第2部 反 乱
第6章 エクセターの抗戦
前頁より
ウィリアム王は感情の起伏は激しいが、一方では極めて冷静で醒め
た頭脳を持っていた。
「ウォルター、市民たちもよく戦ったな。敵ながら天晴れだ。さてさてこ
のエクセターをどう裁くかな」
「当初の方針通り市民全員に臣従の誓約書を提出させましょう。この
町のデヴォン・コーンウォール地方での重要さと影響力を考えますと
幹部の処刑などの厳罰策はとらず、商業特権や個人資産は従来のま
まみとめてやりましょう。その代わりの賠償としてデーンゲルドより重い
賦課にしましょう。市民たちは、生命を取られても仕方ないと覚悟して
いるでしょうから、特権を保護され重税で済む措置に感謝するでしょう」
誇り高い自治都市エクセターがウィリアム王の軍門に屈したという知
らせは、デヴォン・コーンウォール両州の町村のみでなく、北隣のサマ
ーセット州の各地にも伝わった。
ウィリアム王が、人質の目を刳りぬいた時には、その残酷さに怒った
ものの、その非は騙したエクセター側にあった。徹底抗戦したが、正々
堂々と戦った者には、臣従を誓約すれば許すことも伝わった。
エクセターには出向かなかったが、それぞれの小さな砦や館にいて
抗戦の覚悟で気焔をあげていた郷士たちは、和戦いずれかの現実の
選択をする日に迫られていた。
ウィリアム王は、エクセターを完全に占領した。市民の武装を解除し
日常の生活に戻した。
市内の治安を監視するために、城壁の外に町が見渡せるよう砦を構
築した。ロンドンのシティーを監視するロンドン塔のような役割である。
少数の警備兵を配置するだけで、効率よく安全に統治ができた。
デヴォン州を制圧したウィリアム王は、大軍団を半島の西端コーンウ
ォール州に向けた。途中の小さな砦や館の郷士たちは、もはや無駄な
抵抗はさけて、臣従を誓った。なかには逆らう者もいたが自滅であった。
地の果て「ランズエンド」まで、ウィリアム王の臣下となった。
王は、デヴォン・コーンウォール両州の領主たちの臣従の誓約と引き
換えに領地の一部保有を保障したが、かなりの部分を没収した。その
没収地をコーンウォール伯に任命した異父弟ロバートに与えた。
ウィリアム王は、軍団を北に向け、サマーセット州のブリストールから
グロスターさらにウースターへ進軍した。

ブリストールはすでにウィリアム王への臣従を決めており、アイルラン
ドから反攻をかけてきたハロルド王の3人の遺児たちの軍勢を、すで
に撃退していた。
グロスターもウースターも、その名が示すように古代ローマ軍団の駐
屯地がそのまま城砦都市になっていた。ウェールズの国境に近いヘレ
フォードには、王の寵臣ウィリアム・フィッツ・オズバーンの軍団が、「野
生のエドリック」のゲリラ戦を戦っていたから、グロスターもウースター
の制圧は軍事上大きな意味があった。
両市ともに大きな抵抗なく市民は臣従を誓った。王は精鋭を駐屯部
隊として配し、統治に万全を期した。特にグロスターは砦の構築を強固
にさせて、暴れ者の騎士アースを城主に任命して、住民の反乱の芽を
いち早く力で抑えるようにさせた。
王の頭の中には、常に適材適所という人事方針があった。
イングランド西南地方を完全に制圧し、さらに西部地方を固めた王は、
ウィンチェスターに凱旋すると軍団を解散し、各駐屯地から徴用した兵
士をそれぞれの所属軍団に返した。
イングランドは小康状態を保った。
「マチルダを呼ぼう」
王はウォルターに手配を命じた。
王妃マチルダの戴冠