6AS7G DEPPアンプ







  6AS7Gアンプの3番手で、わざわざD

 EPPと書くとオヤッと思われるでしょうが

 何の事はない普通のPPの事です。ただ過去

 の6AS7G(6080)での作例を探すと

 OTL等のSEPPが多く、DEPPでの作

 例となると上杉佳郎先生が大分昔に発表した

 だけのようです。しかし回路が簡単なのはD

 EPPの方なので、手持ちの多い6AS7G

 を生かすべく製作してみる事にしました。

 さて、どうして6AS7G(6080)での作例に普通のPP回路が少ないのか、その理由は一にも二

にも、この球のドライブの難しさにあると思います。この球をフルスイングする為には100V近い励振

電圧が必要で、これを送り出すドライブ管には500V近い電源電圧を用意しなければなりません。とこ

ろが6AS7Gの動作電圧はたかだか200V程度ですから、両者の電源電圧には2倍以上の開きがあり

また電源トランスにしても、整流後のDC電圧で200Vというと巻線電圧ではそれ以下の電圧となるの

ですが、既成の電源トランスには、そのような巻線電圧のトランスはほとんどありませんでした。

 過去の作例では特注トランスを使うか、出力管のカソードに大容量の抵抗を入れてのカソードバイアス

として、見かけのプレート電圧を上げて既成トランスの巻線電圧に合わせるというものでした。しかし、

このカソード抵抗で消費する電力はステレオだと20W以上にもなり、もはやシャーシの中に納める事は

出来ない程の発熱になってしまいます。というような事でDEPPではどうにも扱いにくいので、前章の

アンプのようにSEPPにして2倍の電源電圧とすれば、既成トランスの巻線電圧に上手く合わせられる

という訳です。しかしそのSEPPは、既に説明しているように打ち消し等の余計な回路が必要で、これ

がドライブの難しい6AS7Gをさらに難しくしている要因でもあります。

 また今までの6AS7GのPPアンプでは、定番のようにリークマラード式の位相反転回路を採用して

いますが、それは位相反転段にも利得があり割と大きなドライブ電圧が得られるからです。ただし、共通

カソードの抵抗にもある程度の電圧を振り分けなければならないので、その分、電源電圧の利用率が悪く

なり、大きなドライブ電圧を取り出そうとすると、電源のケミコンを2階建てにしてでも500V以上の

電源が欲しくなります。あるいはカソード抵抗に負の高電圧を掛けて、実質の動作電圧を上げたりしてい

ました。過去の諸先生方の回路を見ると、このようにしてドライブ段に高電圧を掛けて6AS7Gをフル

スイングしていますが、その回路図は「これではよほど腕に自信がなければ追試をする気にはならないだ

ろうなあ。」と思うほど大掛かりな回路になっていました。雑誌などに発表する先生方ともなると、中途

半端な回路では発表出来ないという自負もあるのでしょうが、まだ初心者だった私は「フルスイング出来

なくても良いから、もう少し簡単な回路になれば・・」と思ってため息をつくばかりでした。

 というように、「あちら立てれば、こちら立たず」で扱い難かった6AS7Gですが、最近では定電流

ダイオードなどの新しく出てきた部品も安くて高性能になったので、これらを生かす事で特注トランスや

煩雑な高電圧回路を使わなくても、そこそこの性能のDEPPアンプが今までより簡単に製作出来るので

はと考えました。そうして試作器をいじり回したりしての試行錯誤の結果、最終的に以下の回路図のよう

になりました。なるべく簡単になどと言っておきながら電源回りがやや複雑なのですが、既成トランスの

限られた巻線から全ての電圧電流を得ようとすると、どうしてもこのようになってしまうのです。





 この回路のキーポイントは、定電流ダイオード(CRD)を使って初段で位相反転をするという事で、

さらには出力管の感度が極端に低いのでNF量もさほど多くはなく、各段のスタッガ比をきちんと取れば

初段と次段とをC結合としても全く問題ありません。そのような事からドライブ段のカソード電位を持ち

