ロンドン憶良の世界管見


憶良憂国論(2)
消費税引き上げは慎重かつ大胆に


見習うべき欧米のゼロ税率と軽減税率




健康保険や年金など社会保障費が増加し、その補填のために消費
税の引き上げが検討されています。日本経団連は、毎年1%づつ引
き上げ、11年後には16%にする奥田ビジョンを公表しました。

インフレターゲット論と消費税引き上げ問題は、いろいろな立場の方
が、自己あるいは業界利益保護の立場ではなく、日本人として私心
ない広い視野で論じられねばならないと考えます。

少し長くなりますが、憶良憂国論(2)として、まとめてみました。



憶良氏の結論と提言

国家財政建て直しの為には、日本の消費税は大幅引き上げが必要
です。政治の失敗とはいえ、多数決の民主主義制の下で、自民党の
政権を支持してきたのですから、国民はその失政の負担を甘受しな
ければなりません。

ただし、自民党政権は、低所得者弱者層に配意し、国民生活の基礎
資材には欧州各国のように、ゼロ税率及び課税外、軽減税率を適用
するという「温かい」配慮を取るべきです。

したがって消費税引き上げ論は、1%づつの段階的引き上げというよ
うな欺瞞的な手段ではなく、原点に戻り慎重かつ大胆な改善をする
べきでしょう。



憶良氏提言の背景

1 バブル後、階層分化の進んだ日本の現実

財政の赤字をうめるという大義名分(?)で、間接税の増税が、当然
のように進められています。
歳出のカットがなかなか進まない一方、経済の停滞で法人税収入が
はかばかしくない上、社会保障費が増えているので、個人にも広く
負担をしてもらうという構想です。

他方、景気を刺激する目的という大義名分で、無税の贈与額や相続
額の大幅引き上げなども行なわれています。
今までの相続税や贈与税が、余りにも政府収奪的であり、営々努力
財をなしても、三代相続すればなくなるような、酷い税率でした。
健全な中小中堅企業が育ちにくい一因でしたから、改正の方向には
賛成です。
しかし、この適用を受ける富裕層が、今その恩恵を消費に回すかどう
かは、いささか疑問です。

日本はバブル絶頂期まで「一億総中流意識」の様相でしたが、バブ
ルがはじけてみると、黙っている勝ち組と、100円ショップや大安売
りに家計を切り盛りする庶民層、あるいは自己破産、夜逃げ、ホーム
レスという弱者層など、極端な階層分化が進みました。
(新宿の地下や上野公園、神宮外園に為政者は足を運ぶべきです)

2 欧州各国に見る弱者への配慮

階層分化問題は別途検討するとして、今回は身近な消費税について、
欧米との比較をしてみます。

何故ならば、
(1)経済学者も政治家も、マスメディアも、単純に欧州の付加価値税
  の標準税率と比較して「日本の消費税率は低い」と言っています。
  最も肝心な「消費税(他国では付加価値税)は、国民生活にとって
  いかにあるべきか」という基本的な問題の論議をおろそかにして
  います。

(2)日本国民は導入時の一律3%(現行5%)という低税率にミスリー
   ド(mislead 誤導)されています。
  欧州では、国民生活の基礎資材には、「気配り」されています。
  日本国民は政府を信用しすぎ、上意下達になれ不勉強過ぎます。
  (お断りしますが、憶良めは反政府主義者ではなく、官も人、時に
  は道を誤ることもありうると指摘しているに過ぎません)

3 何が問題なのか。

(1)似て非なる欧州の付加価値税と日本の消費税体系
  標準税率の国際比較は愚論


 日本の消費税引き上げ論争の時、しばしば欧米の付加価値税率
 と比較し、「日本の消費税率は、欧米に比し低い」と報道されてい
 ます。

 たとえば、2003年1月14日の朝日新聞では、「社会保障費膨張に
 危機感」(消費税アップ経済界から相次ぐ声)として10段を使った
 大きな記事で取り上げ、欧州の付加価値税(標準税率)と日本の
 消費税を並べて図示しています。

 国名                       標準税率
 デンマーク・スウェーデン・ハンガリー       25%
 アイスランド                       24.5
 ノルウェー                        24
 スロバキア                        23
 フィンランド・チェコ・ポーランド            22
 ベルギー                         21
 フランス                          19.6
 オランダ                          19
 ギリシヤ・トルコ                     18
 英国                          17.5
 ポルトガル・中国                    17
 ドイツ・スペイン                     16
 ルクセンブルグ・メキシコ               15
 ニュージランド                      12.5
 韓国・オーストラリア・インドネシア・フィリッピン 10
 スイス                           7.6
 カナダ・タイ                        7
 日本                          5
 シンガポール                       3

 一見すると日本の消費税率は非常に低いという錯覚に陥ります。

(2)欧州の付加価値税は単一税率でない
   国民生活にやさしいゼロ率や軽減税率の考え方


 日本の消費税は、EU域内で用いられている付加価値税の仕組み
 を採用しています。(東京税理士会HPによる)

 体系はEUに準じていますが、EU各国と最も異なる点は複数税率
 でなく、5%(当初3%)の単一税率の点です。

 欧州各国は付加価値税導入時に、低所得者層への影響を慎重に
 検討しました。
 (約30年前、憶良氏が、倫敦のシティで働いていた時代です)

 英国は、当時10%の税率でVATを開始しましたが、国民の基礎的
 生活に大きな負担とならないよう、間接税は負担能力のある中流
 及び上層階級が多く負担すべきとの方針で、ゼロ税率の項目や、
 適用外あるいは軽減税率が決められました。

