武末式 2 A 3 PP アンプ






 以前から「真空管はWE300Bに限る」と

か、「直熱三極管は音が良い」とかの話が管球

アンプ愛好家の間で、もてはやされていました

が、球1本で数万円なんてバカらしいと思って

いました。それでも、一度は直熱管アンプを組

んでみたいと思い、ポプュラーで、当時はまだ

安かった2A3を6本入手して計画はスタート

しました。(この手の誘惑には弱いのです。)

 この球の製作例はいくつかあったのですが、自分流のアンプを作りたいと思いマニュアルを見てみると

励振電圧が 90V近くも必要なことが分かり、なんて扱い難い球なのだろうと思いながら、いくつかの回路

図を握りしめたまま数年を過ごしていました。

 そんな時、武末数馬先生が"ラジオ技術 "誌1970/1月号に発表した2A3PPアンプの記事を数年たって

から目にして、「コレだ!!」と思ったのでした。

 それまでの2A3アンプの回路は、電源電圧を2A3に合わせていた為、ドライブ段はそれより低い電

圧で動作させる事となり、90V 近いドライブ電圧を生み出すのには、とうてい無理がありました。そこで

回路図にあるようにチョークインプット整流とコンデンサーインプット整流を併用して、一つの巻き線か

ら2A3用の低電圧とドライブ段用の400Vを超える高電圧をとりだし、2A3をフルスイングさせるとい

うものでした。さらに初段に可変のPG負帰還をかけて全体の利得が変化しないようにしながら、オー

バーオールの負帰還量を切り替えて、低NFの音や無帰還の音が楽しめる、というようなものでした。こ

の回路が発表された時は、まだNFアンプが主流だったのですが、先生はすでにその先のアンプを見据え

ていたのかも知れません。私が製作を始めた頃には、多くの諸先輩が「高NFアンプは音がつまらない」

とか言っていたのですが、簡略化のために低NFでいくことにし、初段を三極管に変更して利得を合わせ

ました。

 と言うことで以下のようになりました。自分流なんて背伸びしていたのですが、初段以外は武末先生の

発表された回路に沿っていますので、亜流武末アンプと言ったところでしょう。





 製作のポイントとしては

1.ラックスのOPTは製造中止ですので、ソフトンのRX-40-5を、チョークは ISOの

  チョークインプット用を使うのが良いと思います。なお、バンド型等の廉価なチョークは

  当機のようなチョークインプット整流回路では鳴いてしまって使えません。

2.50Kのボリュウムを調節して、バイアス電圧が -63Vになるようにします。

3.負帰還量は約 12dbなのですが、直熱管なのでこれ以上減らすとヒーターハムが気になり

  だします。(低NFではなく中NFかも?)

4.負帰還をもっと減らしたい場合、原器ではヒーター電圧を出力に加えてハムの打ち消しを

  計っていましたが、今ならヒーターを直流点火にしてしまった方が確実でしょう。

5.無帰還にする場合は、上記の対策をすると共に初段を12AU7に変更した方が、扱いや

  すいセットになるでしょう。なお周辺の定数は変更が必要です。

6.OPTとチョークに出力(約12W)の割には大型の物を使っているので、原器と同じように

  モノアンプ2台の構成です。

7.2A3はサブシャーシに取り付けて、少し沈めるようにすると調整などでひっくり返すと

  きに楽ですし、そのすきまから内部の熱を逃がすこともできます。



諸 特 性


 NFが多めなので残留ノイズが低

く出ているのでしょうが、それでも

初段も含めてAC点火で、さらに直

熱出力管のAC点火なのに、非常に

静かなアンプとなっています。

 なお今回も前章と同様に無歪出力

(ノンクリップ出力)と歪率5%時

の最大出力とを併記としました。


利得  22.9 dB (13.9倍)

NFB 15.0 dB (5.6倍)

DF= 8.0 on-off法 /1kHz 1V

無歪出力10.8W THD 1.6%/1kHz

最大出力12.5W THD 5.0%/1kHz

残留ノイズ 0.07mV




 次に周波数特性で、高域補償が多めで上が100kHzに届きませんが、それでも山谷はなく素直に減衰し

ているのは、OPTの効果かと思います。昔は「2A3と言えばLUXのOY15」と言われた程の名コ

ンビとして有名で、今のOPTと比べても優秀なトランスです。最終的に10〜97kHz/−3dBの

特性が得られました。




 方形波応答では、立ち上がりの角が僅かに欠けていますが、おそらく初段プレートの47PFの所為で

はないかと思います。武末先生は二重の高域補正を入れましたが、読者の為に安定度重視で設計されたの

だと思います。このセットでは初段の球を変更しているので、この初段プレートの補正は必要ないかも知

れませんが、武末アンプの性能を確認する意味でも、当初の補正を踏襲する事にしました。


 こうして見ると、当機は15.0 dBにも及ぶNFBを掛けているのに負荷開放でも全く安定しています。

さらに歪率特性を見ても、オリジナル通りの高域補正にしたのは正解だったようで、PPアンプなのに高域

の歪率が一番低くなっていて、まるでシングルアンプのような歪率特性を見せています。もっとも低域の歪

率については、残留ノイズも良く抑えられてはいますが、やはりAC点火フィラメントのハムノイズが影響

しているのではないかと思われます。ただ一点だけ、このハムバランスは大変センシティブで、バランスボ

リュームの僅かな動きで残留ノイズの数値が桁違いに跳ね上がるので、このハムバランサー回路はもう少し

改善する余地があるように思いました。



 後  記

 このセットを製作したのは40年以上昔の事でしたが、この頃はまだロクな測定器もなく、組み立てた後

は電圧チェックをして数時間試聴して異常が無ければ完成としていました。当機はモノアンプ2台の場所を

とるアンプなので、しばらく聴いた後は一旦押入れに片付けて、思い出した頃に再度鳴らすつもりでした。

ところが上記のように重くて大きいので中々試聴出来ずにいたのですが、今回40年ぶりに引っ張り出して

測定して見たところ、非常に優秀な特性を示してくれました。このアンプは武末数馬先生が設計した回路を

ほぼ踏襲して組んだので、私などが言うのは僭越ではありますが、今回の測定結果をみても先生の技術力の

確かさを再認識させられた思いです。

 ただ、このセットを改めて眺めていると、今となっては大変贅沢な設計をしていると感じてしまいます。

例えば私が数年前に作った 6AS7G DEPPアンプ は、同じように三極管による10W級のステレオ

アンプで、当機に近い出力を得ていますが、ステレオの2ch分の電源をほとんど同じ重さの電源トランス

一台で賄っています。一方、当機は片ch分の電源なのでトランス容量に余裕があるのに、さらにチョーク

インプット整流で電流容量を上げていて、このような各部に余裕を持たせた設計が今回の優れた特性に寄与

しているのではないかと思います。しかし、現在のように様々な部品の価格が高騰してくると、これからは

予算にも余裕がないと実現が難しいアンプになってしまったように思います。




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