6C−A10 シングルアンプ






 このアンプの当初の構成は 12AX7−12AU7−

6C-A10 の標準的な三段アンプでした。しかし

組み上げたセットが増えるにつれて、何の特徴

もない回路ではつまらないと思うようになりま

した。また前章のアンプで我ながら音質改善が

上手くいったので、これも直結ドライブとして

有名なロフチンアンプを参考に、音質アップを

図ることにしました。

 まず出力管はそのまま6C-A10を使うことにしましたが、 6C-A10はもはや入手困難に、50C-A10

も非常に高価になっていたので、電源電圧を下げて軽く動作させることにしました。当然出力も下

がりますが、当初は8W近くも出していたので、その半分の4Wぐらい出れば良しとして、電圧を

下げる分カソード抵抗を入れて直結ドライブとすれば電源の変更も少しで済みます。前段の球には

すでに9ピンMTソケットが2つ付いているので、いろいろ考えた末に12AX7AをSRPPにし

て使う事にしました。前作では12AX7Aの両ユニットを左右に振り分けていたので、高rp管

なのにユニット間のシールドも無くクロストークは最悪だったのですが、今回は左右別々に使うの

でクロストーク特性も大幅に改善される筈です。さらにSRPPだと出力インピーダンスも下がる

ので高域特性も向上すると思います。

 と言うわけで以下のような回路になったのですが、これは言わばロホフチンワイト回路の亜流で

既に様々な先輩達が応用回路を発表されています。




 さて12AX7AをSRPPにした理由は他にもあって、スイッチon直後の過渡的な電圧変動

時に、出力管のグリッドに高圧が掛からないよう保護する狙いもあります。この回路では初段の球

に電流が流れ始めないと出力管のグリッドにも電圧が掛からないので、立ち上がる途中に出力管に

無理が掛かる事はないのです。ただ本機は初段も終段も傍熱管なのでほぼ同時に立ち上がり、それ

ほど神経質になる必要はないのですが、例えば出力管が直熱管でいち早く立ち上がってしまう場合

でも、この回路なら問題なく動作すると思います。



 製作のポイントとしては

1.OPTは製造中止なので、今ならソフトンのRW-40-5を使うのが良いと思います。

  RW-40-5にはKN巻線がありますし、1次側3kの端子もありますから、これを使うと

  良いでしょう。

2.電源トランスは今回より一回り小型のノグチのPMC-150Mで充分です。

3.出力管のカソード電位が110Vにならない場合は、100Kの抵抗を調節して下さい。

4.本機は直結回路ですが動作点はA1級のままで出力は約4Wですが、もっと欲しい場合は

  初段のプレート電圧を上げて出力管の動作電流を増やせば、A2級に移行して5W以上

  出せますが、シャーシ内部に収めたカソード抵抗の発熱が問題になるので、

  この抵抗だけをシャーシ上面に出すとかの放熱対策が必要になります。

5.新規製作の場合、6C-A10が入手困難なので、50C-A10を使うしかなくシングルアンプでは高圧

  ヒーターからの誘導ノイズが心配でしたが、試しにヒーターの接続を変更して差し替えてみた

  ところ、ヒーターハムの増加は感じられませんでした。当セットも今は50C-A10を挿していて

  諸特性もこの球で計測しています。


 諸特性


 歪率特性は30Hz以外はどの

曲線も緩やかな上昇カーブを

描いていて、波形を見てもク

リップ点が判別しにくいので

すが、4W付近までは大きな

崩れもなく素直に伸びていま

した。しかし30Hzの特性だけ

は、2W付近から大きく崩れ

始めてしまいました。


無歪出力4.0W THD2.8%

利得 14.8dB(5.5倍)1kHz

NFB 7.6dB+KNF

KNF 3.5dB

DF=5.3 on-off法1kHz 1V

残留ノイズ 0.3mV



 周波数特性は、超低域でやや盛り上がっていますが不安定になる程ではないので、これで良しと

しました。高域についてもNF量が少ないので緩やかに減衰していますが、途中にピーク等はなく

素直に落ちているので、補正の必要はありませんでした。

 全体としても10Hzから50kHzまでほぼフラットで、−3dBだと10Hz〜70kHzという

特性になりました。





 ロフチン・ホワイトアンプについて

 本来のロフチン・ホワイトアンプというのは、下の図オリジナルのように初段へのプレート電圧を

ブリーダー抵抗を通して出力管のカソードへ落とし、出力管が立ち上がる前のグリッド電圧を制限し

ようというものでした。また出力管が初段管より先に立ち上がると、出力管のグリッドにはB電圧が

そのまま掛かり、出力管に無理な電流が流れてしまう等の諸問題を回避する回路となっています。

しかし「図その2」のように、バイアスの浅い現代管ではカソードの電位が低いのでブリーダー抵抗

の効果が薄く、この方式に従っても、通常以上の電圧が掛かってしまいます。



 雑  感

 ロフチンホワイトアンプが考案された頃は抵抗もコンデンサーも良い物が無く、さらに出力管

もグリッド電流が流れやすい等の、多くの問題を抱えながら試行錯誤をしていた時代でした。そ

のような時に初段と直結にする事により出力管の欠点を克服し、信頼性を確保しながら音質も向

上させるという夢のようなアンプだったそうです。(私は生まれていませんので・・)しかし今

このアンプに挑戦してみると、信頼性についてはサーミスター等の半導体の助けを借りる事で、

いくらでも方策があるのですが、それよりもカソード抵抗の放熱対策が一番の問題になるように

思われます。当時は真空管アンプは特別なもので、木板上に裸で組まれていて感電対策などは考

慮されていませんでした。ですから抵抗も球も風通しが良く放熱対策は必要ありませんでした。

ところが今一般家庭で真空管アンプを使おうと思えば感電対策は必須で、高電圧剥き出しの部品

をシャーシ上に出すわけにはいきません。当然シャーシ内に熱がこもってしまうので、カソード

抵抗の消費電力もなるべく少なく抑えたいところです。今回は熱に弱いケミコンがシャーシ内に

あるのを承知の上でカソード抵抗をシャーシ内に取り付けたのですが、新たに組むのなら、この

カソード抵抗はぜひともシャーシ上に出すようにしたいと思います。(本器にはボンネットが付

いているのですが普段は外している事が多いので、抵抗だけ網を被せるとかして。)

 ところで故浅野勇先生は著書の中で、2A3以降に出てきた球はロフチンホワイトにしても、

その長所は発揮されないと述べています。確かにバイアスの浅い球では、上記のように安全性に

不安が出て来るのですが、本器のように、あるいはリレーを使ったり安全対策に違うアプローチ

を採れば解決できる問題です。となればNFアンプの時代になって例えシングルアンプでも広帯

域が求められるようになると、直結にする事で低域おいても安定したNFが掛けられるというの

は、出力増と合わせて大いに意味のある事ではないかと思うのです。



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