UKを知ろう


ウェールズ人をカンタベリー大主教に

ブレア首相の大胆な俊才登用の深い意味



 2002年7月23日のBBCは、ブレア首相が104代カンタベリー大主教
に、ウェールズ国教会のローワン・ウィリアムズ(Dr.Rowan Williams)
大主教を任命すると決定したと報じている。



 もともと英国国教会(The Charch of England)は、ヘンリー8世により
ローマ・カトリック教会から独立した組織である。歴代国王がイングラ
ンド国教会の頂点に立つカンタベリー大寺院の大主教を任命してき
た。ブレア首相が新大主教を任命するのは、女王の名代としての立
場である。

 今回のローワン・ウィリアムズ大主教が、UKのみならず世界の注
目を浴びているのは、次のような大きな意味があるからだ。

(1)カンタベリーの大主教に任命された初のウェールズ人である。
 
   ローワン・ウィリアムズ大主教は、流暢なウェールズ語を話す
  生粋のウェールズ人で、52才。2児の父である。
  英国国教会の信者は、全世界で7千万人と称されている。
  歴代のカンタベリー大主教は殆どがイングランド人(アングロサク
  ソン)であったが、今回は人口300万人のウェールズ人(ケルト)
  から選ばれた。約1000年のカンタベリーの歴史の中で、これは
  画期的な出来事である。

  (ブレア首相がスコットランド人(ケルト)であることと無縁ではある
  まいと憶良氏は感じる)

(2)英国宗教界では飛びぬけた秀才である。

   ケンブリッジ大学を優秀な成績で卒業し、29才で著書を出し、
  36才にしてオックスフォード大学の最年少教授に就任している。
  碩学というに相応しい俊才として公知の人材である。

  ブレア首相が選んだのは、まさに現代的叡智の人材であった。
  The Prime Minister's spokesman said Dr Williams had been chosen
  because of his "wisdom, intellectual stature and deep spirituality".

(3)英国国教会は、カトリック教会など他のキリスト教と同列の立場
  に立つべきであって、優越意識は捨てるべきとの考えである。

   He is sympathetic to the proposal that the Church of England
  should lose its established status, and become a church on an
  equal footing with the Catholics, the free churches and all
  the other Christian denominations.

    (読者諸氏は、英国国教会の優越意識が、北アイルランド問題
  だけではなく、清教徒の弾圧など、UKの歴史でさまざまな事件を
  起こしてきたことを想起するであろう。英国国教会が今までのスタ
  ンスを続けると、人心が離れ、英国王室制度の存続ともからみ、
  将来に禍根を残すとの深い読みではなかろうかと憶良氏は推測)
  
(4)リベラルな、やや革新的な社会思想家とみなされている。
   The archbishop is regarded as a liberal, even a radical.

  従来保守的な英国国教会にあって、女性の聖職者やゲイの聖職
  者をも容認するという極めて新しい思想家である。
  Dr Williams also refuses to stigmatise lesbian and gay
  clergy in the way some of his fellow Anglican bishops
  have done.

  しかし宗教家としては真面目なオーソドックスな理論家との定評
  であるようだ。
  This is not a view likely to endear him to traditionalists
  Liberal socially but conservative theologically

  英国国教会の保守派には、「リベラルなウィリアムズ大主教は国
  教会を分裂させる」と危ぶむ向きもあるが、大主教は分裂も恐れ
  ない断固たる思想家であるようだ。

  Some Anglicans have warned that Dr Williams' appointment
  could split the Church, with many conservatives strongly
  against some of his views - in particular on the ordination
  of women and gay priests.

(5)テロに対するアメリカ(ブッシュ大統領)の報復攻撃姿勢には批判
  的である。

    NYテロに関連してタリバーンに対する米国のアフガニスタン爆
  撃や、米国のイラク事前攻撃の戦略姿勢には批判的な意見を表
  明している。
   In other controversial stances he has also been critical of
  the war on terrorism in Afghanistan, and earlier this month
  signed a letter condemning proposed American action in Iraq.

    (この時期にウィリアムズ大主教を英国国教会のトップに任命し
  たことは、ブレア首相の考え方を知るのに重要な意味がある。
  世間的にはブレア首相はブッシュ大統領に全面的に協力している
  と見られているが、かねがね憶良氏が述べているように、実態は
  アメリカの孤立暴走を牽制しつつ、テロを収束させたい意向であろ
  う)

(6)教育問題に熱心な宗教家である。

   ウィリアムズ大主教はとりわけ青少年の教育問題に熱心である。
  大主教は英国の教育の荒廃問題や子供達のセックス問題の根元
  が、過剰な消費推進的社会にあると指摘している。

  In a book republished in the Times on Tuesday, he tackled
  schooling and the "corruption and premature sexualisation of
  young children" in a consumerist society.


 日本の新聞報道で読まれた方もいようが、若いブレア首相が、21
世紀の英国精神世界のリーダーとして、52才のリベラルなケルトの
碩学を選んだことに、憶良氏は特に注目している。

 皆さんはどう感じましたか。


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