Richard Kane Ferguson編

〜俺のポートレイトを見て驚くなよ〜

 ファンが多いですねぇ、この人も。わたしもミラージュの「Searing Spear Askari/灼熱の槍のアスカーリ」「Flame Elemental/猛火の精霊」とかは大好きです。絵から熱気とか冷気とかが吹き出てきそうな迫力がありますよね。ホビージャパンの「ドミニアへの招待2」という雑誌のコラムマンガでは彼のイラストが「全部同じに見える」なんて揶揄されてましたがとんでもない話ですな。失礼、とか無礼、とかはこういう心ない発言のことを言うんであって、これが輸入総代理店の刊行物かと思うとちょっと恥ずかしいです。さて、一段と俺的度に磨きがかかった(だって今夜明け前なんだもぉん)俺的翻訳でお送りする彼のインタビュー記事、つかみネタはばっちり、しかも言ってることはなかなかかっこいい、という非常にナイスな記事ではないかと思います。プロダクツと本人のギャップに悩む作家というのは割と良くある話ですが(日本の例だとあの人とかあの人とかね)、彼もその一人。写真をお見せできないのが残念。

 俺のインタビューをしたいって?ほんじゃま、まずは俺のポートレイトを送るからそれなりの覚悟って奴をして欲しいな。なにも俺がナルちゃんだってんじゃなくって、もぉ現物の俺を見るなり「うっそー、あんたがRichard Kane Ferguson?やだやだやだ、前田がロシアから連れてきたRINGSの新人みたいじゃないのよぉ」とか「バイクは当然ハーレーだよな、んで半裸の女なんか乗せてんだろ?ああ?」とか叫ぶ連中が多くてな。同僚にまで「アー、あの野郎はなんつうか、ルー・リードとジョー・ピスコポを足して二で割ったみたいな感じだよな」とか言われちまうし、あの「You sure you're Richard Ferguson?」っつうセリフは聞き飽きた、って感じだな。

 こんな俺でも今じゃあ結構な売れっこになっちゃったもんで、もぉ締め切りから締め切りの綱渡りよ。すっからかんだったのがいきなり腹一杯、って感じかな。仕事が仕事を呼ぶっていうのかな、限界超えちゃうのもあっと言う間だねぇ、あ、これ?ちょうどMirageの仕事を片づけたところなんだけどな。

 ふぅん、子供の頃はNew York州のMiddle Groveってとこに住んでた。両親は骨董の商いをやってたもんで、家のあちこちには西洋絵画のリプリントだの現物だのが転がっていたっけ。続き物であれば映画でもマンガでも好きでね、子供の頃からマンガの絵を真似してかいていたよ。うん、絵の描き方は独学なんだ。誰からも教わってない。20代の初めあたりじゃ、あんまりファンタジー系は描かないでネイティブアメリカン風のやらケルト風の絵を描いていたな。そのころは弟と一緒に合衆国のあちこちをうろうろしながらその場限りの仕事をしまくっていた。うーん、「おーし次はルイジアナだ、そん次はニューメキシコだ」って感じだったな。

 それを止めるきっかけになったのは1989年、どっかの骨董屋の店先でHal FosterのPrince Valiantのコミックを読んだときだな。あれを見て、ああ、もういっぺんファンタジーに戻ってこういう絵を描こう、って思ったんだ。本を持っただけで魔法にかかったみたいだったっけな。そんでWizards of the Coastに入ってLegendsにFallen Empire、Ice Age、Alliances、Mirageのエキスパンションで仕事をしてる。ほかにJyhadやRage、Shadowfist、Heresyで仕事をしてるな。

 今はこのSaratoga Springsで仕事をしてるんだ。ほら、爺さんの牧場が見えるだろ?あそこじゃレース用のサラブレッドの繁殖をやってたんだ。まぁ今の仕事はだんだんきつくなってるけど、俺はまだ32だし、辞めるつもりは当分ないね。思うがままに描くってのは本当に楽しいからね。年とって髪が灰色になっても、まだマッチョマンとかを写生してるんだろうね。

 絵描きになるのはなんか、初めから分かり切ってたな。よくある、例の「自分が何になるかわかんなくて悩む小僧」ってのは完全に他人事だった。学校にいたころからずっとそうだったな。アーティストになることだけはもう、それだけは知ってたみたいな感じだ。しかし人生って奴には曲り道とかかわき道とかが多くてね、5年前にはファンタジーの仕事をするなんて思いもよらなかった。そん時最初のコミックを出版してね。それがきっかけでたくさんの人に会って、今の仕事につながってきたんだな。

 いや、学校には行ったよ、Adirondack Community Collegeっていうね。ただカリキュラムはなんかめちゃくちゃだったね。「マジかよ?」って思ったね。教員連中はみんな手前勝手で威張りくさっててね。アホな奴が3時間も、「鉛筆で明るいところから暗いところまでのグラデーションをつける方法」について講義して下さったりね。「リンゴについて学ぶのです、その表面に反射する光について学ぶのです」なぁんてね。俺なんかギャルの後追っかけて学んでた方がぜんぜん楽しかったんでさ、学歴なんてのはそこでおしまいだな。