 (ゼロ税率などの明細については、現在英国に生活されていて、
 『晴耕庵の談話室』ご常連の方にご協力頂いたので、次回公表し
 ましょう)

 現行付加価値税(VAT Value Added Tax)の標準税率は、17.5%
 ですが、基礎的な食料品や書籍新聞、子供服、医薬品、水などは
 0%です。(東京税理士会HPによる)
 つまり、スーパーでパンやミルクの買い物をしても、税金はかから
 ないということです。

 「エッ、ウソッ!」「信じられない!」と叫ぶ主婦の方もいましょうが
 事実なのです。

 標準税率は、それぞれの国の直接税・間接税の比率や、社会保障
 のリターンと関係するので、単純に比較できませんが、社会保障の
 手厚い北欧を除き、欧州主要国等の内容を見ましょう。
 お国柄が偲ばれ、ある部分はユーモラスでもあります。

A ゼロ税率のみがある国

 カナダ  標準税率  7%
       ゼロ税率  0%  基礎的食料品、医薬品、医療機器
                  農・漁業用具等8項目

B ゼロ税率と軽減税率の両方ある国

 ベルギー 標準税率 21%
        ゼロ税率 0% 新聞・雑誌等8項目
        軽減税率 1% 投資の為の金
               6% 基礎的飲食良品、水、医薬品等29項目

 英国    標準税率 17.5%
        ゼロ税率  0% 基礎的食料品、新聞・書籍、医療品、
                   子供服、旅客輸送、水等17項目
        軽減税率  8% 家庭用燃料・動力供給
  
C ゼロ税率はないが、軽減税率のある国

 フランス   標準税率 18.6%
         軽減税率  2.1%社会保険による医薬品
                    新聞・雑誌テレビ受信料など5項目
                 5.5%基礎的な食料品、水、医薬品、書籍、
                    旅客輸送、身障者用器具など25項目

 ドイツ    標準税率  15%
         軽減税率  7% 基礎的な食料品、新聞・雑誌・書籍
                    旅客輸送、演劇・音楽・スポーツ等の
                    入場料、歯科医療等47項目

 オランダ   標準税率  17.5 
          軽減税率  6% 基礎的食料品、種子、水、食肉用
                     家畜、医薬品、医療、動物医療、
                     一定の衣料品、新聞・書籍、
                     公共輸送、ガス、切手等36項目

 スペイン   標準税率  16%
          軽減税率  4% 基礎的食料品、身障者用車両、
                     車椅子等
                  7% 一般的飲食良品、水、演劇・教養・
                     娯楽、コンタクトレンズ、新聞・
                     書籍・定期刊行物、医薬品等20項目

 スイス    標準税率  6.5%
         軽減税率  2% 基礎的食料品、医薬品、水、新聞・
                  書籍等

(注)内容は東京税理士会(http://www.tokyozeirishikai.or.jp/3/
kunifuka.html)のホームページより引用した。
   計上時点の差により、朝日新聞の標準税率と異なる部分があり
   ますが、国家の考え方は、十分理解されましょう。

主要国の税率は、それぞれの国の社会保障のリターンとの兼ね合い
もあるので、単純比較はできませんが、基礎的食料品、医療、新聞・
書籍、水など、少なくとも国民生活の基礎的部分については、いずれ
の国も配慮は手厚くなされていることを知ってください。


4 英国を見習い、ゼロ税率や軽減税率の適用を

これでわかるように、日本は、(韓国とともに)数少ない単一税率の国
です。
日本の政府や財界に、このような国民生活の基礎資材へのゼロ税率
や軽減税率の考え方が、あるのでしょうか。

そのような中流以下の庶民への配慮がなく、単純に毎年1%あるい
は2%ずつ上げて、単一レートで16%に引き上げるというのは、「真
綿で首しめるように」(アエラ03.1.27号の表現)余りにも暴論です。

この機会に、学者も政治家も、マスメディアも国民も、欧州の付加価
値税の適用内容をもっと勉強してほしいと思います。
特に日本の国民は、お上任せで不勉強ではないでしょうか。

日本から毎年千数百万人が海外に旅しています。グルメと物見遊山
だけではないでしょうが、もう少し生活実態も見てほしいものです。

とりわけ、新聞記者は、欧米で新聞がゼロ税率か軽減税率の適用
を受けていることに、襟を正すべきでしょう。報道はそれほど優遇さ
れているのです。

与野党大物のXX番記者として情報を取らねばならぬ立場や、あるい
はテレビや新聞のスポンサー企業に右顧左眄しなければならぬこと
もあるでしょう。しかし、社会の木鐸としての使命感が薄れてはい
ないでしょうか。

テレビや新聞・雑誌記者、あるいは学者は、欧州のゼロ税率や軽減
税率を、意識的に報じないのか、あるいは本当に不勉強で知らない
のか、理解に苦しみます。

日本が3%の消費税率で開始したとき、自動車をはじめ耐久消費財
製造販売業者は、従来の税体系から税率が大いに下がり、大きな
利益を受けたはずです。企業筋は、自社や業界の利益のみに拘泥
せず、国家的な見地から、欧州に学んで「国民大衆を大事にしてほ
しい」と思います。

繰り返しますが、国家財政再建に、大幅な消費税アップは不可避
です。
しかし、基礎的食料品や、子供の衣服、医療品、身障者器具など
にはゼロ税率や軽減税率の適用を!!と、声を大にして叫びたい。

ご来訪の皆さんは、消費税アップ問題をどう思いますか。



 
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