Drew Tucker

〜俺に「どうやって」って聞くな、ただ、見ろ〜

 Exorcist(DK)の頃からAgirity(MI)まで、変わらぬ埃っぽさで我々を幻惑してきた爆埃の絵師、Drew Tucker。そのイラストを愛することができるかどうかは、見る者の心にどれだけの埃が舞っているかによる、とも言えるかもしれない。ともあれ彼の創作の秘密にどれだけ迫れるか、このインタビューを読んだ後で彼の作品に再び触れるときあなたの目には何が映るか。ただの埃っぽいイラスト、というのではきっと翻訳が失敗しているのだろう。彼のイラストを是非とも今すぐ見たいというならこのリンクが役に立つ。または直接ここへ飛ぶという手もあるが、はっきり言って夜中に見ると大変怖い絵がいきなり張ってあるので心の準備をするべきだと思う。

 ここはDrew Tuckerの仕事場であるアパートの一室。錆び付いた農具、「不思議の国のアリス」ディズニー版のヴィンテージポスター、牛乳入れの木箱を流用したビデオラックや本棚、自作の素晴らしい出来栄えの木製の机、有蹄類らしき動物の頭蓋骨(たぶんかもしかだろう)、その他にもあちこちに骨のオブジェが散乱している。巨大な作業机にも壁一面にも、彼の作品が所狭しと並べてある。ありがちな家族の集合写真がないというのは彼の最近の逸話からすると奇妙なことだ--彼は写真のアルバムから創作の霊感を得ているという話だったが。

 椅子はあるのだが、インタビューアー一同は床に座った。フローリングの床にはDrewの画集が広げられているので、目の前に彼の作品がいっぱいになるのだ。インタビューの直前にDrewは足のつま先を額縁で切ってしまったので、彼自身の殺戮を描いた作品の周りに自分の血をたらすことになってしまった。後になって思えば、これは皮肉なユーモアととれないこともない。

 ・・・・・・Drew Tuckerはミズーリ州のセントルイスに1968年産まれた。彼は子供時代を郊外の一地方都市ですごしたが、連続殺人犯がすぐ隣に住んでいたという事実を思えば街の名前は皮肉以外の何者でもない--Normalという名だ。イリノイ州とミズーリ州を行き来する間に、彼はその後の一生を支配される嗜好に取りつかれることになる--墓地、墓石、そして骨に対する抗いがたき執着。

 ・・・・・・・・・自分がファンタジーに向いていると思ったことなんかないな。見てきた幻想文学系のアートにはいいものもたくさんあったけど、ハイスクール的感性から一歩も進歩していないような代物も多くて、そんなのはいらつくだけだな。あの分野に必ずしも通じているわけではないし。いつもいつもああいう連中とうまく話せているわけでもないからなぁ。Dungeons&Dragonsをやったことはあるけど、それだってずいぶん昔の話だ。ファンタジー系のイラストで何が嫌かって、なんで女の胸をあんな巨乳でむきだしに描くんだろうなぁ。ぜんぜんリアルじゃないのに。ニキビ面のティーンエイジャーは大喜びかもしれないけど、あんなのはもう見ていて腹立たしいだけだね。もっといろんなことが言われていいはずだし、成されているべきだと思う。Grant MorrisonやDave McKeanのことを言ってるんだけど。Dave McKeanはその分野においてはまさに神と呼ぶにふさわしい存在だと思うね。彼の作品からはいろんなことが学び取れるよ。ファンタジー的なイラストをやりたい人間は、みんな彼の作品に触れるべきだね。俺自身にとってもファイン・アートだ。それが一番大事なことなんだけど。

・・・・・・・ちっちゃい頃から、絵は描いていたな。1984年頃から、水彩をやってた。真剣に水彩を始めたのは高校に通っている頃だな。

・・・・・・・Wizards of the Coast社で働くのは大好きだ。その仕事のやり方がとても特徴的だからね。絵師にはそのカードのタイトルとおおざっぱな説明が与えられるだけで、あとは各自の自由にイラストをつけることができる。このやり方はとても気に入ってる。

・・・・・・両親か。彼らは俺のしていることを気に入っていないようだな。描いてることも好きではないらしい。「いい出来栄えだとは思うけれど、すきになれない」といったところだろう。しかし両親はいつだって、俺のやりかたを支持してくれている。ほかの親達なら俺の職業をきっと悪く言うだろう、だって芸術家になるなんていったら陳腐なイメージがはびこってるからな。ずいぶん早い時期に、もう両親は俺が芸術家になることを冷静に受け止めてくれていた。実際に描くものが好みに合うかどうかはさておいても、両親は若いうちから俺が芸術の勉強をするのを援助してくれていた。あまりいい結果が想像できないことを自覚していたけど、それでも俺を助けてくれたんだ。芸術家になるなんていったら、その末路は腹のふくれたためしがなくっていつもがつがつしてて、即席ラーメンで一生を過ごすような人生しか想像できないだろうしね。俺のしたいことを止めなかった両親はなんて冷静だったんだろうと思うよ。俺の家族はきっと、俺にはごく普通のディナー用の皿とか作って欲しいんだろうなあ、誰も血を盛った皿なんか見たくはないだろうし。

 ああ、そう、さっきつま先を切ったみたいだ。血が出てるな。

 絵に血が付いたみたいだし、床も血だらけだ。はは、俺の絵はそんな血なまぐさくはないだろう?

