大英帝国の旧植民地シエラレオネの内紛(2)

理念欠く破壊と不毛の内戦

3 最近の”TIMELINE”

最近の政権推移の理解を容易にするため、前回と一部重複するが、
1996年以後の”TIMELINES”を見よう。

カバ大統領の公選とクーデター

1996年2月  自由選挙挙行、カバ(Kabbah)氏が大統領に就任。
          この選挙はシエラレオネ史上最も民主的であった。
1997年5月  コロマ(Johnny Paul Koroma)陸軍少将の軍事クー
          デターによりカバ大統領は隣国ギニアに亡命した。
          軍内部の若い兵士と反政府勢力のRUFに、民主政
          権はあっけなく引きずり下ろされた。

1997年7月  英連邦は軍事政権を認めず、シエラレオネの連邦
          加盟を一時停止した。
1997年11月 国連安保理事会は制裁措置(兵器燃料の禁輸)を
          決定。

          しかし英国のSandline社は、この制裁措置は軍事
          政権のシエラレオネに適用されるもので、亡命のカ
          バ大統領シンパには適用されないとして、ブルガリ
          ヤ製AK-47ライフル35トンを輸出。
          (後日英国内で論議を呼んだ)

カバ大統領の復権

1998年2月  ナイジェリア主導の西アフリカ機構平和維持軍
          (Ecomog)が、首都フリータウンを急襲。
          コロマ少将の軍事政権を追放。コロマ少将率いる
          AFRC(Armed Forces Revolutionary
          Council)軍は、野に潜伏した。(run into bush)

1998年3月  カバ大統領国民の歓呼に応え帰国、大統領に復位。
          この時カバ大統領は、ナイジェリア人コービー将軍
          (Maxwell Khobie)をシエラレオネ国軍の最高指揮官
          に任命。
1998年    反政府勢力の中でもサンコン(Foday Sankon)率
          いるRUFは、ダイヤモンドの産地である東部を支配。
          反政府ゲリラ活動を展開。



1999年1月  RUFは首都フリータウンに進入し、市の一部を占拠。
          政府軍に撃退されるが、この戦闘でフリータウンは廃
          墟となった。

不安定な和平合意

1999年5月  政府軍とRUF間に停戦合意。
1999年7月  反政府勢力の一部が入閣。
          今までの内戦の責任なしと主張。

襲撃された国連軍

1999年11月 和平協定の履行状況を監視のため国連軍が進駐し
          たが、RUFは歓迎せず。
          西アフリカ機構平和維持軍(Ecomog)がフリータウ
          ン郊外で反政府軍RUFに襲撃される。
2000年2月  RUFの市民に対する残虐行為が国連軍により報道
          され、人権侵害問題が国際世論を起こす。
2000年4月  国連軍、東部にて襲撃され約500名がRUFの捕虜。

英国軍事介入と反乱軍の後退

2000年5月 英国は国連軍協力支援の一環として、シエラレオネ
         の民主主義政権に軍事支援を表明。
         1000名の落下傘部隊を派遣。国連軍の戦力は一挙
         に増強された。
         Foday Sankon逮捕。
         インド軍等他の国連軍も、政府軍の活動を後方支援。
2000年6月 英国軍は、軍事指導者等300名を残し、帰国。

2000年7月 リベリアのタイヤー大統領(Chartes Tayor)の仲介
         により、RUFは国連軍捕虜約500名を釈放。
         タイヤー大統領はサンコン氏の裁判中止を要望。
         
ダイヤモンド取引規制の検討

2000年7月 ベルギーでのダイヤモンド取引についてシエラレオネ
         政府経由でない非合法輸出についての制裁措置が
         目下国際機関で論議されている。


4 対峙勢力の概観

(1)カバ大統領の民主政権

国民投票で選ばれた民主政権であり、シエラレオネの国家政府とし
て、国連・アフリカ機構等が承認し、支援している。
首都フリータウン周辺は支配しているが、地方の支配は及ばない。
政府支持層は裕福なフリータウンのエリート階級であるが、内戦は
地方の貧困層の怨恨の経済闘争の様相があるので、民主政権の
勢力拡大は限界がある。

