晴耕庵の談話室

NO.76



標題:ニューカスルから(5) 英国ガーデニング異聞

REPORT

2002/7/17

ロンドン憶良様


ガ−ディニングの箇所を読ませていただきました。全くもってこちらの
住環境はすばらしい!!アジアが逆立ちしても追い越せるものでは
ないです。
(だからと言って私は決して卑屈にはなりませんが。各国とも人間同
様それぞれ得意不得意があって当然と思ってます。この辺はちょっと
憶良さんと意見を異にしてるかもしれません。イギリスがいまだに世
界の10ヶ所に植民地を持っていても何のおとがめも無いのは変、と
思っていますから)

<芝生は旦那の仕事>には一種の恨めしさがありますよ。
うちの旦那はいわゆる九州男児の典型で家事一切、家の事は何も
しない人なのでこの2年間、私が芝刈りをしてきました。
ガ−デナ−も入れてないので貧相な庭ですが、幸い、隣近所はどん
なにみすぼらしい庭でも文句も言ってこないので助かりましたが。うち
の右となりはわれわれ日本人でも驚くほど全く手をかけてない庭でこ
れまたここでは珍しい庭ですね。

そうそうそれでですね、、、この住環境に関連して、わたしが書いた文
も読んで頂ければ幸いです。

*******************************

寒い北のニュ−カッスルにも待望の夏がやってきました。
さすがはガ−ディニングの国、家々の庭では様々な花がきれいに咲
き乱れています。特にイングランドの国花であるバラはどこの庭でも
咲いています。うちの貧相な庭にも赤、白、ピンクと4種類のバラが咲
き目を楽しませてくれています。

とにかくどこへ行ってもくやしいほど景色がきれいなんですねここは。
特に小川が流れている田舎の村なんて最高ですね。そこら辺にウサ
ギがでてきたり、キツネがいたり(そういえば先日の新聞で、ソファで
昼寝をしていた乳児が外から来たきつねに頭部を噛まれると言う記
事があったっけ。キツネは赤ちゃんを口でくわえて外の運びだそうと
していたとか)ピ−タ−ラビットの世界そのまんまという感じです。

更に古い建物が周りの自然と溶け合っているからスゴイです。
でもこの景観の美しさも偶然に出来たものではないんですよね。イギ
リスならではの<頑固>なまでの規制があるから保たれている美し
さなんでございます。(急にト−ンがかわる)

さて、今回はイギリスの景観について気がついたことを書いてみたい
と思います。ここを訪れた人ならお分かりのように、良く日本ではあ
ちこちに立っている<看板>と言うものがここにはありません。大地
を全部緑に見せるためには<看板>はあってはならないのです。

まだよく調べてないので分からないのですが、厳しい<景観条例>
というもので規制されてようです。先日すぐ近くに住む友人宅へ遊び
に行ったときのこと。そこは5軒が一緒になっている"terraced house"
(テラスドハウス)(日本で言うところの長屋の様なもの)だったのです
が、少しだけ丘に建てられていてそこの家の後ろ庭は幹線道路から
はよく見えないようになっていました。

彼女はそこの後ろ庭の前の通路に小ぶりの花の鉢植えを置いてい
たんですが、「ここに花を置くのも本当は禁止されてるのよね、」ここ
の芝生(5×20メ−トル位の広)にも何も植えてはいけないの。ほら
見てお隣さんは小さな小屋を子供のために作ったんだけどあれも本
当は禁止されてることなのよ、」と。

私なんかは、花はきれいなんだから置いても良いんじゃない?と思う
けど、右となりの住人がそこを歩くこともあるので何もおいていけない、
とのこと。

それからまだまだあるんですよ。「このサッシ(窓枠の事)見て、便利
だからアルミサッシにしたんだけど、本当は禁止なのよ。ここは木の
枠でないとだめなのよ、」と。
ひえ−そこまで強制するの?

それから、家の外壁の色と外の石塀の色は同色でないとだめとか。
とにかく街や村をちぐはぐな色で乱してはならないのです。もちろん
屋根の色も決められています。これらの様々な規制はそれぞれの地
方自治体によってだいぶ違うらしいのです。

先日通った住宅街は突然ヴィクトリア時代の様式(白黒の)の家があ
ちこちにあって壮快でした。(築100年以上は軽く越えてるでしょう)
そして各自治体は毎年<きれいな村>コンテストや<きれいな庭を
演出してる家>コンテストを行っているようです。
ちなみに毎年のように<きれいな村コンテス>トで全英1位になるの
はあの有名な<コッツウォルズ>だそうです。

話しは変わりますが先日の新聞では<108歳の老女、新しい老人ホ
−ムになじめず餓死す>とありました。今まで住んでいた老人ホ−ム
が、政府が打ち出した新しい居住スペ−スに関する新基準(居間や浴
室の広さ等細かく規定された)に従って改築すると相当な資金が必要
となりやむなく閉鎖したようで、従ってこのおばあちゃんも他へ移され、
新ホ−ムになじめず約1ヶ月間食べ物を拒否し、餓死したらしいです。
これも政府の厳しい住居規制を垣間見る一件ですね。

このように、きれいな景観を守るための涙ぐましい努力があるんです
ね。脱帽!!

                           M.I. 

RESPONSE>
2002/7/17

M.I.様

今回も面白い寄稿有難うございます。

実は私も九州男児ですが、「郷に入れば・・・」ということで「芝刈り」と
「ドアを開けて後ろの女性にアフター・ユーと会釈」することだけはどう
にか身につきました。
家事はともかく「芝刈り」はリタイア後は畑仕事やガーデニングに発展
しています。ご主人にも『男の仕事』とお勧めします。

私は親英患者ではありますが、アングロサクソンの歴史は、是は是、
非は非とできるだけ客観的に見ています。対ケルト問題や覇権主義
は、同時に日本の対アジア問題にも通じています。ジンバブウェやシ
エラレオネ、ジブラルタルなど取り上げているのは、そのためです。

景観保護の取り上げも、日本の景観破壊を残念に思いながら書いて
います。一方で景観保護政策が、かなりの自由の制約になっている
のも事実でしょう。
そのために談話室などに異なった意見やレポートが寄せられるのは
大歓迎です。

野立て広告が無いのは30年前と変わりませんね。
帰国後数年アメリカの外資系広告代理店に出向していた時期があり
ます。巨額の広告費がすべて商品価格に転嫁されている実態や、商
業報道のあり方など、米国型資本主義市場経済の短期企業利潤追
求姿勢に、長短両面の勉強をしました。

日本やアジアはアメリカ型自由競争経済の影響下にありますから、な
かなか景観保護とまでは行きませんね。
電線埋没だけでもムダな農道空港や地方道路などよりよっぽどましな
公共工事になり、同時に観光立国にも役立つのにと思います。

ロンドンで生活した借家の窓も、そう言えばがっしりとした木枠で分厚
く白ペンキが塗られていました。景観保護には暗黙のうちに国民的我
慢の合意があるのでしょう。

108才のおばあちゃんの拒食死には行政の難しさを感じます。
得るものと失うものの両面の相対的な比較で選択がなされるのでしょ
うが、新しい規制で良かったという方もいるのではと思ったりしていま
す。

いろいろな試行錯誤や犠牲や負担を生じながらも、俯瞰的に見れば、
英国や日本などは少しづつでも良くなっているのかなと思っています。

どうぞこれからもご意見をお寄せ下さい。「多様性の容認」こそ日本人
一般に必要なことですから。


                       ロンドン憶良


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