25E5 KNF PPアンプ






  オーディオ用途の真空管アンプと言えば、

 やはり三極管でという方が大半ですが、前章

 で紹介しているようなQaudU式のアンプ

 を何台か作ってみると、例え五極管でもKN

 Fなどの局部帰還を掛ければ、オーディオ用

 としても十分良い音が得られる、という認識

 を持つに至りました。

  今回は国産五極管KNFアンプの代表とし

 て、テクニクス40Aアンプを参考に、再度

 五極管アンプを組んでみる事にしました。

 実は今回のアンプ製作を思い立った理由はもう一つあって、それは、性能の割に人気の無い水平出力管

を使ってスマートなアンプを組んでみたい、という少々邪道的な思いもあったのです。水平出力管が敬遠

される一番の原因はトッププレートですが、配線が面倒というより、プレートキャップが視覚的に目障り

と思われているようなので、この辺りのデザイン的な事にも配慮して、何とか格好の良い水平出力管アン

プを組んでみたいと思ったのでした。

 回路は基本的にはテクニクス40Aの回路を参考にしようと思ったのですが、オリジナル回路は難易度

の高い高利得アンプなので、全体の利得を下げるようにアレンジする事としました。最近のソースはCD

プレーヤーとする人が多く私もCD専門なので、入力1V程度でフルパワーとなるように設計した方が、

実際に使いやすいし、作るのも楽だろうと考えたのです。同機は初段に6267、カソード結合式の位相

反転段に12AT7A、出力段に50HB26という構成で、入力0.2V以下で30W近いフルパワー

を得るというものでしたが、本機では初段に6AQ8、位相反転に6211、出力段に25E5を使う事

としました。

 またテクニクス40Aにはダンピング・ファクター・コントロール回路(以下DFC回路)が付いてい

る事も大きな特徴でしたが、これまた難易度が高いので後回しにする事として、今回は増幅回路を先行し

て組み立てる事としました。

 という事で以下のような回路になりました。




 本機のOPTは、またもARITOさんのご厚意で巻いて頂いたもので、1次3.5KΩ、KNF8Ω

容量30Wという25E5PPには打って付けのOPTですが、市販品なら ソフトンのRX-80-5

がKNF巻線付きのOPTなので同様に使えます。このソフトンのOPTは、大容量なのに比較的廉価で

さらに肝心の特性も優秀なので断然お勧めです。一方、電源トランスもARITOさんに巻いて頂いたも

ので、これは市販品にないので特注するか、あるいは100Wの絶縁トランスを倍圧整流して使えば良い

と思います。ただしその場合のSG電圧は半波整流となるので、ここはチョークコイルを入れた方が良い

でしょう。私も当初はこの方法(小型ヒータートランスを追加)だったのですが、入手した絶縁トランス

では所定の電圧が得られなかったので、本機の為に後から巻いて頂いたものです。

 なお位相反転段の6211は聞き慣れない球ですが、12AU7と12AT7の中間の特性を持つ球で

手持ちがあったので使ってみたものです。ここは後に述べるように利得に余裕があるので12AU7でも

良いと思います。25E5の説明は要らないと思いますが、50BH26の類似管で、というより50H

B26の元になった出力管で、形状と最大定格が違いますが特性は全く同じ水平出力管です。


諸 特 性


 本機はデザイン重視でコンパク

トに組んだ為に、電源トランスの

大きさに制約があったのですが、

ARITOさん特製の電源トラン

スのおかげで、30W近いノンク

リップ出力が得られました。

 ただDCバランスを取ったのに

低域の特性が揃っていないのです

が、これは出力管を選別する事で

改善出来ると思います。



無歪出力28.1W THD0.36%1kHz

NFB  18.5dB+KNF

KNF=3.7dB

DF=13.3 on-off法1kHz 1V

利得 25.6dB(19.1倍) 1kHz

残留ノイズ 0.13mV


 次に周波数特性で、補正無しの状態では高域の約250kHz付近に、13.3dBにも及ぶ急峻なピークが

あって、これはグラフにも描ききれない程でした。そこで微分補正としてNF抵抗に47Pを抱かせたと

ころ、補正が効いたようでピークは大分低くなりましたが、それでもまだ十分目立つピークなので、次に

100Pにしてみたら、ピークは消えましたが名残のように肩の張ったカーブになりました。さらに容量

を増やして120Pにすると、やっとなだらかな高域特性を得る事が出来ました。

 ただ、その時の方形波応答は、立ち上がりの角が欠けたような波形になりますし、昔から多くの先輩方

が「補正が強すぎると音に覇気が無くなる」と言っていたのを耳にしているので、下の図のB補正を持っ

て最終特性とする事にしました。

 という事で、最終的には10Hz〜270kHz/-3dBという広帯域な特性になりました。




 一方、方形波応答をみると、補正無しではリギングが酷くて発振の一歩手前という状態でした。さらに

OPT2次側にゾベル補正として0.1μFを入れると、負荷を接続していても派手に発振を起こしてし

まいました。直ちに補正を掛けようと思ったのですが、効率よく発振を止められたのはNF抵抗に抱かせ

た微分補正だけでした。出力段側では、これ以上の補正を入れると余計に不安定になるようで、出力管の

