6CW5三結 3Wシングルアンプ





 前章に引き続き出力3Wの三結シングル

アンプです。前回の7591は流通量が少

なく入手に難が有りそうなので、より入手

の容易な6CW5の三結で出力3Wを目指

す事としました。というのも、私の普段の

使用環境は0.1W程度ですが、1W以下で

は試聴会などで鳴らすと苦しいので、汎用

性も考えると出力3W位は欲しいのです。

 前回6CW5を採用しなかったのは、市販品に適合する仕様のOPTが無かった為で、最大プレート電圧

が低く内部抵抗の低い6CW5を、例えばRL5kΩとかで使ったら、3Wの出力はとても得られそうにあ

りません。しかし今回のアンプでMT三極管による出力3Wのアンプが実現出来たら、あの6R−A8の再

来になると考えていたので、ダメ元でARITOさんに相談してみたところ、新規に1次側インピーダンス

2.5kΩのOPTを巻いて頂ける事になり、これで、ようやくMT三極管による出力3Wのアンプが実現

出来る運びとなりました。

 6CW5三結のグラフにRL2.5kΩロードラインを引いてみたところ、計算上では3Wの出力が得られ

そうですが、実際にはロスなどで1割程度は減るものなので、このままでは出力3Wを下回ってしまいそう

です。そこでA1級での動作は諦めて、A2級の動作点で計算して見たら4W近く得られそうなので、これ

なら1割のロスを差し引いても3W以上の出力が確保出来そうです。




 図の赤の線はA1級動作のロードラインで、ピンクの線がA2級のロードラインになります。プラス側は

目分量ですが、マイナス側のバイアス線間隔の6割位を目安にしました。この事は完成後に特性を採って見

ましたが「当たらずとも遠からず」だったようです。なお動作点を決める時には以下の点に留意しました。

 6CW5三結時の最大定格は、最大プレート損失12W、最大プレート電圧250V程度になると思われ

ます。五極管を三結にする場合はSG損失も加算できるという説がありますが、ここは安全側に見積もって

最大プレート損失12Wを厳守する事とします。同じMT三極管でシングル動作での最大出力4Wを謳って

いた6R−A8は、プレート損失14Wでの動作としていたのですが、MT管には無理な動作だったようで

寿命が短かったので、ユーザーの間では「6R−A8は弱い球!」という不名誉な評判が立ってしまいまし

た。実は本機も、最終的には6R−A8に載せ換える予定なので、貴重な6R−A8を大切に扱う為に最大

プレート損失12W以内としてロードラインを引いてみたとこころ、どう頑張っても出力3Wには届きそう

になかったので、球に無理を掛けないようにする為にはA2級動作にするしかありませんでした。

 このA2級動作を実現する為にはカソードフォロワ直結ドライブになるので、回路が一気に複雑になって

しまいますが、それでもコンパクトに組みたかったので、初段はFETにする事にしました。さらに高耐圧

トランジスターとのカスコード接続として高電圧動作に合わせ、また負荷抵抗も大きく取って利得を稼いで

います。出力管のカソードには前回と同様に定電流素子を入れてますが、カソフォロ回路のカソード電位も

マイナスに振ってバイアス電圧に寄与させて、合わせて折衷バイアスとしています。また出力ループ短絡用

のケミコンをカソードに渡しているので、電源リップル対策でトランジスターを通しています。

 という訳で以下のような回路になりました。





  製作のポイントとしては

1.本機に使ったOPTは前章同様にARITOs Audio Labのトランスですが、2.5kΩ用は既製品にはないの

  で、もしも追試をお考えなら特注になってしまいます。可能かどうかは要相談になりますが、特性は素晴

  らしく高域も素直に伸びていて、本機でもOPTの特性が上手く引き出せたと思います。

   詳しくはARITO's Audio Labのページを参照して下さい。

2.初段のFETは選別が必要で、100Ωから数百Ω位のソース抵抗を入れてドレイン電流が1mA前後に

  なるFETを選ぶのですが、左右で定数が違うのは見栄えが悪いので2個揃ったのを探します。

3.電源回路について。本機は手持ちの特注トランスを流用したもので市販品は無く、既製品のトランスとし

  ては春日無線の「KmB250F2」が使えるでしょう。ついでに平滑回路もトランジスター式はベース抵抗

  が要調整で面倒なので、予算があればですが、チョーク式の方が楽で良いと思います。

   という事で、以下のような電源回路にすれば良いと思います。


4.出力段カソードの定電流回路は、簡略化するのならば「620Ω2Wの抵抗」で代用できますが、特性と

  してはやや劣る事になってしまいます。また今回は折衷バイアスになるので出力管の安定動作の為にも、

  ここを定電流化する効果は大きく、念の為にLM317の場合の回路も紹介しておきます。


   なお本機でも5Vの小電流用レギュレーター78M05を使っていますが、今回は折衷バイアスでカソード

  電位が低いので、放熱器は無くても大丈夫です。

5.平滑チョークを使わずにリップルフィルターとした場合は、トランジスターが発熱しますので、こちらは

  シャーシに貼り付ける等の放熱対策をして下さい。



諸 特 性


 気になる最大出力は、当初の目標通

り3W強の出力が得られました。ただ

低域の曲線が少し離れているのですが

シングルアンプなので低域が少々不利

なのは仕方ないでしょう。

 なお今回も、前章と同様に無歪出力

(ノンクリップ出力)と歪率5%時の

最大出力とを併記としました。


利得 17.6 dB (7.6倍)

