| BACK |
1.GIMME SHELTER 2.LOVE IN VAIN 3.COUTRY HONK 4.LIVE WITH ME 5.LET IT BLEED 6.MIDNIGHT RAMBLER 7.YOU GOT THE SILVER 8.MONKEY MAN 9.YOU CAN'T GET ALWAYS WHAT YOU WANT 12/1969 RELEASED
奇跡の10年と勝手に呼んでしまっているのだけど、本当に60年代後期から70年代後期までの間に彼らがした仕事というのは、すばらしい。各レコードを個別に取り上げてもバラエティに富み、意欲的な実験がインパクトのある作品として仕上がってきていて、指折りアルバムを数えるだけでわくわくする。一方でバンド史的に言えば、ブライアンの脱退と死、ミック・テイラーの加入脱退、ロニー・ウッドの加入、度重なる麻薬による逮捕と裁判、日本ツアーの中止、ゴシップには事欠かない危うい状況だった。
ロックの短い歴史の中で、70年代はその死と再生が大きなうねりをうみだした重要な10年間であるが、良くも悪くもその後のロックバンドのかっこよさを定義したバンドがこのバンドであり、音楽と生活と思想が渾然一体となって彼等なりのブルーズを創造した。
バディ・ガイの言葉を待たずして、ブルーズとは真実である。真実がどういうものなのかなんて定義はよくわからないけど、本当のブルーズは時代をはるか超えて伝えるエモーションがある。そういうものをブルーズと呼びたいという意味で、ブルーズは真実である。その意味において、白人ならではの立場からアメリカ南部、アフリカから魔術的な音楽を集めて、ブルーズとしたこのバンドの仕事は真実がある。
サイケデリックを頂点とした、幻想的な都市のなかでの一体感、それでなにもできなかった挫折感、そのような恍惚と不安で満ちあふれた60年代後半から70年代初頭の雰囲気を知るうえでも重要なアルバムで、STONESの時代感覚の鋭敏さがなした業として重要なアルバムである。
このアルバムの制作においてはブライアンはすでに果たす役割はわずかで、発表を待たずに他界する。ブラインは脱退ではなく、クビだった、そう証言するキースの話のなかで、「俺はもうやつはダメだと思った。だから死んだことを聞いても別に驚かなかった」彼等二人の関係が特殊であったことを抜きしても、なんと冷たい言い草だろう。事実一番に駆けつけたのはビルとチャーリーで、キースは葬儀にも参列しなかったとも伝えられる。でもここで哀しんでいたら、これ以降の仕事はできてなかったような気がするのである。
ロックンロールの幸せな時代の終わり、ドラッグカルチャーと死の接近した関係、で、どうする、やるか、もっと穏便にやるか、やめるか、キースはブライアン姿をもしかするとこういう問にしたのかもしれない。その答えがあの冷淡な態度ではなかったか。死ぬ奴は死ぬさ、俺も死ぬかもな、でもやりつづけるんだ、いちいちいろいろ考えてられるか、やるだけ。
そう解釈していうのは私のみなんだろうけど、そういうなかで作られたアルバムだけに、中味はハイテンションである。
多彩なゲスト陣、ニッキー・ポプキンス、ライ・クーダー、レオン・ラッセル、アル・クーパー等を迎えて分厚くて固い演奏、楽曲もいかにもこの時代らしい寂寞とした荒涼感のあるルーズさと、緊張感のあるものがいりじまっており、究めて質の高いものになっている。今このテンションと雰囲気をだせといわれても絶対無理。(だからこそロックンロールは面白いし、イメージだけを再生産して楽しんではいけない。)
GIMME SHELERが告げる時代の動揺、もしくは悪魔的な世界への誘い、ロバート・ジョンソンのカヴァー、切り込んでいくようなギターとサックスが展開するスワンプロック的アプローチのLIVE WITH ME、心地よい流れの表題曲、ライブがたまらないMIDNIGHT RAMBLER、サイケ風ブルーズしているMONKEYMAN、そして合唱隊のコーラスが素晴しいYOU CAN'T GET ALWAYS WHAT YOU WANTはゴスペル、時代の霊歌である。
時代を象徴するかのような2曲を1曲目と最後の曲に配しているそれぞれの曲が1枚のアルバムに収まっているとうことは、意識的にしろ無意識的にしろ、彼等の時代感覚がなくてはこうはならなかっただろう。この時代感覚こそ、音楽的、商業的な成功を導いたことは間違いがないだろう。時代が進み彼等の沸き上がるエモーションをスイングできなくなる年になっても、新しい試みに意欲的でいられるのだと思う。
そういつつ彼等の根本は伝統的正当なブルーズを基本として、アメリカ南部の音楽であるゴスペル、ソウル、カントリーである。そうれは、今のアルバムとこのアルバムを比べればよくわかるだろう。
前作であるBEGGARS BANQUETもすごかった。本作と甲乙つけ難いのであるが、本作の方がより暗闇のなかからはなたれる閃光があざやかであるのは、スタイルの確立の時期でふわふわしたものが確固たる方向にむかって凝固し始めたことがあるからだろう。
ロック史上においても名盤である。予言であり呪である。