6U8Aトラターボ  試作アンプ





 家庭用ステレオセットが真空管式からト

ランジスターに切り替わる時期に、それま

で真空管式セットに使われていた出力管が

製造中止になってしまったので、真空管式

セットの回路や部品を、そのまま活用出来

るように、たまリントン回路やトラターボ

回路といった真空管とトランジスターとの

ハイブリッド回路が考案されました。

 それらの回路情報は、「手作りアンプの会」のホームページの「会員のページ」の中で、「たまリントン

とトラターボ」
として詳しく解説されていましたが、残念ながら今は回路図が表示されなくなっています。

ただ私はそのページを丸ごとローカルディスクに保存していたので、今回挑戦してみる事にしました。

 手持ち部品の流用などでオリジナルの回路とは違ってますが、以下のようにドライバー管のカソード電流

を分流してベース電流として、パワートランジスターを駆動するという物で、ドライブ管の数倍の出力を得

る事が出来ます。

 気を付けなければならないのはトランジスターの耐圧で、出力トランジスターには通常の動作でも電源電

圧の倍の電圧が掛かるので、使用したトランジスターの耐圧は500V以上の種類を選んでいます。さらに

カットオフ時にはパルスノイズも発生するので、OPTの1次側にパルスノイズ対策のコンデンサーも入れ

ています。そういう意味で、あまり電源電圧を上げられないのにOPTは通常入手可能な1次側5kΩとし

た為に、出力的には3W程度しか得られませんでした。

 なおダーリントンとしたのは、これが上手く行ったら実用機としてのステレオ化も考えていたので、事前

にhfeの揃う石を探したのですが適当なのが無く、手持ちの10個以上の石を2個組み合わせてhfeの

揃う組み合わせを作ったからです。オリジナルはhfe10の単体のトランジスターとしていました。

 という事で、以下のような回路になりました。






  製作のポイントとしては

1.出力段に使用したトランジスターは手持ちの古いもので、現在は入手困難なので入手可能なものから選ぶ

  しかありませんが、先に述べた理由で耐電圧の高いものを選ぶ必要があります。特にVcboは高くても

  Vceoが意外と低いものが多いので注意が必要で、どちらも500V以上の耐圧のにして下さい。

2.OPT1次側に入っているコンデンサーはパルスノイズ対策で、これも高耐圧のものにして下さい。容量

  が大きいほどトランジスターは安全になるのですが、それだけ高域特性が低下するので、0.0047μ

  から0.0022μ程度が良いと思います。オリジナルは0.0047μでしたが、私の場合は予備の石

  があるので、少し冒険をして容量を減らしましたが今の所は問題無いようです。

3.OPTは共立電子の「真空管用出力トランス A54-13」ですが、本機ではOPTの一次側にノイズ対策

  の強力な補正が入っているので、定格が同じなら他社のOPTでも問題なく使えるでしょう。ただ今回の

  OPTの素の特性は、後ほど述べるように結構良さそうです。


諸 特 性


 最大出力は、計算では3W以上得

られるはずだったのですが、実際に

は少し下回ってしまいました。ただ

NFは2倍強なのにDF値が高いの

が目を惹きます。バイポーラを5k

Ωの高い負荷で受けているのが効い

て、さらにCB帰還が掛かっている

のかも?


利得 17.7 dB (7.7倍)

NFB 7.4 dB (2.35倍)

DF= 14.3 on-off法 /1kHz 1V

無歪出力2.5W THD1.3%/1kHz

最大出力3.0W THD 5%/1kHz

残留ノイズ 0.2mV




 次に周波数特性で、高域が伸びないのはパルスノイズ対策の所為で仕方ありません。それでも高域端に

山谷などは無くOPTの特性を反映して素直に落ちています。ただ低域端が少し盛り上がっているのです

が、これは出力段のエミッタ抵抗に抱かせたケミコンの容量不足で、当初は470μFにしたのですが、

大きく盛り上がっていたので容量を追加して下げたものです。この程度まで下げれば、音にも安定度にも

影響はないでしょう。最終的に10〜76kHz/−3dBの良好な特性が得られました。




 最後に高域安定度の確認で10kHzの方形波応答も見たのですが、負荷開放でも波形の崩れは少なく全く

安定しています。これを見ても今回のOPTの素の特性は、意外と良かったようです。


 今回のトラターボアンプの試作では、当初は高域特性は諦めていました。上記で述べたように出力トラン

ジスターの保護の為には、高域を犠牲にするしかなかったからです。それでもここまで伸ばせれば、実用上

は必要十分な高域特性を確保出来たように思います。



 後  記

 この試作機をモノアンプ状態で聴いているのですが音的にも悪くは無いのです。当初はステレオ化を見据

えて部品の選別をしたのですが、内心では特性的に広帯域は望めずバラック実験で終わるように思っていま

した。しかしこの特性なら、試聴会に持ち込んでも皆さんの試聴に耐えられるのではないかと思うので、今

は本製作に傾いています。ただ本製作となると、10Wものコレクタ損失になるトランジスターの放熱板も

しっかり確保しなければならず、(試作機では薄いアルミ板に貼り付けましたが、長時間動作の後はアルミ

板に触れないほど高温になってました。)そうなると結構面倒な組み立て作業になるので、この夏は思案し

ながら過ごす夏になりそうです。




ドライブ管を 6GH8 に変更


 些細な事ですが、上記tarbo試作アンプのノンクリップ出力が2.5Wとなると、どうせなら3Wの

出力にしたいと思ってしまいます。電源電圧を上げれば簡単ですが、先に述べた理由で電源電圧は上げたく

ないので、他の方法を考えてみました。このシングルアンプで3Wの出力というのは、他章でも述べている

ように汎用アンプとしての条件の一つと思うのです。もっとも実際は2.5Wでも大して変わらないのですが

本機は試作機なので、思い付いた事は「何でも試してみよう精神」で小改造してみました。

 既に述べたように、上記の試作機は計算上の出力が得られなかったのですが、どうもドライブ段が上手く

動作していないのではないか?と推測してみました。つまり、ドライブ段の負荷もパワー段と同じ5kΩの

負荷なので、三結時にrpの高い球だと負荷が低すぎて動作が制限されてしまうので、ここをrpの低いド

ライブ管に変更すれば出力が増えるのではないかと考えました。それでも、このドライブ管を出力管にした

のではトラターボの特徴が薄れてしまうので(オリジナル回路では6BM8を使っていましたが、6BM8

なら単体でも3W程度の出力は得られる。)あくまで電圧増幅管の中から、三結時にrpの低そうな球を探

してみたところ、6GH8が良さそうでした。

 という事で、ドライブ管を6GH8に変更し、それに伴ってカソード抵抗値とエミッタ抵抗値を変更して

以下の回路となりました。





出 力 特 性


 狙い通りに、ノンクリップ出力を

3Wに増やす事が出来ました。それ

以外の諸特性は、改造前と大した違

いはないので省略です。


無歪出力3.0W THD1.6%/1kHz

最大出力3.4W THD 5%/1kHz




 通常のドライブ段と違って、トラターボではドライブ管と出力段が一体となって動作するので、ドライ

ブ段の動作が出力段にも大きく影響を及ぼすようで、これを確実に動作させるためには、オリジナル回路

のようにrpの低い6BM8の三結が適していたようです。しかし、このような出力管でなくても例えば

6AW8のような映像増幅管でも多少の出力増加が見込めると思うので、いずれ機会があったら試してみ

たいと思います。




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