NFB 9.3 dB (2.9倍)

DF= 7.4 on-off法 /1kHz 1V

無歪出力3.4W THD 2.7%/1kHz

最大出力4.2W THD 5%/1kHz

残留ノイズ 0.56mV




 次に周波数特性ですが、補正無しだと100kHzを超えたあたりに緩い山が出来ていました。しかし

補正を掛けると綺麗に消えて素直な特性を見せています。その補正も最小限にしたので広帯域特性は維持

されていて、最終的に10〜165kHz/−3dBの特性が得られました。




 最後に高域安定度の確認で10kHzの方形波応答も見たのですが、負荷開放でも波形変化は少なく、全く

安定していて見分けがつかない程ですが、負荷開放では僅かに振幅が高くなっています。



 先にも述べていますが、本機はMT三極管シングルアンプで無理なく3Wの出力を得るためにA2級動作

としたのですが、回路が一気に複雑になってしまいました。なので前々章は初級編、前章は中級編とするな

らば、本機は上級編と言えるかも知れません。それでもMT管の最大プレート損失は、結局はバルブの表面

積で制限されるようなので、(過去にメーカーは材質云々と言ってましたが・・・)これからは無理をさせ

ない使い方が主流になるでしょう。今は真空管が大変貴重になっているので、昔のように予備球をたくさん

用意して、多少の無理な動作でも大目に見るという使い方は完全に出来なくなりますから。



 後  記

 本機は最終的には出力管を6R−A8に載せ換えるつもりですが、ここ数日聴いていると6CW5の三結

も悪くないと思うようになりました。またも自画自賛かと笑われそうですが、このアンプの音を聴いている

と、複雑な回路になったりOPTを特注したりと、手間を掛けた苦労も報われるように思います。それなら

このままでも良さそうですが、私にとって6R−A8は特別な思い入れのある球で、実のところ、本機もこ

の球の為に作ったようなものなのです。

 前章でも書いたのですが、私の学生時代の2A3は中古の流通も多く入手は容易でした。しかしバイアス

が深くて技術力の未熟な学生にとっては扱い難い球でした。それに対し新型の6R−A8の方はドライブが

簡単なので人気になっていて、メーカー製のアンプは無論の事、アマチュアのアンプにも数多く採用されま

した。そこで私も6R−A8のアンプを作ろうと思ったのですが、先に述べた理由で安い中古球は使い物に

ならず、かといって新品は学生には高価だったので手を出せないまま時代は過ぎていきました。本機は、そ

のような半世紀越しの宿願を晴れて実現するアンプでもあったのです。

 ・・・って、何とも大げさな話ですけど・・・





6R−A8/6R-B10 3Wシングルアンプ 


 という訳で当機を6R−A8シングルア

ンプに小改造しました。6R−A8自体は

数年前に2本確保したのですが、予備球の

目途が立たず製作が延び延びになっていま

した。しかし手元に6R−A8の元になっ

た6R−B10がある事に気が付いて、こ

の球を予備球として使えれば、万一の故障

の時も困らず済むと思いつきました。

 上の写真の左2本が6R−A8で、右3本が6R−B10です。どちらも中古球なのでプリントが消えか

かっている事もあって、外観では見分けがつきません。全体の雰囲気もプレートの形も瓜二つで、兄弟管と

いうのも納得させる外観をしています。

 今回は出力管を変更するだけなので回路の説明は前回を参照して頂く事として、6R−A8のロードライ

ンを引いてみました。動作点は6CW5三結の時と同じなので、概ね似たようなグラフになりますが、計算

上でも4W強の出力が得られそうです。しかしここからロスを差し引くと、実際の最大出力は同じような出

力になるでしょう。



 次に出力管のソケット周りの配線を変更するのですが、6R−A8と6R−B10のピン配置は、以下の

ようになっています。この図の「IC」というのはインナーコネクションで、「何処かの電極に繋がってい

る場合がある」というピンです。テスターで確認した所、それぞれ赤線のような接続になっていました。

 三極管と五極管の違いがあるのですが、ご覧のように第一グリッドやプレートなど共通するピン配置もあ

るので、少し工夫すれば差し替え使用可能な互換球とする事も出来そうです。本機では青線のような配線と

して両者の互換使用を狙いました。



 このように配線を変更して6R−A8で動作させたのですが、改めて特性を採って見ると低域端の特性が

畝っている事に気が付きました。前回の6CW5の特性も当然畝っていた筈ですが、オフ会に出品する為に

急いで特性を採っていて見逃してしまいました。(この時は発振器の不調の所為だと思ってしまって・・)

