフレームなんて云うのは 護身用の5連発用小型フレームだ。
Kフレームは一般的な6連発用の 肉を削ぎ落とした軽量のフレームだ。
Nフレームは マグナム弾用に肉をたっぷりと付けた頑丈なフレーム。
そして、Lフレームは44マグナムなんかに使われているデカくて頑丈なフレーム。
少ないなんて云うなよ。
コルトなんてフレームは1種類だけ。
他の大抵のメーカーも同じ様なもんだ。
後は内部部品だとか照準装置だとか銃身とかを変えてるだけなんだからな。
使用用途や実包に合わせて4種類もフレームを用意しているS&Wは偉い!
トウジは この中で一番デカくてゴツいLフレームを使って 38口径で8連発用のシリンダーを入れているんだ。
やっぱり参考として装備課で購入した奴をガメたらしい。
5000ドルはする逸品と云う話だ。
最初の頃は ハンマースパーも付いていたんだけど、最近はスパー(指掛け)を削り落としてダブルアクション専用にしちまった。

シンジはベレッタのM84Sだ。
チャンバーにも装填していると14連発になっちまう。
護身用の小型の癖をして えらいファイアパワーを持ってる自動拳銃なんだ。
中学の頃より30センチは伸びた背丈のお陰か。
もぉ、体力任せで マシンガンみたいに弾幕を張るのがシンジの撃ち方だ。

ダダダダダダダダダダダダダダ!!!

反動で腕がしなる処を 力任せで押え込んで弾幕を張るんだ。
ブザーが鳴って ターゲットの回収だ。
成績はどうだって?
云わぬが華さ。
まぁ、俺達予備役の数十倍の成績をあげたとは云っておこう。





        


「なんでこんな訓練があるんや?」

固形燃料にかけられたシチュー鍋をかき混ぜながら鈴原君が訊ねる。

「そりゃあやっぱし地域派遣体制下にあるネルフだから サバイバルの一環としてじゃないのぉ?」

料理と材料。そして道具類に触らない様に缶ビールを与えられた葛城二佐が応える。

「野外料理教室も訓練の一環でっか?」

「そぉ〜よン。」

予備役訓練生と一緒にネルフ実戦部隊の面々が多数参加して行なわれる野外料理教室。
ジオフロントの一角で300名以上の職員が集まって繰り広げられる”訓練 ”に紛れ込んでの講習である。
因みに作るのは300名だけれど、”食べるだけ”の参加者はそれに数十倍する。
いいだしっぺは保安3課のジョーンズ二尉。
最終決戦で大量に海水が流入してきて枯れてしまったジオフロントの森林地帯。
新たに植林によって東区画には大量の桜が植えられたのだけれど、外界よりも10度近くも涼しくて そんな気候に適応したのかしら?
季節のあった旧世紀の様に綺麗な桜の花が咲き乱れる様になった。
それも、年に2回も。
それで 訓練にかこつけて手作り料理を並べて花見をしようと云う訳ね。
勿論、幾つものグループに岐れて料理を相手に奮戦している人達の中にはジョーンズ二尉の姿もある。
彼自身は米国人だけれど奥さんは英国人で、そのせいか彼は英国料理が得意だ。
彼はハギスを手作り出来るのだ。
以前、分けて貰ったけれど とっても美味しい。
やはり一緒に分けて貰ったショートブレッドと一緒にハギスをつまみながらお茶を呑むと英国の味がするわ。
英国料理は味気ないって云うけれど、家庭料理ではとっても美味しい物があるのね。

「たっぷり煮込むんだぞ。
この具は煮込みが決めてなんだ。」

そう云って ジョーンズ二尉率いる保安3課の面々はカリーを作っている。
マトンとキーマを具にした目一杯辛い物と野菜を具にした穏やかな味の物が用意されている。
碇君も一緒になって タンドリーチキンを焼いている。
ちょっと邪道になるけれど、ヨーグルトに香辛料を加えて作ったタレに前日から漬け込んである。
隠し味にはソイ・ソース(醤油)を使う。
あちらでは部隊の人がカマドを作ってナンを焼いている。
普通のとレーズンを混ぜた物と。
流石に本物とはいかずに 少し手抜きのナンとなっている。でも、やっぱり種は朝から仕込んである。

「昔、インドネシア革命で調停派遣された時に覚えた料理なんだ。
日本のカレーライスとは根本的に違うからな。一食で2種類のカリーとナンが必要なんだ。」

ネルフマークの入ったエプロンを身に着けて ジョーンズ二尉は嬉々として料理を見て廻っている。
やっぱりネルフマークの入ったエプロンを着けて葛城二佐も そこいら中のグループを見て廻っている。
見ているだけに厭きたのかしら。料理に手を出そうとする度に掴まされる季節限定のエビチュ一番搾りに酔ったのかしら。
出来上がりの近い物は ちょっとつまみ食いをしようとしているのかも知れないわ。

「闘いを知る者は大体が料理が上手なもんだぜ。」

ジョーンズ二尉は笑いながらネルフマークの入ったエプロンを身に着けて見て廻っている。
お祭好きの上司である葛城二佐のお陰で悪ふざけが出来る彼は この機会とばかりに楽しもうとしている。

「何故なら、食べる気がある内は死神に囚われ難いもんだ。
だから美味い飯を用意して食い気を刺激する、と。
女っ気だとかでも動くけれど 一番身近かなのは食い気だわなぁ。」