グリッドに入れるパラ止抵抗も逆効果でした。初段を三極管にしたのですが、優れた特性のOPTとKN

Fとの相乗効果で、高域のカットオフとしては出力段側が上になっているようです。




 そこで微分補正として47Pを追加してみたところ、リギングは大分少なくなり負荷解放でも安定して

いるのですが、上記の図のように大きなピークが残っているので、まだ不十分のようです。




 さらに補正を増やして100Pにするとリギングも目立たなくなり、120Pでは完全に消えましたが

角が取れたような波形になってしまいました。負荷解放の波形は省略しましたが、どちらも極めて安定し

ているようで、ほとんど変化はありませんでした。

 また初段プレートの150kに積分補正として15k+330P〜680P程度を入れてみたのですが

立ち上がりが丸くなる割にはリギングが残ってしまい、どうしてもきれいな波形にはなりませんでした。

そこで微分補正100Pをもって最終特性とする事にしました。



 なお先に、ドライバーの6211は、利得に余裕があるので12AU7Aに置き換えられると書きまし

たが、NF定数を変えずに差し替えた時の最終利得は、24.9dB/17.5倍で、NF量は14.6dB

となりました。入力1Vでフルパワーという事だと利得にまだ余裕があるので、もう少しNF抵抗を下げ

て8.2kΩとすれば、最終利得23.6dB/15.2倍でNF量15.8dBと、利得もNF量も使いやす

い値になるので、無理に6211を使う事もなさそうです。ただ、この場合の微分補償は120Pにした

方が良いと思います。


 今 後 の 課 題

 アンプとしては一応の完成をみたのですが、テクニクス40Aを目指す為にはDFC回路を組み込まな

くてはなりません。本機ではオリジナルのようなボリュームによる連続可変ではなく、スイッチで切り替

える事によりDF値を変化させようと思っています。

 本機のボリュームの隣のツマミ 

は、その為のロータリースイッチ 

ですが、武末数馬先生の解説をい 

くら読んでも、私には利得を一定 

にしたままDFを変化させる定数 

が分からないのです。

 回路的には簡単そうなのですが、

きちんと完成させる為にはいつも 

のカットアンドトライになりそう 

で、今後は時間を掛けてじっくり 

取り組もうと思っています。


 雑 感

 完成までに紆余曲折のあったアンプですが、出来上がってみると文句のない性能で水平出力管の実力を

再認識した思いです。また30W近い大出力アンプを作るのは久しぶりでしたが、それを10Wクラスの

コンパクトなシャーシに組む事が出来たのも、やはり水平出力管のおかげだと思います。

 水平出力管が敬遠される理由として先にトッププレートを挙げましたが、もう一つの理由は、SG電圧

が低くて三結にした場合に出力が取れない、という事もあるようです。しかし五極管結合のままKNFを

掛けるような今回の方法なら、何らウイークポイントにはならないと思います。

 そんな水平出力管を使ってスマートなデザインのアンプを作るという目論見もあったのですが、私とし

ては、またも自画自賛になりますが満足すべきデザインに仕上がったのではないかと思っています。海の

青さと空のライトブルーを基調としたシャーシの上に、白いプレートキャップが並んでいて、それがトラ

ンスのライトブルーに上手く溶け込んで、配色の妙というか、視覚的にも違和感なく調和しているように

思えるのです。

 まあ、これ以上自画自賛を続けても仕方ないので止めておきますが、今まではOTL用としか見ていな

かった出力管ですが、これを機にもっと水平出力管アンプを見直さなければと思うものです。




 失敗談と途中経過

 先に述べたように当初の電源トランスは絶縁トランスだったので、バイアス電圧と前段のヒーター用に

12.6Vのヒータートランスを追加していたのですが、初段もそれに合わせて12AX7Aを左右に振り

分けて使っていました。さらにはOPTが、これは合わせカバー付きですがコア自体は剥き出しだったの

に、上の外観写真のように二つを密着させて配置しているので、コアからの漏洩磁束により左右のクロス

トークは最悪でした。

 そこで初段を両ユニット間にシールドのある6AQ8に変更すると共に、OPTのコアには下のような

コアバンド?を被せる事としました。これは合わせカバーと共に以前に入手したトランスに付いていたも

ので、今回のOPTとはコアの厚みが違うので5mmほど輪切りにする必要がありましたが、この材質が

珪素鋼板だったようで、とにかく硬くてカナノコの刃が立たないのです。しかし防磁効果は良い筈なので

カナノコの刃を取り替えながら数日掛けて輪切りにして、OPTのコアに被せました。



 その効果は目覚ましく、以前は60dBくらいしかなかったクロストークが、改良後は1kHzで20

dB以上も改善されました。最終的に100Hzで84.9dB、1kHzで84.4dB、10kHzで

も72dBという数値になり、これは左右ともあまり変わりませんでした。

 ただこれを被せる為に、一度取り付けたOPTを再度取り外したりしていたら、綺麗に仕上げた塗装な

のに所々剥がれてしまって、金属塗装の難しさを痛感しましたが、目立たないよう上手く補修出来るのか

もう一つ課題を残してしまいました。




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