晴耕庵の談話室

NO.79



標題:ロバート・ザ・ブルース王とスコットランド王室騎士団(2)

REPORT

2002/9/3

ロンドン憶良様


スコットランド王室騎士団の星章の写真が手に入りましたので添付
いたします。




ファウラー・クランについて

さて、スコットランド騎士団並びにファウラー・クランについてですが、
後者はご指摘のとおりファウラー氏族のことです。
面白いことに、本国スコットランド以上に、アメリカやカナダではスコッ
トランド系市民の祖先に対する愛着は深いらしく(これはアイリッシュ
も同じなのでしょうが)、スコットランド氏族協会(The Society of
Scottish Clans ) のもとで各氏族ごとに支部をもっていて、何年かに
一度づつ氏族ごとの全国総会を開いて首長(Chief)を選出しては本
国の同一クランとの連携をはかっているとのこと。
本国スコットランドにも当然現在でも各氏族ごとの部会があり、それ
ぞれ、Chief がいますから、新大陸でのChiefはその代官のようなも
のですね。ともあれ、本国ではこれら各氏族(クラン)を束ねる機関と
して、氏族保存協会があり、Lord of Ryon = スコットランド王室紋章
官及びその紋章院がその窓口になっています。

武士道に憧れ剣道6段のクラン

余談ではありますが、私の友人に、この氏族保存協会の書記官兼
紋章院の意匠画家をしているR.S.という男がおりまして、彼は、紋章
院でのはたらきが認められて大英帝国男爵に叙せられたのみなら
ず、全スコットランド・フェンシング大会で2度も優勝するという輝かし
い現代の”騎士”なのですが、じつはとんでもない日本キチガイで、
「フェンシングなんぞ、スポーツに過ぎない。本当の騎士道を今の世
に残すのは日本の剣道だけだ」などといって、一生懸命、剣道に励
んでおります。しかも、剣道5段以上をとるためには、ご存知かもしれ
ませんが、東京の武道館もしくは京都の武徳殿での昇段審査を受け
なければならないのですが、彼の場合、京都の武徳殿で段位を取得
しないと意味がないというこだわりがあり、一生懸命母国から京都ま
で通っていました。

当初は京大の大学院を出た後、オーバー・ドクターをしてフラフラして
いた私のほうが剣道も5段を持っており、彼に「現代の剣道だっても
うスポーツに過ぎないんだよ」と生意気にも講釈をたれていたのです
が、彼が、長年の努力の末、6段を取得するに及んで立場は完全に
逆転し、かれの騎士道、否、武士道に対する独自の熱情にこちらも
黙らざるを得なくなった次第でございます。
今でも、ちょくちょく日本にきていますが、実に見上げた男です。
(特に、おなかがたるんで5段とは名ばかり、まともに剣道もできなく
なった中年のわが身を省みるに、日々精進しているR.S.君の偉大さ
が身にしみるこの頃です。)

日本でのスコティシュ競技大会

本筋に戻りますと、日本にも、さすがに氏族ごとの部会はありません
が、スコットランド系家族協会があり、毎春・毎秋、スコティシュ競技大
会を開いています。
確か、前回は多摩川河川敷で開いていましたが、みんな例の自分の
氏族のタータン生地で仕立てたハイランド・スーツに身を固め、最近
市民権を得てきた「カーリング」や、あとは私には名前のわからない
(忘れてしまった)スポーツ競技に血道をあげていました。
日本の袴と同じで、彼らの例の衣装もパンツ抜きなので、転んだりす
ると、誠に見苦しいことになります。(笑)
−−−ご関心がおありでしたら、会長が友人なので、一度一緒に見
物にまいりますか?

