日が西に傾き空がだんだん濃く暗い青へと変わっていく。子供たちの歓声でみちたカーニバルの場はひっそりと静まりブルーと白に塗り分けられたサァカステントがだんだんと色を失いシルエットにとなろうとしている。と、空に大きな球体が浮かび上がる。昼間は単なる地球模様のアドバルーンであったそれは、暗くなるに従ってますます輝きを増し、いまや蒼く浮かびあがる第二の月になる。 そうして、サァカス少年團のテントがひらく。 チケットをもぎってもらってテントに入ると、場内は薄暗く箱形の長椅子がずらりと並んでいる。シュッという風を感じて見上げると頭の上を飛行船が飛んでいく。 勇ましいトランペットのファンファーレや人々の歓声(それに混じる銃声)、それからアコーディオンにのせて歌う男声のもの悲しい旋律、そして砂漠をわたる容赦ない風の音。 目を舞台に転ずればそこは荒れ果てた街の風景。砂色の壁、砂色の石段、中央には黒い布を垂らしたあずまやがある。こんなさびしいところに本当にサーカスなんてやってくるのかしら? 救いは舞台上方にある3体のオブジェ。ティンパニみたいな半球に乗っているのは、天使?(そして下手前にはDO-DO ZO) |
突然わき起こる雷鳴、光る稲妻。全身が一気に総毛立つ。真っ赤な光が目を射る。どきどきどきどき、自分の鼓動がわかるくらいおどろく。 雷の静まった後には修道女がひとり「ケンソール、ケンソール」と呼びながら現れる。手には子供用の帽子を持ちどうやら帽子の主を捜しているよう。中央のあずまやで本人を見つけ、本を手にして外を指さしなにやら教えている様子。そしてあずまやから出ていく子供を見送る彼女。と、突然強い風があずまやの幕を揺らす。戻ってきた子供を連れて去っていく2人。(この間子供の姿は見えない。女性一人のパントマイムで表現されている) 舞台が暗転すると子供の声が「チンクレラカンクレラ。ぼくの名前はアズマノ・ケンソル。今夜は帚星が2時に南天を通過します・・・」と話し始める。「チンクレラカンクレラ サーカスはぼくの夢」サーカスの大好きな少年はどんどん空想をふくらます。「怪力ザンバド、綱渡りのセルゲイ、一輪車のイワノフ、ナイフ投げのローゼン夫妻、北極熊使いのオルガ、極めつけは大奇術の黒紳士ラグー!」そうして少年の心はドアのところから助走をつけて一気に窓から飛び出す! |
そしてまた少年の声・・・窓から飛び出し帚星になった少年は町で一番高い煙突をめざす。「オシリのほっぺたをぎゅっとしめ両手をまっすぐにのばす」と身体は自然に上を向いて煙突へとたどり着く。そして少年は煙突の上からサーカステントを見おろす。 |
「もしかしたらサーカスはいけないことなのかもしれない」「サーカスは僕の寝る時間に始まるし昼間近くを通ってもおかあさまは見てはだめという」と。そして皇帝はサーカスのことをよく思っていない。その証拠にサーカステントの回りには皇帝の軍隊がいるのが見えると。 舞台上では修道女が少年を連れて歩いている(むろん少年の姿はなく帽子と彼の持っているであろう赤い風船だけがついていく)。 |
チンクレラカンクレラ 僕は眠くない。町の光をいっぺんに集めたようなこのテントの中ではきっと朝になっても眠くならないだろう。・・・少年はサーカスの子供になってもよいと思い始める。「もうこのままおうちに帰れなくなるのかな?・・・でも僕は勇んでサーカスの子供になろう。ねぇみんな、今夜から僕は・・・」 舞台上では必死に子供を探し求めるシスター。彼女は何を見たのだろう、突然くずおれるようにへたりこんでしまう。 |
テントの外へ出てみればすでに日はとっぷり暮れて、蒼い月が出迎えてくれます。そしてゲートのところにはかがり火がともされ私たちの帰り道を照らしてくれました。 本当に不思議で怖くて楽しくて、ちょっぴり淋しいサァカス体験でした。 |