上げる必要がないので電源の利用率が良くなり、電源電圧が500V以下でも6AS7Gをフルドライブ

出来るのです。その初段のCRDに接続する負電圧は、全段差動アンプでお馴染みのシリコンダイオード

の順方向電圧を利用した複数直列方式ですが、こんな使い方が出来るのも整流用ダイオードが安くなって

くれたおかげです。

 電源回りの整流回路がやや複雑なのは、出力段とドライブ段の電源を別々にして、さらに半波倍圧整流

の電圧を上下の巻線から取っているからです。というのも、ある程度電流の流れる回路での半波整流は好

ましくないので、上下合わせ技で両波整流としています。また電源トランスの電流容量がギリギリなので

整流ダイオードの直後に抵抗を入れて出力電流の増加を図っています。なおドライブ用電源でもダイオー

ドの直後にも抵抗が入っていますが、これは単純に電圧を下げて平滑ケミコンの耐圧に余裕を持たせる為

です。


製作のポイント

 OPTのタンゴFX−40−5は既に製造中止となっていますので、今ならソフトンのRX-40-5

を使うのが良いと思います。しかし2次側が6Ωなので8Ωのスピーカーを接続すると1次側のインピー

ダンスが上がって最大出力がやや減少しますが、音質的にも特性的にも良い結果が得られると思います。

 出力管は前章と同様にサブシャーシに取り付けて15ミリほど沈めるようにすれば、OPTと高さが揃

いますし、メインシャーシの穴を40ミリ以上とすれば、ベースのすきまから空気が対流し放熱効果が良

くなります。もしも沈めないで作る場合でも、出力管の6AS7G(6080)は非常に熱くなりますか

ら、シャーシには必ず放熱用の穴を開けるようにして下さい。


諸 特 性

 気になる最大出力は、10Wに

僅かに及ばなかったのですが、こ

れはドライブ不足の所為ではなく

電源容量不足のようでした。また

面白いのは8Wから歪率の上昇が

横ばいになり、10Wまではほと

んど増加しませんでした。さらに

各曲線が揃っていて、素直な動作

をしている事を窺わせます。


無歪出力9.5W THD1.8% 1kHz

NFB  約5.6dB

DF=6.7 on-off法1kHz 1V

利得 17.4dB(7.4倍) 1kHz

残留ノイズ 0.68mV


 周波数特性は軽いNFにもかかわらず10Hz〜100kHzまでほぼフラットな特性が得られました。ただ

180kHz付近に小さなピークがあったので、念の為にOPT2次側にゾベル補正を入れました。




 負荷8Ωの方形波応答は僅かにリギングが見られますが大体整った波形でした。負荷解放だとやはり

乱れは出ますが、ゾベル補正もあり不安定になるほどではありませんでした。これらの波形を見ても、

これ以上の補正は必要なさそうです。




 雑 感

 当初からフルスイング出来なくても作りやすさを優先させようと考えていたですが、最終的にノンク

リップ出力で9.5W得られるとなると、どうせならもう少し頑張って10Wの大台に乗せたいと考えて

しまいました。6AS7G(6080)の元来の最適負荷はもっと低いので、ダミーロードを4Ωにし

て1次側の負荷を2.5kとして測ってみたら、確かに出力としては11.2Wになったのですが、微増

の割には歪みが大きく増えてTHD4.3%になってしまいました。オシロで観測すると波形も痩せた波形

で、主にクロスオーバー歪みが増加しているようでした。ところが電源トランスの電流容量は目一杯な

ので、これ以上のアイドリング電流は流せませんし、その容量不足が原因で早めにクリップしているよ

うなので負荷を下げるのは諦めて5kΩに戻しました。

 本機のように、2ch分をPMC−190M電源トランス一つで賄う場合には、やはり負荷5kΩが

最適負荷のようです。もしも6AS7G(6080)の能力一杯まで出力を取り出したいのなら、負荷

2.5kとしてモノアンプで組めば、同じ回路でも13Wくらいは取り出せると思います。





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