SF読書録
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2003年 上半期

“80年代SF傑作選” 小川 隆・山岸 真 編
“ラモックス” ロバート・A・ハインライン
“オブザーバーの鏡” エドガー・パングボーン
“タイムクエイク” カート・ヴォネガット
“イリーガル・エイリアン” ロバート・J・ソウヤー
“高い城の男” フィリップ・K・ディック
“一千億の針” ハル・クレメント
“20億の針” ハル・クレメント
“武器製造業者” A・E・ヴァン・ヴォークト


“80年代SF傑作選 (上・下)” 小川 隆・山岸 真 編 (ハヤカワSF)

タイトルの通りの短篇集です。 1980年代と言えばサイバーパンクが有名、 ということでもちろんそっち方面のものもありますが、 そればかりではありません。 収録作の中から気に入ったものを挙げると… ; ハワード・ウォルドロップの “みっともないニワトリ” (ドードー鳥が絶滅したと思われた後も生きていた?! ほのぼのした感じと研究者の味わう興奮がよい感じです)、 アレン・M・スティールの “マース・ホテルから生中継で” (よくある話と言えばよくある話ですが…)、 ジョージ・アレック・エフィンジャーの “シュレディンガーの子猫”、 (ここまで上巻で、以降は下巻に収録) ルーディー・ラッカー & マーク・レイドローの “確率パイプライン” (いかにもラッカー、という数学具現化ほら話^^; です)、 ローレンス・ワット=エヴァンズの “ぼくがハリーズ・バーガー・ショップをやめたいきさつ” (センス・オブ・ワンダーとある種のノスタルジーって矛盾しないんですねえ。 “ナイトサイド・シティ” の作者はこういうのも書くとは) といったところです。 (6/29)


“ラモックス 〜ザ・スタービースト〜” ロバート・A・ハインライン (創元SF)

ジョン・トマス・スチュアートのペットは、 ご先祖が宇宙探検で見つけてきた、なんでも食べるラモックス。 最近、飼い主が外に連れていってくれないので退屈している。 そこで、飼い主が留守の隙にこっそりと(?)つまみぐいに出かけた。 当然、街はパニックになるが、それは騒ぎのほんの一端にすぎなかった。 宙務省の頭を悩ます一大事件が…?!

ハインラインのユーモア溢れる (ジュブナイル) SF です。 前半だけだと単純にジュブナイル (子供向け) っぽいですが、 後半はけっこう (初期の) ハインライン的要素が入ってきます。 もちろん、ストーリーは単純明解です。 宙務省次官キク氏のキャラクターがよいです^^。

邦題は、カバーの背表紙やカバーを外した本体表紙には“ラモックス” とだけ書いてありますが、 カバー表や本体には、小さく“ザ・スタービースト” の文字もあってややこしいです (カバー表のは位置的に見落としそうだし)。 ちなみに原題は“The Star Beast”です。 (4/20)


“オブザーバーの鏡” エドガー・パングボーン (創元SF)

地球には、ずっと昔から火星人たちが暮らしていた。 やがて地球人類が成熟し、「合同」できる日がくることを夢見つつ。 人類を見守る役目を負ったものは <オブザーバー> (観察者) と呼ばれていた。 しかし、彼ら火星人の中にも、反発し、 人類に仇なそうとするものたちもいた。 今、一人の少年を巡って、 そのような仇なすものとオブザーバーとのしのぎ合いが…。

と書くと何か激しい駆け引きが繰り広げられそうなようにも思えますが、 比較的穏やかに話は進みます。 主人公の報告文という形をとって語られるので、 ル・グィンの作品と似た雰囲気に思えました。 穏やかさの一端はその辺りにも起因しているでしょう。 主人公や世界の経験する事件の悲痛さもより深く感じさせているかもしれません。 (4/5)


“タイムクエイク” カート・ヴォネガット (ハヤカワSF)

タイムクエイクが、あらゆるものを10年前に引き戻した。 物理的状況も、人々の生死も。 あらゆる生き物はその10年間をそっくり元のまま、 寸分違わず繰り返さなければならなかった。 しかし、人々の意識はその10年間を覚えているのだ。 人々は、「自由意志」無く、10年間をそっくり元のまま、 寸分違わず繰り返さなければならなかった…。

ヴォネガット作品ではおなじみの不遇のSF作家キルゴア・トラウトに加え、 ヴォネガット自身もタイムクエイクを経験した人々として登場する、 小説と随想とが混然一体となったような不思議な本です。 普通の意味でのストーリーは無いに等しいのに、 全体を覆う不思議な雰囲気が長編小説を形作っています。 強いて言うならば、 “スローターハウス5” の進化版のような感じでしょうか。 トラルファマドール的というか。 (3/22)


“イリーガル・エイリアン” ロバート・J・ソウヤー (ハヤカワSF)

アルファケンタウリからやってきたトソク族とのファーストコンタクトは順調だった。 しかし、殺人事件が起こった。 惨殺されたのは地球人、そして容疑者はトソク族の一人。 状況的にそのトソク族の男が犯人であることに間違いはないように思われる。 そして事件は (事件の起こったアメリカの) 法廷に持ち込まれた。 彼には名うての弁護士が付き、 人類と異星人との関係を左右しかねない前代未聞の裁判が始まった。

