ロンドン憶良の世界管見


ロンドン憶良のホリエモン資本論考(1)


――IT革新児、報道界と兜町を震撼さす―




序論

 今回のライブドアによるニッポン放送株式の買収問題について、
日本の資本主義や経営者の意識、政治家の発言などがまだまだ
未成熟なのに落胆しました。またテレビに出演される方々が、イン
タビュアーも含めて、かなり感情的あるいは情緒的な、あるいは傲
慢な発言で、堀江氏を子供扱い、悪者扱いするのには、いささか
冷静さを欠くのではないかとさえ感じました。
投資銀行リーマン・ブラザースに失礼な発言もありました。

 ロンドン憶良は、ニッポン放送・フジテレビはもとより、ホリエモン
こと堀江氏には縁もゆかりもありません。
元国際金融にたずさわったバンカーとして、隠棲の身ながら、次代
を背負う若い方々に、グローバル・スタンダードという視点で、客観
冷静に所見を開陳します。
テレヴィや新聞の座談や解説と比べてみてください。

 SBIへの大量の貸し株は、フジテレビ以外の一般株主の立場から
はいささか法的問題含みと思います。大人のネゴがあるかもしれま
せん。

 ロンドン憶良氏は、テレビ業界に風穴を開けようと孤軍奮闘のホリ
エモンを、判官贔屓で応援したくなります。

新旧狂歌

150年前 黒船が浦賀沖に来た時の江戸の騒動

世の中にか(蚊)ほどうるさきものはなし
       文武(ブンブ)といいて夜も眠れず

ホリエモン氏が兜町を震撼させた時のロンドン憶良雑感二首

春闘や 堀江潰しに来た王(北尾)の
    おいしい株は手に入(ひえ)った(日枝)亀


テレ放送 しゃべる阿呆に観る阿呆 
     同じアホなら儲けにゃ ソンソン(損損、孫孫)


「手に入る」ことを「手にへーる」と訛って発音する地方があります。
SBIはホワイトナイト(白馬の騎士)か、漁夫の利を得るトロイの木馬
か、両者の本日の会談を待ちましょう。

 閑話休題、投資も投機もできない貧乏人は、せめてこの機会に、
経営や金融などの勉強だけでもしましょう。


1 基礎講義

(1) 株式会社は誰のものか?
   ――――法的には株主のものである。

 先般フジテレビの記者がホリエモン氏に「ニッポン放送は株主のもの
か、社員のものか」という質問をしました。
これに対しホリエモン氏は「法的には株主のもの、心情的には社員の
もの」という趣旨の慎重な回答をしました。

 これまでの日本の会社は、江戸時代の藩閥体制のように終身雇用が
前提で、滅私奉公型でした。経営者は社員が出世し、社長自ら後継者
を任命するという形で、株主総会や株主は形骸化していました。
したがって、この社員氏のように錯覚した質問をすることになります。
経営者と従業員は、会社を形成する重要な要素ですが、従業員が会社
法(商法)の規定の中に出てくることはありません。
経営者である取締役は、商法の規定に従わねばなりません。
株主から経営の委託を受けた取締役が、その経営責任の範囲内で社員
を雇用する、雇用と被雇用の関係になります。
立場の弱い被雇用者をサポートするために労働法があります。

 再度説明すると会社は、ホリエモン氏の述べた通り「法的には株主の
もの」です。
経営者は、株主の委託を受けて経営を行っているのです。だから取締役
(あるいは取締役会)が、勝手に会社の存亡や経営にかかわる重要な
資産を処分すること(たとえば大きな不動産や大量の有価証券など重要
な資産の売却や不利な貸与)や、既存株主の権利を損なうような問題
(特定先に対する大量の新株の割り当て)は、株主の承認、つまり定時
あるいは臨時株主総会の決議が必要なのです。

 今回のフジテレビ日枝会長やニッポン放送亀淵社長の一連の発言、あ
るいは社員の発言を見ていますと、会社は経営者や社員のものの意識
が強く、本来の所有者である一般株主に対する配慮が欠けているように
見えます。


(2) 株式とは何か?――――会社資産に対する持分である。

 株式会社とはもともと資金調達のために株式(株券)を発行し、その
出資の比率によって株主が会社の資産を所有する法人組織です。
英語で、Limited Companyというように、株主は、万一出資会社が倒産
しても、その時の資産処分をし、負債支払ってもなお負債が残っても、
出資した金額だけの限られた範囲の責任しか負いません。(いわゆる
有限責任です)
具体的には、所有する株券、換言すれば投資した金額が、紙切れになる
だけです。

