晴耕庵の談話室

NO.19


REPORT

98/11/26
標題: 今日のニュースから

ロンドン憶良様

メール、ありがとうございました。
実は、2月のハーフタームにはアテネだけでも見てこようかと話していたところ
でした。憶良さんのお歌は、のびやかに景が広がっているところがとても魅力的
ですね。 日々成長する子供達のこと、異国での暮らしなど、私ももう少し歌心
があれば、自分自身の思い出に詠んでみたいところですが、なにぶん不器用・無
調法でかないません。 現代歌人では、宮柊二・岡野弘彦(と、なぜか折口信夫
門下)が好きなのですが。 確かにキーボードばかりでは、歌は湧いてこないか
もしれませんね。 お孫さんのお喰初めで一首いかがでしょう。

今日は、チリのピノチェト将軍のニュースでもちきりでした。 UK政府が黙っ
てスペインに身柄を引き渡すのか、注目されるところです。 7つの海を制覇した
イギリスも、中南米には心理的に少し距離があるのではないでしょうか。(小さ
い島々は別として) 当然アメリカは口を挟んでくるでしょうし、人道問題が絡
むとフランスは俄然張り切り出すし、事はもはや一国の独裁者の裁判ではおさま
らない様子ですね。

個人的には、チリの人々こそ、これを裁く権利義務があると思いますが、そして
他国政府がうかつに口を出すのは、内政干渉とも思われますが、チリの友人の話
では、国内では依然将軍派の人々が3分の1を占めているとのこと。 正当な裁判
が行われるかどうか分からないと言っていました。 日本政府の公式見解も聞い
てみたいところです。

(それにしても、いつも不思議に思うのは、この手の「国際的お尋ね者」が何故
最終的にイギリスに落ち着くのかと言うことです。 カール・マルクスしかり、最
近のサルマンラシュディしかり。 イギリス人は一見保守的に見えて、その実、
非常に実際的に状況を判断するプラグマティストなのでしょうか。)

いよいよクリスマスが近づいてきました。 「日曜礼拝なんて、とても行く気に
なれない」と公然と口にする友人達も、さすがにクリスマスを避けては通らない
ようで、「もう買い物終わった?」と言うのが最近の合い言葉です。 私も「早目
に」と思っておもちゃやさんに行ったのに、月曜日の午前中既にレジには行列が
できていました。 9月マンチェスターの南に新しいショッピングセンターができ
たのですが、 これが、まるでアメリカかと思うようなキンキラピカピカの代物
で、当地初お目見えのロンドンの有名店がずらりと支店を並べているので、今最
寄りの高速道路が大混雑になるほどの盛況ぶりです。

盆暮れの付け届けなど、日本人はとかく儀礼的贈答が多いと言いますが、この
クリスマスの狂奔ぶりを見聞きするにつけ、こちらの人も、結構義理のお付き合
いに悩んでいるんだなあと思います。 (でも、心のどこかに、見ず知らずの困
っている人のこともちゃんと覚えていて、とくにこの時期は、募金などの呼びか
けも盛んなのはご承知の通りです。)

同じクラスのムスリムの友人も、クリスマスはなぜかうきうきすると言っていま
した。こう日の暮れが早く(現在4時過ぎにはもう暗くなっています。)寒い
と、明るい暖かな光が恋しくなるものなのでしょう。そもそもクリスマスは、緯
度の高いヨーロッパの冬至のお祭りがキリスト教と結びついたものと言う説が良
く分かります。

我が家もぼちぼちクリスマスの飾り付けを始めました。子供達も、学校で
Nativity Play の練習を始めたそうです。郷に入っては郷に従え、まずは形から
真似て、その心を知ろうというのが転勤族の我が家流のやり方です。
ではまた・・・

                          N.N.


RESPONSE


Y.N.& N.N.ご夫妻様

メールありがとうございました。

> 現代歌人では、宮柊二・・・が好き・・・

宮柊二さんは直接には知りませんが、

若きらはロンドン憶良と吾をよべり子を詠む歌の二・三載れれば

との歌を朝日歌壇トップに選んでくださったのは故宮柊二先生でした。
綽名がおもしろいとの評でした。
私は特に師にもつかず歌のグループにも属さない、全くの自己流です。
万葉の時代はそのようなものではなかったかと思います。

> チリのピノチェト将軍のニュース

英国の上院で3対2で、逮捕は合法との判決が下されたとのことで、
朝日には解説も十分されています。これから先どうなるのかわかりま
せんが、人道主義とか人権主義が世界の潮流との解説でした。
過日別の案件で、英連邦の司法関係者は毎年「人権問題の勉強会」を
持って共通の認識を研究しているとの記事を読みました。
英連邦はスポーツ大会を持ったり、司法の研修をしたり、密かに繋がり
を持っており、「英連邦はしたたか」というのが、私の印象です。
小さな記事でしたが、日本の司法関係者が、どの国と勉強会を持って
いるのかと、愕然としました。

> イギリス人は・・・プラグマティストなのでしょうか

英国は保守的ではありません。現実的です。法律も英米法は具体的です。
一例をあげれば、英国の会社法には取締役は70歳までとの年齢規定が
あります。70歳以上は惚けるという現実を反映したものでしょう。
日本の会社法には年齢の規定はありません。(老害が多すぎるのに
商法改正の声すら出ない!)
王室外交も同様です。女王は最高のセールスレディでしょう。
流行の歌手もクリケットの名手も、国民の人気があればサーの称号を与え
る弾力さを持っています。
マルクスの亡命は受け入れても、マルクス・レーニン主義には国民全員
が反対で、赤旗一本見ませんね。ここらが英国の労働党支持層と日本の
旧社会党支持層の相違でしょう。
昔から英国民はソ連の共産主義にはまやかしを感知していました。
ここにも冷静なプラグマティズムが見られるようです。

いよいよ年末ですね。英国は景気もよい様子でなによりです。
「黄昏のロンドン」などとはもう誰もいわないでしょう。
よいクリスマス休暇をお過ごしください。
                    ロンドン憶良

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