下の図の青い曲線が当初の特性で、低域端で急上昇しているのでOPTとショートカットCとで直列共振を

起こしているようです。それならば共振域を下げようと、ショートカットCの容量を300μFに増やして

電源を入れたら、カソードの三端子レギュレーターが飛んでしまいました。増えたCを通って電源ON時の

突入電圧が掛かってしまったようで、となると、このCの容量は増やせないので何処かにローカット回路を

入れるしかなく、今回はボリュームの後ろにローカット用の0.1μFを入れて帳尻を合わせました。赤い線

が最終特性で、まだ少し畝っていますがピークは取れたので、これで良しとしました。



 さらに回路の方も変更していて、三端子素子の保護用に直列に47Ωの抵抗を入れ、また三端子を飛ばし

た影響なのかリップルフィルターのトランジスターも飛んでいたので、ここにも保護ダイオードを追加しま

した。このように何箇所かの変更を加えているので、新しい回路図を再掲しておきます。なお先の6CW5

の章の回路図も修正版に変更しています。


 当機のバイアスは前章の説明のように折衷バイアスですが、図中の電圧値は6R−A8に最適になるよう

に再調整したバイアス電圧を記入しています。ただし上記のプレート特性図を見ると分かるように、6R−

A8は6CW5よりバイアスが浅いので、最適な動作点としては240V、50mA、−19V、RL3.5

kΩ辺りだろうと思います。OPTの二次側には6Ω端子が付いているので、ここに8Ωを接続すれば一次

側を3.5kΩとしても使えるのですが、電源トランスの電圧がこれ以上は上がらないですし、3Wの出力も

確保出来ているので、ここはバイアスを再調整するだけでOKとしました。


歪 率 特 性

 最後になりましたが歪率特性で、N

Fが増えた為に多少低くなっています

が、6CW5の時とよく似たカーブを

描いています。また今回も狙い通りに

3W強の出力が得られています。

 なお前章同様に、無歪出力(ノンク

リップ出力)と歪率5%時の最大出力

との併記としました。


利得  18.2 dB (8.2倍)

NFB 12.9 dB (4.4倍)

DF= 9.1 on-off法 /1kHz 1V

無歪出力3.1W THD 2.1%/1kHz

最大出力4.0W THD 5%/1kHz

残留ノイズ 0.56mV



6R−B10の場合は・・・

 6R−B10は、7591の章でも触れましたが空白地帯だった30W程度の需要に対応するべく開発さ

れた出力管でした。しかしMT管で30Wオーバーはやはり無理だったようで、実際に動作させると劣化が

早いと大不評でした。そこで三結にして名誉挽回を目指したのが6R−A8だったと言われています。ただ

差し替え動作をさせてみると6R−B10三結のバイアス値はさらに浅くて、今回の動作点でのバイアス電

圧は10V付近になってしまいます。なので2W手前で早くもクリップポイントとなり、そこからは波形の

頭が変形した状態で(波形の下側の鞍部付近、3W波形が顕著)A2級領域に入って行き、結果的に歪率の

上昇が6R−A8の時よりも高めになってしまいます。


 これらの事からも6R−B10の最適動作点は、「260V、45mA、−16V、RL5kΩ」付近に

なるだろうと思います。6R−A8への改造に際して三極出力管として性能を向上させる為に、グリッドの

位置などを変更しているようです。この辺りの事は、以下のページでも詳しく解説されています。

 日本の古いラジオの中の6R−A8のページ

ただ、今どき良質な6R−B10を持っている方はあまり居ないと思うので(この球の性質上、良好な特性

を保ったままの中古球は希少
。)これ以上レポートをしても仕方ないのかも知れません。

 さらに、今回はあくまで6R−A8がメインですし、無調整で6R−B10に差し替えた場合でも2Wの

アンプとしては問題なく動作するので、当機はこれをもって完成としました。


後  記

 長くなってしまい済みませんが、このレポートを始めからご覧になっている方はお判りのように、今回の

回路は6CW5三結シングルに最適な動作点となっています。先にも述べたように6R−A8の最適動作点

とする為には、もう少し電源電圧を上げなければならないので、今後、もしも電源トランスを交換する機会

があれば、動作点の変更も試してみたいと思っています。ただ現状でも充分満足できる特性を見せているの

で、「いつか機会があれば・・」という事にしておきたいと思います。





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