Cafe de SIMONS
新宿歌舞伎町エビ通りの記憶...David Sanborn / Voyeur
 新宿歌舞伎町のミラノ座の脇に、通称「エビ通り」という路地がありました。80年当時のこの通りは、道の両側の居酒屋の店頭で頭有海老を焼く煙が路地一面に広がり、街に灯りがともる頃ともなると、一日の疲れを癒すオヤジ達が集まりとても賑やかな通りでした。そんな通りの一角に「SUNSET」という喫茶店がありました。当時流行りの、いわゆるCafe Bar風のつくりのこの店は、緑色に塗装された木の壁に黒いゴムの床、店内にある2階に昇る鉄製の階段が洒落ていました。路地に面した窓枠には店が推薦する輸入盤新譜のアルバム・ジャケットが飾られていて、まるでアポロ宇宙船の宇宙飛行士の宇宙服のような形をしたグラスに注がれたアイスティを飲みながら、月に一度この店で、買ってきたばかりのADLIB誌の新譜紹介をチェックするのがとても楽しみでした。雑誌の隅までチェックを終えると、当時は三光町の地下鉄出口脇のビルの2FにあったCISCOに向かい、その月の予算で買える輸入盤を吟味していました。(当時のレコード袋は白地に水色の縁取りがあり、中央に大きくファンシーな猫が描かれていましたっけ。)時には紹介されているアルバムが既に店内に飾られていて、BGMとして聞くこともできました。
 この
David Sanborn の 『Voyeur』もそんな一枚でした。D.Sanbornは当時名前しか知らなかった私は、硬質でエッジの効いたサウンドにたちまち惹かれてしまい、目の前に飾られている印象的なジャケットを目に焼き付けて、輸入盤屋に向かったのを覚えています。特に印象の強かったのは Steve Gadd と Marcus Miller の絶妙なカラミから始まる<Run For Cover>。この曲を聴くと、当時のSUNSETの店内がリアルに蘇ります。そして続く<All I Need Is You>の優しいメロディ。さらにはアルバムのオープニングの<Let's Say Goodbye>。ドライブ感タップリのこの曲ではBuzzy Feitenのソロが実に気持ち良い。聞きどころ満載です。
 時は流れて、このエビ通りには風俗店が目立つようになっていった頃には、この店の窓を飾っていたジャケットも差し替えられることが少なくなり、ついには店も怪しげなものに変わってしまいました。クロスオーバーという言葉がフュージョンにとって変わったのも、ちょうどそんな頃だったと思います。それと時を同じくしてADLIB誌も買わなくなってしまった....。
 久し振りにこの路地を歩いたら、当時の面影はまるで無くなってました。「ああ、ここにあの店があったんだよな...」と思い出すの大変なくらいの変り方。あの頃のような心地よい音楽とともに過ごせる店が少なくなっているように思います。あれ?、心地よい音楽自体が少なくなっているのでしょうか...(汗&泣)。
(2001/01/08 加筆)


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