異星人の外交使節団の一人を裁判に掛けちゃうあたりがアメリカっぽいかも^^; (ソウヤーはカナダの人ですが)。 裁判の経過は面白く読めますが、 最後のほうの急展開はちょっと唐突かなという気もします。 ソウヤーの作品を読むといつもそう思ってしまうように、これも、 面白く読めるんだけれども何か足りないような気がする、 という感じです。 (3/5)

ワンポイント

やっぱりそういう危ないものは迂闊に持ち歩かないほうが… ^^;。


“高い城の男” フィリップ・K・ディック (ハヤカワSF)

第二次世界大戦で日本とドイツが勝利した世界。 世界はこれらの二ヶ国が分割し支配していた。 アメリカのサンフランシスコ周辺は日本の支配下にある。 そんな中でアメリカ人は何とか暮らしている。 話題の「日本やドイツが大戦に敗れた世界」を描いた小説 (注・現実の世界の歴史とは違います) を読んだりしつつ…。

現実と虚構、本物と偽物の違いは何か、 というのがディックのテーマですから、 改変歴史世界というのはあっていますね。 一瞬、「あっち」の世界に行きかけますが、何とかとどまってます^^;。 (2/15)


“一千億の針” ハル・クレメント (創元SF)

いうまでもなく、“20億の針”の続編です。 事件から7年、 「捕り手」と共生しつつ大学を卒業したロバート・キンネアドは窮地に陥っていた。 日に日に彼の身体は衰えていくが、「捕り手」にも原因が判らないのだ。 何とかするために、島に戻った彼らは、7年前に沈んだ 「捕り手」や「ホシ」の宇宙船を探しだし 「捕り手」の母星とコンタクトをとろうと考えた。

そのピンチに加え、前回の事件はほんとうにすっきり片付いていたのだろうか? という疑念が興味の対象となっています。 “一千億の針”というタイトルは、 前作の続きであることを表す以上の意味はありません^^; (ちなみに原題は“Through the Eye of Needle”)。 訳者は前作と違うので、今回はごく普通の訳文ですが、 人名は前作に併せてあるのでバブはバブのままです。 地名のタイチ→タヒチは直ってますが。 (2/1)


“20億の針” ハル・クレメント (創元SF)

「捕り手」は犯人を追っていた。 犯人の宇宙船は地球へと突っ込み、 「捕り手」の船もその後をほぼそのまま突っ込んだ。 熱帯の群島の浅瀬に落ちた「捕り手」は宿主を見つけなければならなかった。 「捕り手」や犯人は、高度な知性を持つゼリー状の寄生生物だったのだ。 少年の身体を借りた「捕り手」は少年の協力を得て、 同じく人間の身体に潜んだであろう犯人を探そうとするが、 それは藁の山の中から針を見つけ出そうとするようなものだった。

1950年に書かれた「古典」SFミステリです (ウィルスというものがまだよく解っていなかったりするところが時代を感じさせます。 もちろん、世界の人口が20億というのも^^;)。 探偵コンビの片方が少年なので、ジュブナイルっぽい感じでもあります。 犯人の潜伏先に関しては、ミスリーディングしつつ、 というか撹乱情報を散りばめつつ、しかもちゃんと伏線は張ってあります。 まあ、こんなもんかな、というところです。

話の筋とは関係ないのですが、訳文の古くささが凄まじいです^^;。 子供の言葉遣いが戦前の少年小説のようだし、 人名地名の音訳が今の普通の表記とは大きく違っています。 少年の名前 (愛称) がバブ→ボブというのはすぐ判りましたが、 アメリカ西海岸のシャートルというのは、 そんな街あったっけなと一瞬考えてしまいました (はっ、「シアトル」かっ! ^^;;;)。 他にもありますが、略。 なお、邦題の“20億の針”というのは本文中で出てくる言葉ですが、 タイトルとしては“20億”というのはふっ掛け過ぎです^^;; (ちなみに原題は“Needle”)。 (1/22)


“武器製造業者” A・E・ヴァン・ヴォークト (創元SF)

「イシャー帝国」と、その支配に均衡をもたらすために存在する 「武器店」が長く勢力を保っている未来の地球。 「武器店の裏切り者」という触れ込みで帝国宮廷に潜入した男、 ヘドロックは実は地球唯一の不死人であり、彼には誰も知らない目的があった。 彼は、その秘密の一端が露呈し、帝国と武器店、双方から追われることになったが…。

“イシャーの武器店”(未読) との二部作をなす話で、 こちらのほうが時間的には後の話なのですが、 書かれたのはこちらが先だそうです。 ですから、こちらを先に読んでも問題はなさそうです。

武器店の装備とそれを上回るヘドロックの装備、 それを含めていろいろと繰り出されるアイディアを楽しむ話ですね。 ヘドロックと、女帝を始めとする周囲の人物との関係もそれなりに、 という感じでしょうか。 (1/8)

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