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ノーベル平和賞、北アイルランドの二人の政治家へ


10月16日、ノーベル賞委員会は、北アイルランドの和平に努力している二人
の政治家に授与すると発表しました。

受賞者はカトリック穏健派の社会民主労働党(SPLD)党首のジョン・ヒューム氏
と、プロテスタント系の最大政党のアルスター統一党(UUP)党首で、かつ北アイ
ルランド地方議会の首席大臣(首相に相当)デーヴィッド・トリンブル氏です。

10月17日の朝日新聞によれば、ヒューム氏の受賞理由は
「紛争の平和的解決に向けて最も明解で一貫した姿勢を取り続けてきた政治家」
トリンブル氏については
「地方議会代表として相互信頼の構築に向けて大事な一歩を踏み出した」
というものです。

カトリック穏健派のヒューム氏は、アイルランド共和国軍(IRA)の政治組織で
あるシンフェイン党(党首アダムズ氏)やカトリック強硬派とプロテスタント側
との仲介役を粘り強く果たした努力を評価されたとのこと。

一方トリンブル氏はアルスター統一党党首として、和平円卓会議でも強硬派のイ
メージを保ちながらも、交渉では柔軟な姿勢で、和平推進の軸となったと報じら
れています。

北アイルランドの紛争は、やっと和平の構築へ一歩を踏み出したばかりであり、
ヒューム氏は「平和賞は私に贈られたものではなく、北アイルランド和平プロセ
スに対するきわめて強力な国際的な承認だ」と語っています。
またトリンブル氏は「北アイルランドの人々が求めていたものにあたえられたも
の。平和の実現はまだ完全ではなく、決して時期尚早いならないことを望む」と
述べています。

シンフェイン党の党首アダムズ氏は、「受賞はわれわれを含めて。和平合意の早
期達成に向けて、重要な責任を課すことになった」と述べ、「最終的に平和は達
成される」と自信を持っているようすである。

しかし、プロテスタント強硬派の民主統一党(DUP)のペイズリー党首は「IRAが
武器を引き渡さない限りは真の平和だとはいえない。ノーベル平和賞は茶番劇だ」
と厳しく批判しています。

またIRA側は「カトリック系住民に暴力を振るってきた警察が、大量の武器を保有
している。IRAが武器を放棄したら誰が住民を守るのか」という声があります。

同紙は今年(98年)5月、北アイルランドのホテルでブレア首相を挟んで談笑
するヒューム氏とトリンブル氏の写真も掲載しています。



ブレア首相が、アイルランドに関係の深いアメリカの大統領府を動員し、和平構
築に影の貢献をしてきたことは、すでにアップロードしましたが、この写真のよ
うにはカトリック穏健派ヒューム氏とアルスター統一党トリンブル氏の三人が、
縁の下の力持ちの役をしたと見られます。


IRAの武装解除問題がまだ未解決ですが、国際社会が和平構築に信頼を寄せてい
る証左といえましょう。
ブレア首相が、立場上表面に出ず、巧みにアメリカ大統領府やアイルランド政府
さらにはノーベル賞委員会までも含む根回しをして、和平構築をしていると見る
のは、憶良氏のうがち過ぎでしょうか。

ブレア首相は北アイルランドの紛争を国内問題として首相の立場で解決するので
はなく、歴史的にみてアングロサクソン・プロテスタントのイングランドによる
ケルト・カトリックのアイルランド侵略を、国際的なコンセンサスで納得させよ
うとしているように感じます。

第3幕では、経済問題(カトリックの貧困対策)が、さらにエピーローグでは、
ローマ教皇とカンタベリー大司教も登場する場面もあるのではないでしょうか。

イングランドのヘンリー2世、さらにはヘンリー8世によるアイルランドへの政治
経済・社会・宗教の絡んだ侵略が、ようやく最終幕へと近付いた感じです。

それだけに、ブレア首相の脚本・演出は凄いと思います。
カトリック・プロテスタント双方の一層の歩み寄りによる和平の実現を祈ります。

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