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A Man and Starfish

As I walked along an empty beach one cold, gray morning, I saw a man , far in distance. Slowly we approached each other, and I could make out that the man kept leaning down, picking something up and throwing it out the water. Time after time he threw things into the ocean.
秋も深まったある日のことです。空はどんよりと曇り、肌寒くさえ感じられます。若き日の思い出をと海辺の町の小さなホテルに宿泊した初老の男性が一人、浜辺に降りてきました。こんな時期ですから人っ子一人見当たりません。浜辺にはあちらこちらにプラスチックゴミが打ち上げられていました。昔ここに来た頃にはこんなではなかった、、キラキラと輝く砂が波に揺れてそれを見ているだけでも心が和む思いがしたものだった。自分たちはこの40年あまりの歳月、何をしてきたのだろう、豊になるために、幸せになるためにと、がむしゃらに働いてきた。効率という名の下にすべてのスピードを速め、心のゆとりさえも失ってしまったではないか、自然に対する優しさを忘れ、田舎の浜までこんなにしてしまったではないか、、

こんなことを考えながら波のリズムに合わせゆっくりと波打ち際を歩いてきました。遠くに目をやるとぼんやりと人影が見えました。目をこらしてみると、その人はかがみ込んで何かを拾い上げ、それを海にめがけて投げているようでした。こんなに朝早くあの人は何をしているのだろう、男は気がかりでどうしても知りたい思いにかられ、少し歩を早めてその人に近づいていきました。(2017.6.16)


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As we got closer to each other, I could see that he was picking up starfish that had been washed up on the beach and, one at a time, was throwing them back into the water.
I felt puzzled, so I approached the man and asked him what he was doing.
"I'm throwing these starfish back into the ocean . You see , it is low water right now and all of these starfish have been washed up onto the shore. If I don't throe them back into the sea, they'll die up here because they cannot breath."
若者は浜辺に打ち上げられているヒトデを拾い上げては海水で洗うようにして全体に水分を含ませ、それを勢いよく海の中遠くへ投げていました。彼は少しずつ私の方へ近づいてきます、霧の中からその姿がはっきりと現れてきました。目鼻立ちの整った細身の見るからに好ましい感じの若者でした。上体を反らせ腕を鞭のようにしならせてヒトデを投げている姿はそれだけで絵になるような美しさでした。足早に彼に近づき「何をしているのですか?」と尋ねました。

「僕はヒトデを海に戻しているんですよ、ご覧の通り今は干潮です、このままだとヒトデは干上がって死んでしまいます。水の中でないと息が出来ませんですものね」


"But there must be thousands of starfish on this beach," I replied.
"You can't possibly get to all of them. There are just too many.And this same thing is probably happening on hundreds of beaches all up and down this coast. Can't you see that you can't possibly make a difference?"
The man smiled, bent down and picked up another starfish, and as he threw it back into the sea, he replied ,
" I've made a difference to that one!

「でも、この辺りだけでも何千というヒトデが打ち上げられているでしょう、これを全部海に戻すなんて気の遠くなるような話ですよね、多すぎますよ、それに、是と同じことがあちこちの何百という海岸で起こっているでしょう、あなたのしていることは立派だが、とうてい一人では何かを変えると言うことはできないでしょう」、、と、私は少し意地悪な質問をしました。

するとその若者は笑って、我が意を得たり、というようにニコッと笑って、かがみ込むとヒトデを拾いあげ、それを勢いよく投げました。そして、
「私は今、一つ変えるということをしましたよ、あのヒトデにとっては生きるか死ぬかの大問題だったんですよ、私がしたことは、あのものにとっては重大な出来事だったと思いますよ」

私は若者からこれからの人生の指針を示されたような思いがしました。企業戦士として会社の為とがむしゃらに働いてきたのですが、さて何をして来たのだろうと振り返ってみると、自分の人生を貫く芯のような物が見当たりません。私は若者との会話でとっさに思い出した人が「命のビザ」の杉原千畝です。

「諸国民の中の正義の人」、「正義の異邦人」として、イスラエルの人々から尊敬を集め、慕われている偉大な日本人です。彼のおかげで救われた命は6000を越えると言われて居ます。自分の出発する列車に乗ってからも[日本通過ビザ」を書き続けてユダヤ人を救った人、列車が動き出して救うことができなかった人々でさえ、多くの感謝を込めて見送ったといわれています。

私の残された人生は自分のできることをして、他の人が喜んでくれることをしよう、そうすることで自分も幸せな人生を全うしよう、余生を考えるためにやってきたこの鄙びた田舎町の海辺で、私は人生の大きな目標ができたことに、心も晴れ晴れとしていました。

私は若者に心から「ありがとう」と言って宿に戻りました。 終 (2017.6.23.)

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