スコットランド、イングランド、日本のフリーメイスン

さて、フリーメイスンとスコットランド等の関係についてですが、フリー
メイスン自体もう完全に彼らの伝統の一部になってしまっているので、
分けて考えることは難しいですね。
日本でこそ、”秘密結社”というあり難くない前置詞を伴って語られて
いるフリーメイスンですが、西欧においては文化の一部です。
私自身、メイスンの会員なので、さて、どのあたりから、ロンドン憶良
様に御説明をはじめたら良いのか漠然としすぎていて判断がつきか
ねるのですが、個々の事柄についてご質問いただければ、いつでも
お答えできるとおもいます。

とりあえず、ロンドン憶良さまのテーマである英国関係から簡単な例
をあげるなら、スコットランドにおいてはメイスンの総長(グランド・マ
スター)は5年ごとに改選され、現在は貴族でない方が務めておられ、
先日、日本にもいらっしゃいました。
その前任者は高名なるマグレガ−氏族の傍流にあたる5代目バート
ン男爵ブルース・マグレガ−さんであり、そのさらに前任者がくだんの
エルギン伯アレクサンダー・ブルースさんといった具合です。

かたや、イングランドでは総長職は事実上の終身制で、エリザベス2
世以前は国王もしくは、プリンス・オブ・ウェールズがその職をつとめ
るのが慣例となっていたのですが、チャールズ皇太子が慣例に反し
てメイスンになることを拒否するに至って少々、事態が変化し、50年
前から現在に至るまでエリザベス女王の従兄弟にあたるケント公爵
がその職についています。

日本におけるメイスンの本部は東京タワーの飯倉交差点寄りの隣に
ありますが、現在の会員数は2000人強、そのうち、日本人は約1割
といったところです。世界に600万人の会員をようする団体としては、
いささか寂しいところかもしれません。
ちなみに、現在の事務局長をつとめているのは、アイルランド系アメ
リカ人の米軍准将さんで、アイルランド独立の殉教者である、あの有
名なマイケル・コリンズの縁戚にあたるかたです。世の中、この場合
は文字通り、この”世界”は案外と狭いものですね。

ファウラー氏族の出身地域

ちなみにご質問にあったファウラー氏族のもともとの出身地域ですが、
とても私の知識ではカバーできなかったので、前述の男爵さん、R.S.
君にたずねたところ、ロバート・ザ・ブルース王の戴冠には立ち会って
いないがバノックバーンの戦いには参戦した記録が残っていて、北部
ハイランドから駆けつけたと思われるが、元々はじつは、シェットラン
ド諸島に面した北部地域のどこかが出自ではないかとのことでした。
お役に立てれば幸いです。言い忘れましたが、R.S.君も実に7代続き
のメイスンなのですが、日本と比べてこの方面でも歴史を感じますね。

又、こちらかからもお便り申し上げますが、何か私でお役にたてること
があれば、いつでもまっております。

それでは、まずはお体には気をつけて。 またお話できることを。


                    Y.H.,PhD,ThD,
                


THANKS

2002/9/5

Y.H.,PhD,ThD,様


氏族(クラン)及びフリーメイスンについて

詳細なご説明および星章の写真ありがとうございました。
フリーメイスンは秘密結社ではなく一種の文化であるというご説明に
成る程と思いました。多分日本人の多くが「広辞苑」の範囲でしか理
解していないと思います。

UKは明治維新のような政治形態の変化や、第2次大戦の敗戦によ
る貴族制度の崩壊、士族平民制度の廃止のような事件がないので
中世がなお色濃く残っていますね。

英王室もフリーメイスンでしたか。第1次大戦後のアイルランド独立問
題ではマイケル・コリンズは中心的役割をしましたが、映画「マイケル・
コリンズ」は当ホームページでも紹介しておきたいと思っています。
彼は独立の最終段階でとんびに油揚げをさらわれたような気がして
おります。そのご親戚がメイスンの事務局長さんとは、これまた吃驚
ですね。
またR.S.氏の人物像についてはまことに興味深いものがあります。
やはりケルトの社会も二層分化の共棲(棲み分け)ができあがってい
るのでしょうね。

スコティシュ競技大会

お誘い有難うございます。
当方はフリーメイスンの方々と付き合えるような身分ではありません
が、好奇心旺盛な市井の隠居庶民老人という立場で、子々孫々の話
の種に見物したいですね。今年の秋は何時どこであるのでしょうか。

ファウラー氏族の出身地

実は内内シェークスピアに反論し「真説マクベス」の下書きをしてい
ます。北部ハイランドやシェットランド諸島は中心的な舞台ですね。
中世スコットランドの様子など衣食住は勿論地理、呼称さまざまな問
題について、今後ともご指導を受けたくよろしくお願いします。


                      ロンドン憶良


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