 会社経営に対する発言権は、議決権のある株式の持ち株比率により
ます。株式を英語で「Share」ともいいます。つまり持ち株の数で、利益の
分け前を受けたり、議決できる権利があるのです。

(参考までに議決権の無い株式の代表例として、優先して有利な配当金
を受け取れる配当優先株があります。今回話題になっている失念株とは、
意識的に株主の名義書換をしていない株式です。多くの場合外国人株主
や脱税目的の投資家などです)

 会社の資産は株主のものですが、正確には、法的には会社の資産は
債権者(多くの場合銀行と仕入先)と株主のものです。優先順位は債権
者にあります。
重要なのは純資産、つまり総資産から銀行借入や買掛金などの債務を
差し引いた金額、(英語ではNet Asset)です。
しかし総資産は時価で評価しなければなりません。評価後の純資産を
発行株式数で割ったものが、一株あたりの価値になります。
これを「正味資力」といいます。

 いかに大きな資産があるように見えた多くの都市銀行やダイエイや
西武やミサワホームなどが、経営に問題があるのは、これらの銀行は
預金で、会社は巨額の借入金(負債)で資金調達をしていますが、肝心
の資産の中に、簿価以下に目減りしている(評価損)不良資産が多かっ
たので、企業の「正味資力」が非常に少ないか、あるいはマイナスにな
ったからです。

 しかし資産内容を詳細に正確に把握しているのは、その会社か取引
銀行等です。一般投資家は公表されている有価証券報告書の数字で
しか推測できません。


  (3) 株式上場のメリット・デメリットは何か? 
   ――――大量の資本調達が容易になる反面、未知の大株主が
         合法的に現れる危険がある。

 株式の上場は、企業の『所有と経営の分離』を意味します。
上場前は創業者が会社を所有し経営を行っていますが、上場は、株式
を広く公開し、多数の投資家に株主(所有者)になってもらうことです。

   ライブドアやソフトバンクや西武のように、創業者一族が大株主とし
ての所有と経営を行っている段階から、フジテレビのように、規模の
拡大とともに次第に『所有と経営が分離』するのが、通例です。
 しかし日本では、往々にして、社長や会長となり実権を持った人が、
(持ち株は少ないのに)会社を所有したような錯覚をもって、私物化し
破綻させた例をみます。『経営と所有の転倒錯覚』といえましょう。
 オーナー経営者と、サラリーマン経営者の違いです。

 大株主だけで80%を超すと、上場ができなくなります。
(今回ニッポン放送の株式をフジテレビとライブドアで、買い進んでい
ますから、何らかの手を打たない限り、上場廃止になります。西武が
上場廃止になったのは、国土開発所有にもかかわらず、株主を多数の借
名により偽装したからです)

 創業者が事業を拡大していく過程での株式上場には、次のような利点
があります。

@市場から多額の資金を調達できること。
A所有する株券に市場の値(株価)がつき、創業者は持ち株放出により
 巨額の現金を入手できること。
B知名度が上がり、社員のモラール(士気)高揚、人材が来ること。
などです。

他方、マイナス面もあります。
@経営内容を、有価証券報告書として公開しなければならないこと。
A投機家、総会屋など身元不詳の株主が増える可能性があること。
B株価維持に配意が必要となること。
などです。

 西武の創業者および二代目社長が、メリットAを享受し、デメリットA
を回避するために、他人名義借用、有価証券報告書不正記述という違
法行為をして、信用を失墜したのは、皆さんも記憶に新しいと思います。

 ホリエモン氏が、「株主の異動が気になるのなら、株式は公開すべき
ではない。市場に上場しているということは、株主の大幅な異動があり
うるということだ」と指摘しているのは正論です。

 今回の盲点は、
「ニッポン放送はフジテレビの大株主でありながら、大株主の意識が
なかったこと。フジテレビの経営者は、法的には日本放送の子会社で
あるにもかかわらず、実効支配をしていたこと。日本の企業にありがち
なトップのまあまあ経営のために株主対策という意識がかけていたこと」
にあります。