・・・・・・・俺に自分の作品についての説明はさせないで欲しいな。何度も何度も、同じ質問をされたけれども、それくらい辛い質問はないんだ。ああ、それについて考えるのはいいことだけれども、でもやっぱり辛いんだ。俺の作品を見るとみんなが「憂鬱な雰囲気」を感じとるようだけれども、まぁそれも無理もないな。俺にとって、描くことはストレスの発散だから。昔していたみたいに、壁を何度も殴らずに済むから。子供の頃は恐ろしく怒りっぽかった。俺の絵はきっとそのころの感情が昇華したものなんだろう、だから憂鬱な描き方になってしまうこともあるさ。ごく最近になるまで、自分の絵にユーモアの要素が混じることはなかったな。(翻訳者注:DUELIST本誌の他の記事を参照する描写が入るので18words翻訳せず)俺はだいだいにおいて、できるだけのことを描写し切ろうとしているんだ。映画みたいなものかもしれない---何もかも目に入れたつもりになっていても、実は俺が描いたものはなにも見えていないんだ。危険な要素をほのめかしたり、なにかを暗示したりしているんだけれども。

・・・・・・・融通の利かない方だと思う。

・・・・・・・・下書きは全部捨ててしまうから。スケッチブックは持ってないよ。座って、描いて、でき上がると下書きは丸めて捨ててしまうんだ。なんでそういうことをするのかは、自分でもよく分からないけど。たまに気に入った分を取っておくことがあるけど、それも捨ててしまう。白状するけど、紙は浪費する方だね。

・・・・・・彫刻が好きだ。たまにやると楽しいからね。得意じゃないんだけれど、娯楽だ。のみを手にとって、いつもしているような素描や彩色なんかとは全然違ったことをするのは楽しいよ。木が好きで、家具を作るんだ。そこの机なんかは、学校でやったんだ。一番楽しかったな。イラスト関係のことなんかすっかり忘れて没頭できたからな。(絵を描いていて)一番問題なのは、そこに現実との接点が欠けているという点だ。物を造れば、確かに自信作だと思えるような絵を描くのと満足感においては同じかもしれないけれど、それとは全然違う楽しみもあるんだ。家具を造るのが好きな理由の一つは、俺がそれを実際に使うことができるということなんだ。機能するじゃないか。アートや絵は実に限定されたやりかたでしか機能しない。いらいらするね。

・・・・・・ああ、ほとんど部屋にこもりっきりで仕事はする。外に出て人と会話をするのが苦手でね。いらいらするんだ。人間は目に入るんだが、喋れないんだ。とてもよくないことではあるんだけれどもね。シアトルに引っ越してきて隠者になるっていうのは、自分にとって大きなチャンスだった。ここでずっと過ごして、心の内面を見るんだ。この部屋でだいたいのことはしてしまうな。学生だったときも、あまり学校には行かなかった。社会的要請というやつで仕方なく通学したが、だいたいのことは家でやった。行って作品だけ置いて、急いで家に戻るんだ。落ち着く場所で仕事をした方が上手くいくのは当たり前だろう。ここでなら、やりたいことはだいたいできるからね。誰もあれをするなとか言わない、というのが気に入っている。でも一つの部屋であまりずっと長いこと過ごすのは心が麻痺してしまいかねないからね、自分の専用のスタジオをいつか手に入れたいと思っているよ。

・・・・・・・いつか子供向けの絵本を作ってみたい。ずっとそう思っているんだ。でもその分野には、俺がやっていることは向かないんだろうな。最近の仕事のNight Creatures、そう、そこに広げられている奴とかだ。やってみたいのは死や墓場を扱った物だし・・なぜって墓場が好きだからさ・・・墓石のスケッチはずいぶんしたし。でも墓場っていうのは子供向けの市場には受け入れられないんだろうな。それは分かってる、けど・・

・・・・・・・今(1994年10月)はパンクバンドのアルバムジャケットを手がけている。Nitrogeneっていうバンドだ。こんな風に、50年代風のロゴも付けてね。

・・・・・・・写真だ。写真の資料は大好きだ。変に聞こえるだろうが、他人の家族のアルバムをみるとアイデアが湧いてくるんだ。誰かが普通に描くのとどれだけ違った風にカメラが対象を捉えているかを見るのが楽しくてね。アルバムの中によく入ってる失敗した写真、物が半端に写ってたり意図されてなかったりする写真を見ると、その構成がまったく多種多様なんだ。奇妙に思われるだろうとは承知してるけれど、俺の絵にとても大きな影響を与えているのがみんなの撮った写真なんだ。ほかに、影響を受けたと言えばDave McKeanだ。まったく途方もない人物だよ。Marshall Arismanも大好きなんだけれど、彼のイラストもとても暗い雰囲気だな。彼のイラストはFrancis Baconのと比べられることが多いね、Baconは大昔の人物だけど作品はクールだ。ひねくれた人物だったらしいけど、芸術的才能に恵まれていた。俺に本当に楽しめる物をもたらしてくれたし、作風には影響されたな。