 絵をかくスタイルったって、ただ描いてるだけなんだよね。ごく自然な流れなんだ。絵を描きたいと思ったら、まずは好きな画家の絵を真似てみることだね。独習でやってくと自分の尊敬する画家たちが精神的に導いてくれるような気分になるからね。情け容赦なくそういった絵を切り刻むような気分で模写していくんだ。どうやってこんな効果を出せたんだ、どうやってこんな色を出せたんだ、って何時間も考えたもんだよ。何かをただ見てるだけじゃなくて、そうすることで自分の進む方向が分かってくるんだな。

 カラダだけの仕事をずうっと続けていけば、カラダそのものがすりきれちゃうってのは分かり切ったはなしだよな。疲れ切って、ぶつぶつ言いながら仕事をするのにアルコールなんかの力を借りたりして、んでもさ、一生かけて続ける値打ちがあるのは頭使って考えることだと思うよ。なにをするにせよ、どんな仕事をするにせよ、カラダだけじゃなくて頭、心も一緒についていってるんだからさ。アートのいい所ってのはそこでさ、常に伸び続けるし常に押し広げることができるし、別の方を探求できるし。ガッツさえあれば、経済的な次元から別の世界を見ることができるようになるさ。

 うーん、有名になるってのは一種の「罠22項」だね。マンガとかアングラ系の仕事をしてるときにはほんとに楽しんでやってた。ほんとにわずかな、でも熱心なファンしかいなくてね、今の仕事内容を知ってるのもごく少数だった。観客が何人もいなくて仕事の批評もあまりあれこれ言われずにすむってのはこれはすごくのびのびできることなんだなぁ。いまじゃなりに有名になっちまったもんで、こういう絵のスタイルがなんかもう決められちゃったみたいなんだな。ペースを変えたら、きっとファンなんか随分減るんだろうねぇ。よくいるだろ、あるスタイルからもう金輪際進歩しそうにないような「超有名系アーティスト」の面々、あいつらがああなっちまう理由ってのがきっとこの、作品をコンスタントに出し続けなきゃならないっていう状況なんだろうな。この事には確かに関連性があると思うね。きっと燃え尽きちゃうんだろうなぁ。締め切りが過ぎると次の週には次の締め切りが、その次の週には次の締め切りが、っていう状況で自分のアーティストとしての限界を成長させ続ける、ってのはつらいよね。きっと、アーティストが自分を成長させるのをやめて金儲けに走り出すのはこんな時なんじゃないかな。

 これは結構妙なことでさ。1ファンとしては思うんだよね、「えーっ、この人どうしちゃったんだよ?」でも同業者としては奴の気持ちもよく分かるんだよ。

 子供なんかはまたぜんぜん違っててさ。なんか歌いながらこっち来てさ、「Dakkon Blackblade/黒刃のダッコンは最高だね!」っていうんだ。俺なんか「そうかい?嬉しいねぇ」なんて答えるだろ、そうすっと「オレ、ダッコン描いたんだぜ」なんて言うんだよ。「おわぁ、すごいねぇ」「分かってないなぁ。オレ、何回も何回も、何回も描いたんだぜ。1日に4回は描いたね。壁にもノートにもいっぱいいっぱい描いたんだぜ!」なんていうから、「んじゃさ、Sol'kanar The Swamp King/沼王ソル=カナールなんか描けば?ダッコンに似てるしさ」って言ってやったらさ、「そんなの全然ダメだね!ダッコンはサイッコーなんだよ、わかってんだろ?」なあんて言うからさ、つい「坊主、お前が13〜4で背も小さいからよかったようなもんだけどな、お前がもし30とか40とかで250ポンドくらいありそうだったら、俺は今すぐ逃げ出してるよ」なんて思っちゃったけどな。

 俺の描く絵は全部自分の肖像なんだ。ああ、大真面目さ。ある面においては間違いなくその通りなんだ。今までやってきた絵は全部覚えてる。それを描いたときに何を考えてたか、どんな気分だったかもぜんぶ覚えてるんだ。絵が、心の一部みたいなもんなんだな。

 好きな作品とかなんとかっていう事をあんまり考えるのは好きじゃないな。いつだって次の作品のことを考えていたいんだ。だってそうじゃないと、例えば昔自分がいい仕事をしていたときのことばかり考えるようになったら、もう過去の栄光にすがってるだけだろ?30過ぎてから「あれはいつだったっけ・・」なんて考えるのはまっぴらだろ?そういうのは嫌なんだ。先のことを考えていたいし、もうやっちゃったことよりもこれからどんないい仕事ができるかを考えていたいって、そう思うよ。

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例によって注釈

罠22項:
ジョーゼフ・ヘラーの小説「キャッチ=22」から来たもので、確か「自分の狂気を証明できないと除隊させてもらえない、でも本当に狂っていたらそんなことはできっこないよなぁ」という二律背反的状況、だったと思います。罠22項ってのは古い翻訳によるものです。今風に言うならダブルバインドか?

有名になりたい、お金持ちになりたい、ってのは万人の願い、でもそのために失うものもある、ということでしょうか。われらがRichardにはそんなふうになって欲しくないもんです。しかし会社がだんだんそうなりつつある(ような気がする)今、彼の理想も理想として片づけられてしまいそうなのが実はMagicというゲームの未来に落ちる一番くらい影なのかもしれません。だからわたくしはAmy Weberに戻ってきて欲しいのですが・・・

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