2球&3球スーパー 2 題








 前章でも触れたように最近では真空管式のスーパーラジオ

を作ろうとすると、まず部品集めに苦労し、かつ思いのほか

高価になってしまいます。そこで思いついたのですが、低電

圧で動作する球とトランジスターラジオ用の部品を組み合わ

せて鳴らすことが出来れば、これらの事も解決できると考え

ました。実際にどの電圧で折り合いを付けるかですが、一般

的に12V電源の半導体セットは多く見られるので、使われ

ている部品もその倍の電圧ぐらいまでは耐えられると見当を

付けて、30Vでの動作とすることにしました。(※1)

 構成としては5球スーパーのような四段増幅で、COV及びIF段は前章で実証済みの12AU7とする

事にしたのですが、出力管の選定は迷うところです。なにしろ30Vでの動作例などあるはずもないので、

これはと思う球の特性を測ってみる事にしました。おそらくトランスレスラジオ用の出力管が適しているの

でしょうが、ヒーター電圧を考慮して中古の16A8と18GV8の特性を取ってみました。

16A8(P) Ec2 30V

\Ec1
Eb\
 0V -1.5V -3V
30V 14mA5mA1mA
15V 12mA4mA0.7mA
9V 10mA3mA0.5mA
3V 5.5mA2.5mA0.4mA

Eb30V RL5K Ec1 -1V Ib6mA Po40mW



18GV8(P) Ec2 30V

\Ec1
Eb\
 0V-1.5V -3V-4.5V
30V 22mA13mA5.5mA1.7mA
15V 18mA12mA5mA1.6mA
9V 14mA11mA5mA1.5mA
3V 6mA6mA4mA

Eb30V RL2.5K Ec1 -2V Ib10mA Po60mW



 上の16A8はテレビの垂直出力用の球で、ヒーターを6.3Vにしたものが6BM8です。比較的内部

抵抗の低い球ですが、ここまで低電圧だとさすがに苦しいようです。18GV8は同様の用途のテレビ球で

16A8の類似管として紹介されることが多いのですが、この特性表を見るとさらに低電圧での動作に向い

ているようです。オーディオ用としての動作例はないのですが、120V程度でシングル動作させれば2W

近い出力が取り出せるのではないかと思います。今回は、この低電圧動作向きでヒーター電圧もちょうど良

い18GV8を使うことにしました。初段についてはいろいろ試してみたのですが、2次巻き線をカソード

タップにしたグリッド注入式にしてみたところ、何とか発振させることが出来ました。

 ということで以下のような回路になりました。



 本器の球とソケットとOPT以外は、先に述べたようにトランジスターラジオ用の部品で組んだので割と

コンパクトに出来たと思います。出力も十分とまではいきませんが、何とか実用になるぐらいの音量だと思

います。かんじんの感度についてはスーパー方式にもかかわらず並三ラジオと同程度というところでした。

やはり高周波増幅を専門とする球を使わないと高感度は望めないようです。


 そこで、12AU7を6R−HH2等の6DJ8類似管に換えてみました。ヒーターと内部シールド以外

の接続は同じですが、ヒーター電流が球により違うのでそれぞれ配線の変更が必要です。

V 16R-HH26DJ87DJ8JAN 6922
ヒーター6.3V 0.4A6.3V 0.365A 7V 0.3A 6.3V 0.3A
抵抗値180ohm 5W280ohm 3W 無し 無し