(2)混成の政府軍・平和維持軍

5月12日のBBCによれば、シエラレオネ側の軍事力は次の
ような構成になっている。

政府軍SLA(Sierra Leone Army)(装備訓練不足) 3000名。
親政府の私的軍事勢力(コロマ少将のAFRC軍)および
Kamajor(狩猟民の部族)               15000名
西アフリカ機構平和維持軍(Ecomog)および
国連軍(インド・ウガンダ軍など)             8900名
                       (近々11100名まで増強)
UK軍(落下傘部隊)                     1000名
            (ただし内乱沈静化により6月に700名は帰国)
(注)
以前クーデターを起こしたKamajorが、和平合意以後
政府についている。

政府軍の指揮官Maxwell Khobie将軍が、5月に急死し、将軍に随行
してきたナイジェリア兵が帰国しているので、政府側の軍事力は、国
連軍の支援なくては弱体化している。

ナイジェリア主導の西アフリカ機構平和維持軍(Ecomog)は、寄せ
集めであり軍事訓練の乏しい兵士と、弱体な装備である。

Kamajorは主として南東部の狩猟を生業とする部族の私兵である。
Sam Hinga Norman氏をリーダーに、1998年にはコロマ少将
のAFRC軍を相手に戦った、終始親政府の勢力である。

1998年2月の急襲によるカバ大統領の復位は、アフリカの問題は
アフリカ人で解決するとの理想の実現に喝采されたが、軍事力の強
いRUFとは太刀打ちできず、結局国連軍(英軍を含む)の支援が要
請されることとなった。

(3)反政府勢力RUFとリベリアの関係

指導者のFoday Sankon氏は元政府軍の伍長であったが、1991
年に反政府勢力RUFを創設し、隣国リベリアの内戦時に、Chartes 
Tayor氏率いるリベリア国民愛国戦線(National Patriotic Front
of Liberia)と同盟し、以後親密な関係にある。

Chartes Tayor氏はその後政権をとり、現在は大統領の座にある。
LiberiaはRUFに武器や物資を提供し、RUFはダイアモンドをリベ
リアを通じて、ベルギーのダイアモンド市場に流しているといわれて
いる。

RUFを中心とする反政府軍は約20000名と見られている。
兵士の半数10000名が誘拐あるいは強制徴募の少年兵といわれて
いる。

豊富なダイヤモンド売却代金により、自動小銃、地対空ミサイルや対
戦車ロケットなどを含む装備が進んでいる。

5 理念なき内戦の問題点

(1)階級闘争

シエラレオネは、英国植民地時代は沿岸貿易や、豊富な鉱物資源
の輸出で栄え、首都フリータウンは西アフリカの政治・経済・学術の
中心であった。
しかし、英国からの独立後、政府は豊富なダイアモンドの代金で、
内陸地方の貧困層の生活を引き上げる政策をとらなかった。
「ダイアモンドの富はどこに消えたのか?」
内陸地方の貧困層の、フリータウンに居住するエリートに対する嫉
妬や憤慨や憎悪が、反政府運動の根底にある。

内戦が首都フリータウン対その他地方の内乱の様相を示しているの
は、そのせいである。

(2)経済と社会インフラの崩壊

英国植民地時代から築かれた沿岸貿易のシステムや、政治・経済
学術・その他社会インフラは、激しい戦闘と、後述のRUFの破壊戦
略で完全に崩壊した。

破壊する必要のない物まですべて破壊しているとしか見えない。

国外への難民は50万人、アフリカでの内紛では最大多数という。
殺された人口は不明であるが、相当数にのぼるという。
有識者が国外に逃げ、生産人口が激減したあとの社会構築は、
相当難しいと予想される。

