12AU7A パラ SRPP






 このアンブのテーマは”一万円握りしめて真

空管アンプを作ろう”というものです。手作り

真空管アンプの会
の方に”2万円握りしめて”

というアンプがあったので、その半分ではどう

だろう?と思って製作したものです。

 予算が少ないので、出力より音質を重視して

設計した結果 0.2W程度のミニアンプですが

深夜のBGM用等なら十分実用になります。

 当初考えた一万円の予算で出来る真空管アンプは、50BM8のシングルアンプでした。しか

し、この予算で用意できるOPTはせいぜい千円以内で、電源トランスにしても同様の事情から

低域についてはほぼ絶望、出力も電流が足りず中途半端という事で、少なくともオーディオ用途

としての使用に堪えるセットにはならない、という結論になりました。

 そこで、出力は少なくても低歪で広帯域の回路方式を考える事にしました。そんな時にぺるけ

さんの”情熱の真空管”の掲示板でSRPP分科会の講座が始まり、このSRPPならば上記の

目的に沿ったアンプが出来るのではないかと思ったのでした。回路は以下の通りでOPTに直流

を流さずPPの合成もしないので、安物のトランジスタ用のトランスでも良好な音質を得る事が

出来ました。ただし”このトランスにしては”という但し書きが付いての事で、高価なセットと

同じ音がする訳ではないのですが、当初の目標とした、出力よりも音質重視の”小粒でもビリリ

と辛いアンプ”になりました。



  SRPPはプッシュプルの一種と言われているのですが、回路図のように下側の出力で上側の球

 をドライブする2段アンブの顔も持っています。そしてある限られた条件の時だけ、その名の通り

 のプッシュプル動作をするそうです。私の場合は、その条件を計算で導くほどの知識はありません

 ので、オシロの波形と歪率計を見ながらカットアンドトライで回路定数を決めましたが、以下のよ

 うになかなか良い特性を得る事が出来ました。なお、理論的な解説は上記のSRPP掲示板の過去

 ログをご覧頂きたいと思います。



  最大出力は回路的に 0.3W近く出るのですが、その時必要な入力電圧は3Vになります。通常

 のCDプレーヤーの出力電圧は大体2Vなので、これを入力電圧として考えると約 0.15Wとい

 うところが妥当なようです。この数字だけ見ると出力が少なくて実用性が無いようにも思えるので

 すが、実際に聴いてみると極端に能率の低いスピーカーでもなければ、案外実用的な音量で鳴らす

 事が出来ます。もう一つの課題だった広帯域については以下のように40Hz〜60kまでほぼフラット

 -3dB以内では30Hz〜90kという特性になりました。特に低域は千円以下のOPT使用のシングルア

 ンプなどより遥かに良好な特性ですが、高域についても、ここまで素直に伸ばす事は高級なOPT

 でも簡単には出来ない事で、トランジスター用トランス”侮り難し”という印象です。


  さて、これだけまともな特性が得られると、逆に再現性はあるのだろうかと心配になってしまい

 ます。またもう一つの懸念材料はヒータートランスをケチる為に採用したコンデンサードロップに

 よるヒーター直列点火で、SRPPにも関わらずヒーターバイアスも掛けられず、またヒーターの

 片側を接地する事も出来きないことでした。通常はこのような点火方法ではノイズが出易いのです

 が、12AU7のEhk 200Vのおかげか残留ノイズも0.24mVに納まりました。そこで、これだけの

 諸特性ならばヘッドフォン用アンプとしても適しているのではないかと考えて、実験段階から無理

 を言ってお手伝い頂いていたTakedaさんに、ヘッドフォンアンプとしての追試及び試聴をお願いし

 たところ、快く引き受けて下さり、なかなか良い結果が得られたとのレポートを頂戴しました。

  氏のセットはヘッドフォンのインピーダンスに合わせてOPTが変更になっていますが、詳細は

 Takedaさんのページをご覧下さい。ちなみにトップページはTakeda's HomePageです。

 なお、普段静かに聴いているので 

多少出力が少なくても問題無いとい 

うなら、今回使用のOPTでも右の 

ようにインピーダンス整合用抵抗を 

入れる事でヘッドフォン兼用に出来 

ます。この場合の出力は抵抗のロス 

により1/3に減少して約50mWに 

なります。この抵抗値を調節すれば 