 6DJ8の他にもいくつか換えてみたところ、特に6R−

HH2で大幅に感度が上がりました。しかし大容量の抵抗で

ヒーター電流を揃えなければならず、回路的にスマートでは

ないので今は6922を使用しています。

 一方AF段の18GV8の三極管もとりわけ低電圧動作は苦手のようで、前段のボリュームは本来1Mぐ

らいにした方が感度が良くなるのですが、この管のグリッドリーク抵抗も兼ねているので、あまり高くする

とプレート電流が流れなくなってしまいます。さらに、バーアンテナの二次巻線はトランジスターの入力イ

ンピーダンスに合わせてあるので極端に巻数が少なく、どうしてもロスが大きいようです。

 以上のようなわけでセットとしてはまだまだ改善すべき課題も多いのですが、とりあえずは低電圧式でも

使える目途がついたように思います。

※1 IFTの耐圧について


 上の回路図のようにバーアンテナや

局発コイル、ポリバリコンなどにはあ

まり電圧が掛からないのですが、IF

Tは一次にB電圧が掛かり二次は接地

するという事で、回路の電圧がフルに

掛かります。右の図のように真空管用

は一次と二次の巻き線が完全に離れて



いるので高電圧でも問題ないのですが、Tr用は二次の上にそのまま巻いてあり(図では一次が下になって

しまいましたが)、巻き線の被覆だけで絶縁しているので高電圧には耐えられないようです。また、10m

m角のIFTでも端子とシールドケースとの間隔が1mmしかないので、そこにも不安があり、30Vより

高い電圧にするのは十分な検討と予備実験をしない限り止めた方が良いと思います。




3球スーパーラジオ





 上記の2球スーパーが使い物になるのか、組み立ててみる

までは自分でも分らなかったのですが、意外と使えるセット

になったので、これに気を良くしてさらに性能アップを狙っ

たセットを組んで見ました。まず感度については利得を上げ

ることよりも、AC電源のセットなのでアンテナを繋ぐこと

を前提に2〜3mの室内アンテナ(ビニール線等)でも効率

よく受信できるように工夫し、出力についても音量不足を感

じないように出力アップを図ってみました。

 高周波用の球については、上記で好結果だった6DJ8を採用することで決めていたのですが、出力管に

ついては今度も迷ってしまいました。低周波段まで低電圧で動作させる必要はないのですが、電源トランス

をいくつも使うのは煩雑ですし、かといってAC100Vから直接とったのではアース処理によってはトラ

ンジスター用部品に高圧がかかる恐れがあり、またヒーター電圧も何とか12Vに揃えたいものです。この

ような理由からテレビの水平出力管12B−B14(中古)に見当をつけて特性を取ってみました。

12B−B14 Used   Ec2 45V

\Ec1
Eb\
 0 V-1.5V -3V-4.5V -6V
45V 68mA51mA36mA25mA15mA
22V 68mA51mA36mA25mA15mA
12V 60mA48mA34mA25mA15mA
6V 30mA30mA30mA22mA15mA
3V 15mA15mA15mA

Eb 45V RL 1.2K Ec1 -3V   

Rk 100ohm Ib 35mA Po 330mW



 12B−B14はマグノーバル管ですが、類似のGT管に12G−B3や12G−B7等があり入手は比較

的容易な球です。ただPPで使うと最大40W程度は出せる球を、こんなミニパワーで使うのは不釣合いな

のですが、他に適当な球が見当たらなかったのと、倍圧整流で動作させたときの出力も0.3W とちょうど

良いのでこれに決めました。一方、初段については簡易アンテナからの信号でも効率よく拾えるようにRF

段を追加しました。また前章のセットでは触れなかったのですがアンテナを繋いだときに局発の電波が発射

されてしまう問題もこれで解決出来ます。 ・・・ということで以下のような回路になりました。



 前章の2球スーパーでは巻数の少ないバーアンテナの二次巻線

を、そのままアンテナ側に使った為に極端なローインピーダンス

コイルになっていました。これでは今回のRF段のプレート負荷

としても不足ですので、同調コイルと同数くらいに巻直ししまし

た。手巻きなのでハイインピーダンスコイルのようなハネカム式

とはいきませんが、三重に巻いて糊でとめてあります。




 出力管の負荷抵抗は、特性図のように900オームぐらいが最適なのですが、既製のトランスで近いのは

600オームだったので二次に16オームスピーカーを繋いで 1.2Kとしました。なければ二個直列にす

れば良いでし、とりあえず8オームでも可です。なお12B−B14は大変電力感度の高い球なので発振対策

が必要で、第2グリッドにある0.05のC はピン近くに接続してください。また、現在プレートキャップ

が入手困難でトッププレートが剥き出し状態なので、プレート電圧を下げる為にマイナス電源を併用しまし

た。このマイナス側のリップル処理は念入りにしないと、そのまま出力管の入力信号となって増幅されてし

まいます。プレートキャップはRCAプラグを利用して自作してみました。以下に製作法を示します。



 このセットは出力も手頃ですし、また当初の狙いどおり2〜3mのビニール線アンテナでも十分な感度で

した。さらにAVCも、三極管なのでリモートカットオフ管の効きには及びませんが、それでもRFとIF

の二段に渡って掛けているので効果的に効いているようです。自画自賛になってしまいますが実用上は通常

電圧のセットに準じて使えるのではないかと思います。



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