 上場のデメリットを嫌うのならば、証券市場に上場しないことです。
サントリーや出光石油は、立派な大企業ですが上場していません。
したがって総会屋対策も、第三者の株主対策も不要です。経営内容を
公開の必要はありません。国税局に税務上の申告をするだけです。

 上場していながら、突然現れた大株主に、オロオロするのは、平素の
防衛対策がかけていたからです。財界人はあまり発言していませんが、
心中では、フジテレビやニッポン放送の防衛対策不備の結果と冷静に
見ていると思います。


2 ライブドアの株式取得戦略

(1)ライブドアの株式取得は脱法行為あるいは違法か? 
  ――――合法的である。

 市場取引には、時間内取引と時間外取引があります。今回ライブドア
は時間外での大量取得をしたので、某政治家などが「奪法行為だ」と叫
び、ニッポン放送の社長は「ずるいやり方だ」と悔しがり、またフジテレビ
の社長は「こういうやり方は、日本の会社経営になじまない」と情緒的な
発言をしました。



 司法は、地裁も高裁も、時間外取引が規定にある以上、量の多寡は
問題ではなく、合法的であると明快な判決を下しました。つまりグロー
バル・スタンダードにたって判決されました。

 時間外取引についても、経営者は発言を控えています。なぜならば、
いろいろな上場企業が、持ち合い解消などのさまざまな理由で、大株主
の異動などを、時間外取引を利用している事例があると推定されるから
です。市場の時間内取引をしますと、目に付くからです。

 「時間外取引はずるい」という情緒的な判断は、理性的であるべき企業
経営には向きません。大方の出演者は亀淵社長に同情的ですが、「亀
淵社長の発言には失望した」と述べた冷静な女性評論家がいました。

 大河ドラマ義経で引例すれば、戦の場では「鵯越の逆落とし」という
背後からの攻撃もありました。「まさか裏の山から攻撃されることはな
いだろう」という油断でした。

 放送業界は外資比率が定められており、チャンネル数も限られている、
ある種の権益保護・護送船団方式ですが、あのマードック・孫連合に、
あわやテレビ朝日が買収されそうになった戦訓を、フジテレビ・ニッポン
放送は、「他山の石」としなかったのでしょうか。
当時北尾氏が孫社長の右腕で活躍されたことは、今回たびたび放送さ
れています。


(2)リーマン・ブラザースは禿鷹ファンドか?
   ――――ノー。禿鷹ファンドではない。立派な投資銀行である。

 今回ライブドアが800億という巨額の資金を外国の投資銀行から調達
したので、一部のかたがたがリーマン・ブラザースを「禿鷹ファンド」呼ば
わりしました。これは大変恥ずかしいことです。

 リーマン・ブラザースは、日露戦争の時、日本政府が戦費調達のため
発行した国債発行を大量に引き受けてくれた恩人です。この引き受けが
無ければ強大なロシアとの戦に勝てたかどうか疑問です。

 日本では「投資銀行」はなじみがありませんが、大口の資金を必要とす
る企業が発行する社債や株式などを、大口投資家などにつなぐ、金融の
ブローカーです。
戦後、まだ日本の経済力が十分でないとき、日本の大企業は、これらの
外国の証券業務系の投資銀行や通常のいわゆる外銀に、外債発行や、
預託証券(海外市場での新株発行)、インパクトローン(使途を制限され
ない長期借り入れ)やなどでずいぶんお世話になりました。
戦中戦後の古い設備は更新され、日本企業の国際競争力はつきました。
その結果逆に対外投資余力がつき、お調子に乗り過ぎてバブルを呼び
ました。
戦後の資金調達の苦労を知らない政治家は、外銀への恩義を知らない
のでしょう。国際金融は、競争と協調の場でもあります。

 しかし禿鷹ファンドの不良外銀もあります。国際金融事情に疎い地銀
信金に、「ハイリターン」をうたって「ハイリスク」のジャンク債、つまり屑
証券を売りつけて、これらの金融機関を破産させた事例もたくさんあり
ます。

 世の中は、善人も悪人もいます。不良外銀も、優良外銀もいます。
長く続いている銀行は、日本であれ外国であれ、信用できる銀行です。
財界のかたがたはリーマン・ブラザースを禿鷹ファンドなどと失礼なこと
は言いません。