・・・・・・・画家本人にはあまり関心がないんだ。作品には興味を持つけど、画家の名前にまで注目することはほとんどないな。長い目で見れば、画家の名前にも興味を持った方が楽しめるんだろうけど。そんなことを随分前に考えたっけな。

・・・・・・・・映画は好きだ。たくさん見る。めちゃくちゃたくさんビデオを借りてくるけれど、おおいに参考になるし、勉強になるし、第一娯楽として面白いからね。映画からしか得ることができないような実際に動く実例のなんと多いことか、と思うね。中世の戦闘とかさ。SCA(Society for Creative Anachronisms)から誰かを引っ張ってくることもできるし、競技の様子を見ることもできる。ショップに行って甲冑に身を包んだ人間がいっぱい出てくるような映画をたくさん借りることだってできるし、おまけに今ではそれは資料的にずいぶん正確になってきているからね。とてもいい資料だよ。なにをおいても楽しいひとときだからね。映画をみるのはしょっちゅうだね。

・・・・・・・・ヒッチコック。ヒッチコックの映画だ。彼は天才だね。彼が映画を作った当時、セットを組むには大きな制限があったはずだから。起こっていることを全部見せる必要はない、ということをやってみせたかったんだろう。最初の"Halloween"なんかは血塗れっていう感じだけれど、ヒッチコックの映画に血は実際には出てこないからね。起こっていること、誰かがしていることをただ「こうこうこうである、ここで誰かが彼の頭をぶん殴っている」と直接描写するより、暗示してほのめかす方がずっといいとわかったんだ。ほんとは、そんなのを見たいわけじゃないしね。何かをほのめかされた方がいいっていう場合もあるんだ。隠喩のようなものを感じると、それを読み解こうとして頭が能動的に働くからね。

・・・・・・・本はあまり読む方じゃないけど、最近読んだのは「チベットの死者の書」だ。哲学は好きだし、宗教について考えるのも好きだ。南部バプティスト会の影響が強いんだろうな、これについては両親の影響がとても強いんだ。あそこはみなに解放された場所ではあるけれども、他の人が何を考え、どんなに違ったやりかたをするかについて考えるきっかけになった場所だな。違った文化や神、そのほかのことも。俺には大事なことだ。

・・・・・・・済まないな、もうすこし端切れよくしゃべれる日もあるんだが今日は日が悪かったみたいだ。

This is not produced or endorsed by Wizards of the Coast, Inc.

Grant Morrisonに関するインフォメーションは「SPAWN日本語版6」(主婦の友社/メディアワークス)で読むことができます。英国出身の人で、相当妙なキャラクターやストーリーをたくさん産み出した人のようです。Dave McKeanもアメコミ畑の人で、DCコミックスから出てるバットマンの読み切りに「aRKHAM aSYRUM」という作品があるそうです。日本では「サンドマン」(インターブックス)の表紙という形で彼の作品を見ることができます。SCAって日本語では「進歩的時代錯誤者協会」とでも言うのでしょうか?なんでも中世風のいでたちでサヴァイバルゲームを楽しむ愉快なグループのようです。情報提供してくださった吉川 悠さん、ありがとうございました。Magic絵師のRandy Asplund-Faithがどうやらはまってるらしいです。(1998年11月追記:『天使墜落』(創元社SF文庫)にも登場しています。アメリカでは有名なグループのようですね)Nitrogeneというパンク系のバンド、輸入されているんでしょうか。情報を待ってます。

 今まで訳してきた絵師たちは、Mark Tedinに顕著ですが非常にエネルギッシュで創作の力が外面、特に語り口に現れているような人ばかりでした。今回のDrew Tuckerでやっと、いわゆる「アーティスト」の典型のような絵師の記事に触れられたと思います。訳するにはちょっと気構えがいりますが(勢いでごまかすことができませんから)、よく読むと結構笑えることも喋ってるんですよね。おっぱいぼいーんの女性キャラ、確かに国産RPGキャラにも多いですなぁ。アダムズファミリーだって市民権を獲得してるんだし「Nightmare before Christmas」なんて傑作映画だってあるんだから墓場系絵本、作って欲しいなぁ。福音館書店か「ひかりのくに」あたりからオファーがないでしょうか。

今回、翻訳の役に立ってくれたのはNewton MessagePad130+純正外付けキーボード+アプレット「じしょ」+辞書データnGENE95の組み合わせです。コスト的には最悪に近い電子辞書でありますが、豊富な語彙データが文字どおり瞬時に検索できる快感は得がたいものがあります。

読んでいただければ一目瞭然ですが、段落を意図的に不連続にして、なおかつAmy WeberとJenny Scottによる質問センテンスを削除しました。ごめんねAmy。

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