とんでもなく散文的?だけれど 彼の云っている事は一面の真実なのかも知れない。

「あたし達はカポナータとスパゲティでいこうじゃないの。」

アスカさんと洞木さんは鈴原君達を従えて 具を煮込んでいる。

「あ〜、こう云うのを見ていると あたしの裡の料理心を刺激されるわぁ。」

葛城二佐は不穏な・・・・とっても不穏なセリフを口走りつつ 肴になりそうな料理を物色しては摘み喰いしてゆく。
今も別のグループが作っているギョウザを一切れ取ってビールを煽っている。
いかにも手持ち無沙汰って感じで眺めているもので 予備役組の男子が誘う。
元々、葛城二佐は 第一中学の面々に知られるネルフ関係者の中で最も人気があった。

「葛城さん。俺達のカレー作りを手伝ってくれますか?」

そして、彼女の食生活の実態を知らないから こんな命知らずのセリフが出るのね。

「・・・ああ・・・・可哀想・・・・」

思わず私は言ってしまった。

「でも、誰かが生け贄になればあたし達の方まで被害は廻って来ないわね。」

具の用意をしていたアスカさんが応える。

「そ・・・そんなに葛城さんの料理って酷いの?」

洞木さんが訊ねる。

「あたし達は去年の年末、ミサトの料理で病院送りにされたわ。」

今回は彼等が人身御供になってくれるのね。
最終決戦でも酷い目に遭って こうして訓練でも酷い目に遭うのね。
でも、身の安全の為にも それを止めようと云う気にはなれない。
どんどん悪い娘になってきているのね。
でも、こんな私に碇君は言ってくれる。

「レイは・・・・どんどん素敵になってくるね・・・・・」

碇君は そう言って真っ赤になった。
勿論、私も真っ赤。
うふふ・・・・・・・予備役組の人達には生け贄になってもらいましょう♪



料理が出来て 桜を見ながら食べる。
”食べるだけ”の為に参加した人達が群がって来る。
私は ジョーン二尉のカリーをいただく事にした。

「ナンをつけて食べるんだ。
でも、こっちのカリーは目一杯辛いからな。
口の中が痺れてきたら こっちの野菜のカリーとレーズン入りのナンを食べるんだ。
すると ちょうど良い辛さになるぜ。」

マトンとキーマを具にしたカリーは凄い辛さ。
一口で汗が吹き出してくる。
でも、云われた通りに野菜カリーとレーズン入りのナンを使い分ける事で ちょうど良い感じになってくる。

「・・・・・シンジ君・・・・・今度私もこれを作ってみるわ。」

「うん・・・・凄い辛さだけど・・・・それが良い感じだね。」

やっぱり辛さに汗をだらだら流しながら 碇君は云った。

「ギャァ〜!!!」

「ウワワワワァ!!!」

「何故? どうして? ホワァ〜イ?
こんなに美味しいのにぃ。」

どこかで悲鳴があがっている。
どんでもない物を食べた為にあげる悲鳴だわ。


「ねぇ、鈴原くん。
ちょっち、食べてみてみて。」

「いや、ちょ・ちょっと待ってください。
わしは・・・・わしは・・・・」

「ちょっと、ミサトぉ!! 鈴原まで病院送りにしたい訳ぇ!!」

「あの時は 食中毒だったじゃない。
今度は大丈夫だからアスカも食べてみない?」

「いらない!!」

「相田くんは?」

「え? おお? あ?」

一見すれば美味しそうに出来た葛城印の料理だけれど、その正体は強力なBC兵器ね。
相田君は 汗をだらだらと流して煩悶している。
出来る事ならば食べたいとでも思っているのかしら。
でも、知ってしまっている殺人シェフ葛城ミサトの実態に 腰は引けているのも事実ね。
家に来た時や旅行で彼女の料理を猛威を知っていながら拒めないのは 葛城二佐は善意の塊になって奨めるから。
彼女の味覚は 私の理解の外に在る。
”普通”を手に入れていろんな事を知った私だけれど、あの料理だけは知りたくは無かったわ。

「・・・・相田君・・・・半年に一度になるんだから 記念に食べてみたら。」

私達は静かに合掌した。

半年に一度の予備役訓練。
最後は 宴会で締めそうね。





予備役演習 報告書
作成者 相田ケンスケ予備役准尉

自分は相田ケンスケ。
怠惰な日常に押し潰されそうになりながらも前を見て歩く 下駄履きの生活者であります。
エヴァンゲリオンにシンクロしうる潜在能力を持つ適格者として予備役編入を受けて3年。
この度のネルフの方針の変更に伴ない正規軍と同様の予備役訓練が義務として実行に移され 今回の訓練実習に参加しました。
護身術訓練や護身用機材使用の各種訓練を受けて有意義な時間を過ごせたと考えております。
興味本位で参加した自分ではありますが、そんな目から見ても今回の訓練実習は充分に役にたつものだったと考えております。
自分は 射撃訓練コースを採り 有意義な時間を過ごせたと考えておりますし、護身コースを採った仲間達も同様の感慨を持った事を書き加えておきます。
その実践的な訓練の質の高さは 全くのシロウトの自分達にも感じ取れるものでした。
最後には合同の野外調理実習にも参加しましたが、前記の通常の訓練の方に重点を置いた方が良いと思われるのですがいかがでしょうか?
せっかくの半年に一度の訓練です。
より護身効果を高める為にも 集中した訓練を行なった方が良い様に思うのは自分だけでありましょうか?
その辺りにご配慮いただければ 次回からの訓練にも励みが出ると思われます。
どうか、御一考を宜しくお願いします。






「・・・・相田くんの書いた報告書ね・・・・」

リツコは書類の束を眺めてため息をついた。

「そ〜なのよねぇ〜。なんでか知らないけど 参加した子はみんな普通の訓練で良いって言ってるのよねぇ。
最後には みんなにあたしの料理を振る舞って応援してやったのにぃ。」

「・・・・・それが原因ね。」





おしまい



     
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