芝刈は旦那の仕事
(前頁より)
土曜日は子供たちを日本語の補習校に連れていくからつぶれてしまう。
日曜日には日本からのお客様の観光案内や同僚との親睦ゴルフに取
られる。ということになると、ついつい、
「オーイ、すまないが前だけでいい、芝生刈っといてよ」
「ハイッ、やっておくわよ。あなた楽しく遊んでおいで」
というふうな夫婦間の自然な会話になり、憶良氏は車にゴルフ・バッグ
を積み込み、軽やかな気分で出掛けた。
ところがこれが大変なことになろうとは。
バラの花壇の手入れをしていた前の家のスミス夫人が、美絵夫人に声
をかけて来た。
「グッド・モーニング、ミエ、ラブリイ・デイ・イズント・イット!」
(おはようミエ、とっても素敵な日和じゃないこと)
「イエース・ワンダフル・モーニング!アンド・ユア・ローズ・ガーデン・ツー」
(ええ、素晴らしい朝ですね、あなたのバラ園もきれいね)
「サンキュー、ご主人は今日もゴルフのようね。ミエはゴルフ・ウイドウ
(やもめ)ね」
「そうらしいわ」
美絵夫人はいったん車庫に帰って、芝刈機をエンヤコラと抱え、ふたた
び前庭に出て来た。
これを見てスミス夫人がびっくり仰天した顔で飛んで来た。
「ミエ、あなたが芝刈をしようというの!ノー・ノー・駄目よ、芝刈は、この
国では男の作業よ。レディがする労働じゃないのよ。ご主人がゴルフを
楽しんで帰って来てからさせればいいのよ。日本の男性は奥さんを働
かせ過ぎよ」
「ハイ、分かりました。そう言われてみれば確かに男の仕事ですね。彼
にさせますわ」
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