ロンドン憶良の世界管見


ロンドン憶良のホリエモン資本論考(4)


――白馬の騎士か、漁夫の利を得るトロイの木馬か――




6 戦国時代に入った企業生存競争

(1)M&Aとは何か?
    ――合併(Merger)と取得(買収)(Acquisition)である――

 今回ライブドアとニッポン放送の問題で、突然ソフトバンク・インベス
トメント(SBI)の北尾社長が登場しました。




 元野村證券で活躍された北尾氏は能弁です。「日本で私ほどM&A
を手がけた人はいない」と豪語されました。

 日本語で「合併・取得(買収)業務」といえば分かるのに、なぜか日本
では「M&A」と気障な表現をします。実は取得の実態が買収だからで
しょうか。

 MはMergerの略です。「Merger」とは英英辞典では「combining of
estates,business companies,etc」とあるように、土地や会社などの
合併です。

 住友銀行とさくら銀行が合併し三井住友銀行になり、三菱銀行と
東京銀行が東京三菱銀行になったような事例です。ただこのような
合併は、両者が直接協議をして成立しておりますから、間に「M&A」
の仲介をするような業者は入っていません。

 古くは八幡製鉄と富士製鉄が合併して新日鉄に、大阪商船と三井
船舶が合併して商船三井になったように、合併は同業種で多く見ら
れます。

 AはAcquisitionの略です。もともとは「acqire」(取得する)ということ
です。 英英辞典では「gain by skill or ability,by one's own efforts or
behaviour」とあるように「技術や能力あるいはその人自身の努力や
行動によって獲得する」ことです。
 これはビジネス社会では「by money」で「買収」となるのが通例でし
ょう。

 ソフトバンクが球団ホークスをダイエーから買ったのが、Acquisition
です。異業種に進出するとき、既存の会社を買収するのが、自前で
立ち上げるよりも効率的で、時間の節約になるからです。

 今回のライブドアによるニッポン放送の買収は、ライブドアが自前
で放送業界に進出できるには遠大な時間がかかるため、ホリエモン
氏は、戦略的に、手っ取り早い市場での合法的な買収作戦を取った
と思います。「M&A業務」の会社を仲介しても、獲得できる見込みは
無かったと判断されます。

 「M&A業務」を行うSBIのような斡旋業者は、甲社と乙社を仲介し、
その成立の成功報酬として、一定の対価を得ることを商売にしてい
ます。
 これまで日本では、銀行などが自行の取引先間を取り持つような
形の合併が、無報酬のサービスで行われていました。しかし昨今は
「M&A業務」も金融機関の業務として、欧米のように対価を得るよう
になっています。


(2)ホワイトナイト(白馬の騎士)とは?
    ――買収攻勢などで窮地にたった企業に現れた救世主
    だが、今回はグレイナイト(灰色騎士)ではないかとの声も――

   ホワイトナイト(白馬の騎士)とは、おとぎ話で窮地に立つお姫様
を助けに、突然白馬に乗って颯爽と現れる正義の騎士、弱者を救う
ヒーローのような人物や企業をいいます。

 今回の買収劇では、ソフトバンク・インベストメント(SBI)の北尾社長
が、窮地にたったニッポン放送とフジテレビの援護に出現しました。

 さすがのホリエモン氏も「想定外の人物」だったようです。というのは
ソフトバンク・インベストメントは、ホリエモン氏が追いつけ追い越せと
事業拡大の目標にしている、IT産業界の巨人孫氏率いるソフトバンク
の関連会社だからです。

 さらに、かって孫・北尾両氏は、メディア王マードック氏と連合して
テレビ朝日のTOB買収を図ったことがあったからです。
 フジテレビの日枝会長はこの買収劇の妥結に際して、孫氏を窮地
から救ったという深い関係があるとも報道されています。
 敵(ライブドア)の敵(ソフトバンク)は友という構図かも知れませんが
孫氏も放送やテレビ業界に興味を持っているだけに、M&A業界の
猛者である北尾氏の出現は異様です。

 更なる問題はニッポン放送が手持ちのフジテレビ株13%余を、SBI
へ「貸し株」として渡したことです。

 北尾氏がはたしてホワイトナイトか、あるいはグレイナイトか今後の
展開が見ものです。
日枝会長はホワイトナイトの選択を誤ったのではないか、という説も
あります。


(3)焦土作戦「貸し株」に問題なきや?
   ――「貸し株」は通常の商行為だが、今回の事例は問題含み――


 「貸し株」とは、企業(ニッポン放送)が保有する株式(フジテレビ株)
を、第三者(大和證券SMBCとSBI)に貸し出すことです。

 企業は、手持ちの有価証券を貸し出し、相手先から一定の貸出し料を
受け取ります。期限が来れば、貸し株は返却される契約です。
 貸出しを受けた借り手は、これを担保に銀行から借りるとか、証券を
一旦売却して後日買い戻すなどの運用をして、利益を得ます。

 貸し株契約では、「期限の利益」つまり借りている期間利用できる便益
は、借り手にあります。したがって期限前に貸し手が返却を求めると逆
にペナルティを借り手に払わねばなりません。

 「貸し株」の目的や数量が、商行為の範囲と解釈されれば特に問題
となりません。企業では営業外収益に計上されます。

 ところが今回は、やや問題があります。
ニッポン放送の大株主となったライブドアは、書面で、ニッポン放送の
全取締役に資産処分や異動をしないようにと、焦土作戦を事前に牽制
しています。

したがって
(1)大和證券SMBCに貸し出した約8%は書面通知の前であり、貸し出
  しの期間も2年間と短いので、問題にならないでしょう。

(2)しかし、SBIへの貸し株約13%は、この書面通知の後であり、
  かつ5年間と長期であり、実行も高裁の判決直後です。
  営業外利益を得る通常の貸出しとは見られません。
  取締役は、株主に対して忠実に会社を運営する義務があります。
  大株主の意向に反して、会社の大きな資産であり、かつ問題となっ
  ているフジテレビの株式を貸し出した行為は、忠実義務違反や背任
  行為として、他の株主からも株主代表訴訟となる懸念があります。

  (3)つまり、今回SBIへの貸し株は、目的が運用益のためではなく
  ニッポン放送の資産価値を毀損することにあると見られるからです。

(4)貸し株先SBIが、ライブドアの競合先の関連企業であることも
  問題となるでしょう。

 しかしライブドアは、訴訟よりもニッポン放送亀淵社長やフジテレビの、
村上社長と、水面下の話合いをしているようです。SBI北尾社長には
借りを作らないように、また篭絡されないように、司法にも有利なように、
世間にも納得されるように一歩一歩手順を踏んでいるような気がします。

 焦土作戦はフジテレビ以外の他の株主からも株主代表訴訟の対象に
なるような気がしています。

 ホワイトナイトも動きようがないようです。
 しばらく事態の推移を静観しましょう。


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