3 ニッポン放送とフジテレビの防衛対策

(1) フジテレビのTOB(Take Over Bid)作戦はなぜ失敗したか?
   ――――市場価格を下回るTOB価格のため一般株主が逡巡。

「Take Over」というのは「乗っ取る」という意味です。つまり、TOBと
いうのは、市場で大量に株式を買いあさる戦法なのです。
通常は、市場価格よりも常に高くなるような価格、つまり一般株主が、
市場で売るよりも有利になる価格をつけるのが常識です。

 法的には子会社のフジテレビが、大株主で法的には親会社のニッ
ポン放送を子会社化するために、TOB作戦をとりました。
しかしフジテレビがつけた買取価格は、市場価格を大幅に下回る価格
でした。なぜ、常識的でない価格をつけたのか、それを質問する記者
は見かけなかったように思います。

 TOBに応じたのは、フジテレビと取引のある何社かでした。
しかし、これらの企業は市場価格よりも下回る価格で売却したので、
その企業の株主から、差額の損出について、株主代表訴訟が起きた
ケースが発生しました。
トヨタの奥田会長が、「TOBに応じたら自社の株主に、差額の損出の
発生を説明できない」と発言したのは、至極当然です。

 とはいえ、40パーセントを超える株式を取得しましたが、その中に、
かってフジテレビ日枝会長から、追放された鹿内家の持ち株8パーセ
ントが、大和證券SMBC経由してフジテレビが入手したのは、歴史の
皮肉でしょうか。
鹿内家が切歯扼腕しても、売買契約に明記していなかったのか、
司法は、フジテレビへ売却した大和證券SMBCに軍配をあげました。
鹿内家の怨念が残る取引となり、話題を提供しました。


(2) ニッポン放送の新株予約権発行は何が問題なのか?
   ――――フジテレビへの大量発行割り当ては、発行の意図
       が経営支配権の維持であり、経営者の保身であり、
       他の一般株主の権利を侵害する。

 一般的に大量の新株の発行は、発行する意図つまり資金使途が株主
に明快に説明されなければなりません。なぜならば新株(予約権も含む)
発行は、株式数の増加を意味しますから、一株の市場価格が下落します。
発行による会社の得る利益を通常は既存株主へ優先割り当てするとか、
無償新株発行などで還元します。

 今回のように、一部特定の株主(フジテレビ)に大量に引き受けてもら
う割り当て方式は異例です。

 第三者に大量に引き受けてもらう割り当て方式は皆無ではありません。
憶良氏がかって企業再建に派遣されたW社では、巨額の累積赤字解消
のため、主取引銀行を引受人とする巨額の第三者割り当て増資をし、す
ぐに減資して、赤字を消したケースがあります。(専門的には、減資益と
累積損の相殺)
この場合は、一般株主にとっては、実質紙切れになっていた株券が、第
三者(ホワイトナイト)の出現によって、たとえ減資で持ち株数は減っても、
市場価値のつく有価証券に復元したのです。

 しかしニッポン放送は健全な資産内容の会社ですから、フジテレビに
大量に引き受けてもらい、一般株主が明らかに不利益をこうむる措置は、
明らかに公平の原則に反します。
 他の株主の持ち株比率(Share)が下がるという、資産価値に影響が大
きいので、当然大株主となったライブドアや、その他の一般株主の賛同
を得なければなりません。
ライブドアがフジテレビだけに対する大量の新株予約権の発行に異議を
申し立て、地裁に差し止めの手続きをとったのは当然です。
司法は、ニッポン放送の告訴を認めませんでした。司法は冷静でした。

 なぜ明らかに敗訴となるような新株予約権の発行をとったのでしょうか。
マスメディアは、ライブドアの株式取得に対する強烈な対抗策のように、
はやしましたが、憶良氏は、最初からライブドア勝利と見ていました。

 つまり、ニッポン放送亀淵社長やフジテレビ日枝会長の頭には、「若造
のホリエモン憎し」「自分たちの作った城に入ってきた」という感情論で、
自己保身・自社利益が優先して、一般株主の利益・不利益をまったく念
頭に置いていなかったのではないでしょうか。
ホリエモンのライブドアが市場で合法的に取得した株主権は、他の株主
と同等のものであり、フジテレビの株主権とも同等なのです。

 それとも敗訴を覚悟で、高裁までの時間稼ぎをして、起死回生の対策
を練ったのでしょうか。
 
マスコミが白馬の騎士ともてはやす「SBI」(ソフトバンク・インベストメント)
が、突如現れました。

  以下次回   



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