6BM8(16A8) 三結 全段差動






 近頃は真空管アンプ製作の初心者向け雑誌が

全て廃刊となってしまい、良きベテランが身近

にいない方は、インターネットのホームページ

でアンプ作りを学ぶしかないようです。中でも

”情熱の真空管”は解かり易いマニュアルなど

も掲載されていて、そのような初心者の方々の

心強い味方となっていますが、そのページを主

催する”べるけ”さんの推奨するアンプが今回

紹介する全段差動方式なのです。

 この全段差動アンプは推奨者べるけさんの解説本も出版されて、いま何かと注目のアンプなので

すが、(MJ誌の常連執筆者の大先生から、自作のOTLアンプと比較をしようという挑戦状まで

飛び出すほどです。)私が興味を惹いたのは、回路方式よりもそのアンプに廉価な出力トランスが

使われているからでした。ローコストアンプを考えるときに、キーポイントとなる部品がこの出力

トランスで、全段差動方式がこの廉価なトランスを上手く使いこなすのなら、コストパーフォーマ

ンスに優れたアンプが手軽に出来上がると思ったのです。

 回路としては以下のようなもので、ほとんどべるけさんが発表された通りです。



 製作のポイントとしては

1.球は手持ちの16A8を使ったのですが、ヒーターの点火は前章と同様4本直列でのコンデン

 サー点火としています。なお現在はロシア製の6BM8も比較的安く入手できるので、その場合

 はヒータートランスを使います。

 6BM8の場合、ヒータートランス、6.3V 4A 野口 PM 632W 等

 8B8の場合、ヒータートランス、8V 3A 野口 PM 083 等

 16A8の場合、フィルムコンデンサー、50Hz地域 250V 10+2.2μF、60Hz地域 250V 10μF

 32A8の場合、AC100Vを整流してDC120Vで4本直列点火、DC電圧が高い場合は適宜抵抗追加

 50BM8の場合、2本直列をAC100Vで直接点火

2.OPTは磁気シールドなど無い剥き出しなので、電源からの漏洩磁束の影響を受け易く、電源

 トランスからは出来るだけ離して配置する必要があります。その為にもシャーシの大きさはある

 程度余裕のある方が良いでしょう。

3.出力管のDCバランスは、カソードに入っている5.1Ω抵抗の両端電圧が上下同じになる様に

 20KBのボリュームで調節します。どの位置に回しても同じにならない場合は、上下の球を入

 れ替えて見て下さい。それでも揃わない場合は、上下左右の4本を色々組み合わせて近くなるよ

 うにして下さい。この出力トランスはアンバランス電流には強いので、厳密に追い込む必要はな

 く大体揃えば大丈夫です。

4.今回使われている6BM8(16A8)は複合管で、ソケット付近の配線が混雑しますが、前段

 と出力段側の配線は互いに交差しないような配線を心がけて下さい。また平衡回路のセオリーと

 して、出力管からOPTまでの配線をはじめ上下の信号線はなるべく密着させて(撚るとなおベ

 ター)配線すると良いです。これは本来二つのユニット間はシールドされているのですが、内部

 シールドが五極管のカソードに接続されている為に、全段差動ではこれがアースから浮いてしま

 い、いい加減な配線だと容易に発振してしまうのです。(恥ずかしながら経験済みです。)


 諸 特 性

 特性については、出力以外はべるけさんのオリジナルとあまり変わらない特性でしたので、とり

あえず歪率特性を掲載します。


 当機はオリジナルより出力

UPを狙って一回り大きな電

源トランスを使ったので、最

大出力3Wが得られました。

 それを越えと急激にクリッ

プが目立つようになりますが

さらに入力信号を上げていく

と出力は4W付近まで上がり

続け、これを超えた処で頭打

ちになりました。


最大出力3W THD 4.2%

NFB 2.9dB

DF=2.6 on-off法1kHz 1V

利得 15.8dB(6.2倍) 1kHz

残留ノイズ 0.48mV



 製作費用は当初の見込み通り総額2万円以内に納まりました。以下に部品表(値段表)をあげて

おきます。また予算内に収まるか否かはやはり球の値段次第で、数ある6BM8ファミリーの中で

は8B8がもっとも人気が無くほぼ千円以内で入手出来るようです。また運良く50BM8が安く

入手できればヒータートランスも節約出来きます。

 逆にもう少し予算を出せるのでしたら、ぜひともカバー(ボンネット)付きのケースを奮発して

下さい。今回使用したトランスは高圧端子が剥き出しなので、このままではお子さんのいる家庭な

どでの使用には向きません。私も当初はこの安いOPTからどれだけの音が得られるのか半信半疑

だったので、シャーシも安物で済ませてしまいました。ところが出てきた音は少々値の張るケース

に入れても十分見合うほどのものでしたので、いずれこのセットも、ボンネット付きのシャーシに

組み直したいと思っています。




 全段差動アンプとは

 ここまで全段差動の動作に関する解説はしていませんでした。それは私の生半可な説明よりも、

本家”情熱の真空管”を読んで頂いた方がよほど確かだからです。ただ一番のポイントは出力管の

動作にあるようで、掲示板に掲載された以下の書き込みを紹介したいと思います。


 >全段差動プッシュプルでは、各段それぞれが位相反転効果を持っている(自動的にACバランス
 >がとれてしまう)ので、出力段のDCバランスのことだけ考えればいいのです。ちなみに、差動
 >構成の前段では、2つのプレート負荷抵抗の値が揃っていさえすれば、球のばらつきにかかわ
 >らず、出力段に送り込まれる信号のACバランスはきれいに揃います。
 >出力段の2管のバイアスが同じでない、各管の利得が揃っていない場合でも、差動回路では共
 >通カソード電位が動いてくれることで、異なる特性の2管のACバランスは取れてしまいます。
 >まったく、手がかからない回路です。     ・・・・ by ぺるけさん


というようなもので、同氏のご好意で転載させて頂きましたが、今回の安物OPTから価格以上の

良質な音が得られる秘訣が、この辺りの動作にありそうです。


 雑  感

 既に述べていますが、今回の組立てでは思いも拠らない発振で悩まされました。またノイズの影

響を受け易いOPTとともに、複合管を使っての全段差動はどうやら初心者向けの組み合わせでは

ないようです。べるけさんは組み立て易さを考慮して主にGT管を推奨していますが、あえてMT

管で組む場合でも、せめて単独の出力管で組めばもう少し作り易くなるでしょう。いつか6AQ5

或いは6CW5あたりで再挑戦してみたいと思います。

 などと思っていたのですが、ひょんな事から先にGT管で組むことになりました。詳細は次章の

ページをご覧頂きたいと思います。