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前章のアンプは半導体式なのに発熱が多
かったので、今度は少々特性が落ちても発
熱の少ないOPT式でと思ったのですが、
Tr用OPTでシングル方式に適合するの
は市販されていないので(SANSUIのTr用
OPTも、大型のはPP用なのでシングル
で使うと低域が出なくなってしまう)思案
していたのですが、出力にチョークを追加
すれば良好な特性が得られるようです。
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という訳で出力段はチョーク負荷のクラーフ結合とする事で、OPTにはDCを流さずインピーダ
ンス変換に専念させています。使われている石は、PA段はIc2A以上でhfe100〜200位
Pc10W以上、AF段はhfeが100以上ならどんな石でも使えると思います。今は足の生えて
いる石は全て生産中止になっていますから、回路に適した石を探しても仕方ない状況で、あるものを
適当に使うしかないようです。
一方、出力チョークは春日無線の54B-400mA(0.3H0.4A)を使いました。これは直熱管フィラ
メントのDC点火用電源チョークとして作られているようですが、出力チョークとして使っても後に
示すように良好な特性を見せています。インダクタンスが0.3Hなので、下側の再生周波数を50Hz
とすると(シングル動作なので)インピーダンスは約95Ωとなり、これを40ΩのOPTで受けて
いるので、シングルアンプでは苦手な低域も案外良い特性が得られる筈です。
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その他の特徴としては、二段アンプの前後とも自己バイアスとして回路の簡略化に務めています。
石の個々のばらつきに合わせてバイアス抵抗を調節しなければならないので、メーカー製のセットで
は絶対に採用されないバイアスの方式ですが、アマチュアが作るセットはどうせ一品料理ですから、
事前にバラックを組んで合わせておけば大した手間では有りません。
ただ出力段がチョーク負荷なので本来なら自己バイアスでは電流サーボが効かないのですが、今回
使ったチョークのDCRが5Ωあるので意外と安定して動作しています。さらに電流暴走については
左右に個別に入れたTr式リップルフィルターでも電流が増えれば電圧降下が大きくなる事で制限さ
れるので、hfeが外気温により多少増減しますが暴走する心配はないと思います。
もう一つの特徴として本機では歪の打消しも行っています。事前にバラックでバイアス抵抗値を合
わせたのですが、さらに組み上げてからも歪率を見ながらバアイス値を調整したもので、前段のコレ
クタ電圧をセオリー通りに電源電圧の1/2とするよりも、回路図中の電圧付近にした方が歪率が下
がったので、敢えてこのような電圧配分としています。
また電源のリップルフィルターを左右で分けたのは、上記の出力段の暴走対策の他にクロストーク
対策の為で、これで電源を介しての信号の回り込みは避けられると思います。
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諸 特 性
半導体アンプとしてはNF量
が少ないのですが、先に述べた
歪の打消し効果が現れているよ
うで、最大出力の1W付近まで
は各周波数とも低歪で推移して
います。また各曲線も揃ってい
て、出力チョークが低域側でも
負荷として良好に働いている事
を窺わせます。
無歪出力 1.1W THD 0.61%
NFB 8.6dB
DF=4.0 on-off法1kHz 1V
利得 9.2dB(2.9倍)1kHz
残留ノイズ 0.27mV
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次に周波数特性ですが、当初は出力Cが1000μFだったので低域端に行くほど盛り上がってい
て、チョークと出力Cとで直列共振が起きていたようです。それでもシングル動作では低域の伸びは
期待できないので気にしてなかったのですが、しばらく聴いていると低域がもたつくように感じられ
たので、出力Cを2200μFに増やして段間のカットオフは数倍上に設定したところ、両者間の低
域のスタッガ比も充分取れてたようで、すっきりした低音がでるようになりました。(注)
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一方の高域はうねりもなく素直に落ちていて、上のグラフのように10〜65kHz/−3dBと
いう特性が得られました。もう少し高域を伸ばそうと出力段の補正容量を減らしてみたのですが、ざ
らついた音になったので元に戻しました。石との相性もあるように思いますが、従来の作例を見ても
補正は多目に掛けてオーバーオールNFで帯域を伸ばすというのが一般的なようです。
一方、本機に使われている電源トランスはラジオ用の古い並四トランスの流用です。このトランス
のB巻線が断線していたのでヒーター巻線だけ活用した物で、正規のヒータートランスを使う場合に
は6.3V2Aでは容量目一杯で熱くなると思われるので、余裕を見て6.3V3A程度のトランスを
使うようにして下さい。
そして課題だった低域については、実際に音を聴いてみると思いのほか伸びていて、本機で使って
いるOPTは重量350gと真空管用OPTと比べると小型ですが、低域の量感に関しては大概の真
空管式シングルアンプよりも優れているように聴こえます。こんな事を書いてると、また自画自賛か
と言われそうですが、チョークとOPTとで役割分担している為ではないかと思います。
当初は低域端の盛り上がりの所為かと思ったのですが、改良後は盛り上がりも収まっていますので
低域の量感に影響しているとは思えないのです。
(注)低域のスタッガ比に付いて
各段の入力インピーダンスが判らなければ低域の時定数を設定出来ないのですが、どの参考資料を
見ても自己バイアス回路での入力インピーダンスの算出方は出ていませんでした。しかし現物がある
ので実測すれば良い訳で、各段の直前にボリュームを入れて出力電圧が半分になるようにしました。
その時のボリュームの値が入力抵抗となるわけで、本機では図のような入力インピーダンスとなって
います。これによって低域のスタッガ比も適切に設定出来ていると思います。
雑 感
本機は、盛夏で真空管アンプを点火するのが厭われる時期に使用するアンプとして作ったもので、
ご覧のように回路は簡単ですし発熱も少ないので、当初の目的である夏場に気軽に聴くのには適した
アンプではないかと思います。
ところでバイポーラトランジスターのアンプで、シングル方式というのは最近はめっきり見ないの
ですが、ゲルマニュームトランジスター全盛期のカーラジオの出力段では定番の方式でした。それで
も特性の良いシングル用OPTが無かった為か、さすがにオーディオ用として設計された物は無かっ
たのですが、しかし今回のように出力チョーク式で組んでみたら、意外とオーディオ用としても使え
るアンプが出来たので、さらにバリエーションを増やしてみようかと思っています。
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