大喰らいの巨人/Craw Giantの5thエディション版のイラストを初めて見たときの印象はよくありませんでした。だって筋肉もりもりで不敵な笑顔を浮かべたChristpher Rush版に比べたらなんか貧弱でしかも庭仕事の最中なもんですから、わたくしは「あ、こりゃダメだ」と思って5thを買うのを止めてしまったのでした。しかしMIRAGEのBasalt GolemとかPatagia Golemなんかはなんかイラスト気に入ってましたし(使いませんでしたが)、骨の踊り手/Bone Dancer(VI)なんかは非常にイカスなぁ、と思った瞬間にシングル買いしていました。そうやってだんだん好感度アップしていったところへ来てTempestのPuppet Strings!あんなナイスな連中が踊ってるのなら暗黒大陸ラースも結構いい所なのかもしれません。というわけで彼に関する情報をWotC社の整理されてないWWWページ(改装後はますます内的整合性がひどくなりましたが)を漁ってきて見つけました。短い記事ですが、よろしければ御一読下さい。非常に生真面目な方のようです。
1969年4月11日に産まれ、Scott Kirschnerはニュージャージー州のEdgewater Parkで育った。3歳のときに母を亡くし、それ以来父と3人の兄によって守られてきた。兄の一人Markはことのほか彼を大事にし、スポーツのやりかたと『トラブルからの身の処し方』を教え込んだ。家族が、お互いに気遣いながら暮らしていたのだ。Scottが10歳の時にaplastic amenia、すなわち病原菌に対抗するための白血球を十分作れない病気であると診断されたとき、その唯一の治療法は骨髄移植しかなく、兄の一人が提供者になったという。彼はそれで半年の間、病院で治療を受けた。
Scottの友人達がみな普通高校に進学する中、彼の父はScottをBurlington郡Voc-Techという職業訓練校に進学させた。そこで商業美術をやらせようとしたのだ。「ちょっと試しにやってみようと思って入学したんだけど、卒業する頃にはとても(相良注:その分野が)気に入っていたね」とScottは言う。彼はそこでその後の人生に大きな影響を与えられることになる美術教師、George Lesnakに師事した。「とっても厳格な人なんだけど、ユーモアのセンスが抜群だったな。その2つを折り交ぜて、彼はぼくに仕事に対する正しい姿勢について教えてくれたんだ。それさえ身につけていれば怖いものはないってね」
1987年に卒業すると、彼はフィラデルフィア近くのHussian School of Artに入学して商業美術を学んだ。Hussianには学術的な講座は設けられておらず、すべての講座は広告業や商業的イラストレーションに特化されたものであった。一番の成績で卒業する頃には、Scottすは市の最優秀賞候補に挙げられるほどの人材になっていた。
油絵から出発したScott Kirschnerは、「エディトリアル・ワーク」すなわち雑誌や新聞に掲載するイラストをこなすようになった。1991年に卒業してからは彼の作品がさまざまな出版物を飾るようになった。その中には彼の住むフィラデルフィアではよく知られた新聞であるThe Welcomat(現在のPhiladelphia Weekly)も含まれる。Wizards of the Coast社と関わるようになったのはほとんど事故のようなきっかけがコミックコンヴェンションであったからであり、最初の仕事はLegendsエキスパンションでなされた。それ以来WotC社で数多くの仕事をしている--Fallen Empire、Vampire:the Ethernal Struggle、EVERWAY、Alliancesなど。今年(1996年)秋にリリースされるMirageにも彼の作品は収録されている。更に、ラグクラフトの小説を元にしたトレーディングカードゲーム、Mythosにも彼はつい最近作品を納めたところだ。
昨年(相良注:1995年)の12月、Scottは同業の長年にわたるガールフレンドのNicole Leeと結婚した。「5年くらいつき合ってて、3年くらい同棲していたんだ。何か大きなことに取り組む前に、さっさと一緒になった方がいいね、ってずっと思ってた。彼女の助言はとても頼りになるんだ、フルタイムのイラストレーターとして独立する時に助けてくれたばかりか、時々はぼくをしっかり支えてくれる。それに、ずっとぼくの一番誠実な批評家であってくれるしね」
・・・いつも運動してたね。フットボールをずっとやってたんだ。ホッケーもかなりやり混んだ方だね。空手だって4年していた。でも学校を出たら、そうだねえ、アーティストなら誰でもそういう時期があるとは思うけどフリーランスとしてのキャリアを積んでそれで生活していこうっていうときに、他のことなんかできないよね。EVERWAYの頃から特にそうだったね(Scott Kirschnerはこのゲームのために17の「fortune deck」カードイラストを描いている)。丸々3カ月間、音信不通状態だったんだ。友達は誰もぼくの姿を見ないでいてね、やっと会ったときには「痩せたねえ!」って言われちゃったよ。あの頃は1日18か19時間は描いてたからね。
