ロンドン憶良の年頭雑感







2001年の回顧と展望

 21世紀は混沌とした幕開けで始まりました。
1月の米国大統領選挙は、一体全体本当にブッシュ氏が勝ったのか
どうか不透明でした。
後日、ゴア氏の方が僅差で勝っていたとの発表もありましたが、現実
は覆されません。IT先進国らしからぬ集計で、世界の人々を驚かせ
ました。
 このブッシュ大統領の選出が、米国の進む方向を大きく変えました。

 2月イスラエルの首相選挙で野党リクード党のシャロン党首が公選
されました。シャロン氏は対アラブ強硬路線であり、パレスチナ人民
への圧力が強くなりました。

 クリントン大統領時代に、ホワイトハウスで握手したイスラエルとパ
レスチナの和平路線は大きく変化しました。ブッシュ大統領は、イス
ラエル政府の方針変更を黙認しました。

 3月、アフガニスタン・バーミヤンの大仏が、イスラム原理主義のタ
リバーンによって、無残にも爆破されました。
 世界遺産にも匹敵する貴重な仏教遺跡でしたが、イスラム原理主
義では偶像崇拝は禁止されています。ましてや仏教は彼らには異教
徒です。世界の人々は、貴重な人類の遺産の消滅を惜しみましたが、
それまでアフガニスタンは世界から見捨てられた貧しい国でした。
 大仏は破壊されましたが、それによって世界の人々が、英国やソ連
の侵略を受け、さらにはタリバーンに支配されてきたアフガニスタン
国民の悲惨さや悲しい歴史を、あらためて認識したといえましょう。

   僅かな救いは、ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世が、カトリック教が
これまで世界に対してきた方向に過ちがあったと表明したことです。
教皇は5月、シリアのダマスカスで、カトリック史上初めてイスラム教
のモスクを訪問し、世界平和を希求しました。

   世界を震撼させたのは9月11日のニューヨーク・テロでした。
その被害者の多さも、崩壊の悲惨さも筆舌に尽くしがたいものがあ
ります。もし自分の家族が犠牲者になっていたら、どう怒るだろうか
と思います。何も知らずに犠牲になった方々やご遺族に、深く哀悼
の意を捧げます。

 テロを深く憎みますが、憎みと復讐だけでは事態は解決しません。
心を静めて、深く深く考え、事実を見極め、対策を取らねば、復讐は
更なるテロを生むでしょう。

 アメリカは世界経済で一人勝ちし、地球環境問題や、国連への協
力問題でも、グローバル・スタンダードとはアメリカの主義を通すこと
だと、ブッシュ大統領は独自路線を主張しすぎて、最貧国や弱小国
などには冷たい印象でありました。

 ブッシュ大統領は「テロにつくか、アメリカにつくか」と、世界に2者
択一を迫まりました。双方とも問題があるという考え方をする国や人
にとってはこのような択一には無理があります。事態はそうそう単純
ではありません。

 アメリカ人の単純明快さは良い面もありますが、時には歴史や伝
統文化の重みを無視する面もあるような気がします。

 「アメリカがなぜこのような激しいテロに襲われたのか」という問題
提起はアメリカでは禁句のようです。まずは犠牲者の追悼と、テロに
は厳然と対処すべしとの論理が先行しているからでしょう。

   ブッシュ大統領を支援しながらも、その行き過ぎを抑止し、アラブ
社会や第3世界をまとめる人材は、今世界にはブレア首相しかいな
いと思います。
 「東奔西走」したのはブレア英国首相でした。
 今までの内外での平和への取り組みの実績が、世界のあらゆる指
導者に理解され、評価されているからでしょう。
(当ホームーページのご来訪者は、「UKを知ろう」で十分承知され
ていましょう)

 副次的ではありますが、このニューヨーク・テロの影響で、プロテス
タントとカトリック、アングロサクソン対ケルトの紛争であった北アイル
ランド問題は、IRAの武装解除が進み、一挙に解決に向かいました。

 10月、アメリカは、テロのグループを支援するアフガニスタンのタリ
バーン派に空爆を行ない、11月タリバーン政権は崩壊しました。
 しかし、テロの首謀者と見られるオサマ・ビンラディン氏の消息は、
今なお消息不明です。

 12月、イスラエル政府はアラファト・パレスチナ自治政府議長との
関係を断絶し、軍事行動を公言し、中東和平オスロ合意も無効と声
明しました。
(クリントン大統領やブレア首相の水面下の和平努力は水泡に帰し
ました)

 「イスラエル政府がパレスチナに対する姿勢を変えないことには、
アメリカへのテロは収束しないのではないか」と危惧する識者の意見
を米国外では多数見かけます。

 インドとパキスタンのカシミールをめぐる紛争も、軍事行動に発展
しつつあります。イスラム対ヒンズーの宗教戦争が危惧されます。

 2001年は、民族や宗教の対立、異文化の不寛容、富者と貧者の
対立を激化させました。不安を抱えたまま年を越しました。

 しかし、ローマ教皇の動きにも象徴されるように、このままでは人類
の破滅を招くと、世界の良識者が異民族・異宗教・異文化の相互理
解と寛容、貧困への救済に動きかけていると思います。

 21世紀は文明の衝突であってはいけません。『文明の共存』という
第3の道を、大国が謙虚に模索し、リードしなければならないでしょう。
 ユーロの世界は、その第一歩の試みといえましょう。

 今こそ聖職者達に平和への具体的行動をしてもらいたいものです。
歴史は、聖職者たちが政治権力と結託して戦争をし掛けている様に
も見える時があります。
 なぜ聖職者にテロも戦争も止められないのでしょうか。
21世紀は、聖職者の存在意義を問う世紀かもしれません。

憶良氏の抱負

 1999年の年頭所感に、憶良氏は次のように書いていました。

『年頭「ユーロ」が話題を呼んでいます。
UKはEUの加盟国ですが、この新通貨制度に入らず静観しています。
はたしてブレア首相はどういう対応をするのでしょうか。
米(ドル)・欧(ユーロ)戦争ともいわれる経済戦略の狭間で、日本は
どう対応するのでしょうか。「UKを知ろう」も忙しくなりそうです。』

「ユーロ」がいよいよ欧州11カ国でスタート。日本から実際に使用され
ます。伝統あるマルクもフランも消えます。
欧州では、まず文化と経済や宗教が共存共栄されるのです。
「UKを知ろう」をさらに「世界を知ろう」に発展させたいと考えています。

 さて、本年は「見よ、あの彗星を」(ノルマン征服記)の続編でありま
す「われ国を建つ」を、引き続きアップの予定です。できれば今年中
に完結いたしたいと思っています。

「晴耕庵の談話室」へのご来客が多岐にわたってきました。
引き続き、「晴耕庵の談話室」へご意見をお寄せください。

「貧乏暇無し」の諺通り、憶良氏も忙しくなりそうです。
今年も変わりませず皆様のご来訪をお待ちいたします。


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