(3)ダイヤモンドの魔力

シエラレオネは、もともとダイヤモンドやチタンなど豊富な鉱物資源
に恵まれており、社会インフラも整っていたから、アフリカの中では
最も裕福な民族国家になれる条件があった。

しかしダイヤモンドの鉱山は東部の内陸地帯であり、フリータウンか
ら遠く離れていた。反政府勢力は、このダイヤモンド生産地の中心
地Koiduを占拠した。

シエラレオネで生産されるダイヤモンドの殆どをRUFが支配し、リベ
リア経由ベルギー市場に流れ、RUFはその代金で、最新の軍備を
充実しているといわれている。
(政府管理下に輸出されているのは僅か2%ともいう)

(4)恐怖の”Operation No Living Thing”

反政府勢力RUFは、”Operation No Living Thing”という恐怖
のキャンペーンを実行している。

「Operation Burn House」は文字通り「放火」である。
フリータウンやその他の町の建物が焼き尽くされている。
「Operation Pay Youself」は「略奪」である。
少年も略奪の対象である。

「Operation No Living Thing」は蕃刀による手首足首切りであ
る。親政府の村や少年を兵士に出さぬ者、反抗する者には容赦なく
片手片足を奪う残酷な仕打ちである。

もうこれは理念なき内戦である。かってカンボジアのクメール・ルー
ジュが、反抗する者に行った残虐行為を思い出す。



(4)少年兵と麻薬の使用

政府軍、反政府軍ともに少年兵を多数使用していることが国際世論
を引き起こしている。
政府軍は、目下少年兵の使用をやめているが、反政府軍は強制徴
用し、麻薬の使用などで恐怖心をなくし、前線に出していると報道さ
れている。

この非人道的行為は、RUFが仮に「内戦は貧者の富者に対する聖
戦」という大義名分を打ち出しても、国際世論の共感は得られない
であろう。

(5)武器商人の暗躍

英国の民間会社Sandline社は、カバ大統領シンパに武器等を輸出
し、英国内でも顰蹙を買っている。
一方東欧圏の方からもロシア軍の武器がRUFに流れているという。
豊富なダイヤモンドが産出される限り、武器商人には大きな市場で
あろう。
国連安保理事会の制裁措置など無視されているようである。

(6)アフリカ権力闘争の縮図

BBCは、このシエラレオネの内戦は、更に高次元の、アフリカ諸国
間のリーダーシップをめぐる権力闘争の縮図だと指摘している。

現政府を支援するナイジェリアやギニヤなどと、反政府のRUFを
支援するリベリア。今内戦は代理戦争の様相を示している。

(7)理念なき闘争

政府側も反政府側も、何のための内戦か、その目的や理念をはっ
きり公表していない。
国家構築の青写真が、国民に独立以来提示されていないのでは
なかろうか。

これはただシエラレオネだけではなく、植民地から独立した多数の
国家に見られる破壊と不毛の闘争といえよう。

シンガポールやマレーシアのように、優れた指導者を得て、済済と
国家建設に国民が力を合わせている事例を見ると、国民の幸不幸
はリーダーシップを取った人物の如何で決まると言っても過言では
なさそうである。


内戦はどのように終結するのか。人間の虚しさを感じる内戦である。
英国を含む国連軍の軍事介入により、平和維持軍の捕虜釈放など
内乱は一見沈静化しているが、ダイヤモンド産地地区は依然として
反政府RUF軍の支配下である。

旧宗主国とはいえ、英国はあくまでも国連軍の一員として、距離を
置きながら、側面支援に徹するようである。

ダイヤモンド取引規制を含め事態が収拾するには、まだまだ前途多
難であろう。

日本はダイヤモンド商人にとって有望な市場という。
日本の女性たちの指や胸を飾っているダイヤモンドの中には、この
シエラレオネ産もかなりあるはずである。
遠い国の内乱と傍観せず、いささかの関心を持ちたいと思う。



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