人間と動物をセットで描いたシリーズものの、小さい個展を開いたんだ。(Duelist誌の折り込みポスターに収録された)オオジカの絵なんかに込めたのが、自然を一掃してしまった人間はじきに物事にうんざりしてしまって誰かを狩りの獲物みたいに扱うようになるんだろうな、っていうメッセージなんだ。ほかの絵についてもそういう雰囲気を出すようにして描いてる。「象」って呼んでるこの絵では、男が管みたいなものに巻かれて鼻っ先にぶら下げられているんだ。広告用のビラでは、サイの絵を使った。人物の手が、サイの牙に重なってるっていうこの絵が、シリーズの最初のイラストなんだ。
メッセージを込めるのは好きな方だね。このスケッチやインクドローイングなんかは、性的いやがらせをテーマにしてるんだ。ある作品では、話し手と一緒にいて顔にへばりついてるこの犬、いやがらせをやってるこの人物、この2つをだぶらせてる。話し手は単にそのコトバを増幅して伝えているだけでね。みんなをどきっとさせるようなイメージを描いて、「これは一体なんだい?」って聞いてもらいたくてね。そんな風に聞いてくれたときに、初めてこちらは言いたいことを言うんだ。石鹸箱の上に乗って「あんたはこういうことを信じるべきだ、こういうふうに考えなきゃいけない」なんて主張するつもりはないね。
・・・いいかい、一山いくらでプルトニウムを弱小国に売りさばいているような輩がたくさんいるんだ。そんな連中はプルトニウムを横流しして大儲けしてるんだけど、あいつら、隣に誰もいなくなってからどうやって金を使うつもりでいるんだろうね?全く、ばかばかしいことだよね。健やかに生きていくこと、それ自体には何の悪意もないんだろうけど、その生活を手に入れるための手段がとっても怪しげだと思わないかい?熱帯雨林にいま何が起こってるか、考えただけでぞっとするよ。自分達のしてることがわかってないんだ。(熱帯雨林を)破壊すれば、自分の首を絞めていくことになるっていうのにね。だからぼくは、そういったことへの怒りや憤りを抑えて、その感情をカンバスに解放してるんだけど。
・・・母の死は、成長した今になって前よりも強く意識されるようになってきたね。ほら、ティーンエイジの頃って親から距離を置こうって努力して、それで友達とつるんだりするじゃないか。それで大きくなると親のところに戻ってきて、自分にしてくれたことに感謝することを覚えるって具合に。だから今、ぼくは彼女のことをこれまでにはなかったくらい考えるようになった。だからといって絵を描く姿勢にはあまり関係ないことだけどね。たまには(母が亡くなったことについて)裏切られたと思うこともあるけど、怒ったりしてもしょうがないしね。
今持ってる一番大きな夢っていうのは、Time誌の編集に携わって表紙を手がけてみたいな、ってことだね。今は遠い夢だって分っているけど、エディトリアルワークを続けていく限りはそれが一番のトップだからね。ファンタジー系の仕事を続けていくなら、Omni誌で仕事をしてみたいなぁ。
美術学校に通うようになって都会に出てみると、気晴らしのネタがあんまり多かったね。しまいには家を出て、下宿して自由を少し味わってみたものだよ。
本当はそうするべきだったんだけど、学業というのをあまり真剣に見てなかったんだ。自制する必要があるとは思ってた。3年になるまで、ずっとそんな葛藤があったね。ある日ひどく真面目な気分になって、「おい、もう1年以上もちゃんとした世界と縁のないところで遊びほうけてたけど、ぼくはフットボール選手になるつもりもないしホッケーをして生きていくつもりなんかないんだ、そんなのは全部夢さ、スポーツ三昧のためにわざわざ上京してきた訳じゃないんだぜ、ぼくらは美術学校にいるんだから!」
それに、ぼくは人から尊敬してもらいたかった。他人から批評されるような類の仕事をしていて、その場で一番になるとは限らないわけだろう?でもぼくは一番になりたかったな。
だから3年生の過程が始まる頃、やったことっていうのが表に出てスーツとタイ一式を買い込むことでね、それを着て「さあ、ばっちり決めたから人格だって落ち着いてくるさ」って暗示を掛けたんだ。効いたね!すっかり物腰が落ち着いたものさ、だってそんな格好で表を駆けずり回るわけにはいかないからね。
半年くらいしたらその服も捨ててしまったんだけど、でも気分はずっと落ち着いたままだった、それで新しいことを始めることができたんだ。なにかに飢えていて、それが自分を後押ししているって言う感じだった。ずっと描いていたし、もっとよく描くためにできることはなんでもやっていたんだ、だから苦しかった時期に見合った成績で卒業できたね。
<<Goblin Recruiter>>描画裏話:
Magicのアート・ディレクターのAue Ann Harkeyがこのカードの依頼をしてきたときはわくわくしたね、だってゴブリンを描くのは楽しそうだな、ってずっと思ってたから。でもカードの説明に目を通したときはちょっと挑戦を受けたような気分になったな。
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ガムランの響きに乗せて贈る脚注
きっとすごく真面目な人なんだなぁ、とつくづく感じいってしまう記事でした。無論「真面目」ってのはマイナス評価なんかではないんですが、アーティストという人種をひとくくりにして語ることはできない、とほんとにそう思います。ガッコー嫌いっていう人も多いみたいですが、こういう人もいるんですね。