ロンドン憶良の世界管見


憶良憂国論(1)
見習うべき欧州諸国の健全財政


インフレターゲット論は危険なバブルの再燃




ご来訪の皆さん

寒中お見舞いもうしあげます。今年はとりわけ寒いですね。
野良衣を着て天地深耕をする晴耕庵遊翁ことロンドン憶良の手
もかじかみます。

この憶良憂国論は友人T氏のホームページ「鳥取木鶏クラブ」
「鞍馬古天狗」として寄稿した文に、若干加筆修正したものです。

1 興味深いインフレターゲット論争

ところで2003年1月10日テレビ東京午後11時放映のWBS「イン
フレ目標」論争はご覧になりましたか。
司会は日本総合研究所(旧住銀調査部)高橋進部長。
インフレターゲット論者は学習院大の岩田規久男教授、反対は
”ミスター円”榊原英資慶応大教授(元大蔵OB)でした。

岩田教授は、「現在のデフレを克服する手段として、日銀が市中
銀行経由600兆の国債等を買い上げ、日銀で保有すればよい。
この買い上げ代わり金により、金融は緩和し、土地や株式が
高騰し、銀行や企業のバランス・シートは、名目的に改善される。
企業活動は活性化し、デフレは克服される。日銀の発券機能は
こうしたことができるためにある。紙幣をすればよい」
というものでした。

これに対して、榊原教授は、「岩田教授の論調は、日銀の発券
機能の拡大解釈である。現在の日銀の資産能力ではとても600
兆円というような巨額の発券ができる資産状況ではない。日銀
が巨額の国債等を抱え込むのは問題である。岩田教授の論は、
バブルの再現に他ならない。もともと現在のデフレをインフレ方
向にするという目標事態が暴論である。何故ならば現在は世界
的な供給過剰の状況にあるから、物価は値上がりしない。国民
生活は今のデフレでよい。」
というものでした。


2 危険なインフレターゲット論

民放の常として、時間がなく、更なる討論に入れませんでしたが、
古典的なバンカーとしての立場から言いますと、榊原教授の方が
オーソドックスと思いました。

岩田説は、まさに戦時国債と同様であり、返済原資の見通しの
ない政府の借金証文を日銀が保有するものです。本来国債・地
方債は、税収-歳出の差額の余裕資金から償還をすべきですが、
今は償還どころか年間36兆もの新規発行を余儀なくされおり、今
や国債・地方債残高は700兆円(内国債は450兆円)を上回って
いる危険な状況です。

以前、自民党の大幹部K氏が、「個人金融資産は1200兆円ある
から国債・地方債が600兆あっても心配ない・・・」という趣旨の発
言をしたのを聞いて、驚愕したことを思い出します。
岩田理論は、その延長線上にあるような気がします。

税収不足(歳出過多)がどれほど危険な状況なのか。
昨年12月20日の朝日新聞一面記事を引用しましょう。

一般会計に占める税収の割合 各国比較
      年度     比率%
英国    1999     99.8
米国    2000     91.2
イタリア  2000     86.1
ドイツ   2000     81.3

日本    2003     51.1

年度が若干ずれていますが、日本の財政は欧米大国と比較す
ると、著しく悪い状況です。
国債依存度は44.6%(100%-税収51.1%税外収入4.3%)です。
とても国連の費用の20%を負担したり、他国に大幅な
経済援助をできる財政状況ではありません。
欧米が収支を均衡させている健全な状況こそ見習うべきです。

個人生活でたとえると、一家の主人の収入と奥さんの内職では
生活費を賄いきれず、年間44.6%を「サラ金」に依存し、サラ金
借り入れ額はますます増えて絶望的状況という、自己破産直前
の状況です。

3 国造りも家計も、初心に戻れ

世界的な過剰生産恐慌が危惧される現在は、姑息な国債追加
発行による景気刺激ではなく、ムダナ歳出削減に大幅な大鉈を
ふるい、地方も交付金にできるだけ依存しないスリム化を図る
ほかありません。

都市も地方も、国民全員が、戦後の耐乏生活を再び思い出し、
勤倹貯蓄です。個人も、企業も、自治体も、国家も、収支を借金
で均衡させるのではなく、バブル前のつつましい暮らしをとり戻
さねばなりません。

財政の健全化策なくして、税収不足を消費税引き上げに持って
いくのは余りにも財務大臣は無責任過ぎます。

その意味で、国家百年の大計を、政治家任せでなく、国民一人
一人が考え、行動しなければなりません。

華美な生活から抜け出せず、サラ金に依存する社会は不健康
です。
年末年始、民放は馬鹿騒ぎ、NHKは紅白とのんびり大作で、
マスコミは「一億総白痴化」に拍車をかけていないかと杞憂しま
す。(きらりと光る情報がもっともっと放送されるべきではないで
しょうか)

と、年初早々ごまめの歯軋りをしたところ、昨夜(1月20日)のテレ
ビ東京午後11時WBSで、「わが意を得たり」と快哉しました。

かねてから尊敬していた中谷巌多摩大学長が、
「デフレを抑えるためにインフレターゲットを設けるというのはおか
しい。インフレ目標の為に国債発行を増やしてはいけない。
2013年に財政のプライマリー・バランス(国債を除いた財政収支)
を均衡させるというのは暢気過ぎる先送りだ。それまでに日本の
財政は破綻するかもしれない。一刻も早く構造改革をして財政
収支を健全化すべきだ」
という趣旨の発言をされました。

このような真摯な意見がある反面、同日テレビ朝日午後9時放映
「たけしのTVタックル」では、某自民党議員が、
「災害対策面でも高速道路は必要だ。住宅建設に親子ローンが
あるように、国債残高は孫子が払えばよい」
と発言していました。これには早速、
「親父が勝手に要りもしない建物を建てて、孫子に払えというの
は余りにも暴論だ」
と若いリポーターに反論されていました。

目先の景気を回復させたい気持ちはわかりますが、日本国民の
生活水準や、世界の過剰生産状況を見ますと、現状の維持(ゼ
ロ成長)がいいところでしょう。国債を乱発し、インフレにしてまで
世界経済の牽引車になる必要はありません。

国家百年の大計の為には、中谷教授説のように、国債発行を
抑制し、発行残高を漸減させる一方、歳出カットにより財政収支
のプライマリー・バランスを1年でも早く均衡させるべきでしょう。

今の国債残高は、「オギャ」と生まれる赤ちゃんにも、その瞬間
「5百万円!!」を越す負担なのです。(700兆円を人口 1億3千
万人で割ってみてください!)

子孫によい日本を残しましょう。国家も破産し、IMFの管理に入る
ことがあるのです。
皆さんは、インフレターゲット論をどうお考えですか。


 
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