他のインピーダンスにも合わせられ 

ますが、64Ωより高いインピーダ 

ンスの場合はロスが大きすぎるので 

OPTの変更が必要になります。


  部品表(値段表)は以下の通りで、2004/4月現在の秋葉原での一番安い値段をとり上げましたが

 時期的に消費税の内税外税が入り混じってしまったので、トータルの予算では少しオーバーするか

 も知れません。真空管の12AU7はポプュラーな球ですし流通量も豊富なので、今後も品薄にな

 る事は考えられませんが、銘柄により結構値段の差がある球です。私も何種類か差し替えて見まし

 たが、12AU7及び類似管であれば、どの球でも問題なく動作するようです。むしろ個々のバラ

 ツキによる特性の違いのほうが大きいようなので、左右で中点電圧の差などが大きい場合は用意し

 た球の中でも組み合わせを変えてみるといいでしょう。




 通常の三極管増幅では負荷抵抗が高くなれば歪は減るのですが、SRPPの場合はそうはいかな

くて、最適負荷より低い場合は勿論、高くても歪は増えてしまいます。私はこの一番低歪になる値

を最適負荷と考えたのですが、あるベテランの方から「はたしてその条件のときが音質も一番良い

のだろうか?」と問い掛けられ、はたと考えてしまいました。

 下図の8Ω歪率特性の0.05W付近の落ち込みは、上下の球の歪打消しによると思われ、数値的に

は低歪でも耳につく奇数次歪は打消されずにそのまま残ってしまいます。このように歪率が上がっ

たり下がったりする不自然なカーブを描く負荷よりも、素直に右肩上がりになる、もう少し上の負

荷の方が自然な音が出てくるのかも知れません。今回はOPTの関係で、実際の音を聴き較べる事

が出来なかったのですが、今後の研究課題にしておきたいと思います。



 今回のアンプの製作ポイントの一つにOPTの使いこなしが挙げられます。それは現状での最適

負荷になる1400:8のインピーダンスのトランスが市販品に無いので、600:8のトランスを2倍

の負荷で代用させたからです。過去の経験から、この程度の推奨インピーダンスとの違いならほと

んど問題無いのですが、かけ離れたインピーダンスで使用する場合は、どのような特性になるのか

興味のあるところです。タイムリーにもMJ誌2004/6月号のサイドワインダーにヘッドフォンアン

プの製作記事が載っていて、OPTを推奨値の8倍のインピーダンスで使っていました。実は私も

当初はこのような使い方を考えたのですが、特性を採ってみると満足な特性が得られずOPTの変

更を余儀なくされました。一番大きな違いは低域特性なのですが、その違いをグラフにして見たの

が右側の図です。8Ωの特性が推奨値の2倍の状態で、設定インピーダンスが高くなるほど低域特

性が悪化していきます。この図をみても、特に良好な低域特性が求められるヘッドフォンアンプで

は、いくらインピーダンス比だけを合わせても、推奨値とかけ離れたインピーダンスでは使えない

事がわかります。

 さて話は戻りますが、上記の”歪の落ち込みは打消しによると思われる”の問題に関連して歪を

高調波別にグラフにしてみたのが以下の図です。これを見ると一番低歪になる1.2kΩ付近では、

2次歪が打消される事により全体の歪率も下がっている事がわかります。さらに負荷6kΩ付近で

はあまり前例のない3次歪が打消されています。

 この元のデータは上記の

Takedaさん同様に実験段階

からお手伝いを頂いていた

@AMAさんが測定したもので

氏は3次歪の打消される点

を最適負荷にしたらどうか

とも述べていました。それ

は廉価なPP用OPTがな

かったので実現しなかった

のですが、予算に拘らずに

組み合わせれば、”歪はほ

とんど2次歪だけ”という

目先を変えたアンプも製作

出来るかも知れません。



 お ま け

 これは他所のホームページで紹介されていたのですが、とても綺麗だったのでさっそく試してみま

した。当セットのプレート電流は10mA少々なので青色や白色のLEDならばそのままシリーズに

入れるだけで光らせる事が出来ます。今回は小型の青色LEDをソケットのセンターピンに差し込ん

で、その隙間からの光で輝かせています。



 右の図のようにLED以外の追加部品は不要

なので、本器には最適な飾り照明です。



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